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1.はじめに-「奇跡のリンゴ」と現代医療

 皆さんは「奇跡のリンゴ」をご存知でしょうか?青森県の木村秋則さんが無農薬で栽培したリンゴのことです(「奇跡のリンゴ-「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録」 石川拓治)。木村さんが成功するまでリンゴの無農薬栽培は不可能と考えられていたそうです。しかし、木村さんは、リンゴの無農薬栽培を成し遂げました。現代医療では、疾病を治療するには薬が必要と考えられ、様々な薬を用いて疾病を治療することが当たり前となっていますが、リンゴと同じようにヒトでも、薬を用いない治療が行える可能性があるのではないでしょうか。

 木村さんも以前は農薬を使用してリンゴを栽培していたそうですが、農薬散布後にご家族の体調が不良になったことから、農薬を使わないようにするために様々な工夫をされたそうです。最初は、農薬の使用を減らすと、リンゴの木は害虫の被害にあい、その駆除に負われる日々にも拘らず、花も咲かなくなり、収入が激減し、自殺まで考える生活窮乏の状態に追い込まれたそうです。そのような苦労をされている時に、木村さんは以下のことに気づかれたそうです。

「自然の山では、農薬も肥料も与えられていないのに、木が生い茂り、毎年実をつけている」

「リンゴ畑に咲くタンポポより野山に咲くタンポポの方が育ちがよい」

そして、「自分の畑と比較して、山の木と野山の草花の根元の土の状態が違うこと」、「この土壌の違いにより木々や草花の根の張り方が違うこと」を発見されました。

 木村さんは、更に、土の状態を観察することにより、その違いの原因を追求し、雑草を含めた複数の植物が生えることで、土が耕され、土壌中の微生物の活動を促進している可能性に気づかれました。その時に、木村さんは、180度発想の転換をされたそうです。「病害虫による被害がリンゴの木を弱らせているのではなく、逆に、リンゴの木が弱っているから病害虫の被害を防御できない」「リンゴの木が弱っている原因は土の状態が悪いからである」「土壌中の微生物の状態を改善することでリンゴの木の健康を回復できる」と。

 その日から、木村さんは畑の土壌改善を始められました。化学肥料から有機肥料に換え、最終的には肥料を入れずに、大豆や麦を混作し、土壌をふかふかの状態にして、土壌中の微生物の活動を促進することで、リンゴの無農薬栽培に成功されました。しかし、その成果が出るまでには8年もの年月を要したそうです。

 木村さんの「奇跡のリンゴ」が示唆していることは何でしょうか?この地球上の全ての生物は共生関係にあります。私は、「奇跡のリンゴ」のエピソードは、「生物の生存には適切な共生関係の維持が重要であること」を示唆していると考えます。木村さんは、リンゴの木が微生物との共生関係にあり、その共生関係の破綻がリンゴの木の病害虫による被害の原因であることに気づかれたのです。リンゴの木は、共生する微生物にとっては、リンゴの木という一つの「小さな」生態系と捉えることができます。この生態系の適切に管理することにより、リンゴの木の健康状態を維持することができたのです。

 地球に生息する生物の生物個体について考える時には、「ズームインしてすべての生物に存在する隠れた生態系もみなければならない。」(「世界は細菌にあふれ、人は細菌によって生かされる」 エド・ヨン)のではないかと考えます。ヒトもリンゴの木と同じく地球生息する生物です。リンゴの木の健康状態がリンゴの木に存在する隠れた生態系に依存しているのと同じように、ヒトの健康状態もヒトに存在する生態系に依存していると考えられます。地球の環境に関して議論する場合に地球の生態系を考慮しなければならないように、個々の生物に関して議論する場合に、その生物の「小さな」生態系を考慮しなければいけないと思います。

 現在の医療では、例えば、感染症に対しては抗生物質、糖尿病に対しては血糖降下薬、高血圧に対しては降圧薬 を投与する治療である対症療法が一般的に行われています。これはリンゴに例えると農薬を散布しているのと同じです。急性感染症では、その後の免疫系(本文参照)の活躍により、対症療法が根本的な治療に繋がります。しかし、糖尿病や高血圧といった生活習慣病では、対症療法だけでは根本的な治療になっていません。生活習慣病における根本的な治療とは何なのでしょう?木村さんの「奇跡のリンゴ」は、リンゴの木を一つの「小さな」生態系と捉え、その生態系を改善することでなしえたと考えられます。生活習慣病も、「ヒトに存在する生態系」を改善することで治療できる可能性があります。

 現代医療では、ヒトの身体を個体として捉え、生活習慣病をヒト生物個体の機能不全として捉えています。このために、生活習慣病に対する治療が対症療法になってしまっています。しかし、本当は、ヒトの身体は、「ヒトに存在する生態系」を構成する微生物とヒトの共生体なのです。そして、生活習慣病を含む殆どのヒトの疾病とは、ヒト生物個体の機能不全ではなく、この共生体の機能不全と捉えるべきなのです。ヒト疾病の根本的な治療を検討するためには、ヒトを共生微生物と共に形成されている一つの共生体と捉え直して、その共生体の機能不全が疾病であると考え直す必要があると思います。ヒトの身体を微生物の生態系と考えるにあたって、「ヒトがどのようにして進化し、その過程でどのような共生関係を築き、この地球上に存在する生物であるのか」から考えてみたいと思います。

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