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亡国戦記  作者: 芦屋玲
第一章 砂漠の二人
1/8

1-1



初めての投稿です。


至らない点も多いと思いますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。



 


 ランジェンがその一行と出会ったのは、砂漠を動き回り疲弊しきった時だった。


 一行と表現するには小規模かもしれない。簸仙(バジャン)ーー荷引き用の四足動物ーーが一頭に、目元以外全身を布で覆った人間二人。


 場所が砂漠であることを考えればなんらおかしい格好ではなかったが、この砂漠で人が二人というのはいささか奇妙に過ぎる。しかし、その時のランジェンは人さらいの盗賊団から命からがら逃げてきたところであった上に、真昼の砂漠を長くさ迷い続けたこともあり瀕死の状態だったため、勘が相当に鈍っていた。意識自体も朦朧としており、正体不明の二人組が近寄ってきても警戒する余裕がなく、むしろ助かったと安堵がこぼれた程だった。


 しかも、水を飲ませてもらい、麻布を体に巻き付けられ、二人のうち体格の良い方の背におぶられると、安心感からか意識を手放してしまったのである。



 ーーーーー灼熱の砂漠を往く三人と一頭の姿を見るものはなかった。





 ***





 目が覚めた瞬間にランジェンは飛び起きた。


 辺りは真っ暗で、すぐ側でパチパチと火の粉を弾く焚き火が燃えていたが、その熱では足りないくらいに冷えた大気。砂漠の夜だ。



「体調はどうだ」



 焚き火を挟んだ向こうにいる男に声をかけられ、ランジェンはさらに後方へ飛びすさる。



(誰だ?追っ手か?)



 黒い髪に黒い瞳、褐色の肌をした精悍な顔立ちの筋肉質で大柄な男だった。


 視線は男に固定したまま、身体中の神経を研ぎ澄ませ状況把握に努めると同時に、目の端で周囲を観察することも怠らない。



 日中、砂漠で死にかけたところを何者かに拾われたところまではぼんやり覚えている。



(こいつか?確か、もう一人いたよな…)



「アヤトなら星見に行っている」



 ランジェンの心を読んだかのようなタイミングだった。



「まぁ座れ。別に取って食いやしない。回復したのは何よりだが、まだ全快にはほど遠いはずだ。待ってろ、食い物を持ってくる」


「っ!!」



 男が腰を上げたので、ランジェンは両腕を体の前で交差させ、すぐにでも反撃を行える体勢を取った。


 そんな警戒心顕なランジェンを見やり、男は溜め息を吐いた。



「危害を加えるならお前の意識が無いうちにやっている。………見知らぬ相手を警戒するのは間違ってはいないがな」



 男はそのまま少し離れた場所で眠っている簸仙の所に行き、荷物を漁りはじめた。言葉とは裏腹に、いや、それともランジェン相手であれば問題なしと判断したのか、簡単に背を向けている。


 ランジェンは暫しその背中を無言で見つめ男の動向を探ったが、男は特に怪しい素振りを見せることもなく、干し肉とパンを手に戻ってきた。



「ほら、食え」



 一応間合いを取っているのか、手渡しではなく投げて寄越す。


 反射的にそれを受け取り、確かに手出しするなら意識のないうちだよな、なら本当に助けてくれただけか?と僅かに気を緩めた途端、視界がクラリと揺れ、ランジェンは体勢を崩した。



「……まだ万全じゃない、座れ」



 すかさずランジェンを抱き留め、腰を下ろすのを支えてくれる。ついでに、さきほどランジェンが起きた際にずり落ちた毛布も肩にかけてくれた。


 今度ばかりはランジェンも素直に従った。



「………昼間も思ったが、痩せているな。まともに食ってなかったのか」


「……………別に」



 顔を背け、貰った干し肉にかじりつく。暫くぶりの肉は美味しく、一口食べたら勢いよくがっつき始めたランジェンに、男が水の入った皮袋を差し出してきた。



「よく噛んで、ゆっくり食え。胃が驚く。本当はスープや柔らかいものの方がいいんだろうが、生憎こんなものしかなくてな」



 ランジェンからすれば“こんなもの”なんてことは全くなかったが、脂が少ない干し肉とはいえ長らく腹に何も入れていなかったので、男の言った通り体がびっくりしたのか吐き気のような気持ち悪さがせり上がってきた。



 急に固まったランジェンに、男は察したのだろう。皮袋をぐいっと押し付け、背中を擦ってくる。


 大人しく水を飲み、ランジェンは深呼吸をした。


 冷たい空気がツン、と鼻腔に突き刺さる。


 背中からは男の熱が伝わってきて、ようやくランジェンの身体から緊張が抜け始めてきた。



「落ち着いたか?」


「ああ、色々とすまない。おかげで助かった。感謝する」



 本来ならば一番初めに口から出るべきであった言葉である。


 冷静になってみれば命の恩人になんて態度か、と若干の気まずさを感じつつもランジェンは男の目をまっすぐに見て頭を下げた。



「気にするな」



 男は薄く笑みを浮かべ、ランジェンの肩を軽く叩く。



「そろそろアヤトも戻ってくるだろう………あぁ、来た」



 そう言って男は振り返って片手を上げた。



 焚き火の光で身の回りくらいは見えるが、少し遠くとなるとその明かりも届かない。ランジェンには人影を捉えることは出来なかった。けれども、耳を澄ませばザッザッと砂を踏みしめる音が聞こえたので、気配はしっかり感じ取れた。



「ただいま」



 すぐに現れたその者は、夜にもかかわらず昼間同様全身を布に包んだままであった。



「ああ、目が覚めたのか」



 声音からは男か女かわからなかった。目元を見る限り、まだ年齢は若いと思われる。だが、声変わりをしていないほど幼いわけではなさそうなので、男であれば少し高め、女であれば少し低めだろう。


 纏った布を脱ごうともせず、ランジェンと男の対面に座る。そのため、体つきからの判断もつかなかった。


 身長も同様に、男女を断じるには曖昧で、名前も“アヤト”と男女共に名付けられる名前である。



「ついさっきな。飯も食わせた。……星はどうだった?」


「なにも。まだ動きは見えない」



 口調もまた、男とも女ともとれるものだった。



 ついつい見すぎてしまったのか、アヤトがランジェンを見て首を傾げた。



「なんだ?どうかしたのか?」


「え、あぁいや…」



 思わず慌てて視線を逸らしてしまう。


 不審な動きだったか、とランジェンは焦ったが、アヤトは気にしていないようで、ああ、と手を叩いた。



「自己紹介がまだだったな。私はアヤト。こちらはラグシャだ」



 よろしく頼む、と右手を差し出されたのでその手を取り握手を交わす。



「俺はランジェン。よろしく」



 握った手からも男女は判別出来なかった。







誤字報告、感想などあればよろしくお願いいたします。




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