Ep.29(69) 第一次侵攻
〈日本 東京都内某所〉
「ーー千年様、ただいま戻りました!!!!」
「おかえり! 早速で悪いけど、ここに座ってくれ」
ボロボロなビルの一室、そこにぽつんと置かれたタブレットの前に座らされるキゼル。
「何ですかこれ? というかイギリスには行かないのですか?」
「はいはい、説明は全部あと。まずはこれを見なさい」
タブレットをいじり出した千年の背を見つめること数秒。
何らかしらの操作を終えた彼が、キゼルにタブレットを渡し、
「はい、じゃあ再生ボタン押して」
「再生ボタン??(あ、これか)」
画面上は真っ暗。その真ん中にある再生ボタンを彼が押すと、2秒後に映し出される白の壁紙と一脚の椅子。
そしてさらに数秒後、画面の横から知らない男が現れた。
「こいつ誰です??」
「いいから静かに見なさい」
それから男はゆっくり椅子に腰掛け、こちらを見つめる。
そして、誇らしげな顔で語り始めた。
「皆さまこんにちわ。イギリス国国王、オリバー・フレッグです」
国王? これが?? やはり、どの国の王も弱そうなやつばっかだな。
「さて、ダラダラ話すのは好きじゃないので結論から言います。我々イギリス国は、この世界の覇権を握ることにしました。理由は簡単、この世界には不出来な人間が蔓延り過ぎているからです。我々はそれを正す。厳正な選別をしたうえで、皆さんにはーー死んでもらいます。
先に言っておきますが、逆らうなどという無駄な考えはやめましょう。我々に従うことをお勧めします。もし逆らえば容赦はしません。最後になりますが、ここに宣言します。
我々イギリスが先導し、質の高い人間を残し、世界に幸福と安寧を齎すことを」
長さにして1分弱。まるで内容のない宣戦布告。キゼルは首を傾げた。
「……千年様、このアホは何を??」
「まぁここまでは理解しなくていい。問題はここからだ」
宣言を終えたオリバーは席を離れ、画面外にいるであろう誰かに深々と頭を下げ、画面から姿を消した。
そして、次に現れた男の姿を見て、キゼルの表情が一変する。
「こいつは……」
「ご機嫌様、家畜の諸君。我が名はアムス・ソレア、太陽の神である」
全世界に流れる映像と分かった上での暴挙なのか。真意は不明だが、彼は自分の意思で、カメラの前に姿を見せた。
「先ほどのオリバー君の宣戦布告。実に素晴らしかった。威風堂々、ソレアは益々キミが気に入ったよ。というわけで、ソレアからも一言。これは家畜にではなく、王の犬へ。ーー我々刻導は侵攻を始める。ここがデウスであろうがなかろうが、刻導の信念は1つ。
"邪を正に、正を無に"。我々が、正しい刻を導く。さぁ、始めようか。第一次侵攻だ」
そして映像は途切れた。
「ーーってなわけだ」
「はぁ……こいつアホですね。なんの勝算も無いくせに……。とりあえず、イギリスに行く理由は分かりました」
「そうか、ならよかった!」
「ったく、刻導がお前の指示で動くわけないだろ。逆に勝手な真似されてキレて仲間割れもあり得ますね(笑)」
「うん?? 何言ってるの?」
「え? いや、アムス・ソレアの指示で動くわけがな、」
「いやいや、戦争ーーもう始まってるよ」
・ ・ ・「え……」
それは今から数十分前。アムス・ソレアの宣戦布告からすぐの出来事。
〈太平洋海上〉
「初めましてだな、第二級波憂愁!! オイの名は悪童、貧乏神じゃ!」
「名乗らずとも知っておる。それより、後ろに連れてるそれは??」
「草ww!! なんだ知らんのか?? 此奴らはミカドノメ、総勢25匹じゃ!!」
「そんなことは知っておる。妾が聞いておるのは、"全員死にに来たのか"ってことぞ」
「……ふはっ、面白い」
〈チェコ共和国リベレツ〉
