表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ダンジョン配信者事務所追い出された私、フリーでビキニアーマー無双する

作者: 小鳥 遊

最近流行りと言う「ダンジョン配信もの」に挑戦しました。

短編で1話完結です。

 動画配信ってのは、結構体力がいる。大学卒業してから6年経った今、痛感してる。

特にダンジョン配信はコメント読みだけじゃなくて、実際に魔物退治があるからきつい。


今日も今日で大変だった。ダンジョン内にいる地下40階層のフロアボスの討伐だったし。

今はもうドロップアイテムと化してはいるけど、昔はこんなのひょいひょいと拾って終わらせてた。それなのに、最近は少し息切れがマイクに乗ってしまう。


『でも、まだまだいけるっしょ?』


私は、貸出された球体型のドローンのカメラにピースサインを送る。



【こーぎー】『しおりんのキレキレ剣捌きかっこいい!』


【じょう】『老いてない! 若いよ!』


左腕のアーマーに取り付けたスマホの配信画面とコメント欄が、ホログラムスクリーンとなって映し出されている。いつも通りの日常だ。そしていつも誰かが私をいじる。

これもおいしいと思っている自分の異常な感覚もマヒしてきた。


『はい! 年齢差別~! 私のことおばさんだと一瞬でも思ったやつ素直に手上げなさい?』


【じょう】「ノ」

【同穴ムジナ】「ノ」

【ろうと】「ノ」

【酒バンバスキス】「ノ」


他にも多数のファンの子たちが手を挙げていく。

ま、実際に挙げてるわけじゃないだろうけど......。

この手のプロレスは1年前の28歳の誕生日くらいから始まっている。

正直、擦りすぎて再生回数も若干減っている。みんな、ダンジョンを華麗に攻略するだけでは飽きてしまうらしい。


『もう、私以外でこのノリやったら怒られるんだからね!?」


お決まりのキラーフレーズを使いつつ、彼らを画面の虜にする。

大変だけど、やりがいのある仕事だ。なにより、配信が楽しいんだけど......。


【ろうと】「わかってるつーのw」


【ぼう】「きっつw」


【酒バンバスキス】「しかし、かわいいから許される」


『そうだ。今日マネちゃんに呼ばれてるんだった! 時間ちょっと押してるからまた今度ね!』


私の急な配信切りでも、お構いなく彼らのコメントは続いていたのが見えた。

それでも同接100人。確実に減っているっ! 多分、マネちゃんの話題も私の収益が芳しくないことについてだろう。私はダンジョン専用の装備から私服に着替えて、事務所に向かった。



「お疲れ様です! すみません、送れてしまって!」


走って駆けつけてきた私に、マネージャーは深刻そうな表情をしていた。

やっぱり、悪いニュースかもしれない。


「お疲れ様です、宇津呂木さん。こちら、どうぞ」


「はい......」


マネージャーは仕事に熱心なタイプじゃないし、熱意はないからいつも目にハイライトはないが今日はいつになく目にハイライトがない。


「あの、折り入って話ってなんですか?」


「......。単刀直入にいいます。事務所契約、破棄されそうです」


「ハキ? 満了じゃなく?」


「いや、満了は満了なんですけど......。本人の意思に関係なく、満了切りしたいそうです。私の力不足で申し訳ありません......」


は? つまり、契約満了だから私はもう用済みってことか?

6年も、しかも配信黎明期に前線で頑張ってきた私を? 確かにここ2年くらいは、再生回数微妙な配信あったけどさ......。それでも、固定ファンは多い方よ? それなのに......。


「いや、まあ流行り廃りが激しい業界ですし、死者も多いから大変な仕事っちゃ仕事ですけど! お願いします! もう少しだけチャンスください! 何でもしますし!」


「じゃあ、ビキニアーマー着て配信してくれますか?」


「は? あんな死装束、着るわけないじゃない!」


ビキニアーマーと言うと、古めのファンタジーゲームに登場した布面積が少ないお色気衣装だ。

ダンジョン運営によってつくられたネタ装備の一つなんだけど、防御力に欠けて採用率低いし前時代的でオワコンとか言われて二重の意味で『死装束』というあだ名がついている。


「そんなわがままだから、切られるんですよ!?」


「だって嫌なもんは嫌だもん! わかったわよ! 辞めるわ......」


「......。助かります。じゃあ、こことここに実名サインでお願いします」


私はマネージャーから渡された手続書に、自分の実名である『宇津呂木 栞』と丁寧に書いた。

書類には情報漏えい問題等で事務所側の内容を公言しないという誓約が書かれていた。

別に事務所の特別な情報なんて持ってないから公言しようもないし、しようとも思わない。


「これで、いい?」


「は、はい。いままでありがとうございました」


簡単な挨拶だけ済まして、私は事務所を出ようとした。

エレベーターを待っていると、入れ違いで4人くらいの若い女の子が事務所へ向かっていく。


「あれ、もしかしてしおりんちゃんねるさん?」


4人のうちの一人、お団子頭の子が私に向かって話しかけてきた。


「ん? あなたたちは?」


「あーしはみかん。こっちがれもん。あーしたちかんきつ女子ってんだけど知ってる?」


かんきつ女子って、確か最近流行りのグループ系配信者だっけ?


