Ep.06 敗北国
時を少し遡る。
千年たち"人外"が日本に出現してすぐのこと。
日本以外の国では、人外と呼ばれる者たちと人間による争いが起こっていた。
現在の各国の調べでは、人外が出現し、それと相まみえた国は少なくとも17カ国。
そのうち、12の国は争う前に人外に屈服。
残りの4カ国は、真っ向から対立するも、見るも無残に呆気なく陥落した。
その中でも、人外により甚大な被害を受け、植民地状態と化した国が、ロシア・アメリカ・中国であった。
〈アメリカ合衆国〉
「ーーおいどうなってる!? ロシアから2はまだ届かんのか?!」
「届いておりません!! そんなことよりもジェフリー大統領! まずは会見を!!」
「そんなことだと?! これは、国交に関わる重大な違反行為だ! ックソ、アルチョムのやつめ!!」
なんらかしらのトラブルがあり、苛立ちを隠せないまま会見会場に向かった合衆国大統領 ジェフリー・オーガン。
日本とは違い、訃ヶ蟲のような巨大生命体の出現はなかったが、複数体の謎の人外が突如現れ、暴れ回っていた。
人外襲来から30分。大統領ジェフリー・オーガン氏の会見が始まった。
「大統領!! 今わかってる情報だけでもお伝えください! 我々国民はどうすればいいのですか!」
「落ち着いてください! 記者の皆様、静粛にお願いしま、」
「厳正な対処を! 大統領!」
「我々はどうすれば良いですか?!」
質疑応答どころではなかった。
本当に危機を感じた人間が取る行動はただ1つ。それは焦ること。こんな状況で冷静になれなど到底無理な話だ。
それでも、大国アメリカの指揮を任された男は国のために、国民のために話をしないといけない。
威風堂々、彼はゆっくりと手のひらを前に突き出し、口を開いた。
「ーー落ち着け。今から順を追って話す、少し黙っていなさい」
誰よりも冷静に、泰然とした態度で話すジェフリーに、動揺し騒いでいた記者たちも少し落ち着きを見せる。
「……よろしい。まず、我々アメリカ政府は現在、全軍隊を動かし、"あれ"の調査・排除、並びに警察による避難誘導、怪我人の手当てなどを行っている。まだまだやることはあるが、今はそれを最優先として尽力している」
ジェフリーのその発言に数名の記者が噛みつく。
こんな時でも、マスメディアのイカれ具合は変わらない。
「あ、あなた何を言ってるんですか?! そんなことは当たり前でしょ!!」
「具体的な策や、国民への配慮がまるで足りない!! 何を考えてるんですか!?」
「そもそも軍隊を動かしたところで、何の情報もないのに"あれ"にどうやって対応させるおつもりですか? 無駄な犠牲が増えるだけではないですか?!」
あまりにもうるさい記者たちに痺れを切らしたジェフリーは、とうとう声を荒げた。
「何も情報を得てない状態で会見など開くわけがないだろがぁ!! 少しでいいから黙ってろ!!」
彼が声を荒げたことで、それに便乗するかのように、ますます騒がしくなる会場内。
これでは本当に時間の無駄。そう感じた彼の側近は、怒るジェフリーに近寄り、
「大統領ッ。落ち着いてください。今は例の情報をいち早く国民に伝えるべきかと」
「うるさい!! わかっておる、黙っとれ! 全く。
えぇ、皆さん。 我々は"あれ"についてわかったことが幾つかある。まずーー」
ジェフリーが皆に伝えた情報とは、先ほどから連呼する"あれ"についての名前や特徴だった。
「今、アメリカを襲撃している生物は、確認できているので4種。その全てが、形や見た目は違うが、同じ種族であることが判明した。種名は"ミカドノメ"。奴らは自身のことをそう呼んでいる」
「ミカドノメ? なぜそれがわかるんですか?」
「4種類のうち1種類だけ言葉を話すのがいて、対峙した際にそいつが言っていた。続けて、ミカドノメ4種にはそれぞれ名前と特徴があるらしい」
※大統領が語った、4種の名前と特徴。
【第五の目 個体名:阿呆】
目が5つ、頭が2つ。(左の顔に目が3つ、右に2つの計5つ) 全身に青、赤、黄色の斑点模様があり、阿呆同士で群れを作り行動する。空腹時以外は、ジッとしていることが多いのが特徴。