「・・・ッ、何の真似だ……殺意むき出しで、襲撃なんて……。死刑になるぞ?」
「ーー"合意!!" 別に構わない!! なぜなら拙者は、お主と戦いたいが故に刻導へ入ったからな!」
「なん……だと……正気か!? 権!!」
「"本懐!!" ずっと……ずっとだ。拙者はお主と本気で戦いたかったんじゃぁぁぁ!!!!」
〈ニューカレドニア首都ヌメア〉
「第十二級尊迦玄。仏陀様の命により、死んでもらいます」
「七福陰道の弁細と大國。僕いま凄く機嫌が悪いんだ。容赦できないよ?」
〈ジブチ共和国アルタ州〉
「どうもどうも真白さん! やっと会えたわ! ほんまな、ず〜〜っと会うて見たかったんやわ〜〜。にしてもあれやな? えらい老けてんな?」
「誰だテメェ?」
「ギムレットいいます。刻導の端くれもんすわ」
「ギムレット? 知らねぇ名だ。で、その後ろにいる大量の摩瓈爾奠は何だ??」
ギムレットの後ろに並ぶ30体近いの摩瓈爾奠。
「お土産です! あんた嫌いなんやろこれ? 好きなだけ殺してえぇで?」
「あのな、摩瓈爾奠が何でそんなにいるのかを聞いてんだ。デウスでもそんなには見たことねぇぞ。あぁ、あれか。地球は大量生産できる星か何かか?」
「あはは(笑) それはあるかもな(笑)」
「何笑ってる? 誰が笑っていいって言った? 死ねよ」
「うわ……怖」
〈エクアドル首都キト〉
獣神の安否確認のため、この地を訪れたシャーマ・ハイズヴェルム。
だが、彼は来て早々怒りを露わにしていた。その理由は、同行者である妖精神がいつまで経っても現れないからである。
「あのクソナルシスト。次あったら絶対に燃やしてやる」
一応、待ち合わせから30分と待ったが来る気配のない妖精神。
流石に痺れを切らしたシャーマが自国へ帰ろうとしたその時、彼の目の前に『空間移動』が出現する。
「バカが、やっと来たか。ナメてるのかクソガキ……?? おい、なぜ貴様が?」
『空間移動』の中から姿を見せたのは妖精神ではなく、中位獣連の安否確認に向かったはずのグロム・ラーシュであった。
「あ、いたいた! やっぱり!」
「何してる貴様。中位獣連はどうした?」
「いや、その件なんすけど、なんかマウナっちが来なくて……」
山神もか?! 何をしてるんだ下位どもは。
「で、なんだ、暇になったからこっちに来たと?」
「そうっす! ワンチャン、中位獣連もこの国にいないかな〜〜って」
「チャラチャラめ。死ね」
「チャラチャラ関係ねぇっす!」
「はぁ……まぁ分かった。なら貴様1人でこの任を遂げろ。儂はもう不要だろ」
「まぁ、はい。うん、何とかなるっす! やばかったら呼ぶっすわ!」
「呼ぶな! 四級だろ? 1人でやれ」
そう言い残し、シャーマはこの国を去ろうとした。ーーだがその時、2人は一瞬、ほんの一瞬だが、とてつもない強力な殺意と神力を確認する。
「シャーマさん!!」
「分かってる! 行くぞ!!」
発生源はガラパゴス。2人はすぐさま向かった。
〈同国ガラパゴス諸島〉
「ここら辺……っすよね?」
「あぁ間違いない。ーーあったぞ」
着いてすぐに辺りを捜索。そして見つけた地下へと向かう階段の入り口。
「ーー僅かだが神力を感じる。ここで間違いなさそうだ」
「そう見たいっすね。てかあれっすね、地下ってことは彼の根城じゃないっすかね?」
「多分な。まぁ行けば分かる」
シャーマ、グロムの両名は最大限の警戒のもと、扉を開け、長く続く階段を降る。
そして、階段の終着点、そこに再び巨大な扉。2人は顔を合わせ、頷き、ゆっくりと開けた。
「ーーこれは……」
そこに広がるデウスと変わらない獣の根城に、2人は驚いた。
「驚いたっすね。ここまで再現するとは……」