「あ、ああ。まあ」


お団子頭のみかんと、ポニーテールのれもんの二人が私を引き留めて絡んでくる。

彼女たちは私にマウントをとるように肩に腕を置く。まあ、でも自分には関係ないと彼女の腕をするりとどかしてエレベーターに目線を戻す。


「ふーん、頑張ってね......」


そそくさとこの場を後にしたい気分だ。

というか、もう後輩じゃないんだし絡んでもしょうがない。


「うわ、なんか偉そう~」


お団子頭のみかんは腕組みをして、私を見下す。

みかんに倣ってれもんはみかんに肩を寄せて腕組みをする。


「でも可哀想だよね~。私たちの育成のために、契約切られるなんてね! 今の気持ちはどう? オバさん」


「うわ、れもんひど~」


「別にホントの事だから、構わないけど......。私に用がないなら早く行ったら? マネージャーだって待ってるでしょ」


「チッ......。気に食わないわね、行くわよみかん」


「分かってるって。負け犬病が感染うつるし、さっさと行こう」


エレベーターの来るタイミングが遅すぎ......。全部聞こえてるっつーの。

エレベーターの中、私は早く忘れようとスマホを見つめながら1階に降りた。

それから、駅へまっすぐと走っていって電車に乗る。


「はあ、もういや! あんな性格悪い子が後輩だったなんて......。もう忘れよ」


電車に揺られて30分ほど、さらに徒歩で20分ほどで私の住むマンションにたどり着いた。


「ただいま~」


暗く、言葉も返してくれるものもいない小さな部屋。

パソコンを開き、自分のチャンネルを見るとすでにアカウントが削除されていた。

せめて自分の声で引退の旨を言っておきたかった。スマホを開いてSNSを見ると、元いた事務所から私が契約満了にて退所した旨を伝えた文章がつづられていた。


「とりあえず、個人アカウントで伝えておくか」


これからはフリーとして活動していきます。と最後に綴っておいたが、身きりは立っていない。

このまま『しおりんちゃんねる』で続けるつもりはないし、あのまま同じようにしても自分の状況は変わらない。じゃあ、他の仕事を? いや、私はダンジョン配信がしたいんだ。なんでそう思うかなんて私にもわからない。他の仕事をしている自分を思い浮かべられないってのもあるし、成功体験をこの身で実感してしまったんだ。もう、戻れないのかもしれない。


「はぁー! とりま寝るか!」


明日のことは、明日任せよう。

配信はなくても、ダンジョン冒険者の道はある......。

私は目を閉じて、眠りについた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「28まで!?」


ダンジョンの受付嬢は私の大声に身をのけぞった後、深々と謝罪した。


「大変申し訳ありません。評議会では、冒険者規定第19条に基づき、冒険者活動申し込みの制限を28歳までとさせていただいております」


寝耳に水とはこういうことを言うのかもしれない。

初めて知ったが、冒険者になるには年齢制限があるらしい。

二十歳未満の冒険者免許の取得禁止はわかる。車の免許とかバイクの免許にも制限あるようなもんだし、お酒やたばこにも年齢制限がある。でも、そこから28歳からは返納制度があるなんて知らなかった。やっぱり、若い人にしか得られない特権なのだろうか。そんな、じゃあ私は......。


「じゃあ、事務は? 受付嬢とかは年齢制限ないでしょ?」


「まあ、そうなんですが......。3年以上の公務員事務経験がないと受付嬢は就職できません」


詰んだ......。今29だから、もう数か月と立たないうちに公務員試験の年齢制限になってしまう。

ということはもう......。年齢制限のない配信業に戻るしかない......。


「わかりました......。じゃあ、配信で中入りたいんですけど」


事務所ギルドは?」


「フリーです」


「かしこまりました。ドローンカメラはレンタルされますか?」


「はい。お願いします」


「では、通常のレンタルが1時間1万円になりますが......」


「く、くぅ......。背に腹は代えられぬ。お願いします」


事務所の恩恵ってデカかったんだな。所属してた時は1時間1000円だったのに......。

10倍もとられるのか。しかも、通常レンタルって言ってたからさらに上のプレミアレンタルコースもあるんだろうな......。フリーだからだいぶなめられてる。


「でも、私にはこれしかない。これしか私は輝かないんだ。やるわよ!」


カメラの録画ボタンも押していないのにドローンへカメラ目線を送る。

まあ、でも一番まだ痛手がなかったのは装備面だろう。装備面だけは私が全部購入したものだから自分の手元にある。ダンジョンの入り口前の更衣室から自分の装備を取り出して、いつもの剣士向けのアーマーを着こんだ。防御面は最高レベルにしてあるが、俊敏性はなくならないように軽量のカーボン素材が使われている。女性配信者に求められている肌面積は少ないが、その分アクション面と攻略効率を狙ったスタンスが私の定石だ。


「うわ、ビキニアーマーまたセール品になってる......。配信で着て無傷で生還すれば高性能ドローンもプレゼント? うーん、悪くはないけど......」


顔をぶるぶると横に振って、私はダンジョンについたエレベーターで地下100階層へ向かう。

ほんと、ここの構造は今になってもわからない。まあこのダンジョンのことを研究している人たちもいるけど、ほとんどが都市伝説系の配信者や陰謀論的な配信者が多いから情報があいまいだ。

マチュピチュから伝わる超古代文明の一部だとか、宇宙人からの侵略だとか......。


「ほんと、なんでもありよね。でもそれくらい魅力あるのよね。この世界は......」


地下100階層へとたどり着くも、周りにはだれもいない。

当たり前だろう。ここへたどり着くことのできた人は片手で数えるほどしかいない。

エレベーターでここに挑戦する人も多い。なんてったって、このダンジョンは地上100階、地下100階の最深部だからね。だからこそ、やりがいはある。


あ、そうだ。新しく配信チャンネルを開設しないと......。

名前も変えないといけないんだった。まあ、元から顔出ししてたから名前変えても意味ないかもしれないけど......。 名前は、仮で『ダンジョンしおり』にしとこ。


「じゃあ、ドローンちゃん。配信、よろしく!」


私は、ドローンの録画ボタンを押して、カメラをスタートさせる。


『はじめまして! ダンジョンしおりです。 いきなりですが、ダンジョン配信したいとおもいまーす! 今回は、地下100階にチャレンジ! 5人目の成功者に、私はなる!』