【第四の目 個体名:狂乱】
目が4つあり、全身赤色の四足歩行。気性が荒く攻撃的で、動くもの全てに反応し襲ってくる。狩猟方法は主に素手で、単体で動くことが多い。
【第三の目 個体名:才知】
真っ白の体で二足歩行。赤く光る3つの瞳が特徴。4種の中で一番数は少ないが、唯一言葉を話し、物を使って狩りを行うなど、優れた頭脳を持つ。加えて、ダントツで動きが速いのも特徴。
【第一の目 個体名:爆】
目が1つ。手も足もない球体。その大きさは、サッカーボールと同じくらいの小さなものである。4種中最も数が多く、最も厄介な個体。自ら動くこともなければ、生き物に危害を加えることもない。
だがこの個体は、人間に触れられた瞬間、大規模な爆発を起こす。
これらが、現在アメリカで騒動を起こしているミカドノである。
「ーーで、では、ミシシッピ州で起きた大爆発の原因というのは……」
「あぁ、間違いなく第一の目 爆の仕業だ。恐らく、誰かが触れてしまったのだろう」
「ら、ランキン郡の一部が吹き飛んだあんな爆発がこれからも起きるってことか。そ、そんな……」
「違う! もう2度と同じことが起きないようにするための情報だ! だから皆さん、爆には絶対触れてはいけない! あなただけではなく州の、国の存亡に関わることです。遊び半分で絶対に触れないでくれ。あと、残りのミカドノメにも絶対、、?! ーーなんだ今の音は?」
大統領が話す中、「「ドンッ」」という大きな音が響き渡る。
あんなに慌ただしかった会場内が一気に静まり返り、誰1人として物音を立てず、静かに耳を澄ました。
そしてそれはいきなり訪れる。会場の入り口が、鼓膜を直接刺激するかのような大きな音を立てて破壊される。
「ーービンゴ〜〜! ご馳走たっくさ〜〜ん」
破壊された扉の奥から姿を見せたのは5体のミカドノメ。
だが、気づいた時にはもう手遅れ。いや、例え気づいていたとしても神経の1本すら動くことはなかっただろう。
10数秒。驚く間もなく、大統領1人を残し、その場にいたものは全員哀れな肉の塊となった。
「たたた、助けてくれぇ」
ジェフリーは腰から崩れ落ち、涙を流しながら、命を乞う。
それを見た4体のミカドノメは興奮したのか、よだれをダラダラと垂らし大統領を見つめていた。
そんな、今にも襲いかかろうとする4体を、冷静に静止したのは、別の一体のミカドメノメであった。
「おやめなさい、下品ですよ。それに彼は食べてはいけません。いいですね? お話の邪魔だから、そこらへんのゴミの始末をしなさい。……まったく、食べ方の汚いやつは嫌いです」
その1体のミカドノメは言葉を話し、倒れる記者たちを踏みつけながら大統領に近づいた。
踏みつけられる人間を見て、なぜか冷静になるジェフリー。
「貴様、さ才知……だな?」
「おぉ、これはこれは。その情報はどこで?」
「お前と同じ才知に聞いた。そこの4体は狂乱で間違いないな?」
「なるほどぉ。お喋りな同族がいたもんです。まぁいいわ、いろいろ知っているというわけですね? うん、賢くて何より。話がしやすい」
「話し……だと? そんなことより、どうやってここに入った?」
「ん? どゆこと? 普通に入ってきたけど?」
普通に? いや、まさかな。あり得ん。
「まぁ何にせよ、お前らはもう終わりだ。外には、我国の精鋭が何十人と待機している。こう見えて私は偉いんだ。わかるな?」
「精鋭? う〜〜ん、あ。 そゆこと。武装した彼らのこと言ってるのね?」
そう言いながら、才知は1体の狂乱を指差し、「あれ持ってきて」と呟く。
狂乱は部屋は飛び出し、数秒後、引きずりながら何かを持ってきた。
「そうそう、それそれ。頭悪いのによく伝わったわね」
それを見てジェフリーは絶望する。狂乱が咥えて持ってきたのは、グリーンベレーの制服をきた男の胴体であった。
※グリーンベレー
アメリカ陸軍の特殊部隊。
「あは……あははっ。バカねぇ〜〜、何を期待してたのか知らないけど、誰も助けになんかか来ないわよぉ〜〜?」
頼みの綱が切れ果てたジェフリーは、再び命を乞う。