「あぁ。だが、奴の嫌弱『過眠』から考えれば、ここまでするのにも頷ける」
「え〜〜っと、あぁなるほど! 環境が変わると寝れない? 的な感じっすかね?」
「いや寝れないというより睡眠の質が下がるんだろうな」
「あ〜〜、なるほどっす!」
その後、2人は更に警戒を強め、奥へと進む。
そして、何かを感じたグロムがシャーマを引っ張り、木々の間に身を潜める。
《ーーシャーマさん。あそこ》
グロムからの『意思伝達』を聞き、彼の指差す方へと視線を移す。
するとそこには、木々の間から見える戦闘の痕跡と、2人の人物。
1人は地面に倒れ、もう1人はその倒れるものの側に腰掛ける。
異様な光景を前に、2人は固唾を呑む。
《どう……します?》
《どうもこうもない。周りを見たら一目瞭然。生きてる方を捕まえるぞ》
シャーマ先頭に歩き出し、バレないように2人に近づく。
そして、木々の間から倒れるものの姿がハッキリと見えたところで、シャーマが飛び出す。
《ちょ、シャーマさん!!??》
飛び出したシャーマは2人に近づく。
「ーーおい女。そこで何をしている?」
・ ・ ・
「おいっ!! 質問に答えろ!! そこに倒れる獣神をやったのは貴様かと問うている! 答えろ!!」
倒れていたのはウイストンに敗れた宏憐。その彼の近くに、シャーマに背を向け座っていたのは小柄な女性。
シャーマの怒鳴り声を聞き、グロムもそこへと駆けつける。
「ーーうわ……宏憐さん。これって、死んでる……っすよね?」
「あぁ。だから聞いてる。貴様は何者で、ここで何があった? 答えろ!」
・ ・ ・
「この、、」
「私ではない」
聞き覚えのないハスキーでロートーンな声。
「貴様じゃないなら誰が?」
「知らない。私もさっき来たところ」
「何をしに?」
その問いかけに、彼女はゆっくりと立ち上がり、振り返る。
「うわ〜〜お。可愛いっすね!」
その姿を見ても尚、2人は彼女を知らなかった。
左目は緋色、右目は黄色。髪はショートで薄い青。「冷酷」の2文字がとても似合う可愛らしい女性。
そんな彼女は、逆に2人を知っていた。というより、彼らを待っていた。
「私はシャーマ・ハイズヴェルムと、グロム・ラーシュをここで待っていた。そう、貴方達をね」
「俺っち達を?」
「そうよ。そしたら、獣神が倒れてた」
「そうだったんすね〜〜。じゃあ本当に宏憐さんのことは知らないんっす、」
「待て」
グロムの会話を遮り、シャーマは彼を掴みながらゆっくりと後ずさる。
「なぜ儂らを待っていた? 貴様は何者だ?」
その問いかけに彼女は下を向き、倒れる宏憐に手のひらをかざす。
すると、宏憐の倒れる地面に六芒星が展開される。
それを見て2人はさらに距離を取る。
「シャーマさん! あれって?!」
「あぁ、六芒星。ラスト・ディデクスの力だ」
驚いたのも束の間、宏憐は六芒星の中へと姿を消した。
「何をして……というか、あんた誰っすか!?」
「私? 私は貴方達を待っていた」
「だから、貴様は誰、」
「洸夜。私の名前は洸夜」
洸夜?? 誰だそれは……
「あら、知らない? あ、そっか。下の名前は知らないのか。なら、こっちの名前なら聞き覚えがあるじゃないかしら?ーー"天敵"」
その名を聞き、2人は驚きながらも、奥底から湧き上がる怒りに震えた。
「……名に"天"の文字を有していいのは神王か、その血族だけっす。理由は、彼らが世界の秩序であり、尊敬される唯一無二な存在だからっす」
「それを愚弄し、名に天を入れる不届きもの。しかも、"天の敵"を意味する天敵を名乗るゴミクズは、この世に1人しかおらん」
「酷い言われようね。まぁ私が誰だか分かったみたいで良かったわ。その通り、私は貴方達の憎む、世界の敵。ーー邪虚神よ」