大学でのダンジョン攻略系配信者を見て、私もできそうだと思って事務所のオーディションを受けて、合格して沢山挑戦して、ファンが増えて......。今でも覚えている。

だから、フリーとして活動するなんて始めてだ。コメントを確認すると、前まで見に来てくれた人もちらほらいたが、以前の盛り上がりはどこへやら......。

コメント返しをしようと口を開いたとき、洞窟の奥からゴブリンの鳴き声が聞こえた。


「ぐがあああああ!!」


100匹ほどのゴブリンが私の配信に気付いて襲ってくる。

正直、索敵が楽で助かる。


『おりゃあ! サンダー! くらえ!』


私は配信を盛り上げようと、剣を高く掲げて魔法を繰り出した。

剣に付属している魔石が黄色く光り、100匹のゴブリン全体に雷が当たって消滅する。

最近は魔法を使うと疲労感が増すからやめてたけど、今は動画映えのためにはやるしかない。


『見た見た? 私にかかれば余裕、余裕♪』


落ち着いたところで、私はドローンに目線を送りコメント欄を映し出す。


【ジョン】『うしろ、うしろ!』


【同穴ムジナ】『後ろ気づけ』


コメントから不穏な言葉が増える。

瞬間、大きな手が後ろから私の腰を鷲掴みする。


『えっ!? なになに!?」


私が剣で大きな手を傷つけてもビクともせず、そのまま私はボールのように放り投げられる。

地面と天井がぐるぐると回転している。いや。私が回転しているのか......。


『ぐあっ!?』


最悪だ......。こんな所、誰にも見せられない!

一旦消して、やり直そう......。私はドローンを呼んで配信を消そうとした。

だが、大きな手の持ち主、フロアボスであるゴブリンキングはそれを許してくれなかった。


『向かってくっ......』


自分の子、もとい仲間を殺された憎しみからかゴブリンキングはこちらに敵意むき出しのみぞおちを食らわせる。胸アーマーは、攻撃のせいでぐにゃりと曲がってしまった。

そして、人間の羞恥を知っているかのように服をアーマごと引きはがそうとする。


【同穴ムジナ】『おっと?』


【ジョン】『いいぞ、もっとやれ。ゴブキン』


【ドエロ大将軍】『祭りと聞いて参上仕った』


ゴブリンキング同様、人の羞恥、特に女性の肌の露出は良くも悪くも注目されやすい。

ダメージ数が多ければ、配信の再生回数に繋がるとも噂されている。そのせいか、自らダメージを負う人も多いらしい。でも私は、ノーダメ攻略が売りだったんだ。それなのに......。


『やってくれるじゃん......』


片手で抑えていないと、服がはだけて胸がこぼれ出てしまう。ゴブリンキングも、配信のコメント欄と同じように獣のような目で私を見つめてにニヤリとしている。性的なコンテンツとして、アカウントのバンだけは避けたい。

私はドローンのカメラの死角へ行き、使い物にならないアーマーを捨てた。さらに、服を大胆に破ってサラシのように巻いた。


「これでよし! 撮影再開じゃああ!」


ドローンに声が届いていないことを祈り、私は余裕ぶったゴブリンキングの元へ走り込む。

ゴブリンキングの皮膚は相変わらず剣を通してくれない。なら、魔法と組み合わせるしかない!


「カメラちゃん、私の胸元映して! グロい画面になるから!」


ドローンが私の方へ寄っていくのを見とどけたところで、私は剣に魔法を付与する。


『食らえ! マグマ・スラッシュ!!』


ゴブリンキングの皮膚に剣が食い込むと同時に、魔石が赤く光り刀身に炎がまとわりついていく。

硬いゴブリンの皮膚はとろけるように柔らかくなっていった。それにあわせて、剣もズブズブとゴブリンの体に入っていく。皮膚を通れば、後は真っ二つにするだけだ!


『私の無傷伝説を破ったお礼よ!』


なりふり構わず、剣を横一文字に振った。

瞬間、ゴブリンキングの体が上下に分かれたかと思うとすぐに消滅してアイテムとなった。


『よっしゃあああああ! やってやったよ!!』


私が満を持してカメラに目線を送り、コメントを見直すと異常な量のスパチャが入っていた。

やっぱり、みんな強い敵を倒すところ見るの好きなんじゃん......。ん?