「たた、助けてくれ、頼む。何でもする。頼む!!」
床に尻をつき震える大統領に、才知はゆっくり近づき、目線を合わせ、満面の笑みを浮かべた。
「なんでもする? 本当に?」
「は、はい! 何でもします! なので私の命だけわどうか!!」
「ふ〜〜ん、わかった。 いいわよ? その代わり、この国の人間、ぜ〜〜んぶちょ〜〜だいっ!」
「・ ・ ・ え?」
第三の目 才知から告げられた意味不明の言葉に、驚きと恐怖を隠せなかった。
しかし、ジェフリーは才知の話を暫く聞くと、何故か安堵の表情を浮かべた。
「わわかった、好きにしてくれ。その代わり、約束は守れよ」
「えぇえぇもちろん。私は約束破る人だぁいきらっい!」
そして、それから間もなく、アメリカ合衆国という国は、ミカドノメのための、食料庫と化した。
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〈ロシア連邦共和国 首都モスクワ〉
人の声など微塵も聞こえないほど鳴り響く銃声。圧倒的数と武力、それによる慢心と快楽。
しかし、その日初めて知ることになる。本当の恐怖と絶望を。
神に抗い、欲を出した結果、首都は壊滅。無能な指導者をもった国の最後は残酷そのものであった。
〜〜アメリカ陥落より数時間前
日本に出現した訃ヶ蟲と呼ばれる巨大生命体とは別の、※鎌蟲と呼ばれる巨大生命体が、オムスクという街に突如現れた。
※鎌蟲
手足4本が鎌状の、全長7メートルほどのカマキリによく似た害蟲。
背中には羽が生えており、動きもまぁまぁ速いのが特徴。
ロシアも、日本と同じくすぐに軍を動かし応戦。
意外にも、鎌蟲といい闘いをする一方で、犠牲は多く、苦戦を強いられていた。
だが、その状況は一瞬にして終わりを迎える。
今から語る出来事は、神と名乗るたった1人の人外によって行われたものである。
鎌蟲と交戦を行う現場に、突如現れた神を名乗る1人の男。
男はニヤつきながら、軍が手こずっていた鎌蟲を瞬殺。
加えて、オムスクの住人並びに、配置していた軍の半数以上を殺害し、この街はたったの5分で陥落。
陥落した街は、人一人で行える行為の範疇を明らかに超えていた。
その後、出発の準備をしていた大統領のもとに、ある映像が送られてきた。
中身を確認した政府の者たちは、神を名乗る"敵"の姿を見て戦慄する。
映像で見てもわかるほどのデカさ。恐らく3メートル近くあるであろうその巨体。
加えて、体の周りを覆う紫色の煙のようなもの。そして、殺した人間を引きちぎる非情な姿は、怪物そのものであった。
そして、その映像には、神と名乗る者からのメッセージもあり、
「し、シゅ、シュと、ニ、いク。じ、ジカんや、ヤる。た、タの、……『楽しませろ』」
たった一言、その一言が全員の恐怖を煽った。
神がどうとか、人外がどうとか。そんなことよりも、奴が危険だということは、全員がすぐに理解した。
それから、すぐに政府は戒厳令を敷き、モスクワの住民を避難させるとともに戦闘態勢に入った。
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「ーー大統領! 兵器並びに戦闘員の配置、全ての準備整いました!!」
「よし、始めようか、私の前で神を名乗る愚かな者の惨殺を」
ロシア連邦共和国大統領 グレボフ・アルチョム。彼は、未知の敵に対し、全く動じていなかった。むしろ、この日のために万全な準備をしていたかのようにも見えた。
彼が大統領に就任したのは7年前。
グレボフ・アルチョムという男が大統領になってからというもの、ロシアの経済は大きく発展した。敏腕という言葉はまさに彼のためのものだろう。国民からの信頼も厚かった。
だが、彼には裏の顔があった。
国民からの信頼を得る一方で、秘密裏に行われていたのは、禁止とされていた核の製造と、"人体実験"である。
アルチョムは、幼い頃から人類の成長について疑念を抱いていた。
なぜ同じ人間なのに、個々によって才能や力がアンバランスなのかと。
自分以外の全てが、等しく同じであれば、全て手中に収まるのに。
