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亡国戦記  作者: 芦屋玲
第一章 砂漠の二人
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1-2



前の話を少し編集し、ラグシャに関する容姿の描写を加筆しました。


加筆前に読んでくださった方のために、一応ここにもラグシャの容姿について記しておきます。


・黒髪黒目で肌は褐色

・大柄マッチョ

・顔は男らしい感じ(イケメンな部類)



よろしくお願いいたします。



 


「さて、ランジェン。あんなところで行き倒れていたのだから、なにやら事情があるのはわかるが、我々も悠長に君を目的地まで連れて行っている時間はない」



 ラグシャから水の入った皮袋を受け取り、軽く喉を潤してからアヤトはランジェンの目を真っ直ぐ見つめてそう言った。



「とはいえ、君もまだ体調が万全なわけではないだろうし、水も食料も無い状態で放り出したりもできない。私たちは今、ユキナというオアシスの街に向かっている。順調に行けば明日、明後日には着くだろう。君に異論がなければ、そこまでは一緒に連れていけるが、どうだろうか?」



 ランジェンにとってはこの上なくありがたい話である。


 しくじって盗賊に捕まってからこっち、碌な食事も摂れず、どうにかこうにか逃げ出したはいいものの、ここは大砂漠、着の身着のままのランジェンに生きのびる術はない。


 だが、この二人ーー特にアヤトに至っては素顔すら晒さないーーが信用に足る相手なのか。ランジェンの命を助けてくれた上、近くの街まで連れて行ってくれるというが、もしも妙な連中だったとすると後々面倒に巻き込まれたりすることもあるかもしれない。



(けど……俺に選択肢はないよな)



 ランジェンはアヤトの瞳の奥を窺うようにして、躊躇いがちに口を開いた。



「俺はそれでいい。……というか、あんたたちがそれでいいなら、そうしてもらえるとすごく助かるが…いいのか?」


「問題ない」


「ああ、食料や水ならまだ十分にある。ユキナまで行く分には一人増えてもなんの支障もない」



 アヤトの言葉に、ラグシャも頷く。



「なら、よろしく頼む」



 ランジェンは深々と頭を下げた。



「気にするな。それじゃあ早く寝るとしよう。そして明るくなる前には出発だ」



 そう言うなり、アヤトは立ち上がって簸仙(バジャン)から毛布を二枚取ってくると、一枚をラグシャに渡し、自分は焚き火にほど近い場所でさっさと横になった。



「ランジェン、お前も寝るといい。少しでも体調を整えておけ」


「わかった」



 ラグシャに促され、ランジェンもその場で体を横たえる。さっきまで意識がなかったからかあまり眠くはない。しかし、気分が悪くなったりして二人の足を引っ張るわけには行かないので、おとなしく眠ることにした。





 ***





 ユキナの街にたどり着いたのは翌々日の夕方だった。


 本当に砂漠かと疑ってしまうほど緑豊かで水源も豊富な街並に、ランジェンはきょろきょろと見回す。



「日が完全に落ちる前に着いてよかった。まだどこの店も開いているだろう」



 ラグシャが言った。


 その言葉に、ランジェンは首を傾げる。



「夜になると全部閉まるのか?」


「ああ」


「ふうん」



 よくわからないが、日が暮れると閉まるらしい。



(俺が今まで行ったところは夜もやってる店もあったけどな)



 そんな疑問が顔に出ていたようだ。


 アヤトがランジェンの方を振り返る。



「オアシスは初めてか?」


「え、うん」



 ランジェンは素直に頷いた。



 そもそも、ランジェンは砂漠自体が初めてである。


 盗賊団に捕まるまで、話には聞いていても実際に足を踏み入れたことはなかった。だからこそ、いくら無我夢中だったとはいえ、手ぶらーー元々の自分の物は奪われていたけれどーーの身一つで逃げ出して来ることができたとも言える。



「そうか。君も実感しただろうけれど、砂漠は気温差が激しい。日中は猛暑、夜間は寒冷。簸仙や一部の動植物はともかく、人間の体は激しい気温差に対応しにくい。だから、砂漠で生きる者たちは夜は早々に床につく。そして日が昇り出す前に起きて、活動するんだ」


「へぇ……知らなかった」


「世の中は知らないことのほうが多い。私も砂漠に来るまではもちろん知らなかったよ」


「ただ、知らなければ今夜はまた野宿になったかもしれないがな」



 からかうようにラグシャがそう付け加えた。



「さてと。俺たちはそこの宿にでも泊まるが、お前はどうする?」



 続くセリフに、ランジェンは固まった。



(そうだ、ここまでって話だったな)



「……まぁ、金が無いだろうから幾らかはやるが」


「い、いやっ、それは流石に申し訳ない」



 ランジェンは首を左右にぶんぶん振る。



「そのくらい自分でなんとかする。どっちにしてもまとまった金は稼がなくちゃならないし、どこか雇ってくれるところを探してみるよ」


「そうか」


「ああ。……色々とありがとう。二人のおかげで死なずに済んだ。本当はちゃんとお礼をしたいんだけど」


「それには及ばない。我々が勝手に君を助けただけだ」



 アヤトが布の下でくすりと笑う気配がした。



「それに、君が文無しなのはよく分かっている。私たちは数日はこの街に滞在する予定だ。なにか困ったことがあれば来るといい」


「ありがとう。本当に助かった」


「では、達者でな」


「二人も元気で。また会えたらその時に恩を返す」


「期待しておこう」



 アヤトとラグシャが宿屋に入るのを見届けて、ランジェンも歩き出した。


 この二日、二人と一緒にいたからか少しさびしい気もする。でも、二人には旅の目的があるようだったし、ランジェンもまずは自分の生活をなんとかしなければならない。



「とりあえずどこか働けるところを探そう」



 店が閉まる前に見つけたいところだ。



「あ」



(そういえば、結局最後までアヤトの顔は見れなかったな)



 店の多い通りを目指して歩きながら、ふとランジェンはそう思った。







お読みいただきありがとうございます。


誤字報告、感想等があればよろしくお願いいたします。


評価ポイント、ブクマ等もしていただけるととても嬉しいです。


今後ともどうぞ最後までお付き合いください。



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