\10,000【ジョン】『ありがとうございます!』

\20,000【ごろごろ】『今日はこれでいいや』

$100.00【hugo】『niiiiiiice』

\5,000【ドエロ大将軍】『すごい光景見れた』

\4,000【同穴ムジナ】『腹筋が美しい。なによりも、その......。うん。下ちゃんと見て』


コメントの違和感に、私は恐る恐る下を向く。すると、剣の勢いのせいか私の服全部はがれてしまっていた。速攻で私はカメラを止めた......。


「ヴァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


どうしよう......。

もう、お嫁にいけないよ......。

アーカイブは消せば問題なけど、人の中にある記憶というのは嬉しい記憶であればあるほど消えない。

特大エッチな記憶は消えないに決まっている。私の乳首の色も鮮明に覚えていることだろう。

せっかく100階層のフロアボス倒したのに......。

意気消沈しながら、私は布を再度巻いてエレベーターに乗った。


「早く1階に戻って着替えよ......」


エレベーターが止まり、1階についた瞬間私は急いで更衣室に向かって着替えた。

そういや、ドロップアイテム回収するの忘れてた......。まあ、いいや。今日は帰ろう......。


「はぁ......。服があるって落ち着く~」


着替えた後、私はダンジョンからゲートを抜けた。ゲートからはまったく景色の見えないシャトルバスに乗り、最寄り駅まで送られる。駅からは普通に電車で自宅まで一直線だ。


「エゴサしたくね~。寝よ」


自宅に戻ると、エゴサするのが私の日課になっていたが今日ばかりは絶対に見たくなかった。

明日、配信休もうかな。というか、永遠にやりたくない。でも、やめると今度は食い扶持がなくなる。今日は配信の再生回数とスパチャだけしかないし、これからダンジョンに行くにも装備もなくなった。


「明日考えよ......」


色々考えることはたくさんあるけど、いつも以上になにも考えたくない。

目を瞑って、今日のことを忘れようと寝入った。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


次の日、トレンドに高らかに私の名前が入っていた。

昨日の配信なのに? もう11時くらいだけど......!?

ていうか、昨日の配信アーカイブ残ったまんまじゃん!?


「やば、昨日何もせずに寝ちゃった......。とりあえず、アーカイブ編集しよ」


すぐに動画を公開停止にした後、例のポロリを除いた動画をアップし直した。

結局、こうなっちまったか......。多くの人に見られたからには無かったことにはできない。

でも、もうチャンネル登録者数50万!? 怖いよ、この業界。


「フリーだし、名前も覚えてもらわないと......。バズってるうちに配信するしかない!」


私は重い腰をあげて、ダンジョンへ向かった。

でも、昨日の戦闘でめちゃくちゃになったから装備がない。

予備なんて概念もないし、私はファッションやネタ装備に興味ないから現地調達するしかない。


「さて、なにがあるかしら......」


ダンジョン1階はアイテム換金所、装備品店、武器屋、薬局などたくさんのショップが並んでいる。どれもダンジョンでしか手に入らず、ダンジョンでしか使用できない代物だ。装備品店に向かうと、あの忌々しいビキニアーマーが昨日と同じ値段のまま売られていた。


「今の財布に優しいのはこれだけど......」


「お客さん、お目が高いですね~。配信初心者にはおすすめですよ! なんてったってサムネのインパクト抜群ですからね!」


サムネといえど、胸の方のサムネだろう。昔のUtubeでは、胸の谷間で集客を図るという手段もあった。それだけは避けたいが、他の装備品はセットで買おうとしても高価だ。対してビキニアーマーは一張羅だから1点買いで済むという利点がある。段々、こいつが安上がりな気がしてきた。というか、私はもう裸を世間にさらしてるんだ。今更、露出の多い装備品を買ったとて恥ずかしさはない。


「......。じゃあ、それにしようかな?」


「ありがとうございます!」


そういうと、採寸が始まりすぐにぴったりの物が手配された。

運営の職人技にはいつも驚かされる。


「こちら、特典のドローンです! それでは、よいダンジョンライフを!」


「ははは。ありがとう」


装備屋のお兄さんのセールストークで、つい買ってしまった。

だが、今はこれしか装備を持ち合わせていない。これはもう、着るしかない。


「裸になっちゃうよりかはマシだけど......。やっぱり、肌見えすぎじゃない?」


そうはいいつつも自分のスマホで自撮りする。

話題になるなら、今はなんでもいいと思ってしまっている自分がいるとともに、反応が沢山もらえる状況に若干高揚している自分もいる。


「今日は地上の方へ行こうかな?」


エレベーターに向かう最中も、私に視線が集中する。そら時代遅れで破廉恥な装備着てたらびっくりするわな......。少し恥ずかしさを取り戻しつつも私はエレベーターで51階へ向かう。

エレベーターの中で、さっき撮ったビキニアーマーの自撮りを編集して配信のサムネにして準備を始めた。


「下は開拓してエレベーターで行けるようにしてたけど、上は全然いけてないんだよなぁ......」


特典のドローンカメラの動作確認をしながらエレベーターを出た。

数人の探検者たちがドローンを浮かべながら歩いているのがちらほらと見える。

この階層は地下100階と同様に視界を遮るような壁もないし、迷宮仕様ではないから配信映えはない。


「でも、フロアボスが強力で、厄介っていうことだよね......」


軽く準備運動のために、なんとなく歩いた先にいたスライムを蹴散らしていく。

スライムのドロップアイテムは地味に高く売れるから馬鹿にならないんだよな......。


「回収よし! さて、配信始めますか!! ドローンちゃん、カメラよろしく!」


スマホから自分の配信を見ると、待機画面から一瞬で自分が映った。

カメラは私の短く黒い髪と、いつも見ている可愛らしい顔を映していく。


『みんな~、見えてる~? ダンジョンしおりです! 昨日は色々ごめんなさい! でも、今日は新装備で51階から1フロアずつ攻略しようと思います!』


左腕にスマホを取り付けると、いつもの調子で配信画面とコメント欄が映し出されていく。

コメント欄には昨日の「放送事故」について語らうメンツもちらほら見えた。


【じょうろ】『昨日は楽しみました(感想)』

【ドエロ大将軍】『デッッッッッッッッ!』

【同穴ムジナ】『エッッッッッッ!』

【ごろごろ】『今日は脱がないんですか?』

【OPIOPI】『OPI! OPI!』


『脱ぎたくて脱いだんとちゃうわ! 昨日のことは忘れろ! ほら、エッチな衣装で上書きしていけ~?』


【酒バンバスキス】『しおりん復活してると思ってたら、そっち方向に行ってたのか......。酒がうまくなるので、これからも応援します』


昔のチャンネルで見てくれた人も戻ってきているようで、嬉しいようなちょっと見て欲しくないような気もするが私はモンスターがいないか探索を始める。配信ではモンスターの討伐が一番のメインコンテンツだからな......。



『第一討伐対象発見! あれは、ゴーレムですね!』


ゴーレムもこちらの音に気付いて近づいてくる。

ゴーレムは他のモンスターと違って弱点が分かりやすく存在するから討伐が簡単だ。

私はゴーレムの弱点である胸元の赤く輝く宝玉を目掛けて剣を刺す。


「ブ、ブブブブブ!?」


宝玉がひび割れると、電子音のようなゴーレムの鳴き声と共に、その岩や鉄でできたいびつな身体が崩れていく。だが、まだ致命傷に至っていないのかアイテム化しない。


『宝玉へのダメージが足りなかったか~。でもまだまだ!』


私が即座にゴーレムから距離を取った後、剣を再度構えて一気に距離を詰める。

あれ、私こんなに早く動けたっけ? こんなに早く、剣を振れたっけ?


気づいた時にはゴーレムの背後に自分がいて、ゴーレムの宝玉は砕け散っていくのが見えた。


『なんだか体が軽ーい! なんか今日絶好調かも! このまま、60階まで目指そう!!』


そう言って私はドローンカメラにウインクをして、階段を使ってフロアを上る。

フロアボスは10フロアごとに存在する。だから今日のメインは60階フロアボスだ。

そこまでは巻で、戦闘はなるべく避けていこう。


『やっぱり体が軽いなぁ......。もしかして、この装備のお陰だったりするのかな?』


階段を上り、各フロアを回っていって60階へ向かってフロアボスであるドラゴンをあっけなく倒してしまった。あまりの速さにコメント欄もドン引きしていた。そうだよな。こんなに相手が弱かったらドン引きだよな。それに配信がまだ40分しか経ってない。これで配信終了なんてさらにドン引きだろう。


『このまま、行けるところまで行っちゃうか!』


そうして私はさらに上へ登っていった。

70階、80階と上っていき、とうとう90階まで上り詰めた。

ここまででやっと、配信から1時間ちょっと経ったくらい。


「うわーーーー! 本物だー!」


90階でフロアボスを探していると、私の方へ一人の探索者がこちらに向かって来た。


『だ、誰?』


『いきなりですが、凸っていいですか?』


向かってきたのは男で、相手も配信者のようでドローンをこちらに向けてニヤニヤしていた。

もしかして、絡むとめんどくさいタイプの配信者かぁ?


『は? なにそれ? なんかの企画?』


『というわけで俺、『凸たろう』と本日コラボしますのは! ビキニアーマー無双でお馴染みの、ダンジョンしおりさんの配信に凸りに来ました! 90階のボスを一緒に討伐しましょう!』


そう言いながら、彼は私の意見など聞かず自分の企画を進めていく。

これを断ってしまうと、相手のファンや他の配信者に白い目で見られる。

ここは冷静に受けるしかない。頷こうとすると、凸たろうさんがこちらに近づいてカメラの撮れない資格で耳打ちしてきた。


「チートやってるんか知らねえけど、足引っ張るなよ? 俺の配信を引き立ててくれればいいんだから......。せいぜいその武器使って集客してくれよな」


彼は私の谷間に指を差して、ニヤリと笑った。

私の武器は、剣術と速さなのに......。



『いいですよ! 凸配信、やってみたかったんです! 一緒にフロアボスを倒しましょう!』


私はあえて、明るい声で凸たろうに応えた。

二人でフロアボスを探していると、奥の方で光が見えた。

光を頼りに向かうと、そこには大きなフェニックスがこちらを見つめていた。

これがフロアボスのフェニックスか......。


『しおりさん、下がって! ここは俺一人でやって見せます! こう見えて、ダンジョン全制覇しているんで!』


ダンジョンを全制覇しているというのであれば、相当腕は立つのだろう。

私は無言でうなずき、彼の戦闘を見届ける。彼はまず、弓を使いフェニックスに当てようとした。だが、分かり切っていたことだけど、矢はフェニックスに当たる前にその羽の炎で燃え尽きてしまう。


『凸たろうさん頑張って~!』


彼はその応援を力に変えて、水の魔法を使ってフェニックスをひるませた。

凸たろうはさらに、冷気を浴びせて水浸しのフェニックスを凍らせた。


『すごい! ホントに一人でボス倒せそうじゃん!』


『だから言ったでしょ! じゃあ、これで仕上げだ!』


凍ったフェニックスに凸たろうは、両手剣を使って砕いた。

砕いた瞬間、フェニックスは消えたかのように見えた。だが、アイテムがドロップしない。


『よっしゃぁあああ!』


『ちょっと待って。アイテムが出てないわよ? 倒してないんじゃないの?』


「は? 倒したに決まってんだろ? それともなに? 俺が不正したっていいたいのか?」


『いや、そうじゃなくて......。って後ろ!!』


凸たろうの後ろには小さな太陽のような光の物体が浮かび上がり、その中で何かが胎動していた。


『まさか!? 再生!?』


『下がってて!』


私はその炎の塊に、水を纏った剣を入れた。

ジュッという蒸発音と、剣が赤くなっていくのが目に見える。


『ブリザード!』


追い打ちをかけるように私は氷の魔法を使ってフェニックスの再生を阻止する。

氷漬けになった再生しかけのフェニックスを私は再生しなくなるまでバラバラに砕いた。

ようやく動きが無くなり、アイテムがドロップした。


『す、すげぇ......。たった数秒で、再生フェニックスを倒しやがった......』


『いや、最初に倒したのはあなたじゃない。そっちの方がすごいわよ。私の方なんか、ほとんど弱いものいじめだったし......』


『フェニックスは再生すると、必ず暴走してダンジョンを荒れ地にする害獣なんです。だから、そこは気にしなくて大丈夫だと思います。でも、すごいっす! 配信見てた時は嘘だと思って喧嘩吹っ掛けましたけど、あなたの強さは本物でした! 疑ってすいませんでした!』


凸たろうは綺麗に90度に腰を折り、謝罪してきた。

別に謝って欲しかったわけじゃないけど、ちょっとスカッとしたかな......。

お互いの配信も盛り上がりを見せて終わったのでどちらかが炎上することはなかった。

私たちはお互いをたたえながらエレベーターに乗り1階まで戻った。


「今日はありがとうございました! でも、本当だったんですね!」


「何が?」


「ビキニアーマーは防御力が低い代わりに、素早さが2段階上昇するように設定されているんです! それがこれほどの力だとは思いませんでしたけどね! じゃあ、お疲れさまです!」


へー、そうなんだ~。と思いつつ、私は凸たろうを見送った。


「う、うん。お疲れ~」


やれやれ、可愛げあるのやらなんやら......。

アイテム換金所でほっと落ち着いていると、こちらを睨みつけるような眼差しを感じた。

周りを見渡しても、それらしき人物が見当たらず私は首をかしげながら更衣室に戻った。


「さて、かえりますかぁ~」


私服に戻ったときの安心感は格別だ。

心を落ち着けて、メガネとマスクを着けてダンジョンを後にした。


「アーカイブ編集して、切り抜き作ろうかな......」


昔なら事務所が公式で切り抜きを作ってくれてたけど、今はそうはいかない。

そうやってUtubeを見ていると、私の知らない間に配信切り抜き動画があった。

まだ二つしかあげてないのに!! どんだけ、変態なんだよ!

切り抜き動画は、エロ方面と技方面の双方の動画スタイルがあった。どちらも個人で編集しているにはクオリティが高い。これなら、私がしなくても平気か......。


「明日も、頑張れそう! 誰かわからないけど、作ってくれてありがとう!!」



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


それから数日、毎日投稿を続けた。

配信は波に乗り、名前も憶えられてチャンネル登録者数も100万人まで到達してしまった。

事務所時代では見たことのない光景に、私は単純に嬉しかった。

今日は、その100万人到達記念として地上100階層にチャレンジすることに決定した。


「99階まではエレベーターで行けるようにしたし、そこから上がっていくか」


エレベーターに乗り、99階まで登り準備運動と称してそのあたりのケルベロスを討伐した後100階層に到達した。100階はこれまでと違って迷宮のように壁が立ちはだかっていた。

となると、100階層のフロアボスはミノタロスなのかな......。


「あれ、誰かいる......」


ふと前を見ると、周りをきょろきょろと見渡す人影が見えた。

道に迷っているのだろうか......。人影の方へ向かうと、それは女の子だった。

その子は私を見るなり、虚勢を張るように嘲笑して声を張り上げた。


「まだ、配信やってたの~? オバさんなんだからさっさと引退すればよかったのに」


あの子、確か前の事務所で会った配信アイドルグループ「かんきつ女子」の片方だったよね?

お団子頭っって、名前ゆずだっけ?


「久しぶり、ゆずちゃん。 ここでなにしてんの?」


「あーしはみかんだっつうの! ボケてんの!? ちょっとバズったからっていい気になるなよ......」


「ていうか、その恰好どうしたの? あなたもビキニアーマーなんか着て」


よく見ると、みかんちゃんの恰好がこの前事務所で見たアイドル衣装じゃなくてわたしよりもきわどいビキニアーマーを着ていた。というより、着せられてる?


「一体誰のせいだって言うのよ! あんたの配信のせいであーしたちも着る羽目になってんのよ! それにれもんともはぐれちゃうし......。全部あんたのせいだからね!」



「ええぇ......。まあ、気持ちはわかるけど。わかった。あんたの相方、一緒に探しましょ」


そう言って私は、みかんに手を差し伸べた。

みかんはこちらを少し睨んだ後、私の手を強く握った。


「今更高感度上げようとすんなし」


「そんなんじゃないって。私はただ、あんたを助けたいって思っただけ。それに、配信すれば相方ちゃんも気づくと思うし。ね? 良い考えじゃない?」


「......わかったわ。でも、れもんのためだからね」


私はカメラを付けて配信できる状態にした。

腕アーマーから映像を流すと、コメント欄が流れていくのが見えてくる。

みんなれもんちゃんが心配なようだ。あれ、ていうか音声入ってたの?


『あれ? 全部聞いてたの?』


\5,000【じょん】「いい子だなぁ~しおりん」

\3,000【ゆずこ】「ゆずはないわ~w れもんちゃん救出頼みます!」

\10,000【ほるんこ】「みかん、口悪いで有名だったけどここまでとはなぁ。でも、仲間思いだから嫌いになれないんよな~」


『ぐえ!? あーしそんなイメージなの!?』


『あははは! 別にいいじゃん。 それでも嫌いになった人いなかったんだから。それはあんたの才能だって』


『すごい、ムカつくけど。自分の言葉だもん......。今度からは気を付けるわ』


『よし、いい子ね。じゃあ、れもんちゃん助けにいこっか』


みかんはそれに頷き、私達は迷宮の中を散策した。

中には、フロアボスとは別のモンスターであるサーペントが床を這いずり回っていた。


『フレイム・インパクト!』


『サンダー・クライシス!』



二人で協力して魔法でサーペントを蹴散らしながら右へ左へと曲がり、れもんちゃんを探す。

ここのあたりで二人が分かれたみたいだけど、なにか手がかりがないかな......。


『ここでれもんちゃんが?』


『そう。いつの間にかいなくなってて......』


『なにか、隠し通路があるとか?』


『そんなの聞いたことないけど』


そう言ってみかんが壁に寄りかかると、一瞬にしてみかんが消えて壁の向こう側に消えていった。


『今の見た? いやいや、今はそれどころじゃない! 行かないと!』


もしかしたられもんちゃんも同じようなところで迷っているかもしれないと思い、ミカンが消えた壁に突入していくとその中は真っ暗だった。ドローンのライトがないと目の前が見えない......。

見回すと、同じようにライトが遠くで光っているのが見えた。


『いた! ミカン!!』


『しおり!!』


『れもんちゃんは見つけた?』


『いや、見当たらない。でもなんなのここ......。真っ暗で何にもないみたいだけど......』


れもんがいないならいないで、早くここから出ないと......。

ここはなんだか気味が悪い。


「ヴゥオオオオオオオオ!!」


突如として、奥の方から牛に似た低めの鳴き声が響き渡る。


『なんの声?』


『フロアボスのミノタウロスなんじゃ......』


すると、暗闇の中から一つ目がぎょろりと私たちを見つめた。

息を呑む。その瞬間に一つ目の持ち主であるミノタウロスが頭の大きな角をこちらに向けて走ってきた。その体は周りの黒とは対照的に白くなっていた。


『うわっ!』


ミノタウロスの体当たりに、ミカンが何もできず吹っ飛んでいく。

その勢いを消さずにミノタウロスは私の方に頭を振る。だが、私はギリギリで剣で受け身をとってフッ飛ばされずに済んだ。


『ミカン! 大丈夫!?』


『大丈夫! それより、れもん見つけた!!』


彼女の言葉にミノタウロスをよそにミカンの方へ向かった。

そこには、れもんが床に倒れていた。


『よかった。じゃあ、あなたはとりあえずレモンを連れて逃げて! 私があのミノタウロスを惹きつけておくから!』


ミノタウロスは暗闇に紛れた私たちを見失ったのか、こちらに気付いていない。

でも、全員がミノタウロスを避けながら元の道を探しに行くのはこの暗さで難しい。

ここは、年長で戦闘経験のある私が行くしかない......。


『はぁ!? ふざけんなし!』


『いいから行って!』


喧嘩をしていると、先ほどのミノタウロスの鳴き声がまたも聞こえる。

私は二人から離れ、オトリになるために炎の魔法を使って自分を照らした。


『来なさいよ! フロアボス!』


「ヴゥオオオオオオオオ!!」


一つ目がギラリと光り、私の向かう方へミノタウロスの目は追っていく。

その隙に、ミカンはレモンを担いできた道へ戻ろうと壁を探しに行った。


『ドローンちゃん、ちゃんと私の雄姿映しておいてよ~?』


剣に雷を纏わせて、私はミノタウロスに切りかかる。


『サンダー・スラッシュ!!』


雷によって、姿がしっかりと配信画面にも映った。

ていうか、画面暗っ!!


【じょん】『見えねー!』

【ほあーだ】『なにここ? 隠しフロア?』

【同穴ムジナ】『地上100階にあるらしい』


コメントでも見えないという意見が寄せられる。私だってそうなのに、のんきな人たちだ。

ミノタウロスは自分を傷つけられた腹いせに、私にも雷魔法を当てようとしてくる。

魔法を使ってくる相手は初めてだ。だが、雷なんて今の私であれば避けられる。


『避けてるだけじゃ、意味がない! 出口はないの?』


『そんなもんなかったわよ! こいつ倒さないと帰れないっぽい!』


怒り口調のミカンが私の元に戻ってきた。


『あんた、れもんちゃんはどうしたのよ!!』


『大丈夫! これでも私の守護魔法は頑丈だから! ちゃんと安全なシールドの中に寝てるわ』


そうはいいつつも、ミカン自体はクタクタのようだ。

そのシールドを生み出すのにかなり体力を消費したのかもしれない。


『ちょっと回復してから助けに来たら?』


私は自分の持っていたポーションをミカンに渡すと彼女は口角を上げる。


『素直に”助けに来てくれてありがとう”くらい言えないの? オバさん』


相変わらずの減らず口も、今だけは頼もしく感じる。


『ありがとう、ミカン』


『それはそれでキモいわ』


お互いに見つめ合い、爽やかに笑った後、私たちはミノタウロスに向かって炎の魔法を使い爆発させた。二手に分かれた後、剣と斧を使い、ミノタウロスの角を切り落とした。これで魔法は使えないはずだ。


『後はあいつの息の音を止めるだけね!』


『しおり、口悪すぎw』


『あんたほどじゃないわよ! もう一回同時攻撃で行くわよ!』


二人ともビキニアーマーを着ているせいか、速さは人以上になっていた。

ミノタウロスは私たち二人の速さにはついて行けずにいた。さらに私たちはミノタウロスの周りを走り回る。すると、ミノタウロスは目を回して混乱し始めた。


『今だ!』


私の掛け声と共に、ミカンは斧を振る。


『アックス・フィニッシュ!』


初めて聞く必殺技に戸惑いながらも私もノリで同じように剣を振った。


『ブレイド・フィニッシュ!』


二つの必殺技は見事ミノタウロスに致命傷を与えた。

ミノタウロスの姿が消えて、未知の暗闇ゾーンから全員が抜け出すことに成功した。

だが、アイテムはドロップしない。まだ、第2フェーズがあるんだ......。


『ここは?』


『迷宮のゴールみたいだけど......。っ!? あれ見て!』


ミカンが指さした先には、ミノタウロスが倒れていた。

近づこうとした途端、ミノタウロスが大きくなっていった。

地上100階の天井は見えない所にあるのか、私達の数十倍の大きさにまで膨れ上がった。

さっきまでは同じくらいの大きさだったのに!?


「ヴゥオオオオオオオオ!!」


先ほどの鳴き声よりもさらに響く声が、私達を攻撃として襲った。

その攻撃は私たちを何十メートルも後ろへとフッ飛ばした。


『あれが終わりだと思って、魔力使いすぎた......。そっちは?』


『あーしもだ......。これ、無理ゲーじゃね?』


諦めムード漂う中、ミノタウロスの足が私たちの真上に影を落とす。

コメント欄もお通夜ムードまっしぐらになる中、ミノタウロスが倒れ行く。


『え? なに?』


ミカンの声と共に、私が顔を上げるとそこにはポニーテールの女の子ともう一人男の背中が見えた。


「大丈夫? ミカン!?」 


『れもん! あんた、大丈夫なの?』


「いきなりだけど、凸っていいですか? ていうか、凸らずにはいられないよな!?」


そのフレーズ、前に聞いたことがある。男の方見ると、前に勝手に配信へ突撃してきた配信者の凸たろうがボロボロになりながら立っていた。


『凸たろう? あんたがなんでここにいんのよ』


『来ちゃダメなんすか? ていうか、ここぞって時に凸って助けに入るのが最近の俺の流儀なんす! 姉御、ここはいいんで早くイベント済ませてください!』


れもんと凸たろうに励まされるものの、イベントって何のことだ?

考えているうちに、ミノタウロスが起き上がってしまった。

ミノタウロスは、迷宮の壁を引きはがして武器のように私たち向けて振り回す。

れもんと凸たろうはその迷宮の壁を持ち合わせていたグローブ型の武器で吹き飛ばした。


『ちょっと待って。イベントってなに? これ、イベント戦なの?』



『そうっすよ! 地下100階、地上100階クリアした人間にのみ与えられる試練です! 一度だけしか走破できなくて誰もクリアしてないんす! でも、情報は割れてるんで大丈夫です! ミノタウロスの向こうにある聖剣を抜いて、それをミノタウロスに突き刺せば終わりです!!』


凸たろうの指さす先をよく見ると、そこにはこれ見よがしに勇者の剣というようなものが岩に刺さっていた。私は彼の言葉を信じて走った。これは全部のダンジョンをクリアしたわたしがやらないと終わらないイベント戦だ。私はビキニアーマーの最大限の力を使って走る。するとすぐに勇者の剣の元にたどり着いた。剣は思ったよりもあっさりと抜けて、刀身が光り輝いた。

それに反応したのか、ミノタウロスは後ろを振り向いた。


『やるなら、思いっきりやらないと! 動画映えしないっしょ! ドローンちゃん、最後までバッテリー持ってよ!!』


ドローンは、いまだ飛び続けて撮影を続けている。

私はそれを確信して、飛びあってミノタウロスの一つ目に剣を突き立てた。

すると、すぐにミノタウロスは光に包まれて消えていった。

思っていたよりも早い消滅に私は勢い余って地面に落ちていく。


『うわっ!? 大丈夫!?』


『ミカン!? あ、ありがとう......』


ギリギリのところで3人が私を受け止めてくれた。

あいつを倒せたのも、全部3人がいてくれたおかげだ。一人だったら、絶対死んでやり直しになってた......。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


この間の100万人記念の地上100階層チャレンジは大盛り上がりで終了した。

おかげさまでまたもチャンネル登録者が増えて120万人に増えていた。

あの時、ミカンたちを助けていなければ......。凸たろうの凸を突っぱねていたら......。

あらゆる要素が今の私を構成していると思うと、少し面白い。


「ビキアマ無双のしえりさん! お疲れ様です!」


「応援してます!」


「今日もエ......かっこいいです!」


これまでにない羨望の眼差しがダンジョン1階にあふれかえる。

その中で、しおらしくなったかんきつ女子の二人が私に声をかける。


「ねえ、うちの事務所に戻る気はない? 今のあなたなら事務所も応援してくれると思うし、元々ビキニアーマー着る話もあったんでしょ? それなら、私達もコラボしやすいっていうか......嬉しいというか......」


「ごめん、ミカン。あなたの誘いは嬉しいけど事務所に伝えて......。『誰が行くか、バーカ! 目の前で土下座しても入ってやんねーぞ!』って。フリーでいいならコラボはいつでも歓迎だからね! じゃあ、またね!」


ミカンたちの悲しげでありながらも諦めに近い顔に私はニコッと返してエレベーターへ向かう。

ダンジョンにはまだ未知の領域があると100階で知った。これからも私は配信を続けたい。

できれば、私が死ぬところも見てほしい。 だから、今日もドローンに電源を付ける。


『さてと、今日もダンジョン潜りますか!! はい、みなさんごきげんよう! ダンジョンしえりのビキニアーマー無双配信へようこそ!』



                                    -end-







これであってる?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