その、サイコじみた疑念は、追求心へと変わる。
大統領就任から3年。彼は動き出す。
囚人やホームレスを使い、解剖・薬品投与・身体強度確認のための拷問。ありとあらゆる非道を行なった。
それの成果が国の発展に繋がっていることなど国民の誰1人として知るものはいなかった。
そして、数年後。ロシアは完成させた。
兵器と呼ぶにはあまりに悲惨な、2、別名"クークラ"という心を持たぬ人体兵器を。
※クークラ
薬品漬けにされ、痛みも感情も失った生きた屍。その数、約5万体。心を持たぬ人間兵器として特攻のためだけに作られた。
「ーーいいか? クークラの突撃合図は私が出す。
5万体も作るのにかなりの費用と時間がかかったんだ。無駄遣いはしたくない。それにアメリカにも渡す約束をしている。だから手始めは、銃や爆撃、あとは1で応戦しろ。いいな? まぁ本当はあのカマキリ化け物に色々試したかったんだが。まぁいい。それで準備を進めろ」
「大統領、まだ国民の避難は済んでいませんが、1はそのあとで投下、ということでしょうか?」
「はぁ……。君ね、それを私に言わせるか? 避難すらろくにできていない少数の国民とロシア全土の国民の命。どっちが大事だね? そんなこと、そこら辺の野良猫でもわかることだぞ?! 」
「し、失礼しました! 総員、防護服着用後、1投下の準備にかかれ! 」
周りが未知との争いに恐怖する中、アルチョムだけは笑みを浮かべ楽しんでいた。
「戦争だ。ようやく、ようやく。見ていてください。『あなた様』との成果、存分に発揮してみせましょう」
彼は大声で笑い、意気揚々としていた。
そして迎える、決戦の時。
「ヤ、やッた。ヒ、ひト、また、ひ、ヒト……『殺せる』」
神がモスクワの中心に現れたと同時に、ロシア軍の一斉攻撃が始まった。
激しく飛び交う軍の怒号と、銃声音。
辺り一面砂煙が舞い、対象の姿が全く見えなくなるほど、敵一人に対して容赦なく弾丸を撃ち込んだ。
「攻撃の隙を与えるな!!
第二陣、 ※1投下開始!!」
※1
ロシアの生み出した、超軽量毒素破裂爆弾(核兵器)。
無人島にて、100人の囚人に対して行った試作実験では、落下時の威力はないものの、散布された毒素によって100人全てを秒で毒殺することに成功。
それ以降に更に改良を行い完成したのが1。
空中より投下された1は、対象に向かって一直線に落下。
そして、着弾と同時に、辺り一面に毒素が散布された。
「ーーアルチョム大統領! 1の被弾を確認しました! 数名の隊員と逃げ遅れた民間人が倒れたとの報告もあがってます」
「民間人はともかく、防護服を着ていた隊員も倒れたか? ……はっ、はっ、ははっ!! 素晴らしい、素晴らしい!! この威力ならば、1はもう少し高値で取引できそうだな。ーーそれよりも、あっけないないな神よ。 私の前で神を名乗るからこうなる。いいか? 私こそ神だ!! 人類が生んだ奇跡なのだ!」
1の威力と自身の成果に酔いしれるアルチョムであったが、それは一変する。
「……だ、大統領!! 対象の生存を確認。生きてます!!」
「なに?! 1が効いていないだと!? ありえん……ありえん!」
だが、それは現実だった。何発、何十発と打ち込まれた1を、避けるどころか浴びているようにも見えた。
「ド、ドクは、コ、こウぶツ。こ、コレジつに、び、ビみ。 モウ、お、オわり? ざ、ザん、ざンネん。 あきタ……『消え去れ』」
神は両手を広げ、大量の殺気を放ちながら唱えた。
「絶戯 『毒与』」
人外の体から大量の紫煙が噴出。それは1分と経たないうちに、あたり一面を覆った。
「……なんだ? なにも起き……ない?ーーうっ!!」
「おい、どうした! しっかりし、ゔゔっ!!」
「だ、だ大統領! 隊員がどんどん倒れていきます!」
「わかってる!! クソッ、いったい何が起きてる?!」
「全軍、即時撤退! 撤退!!」
神が両手を広げ、絶戯という不思議な呪文? か何かを唱えた途端、防護服を着ていようがそんなの関係なしに、その紫煙に触れたものが次々と倒れていった。
「あ、ア。に、ニゲるナ。み、ミ、ミナ……
『皆殺し』」
そこからはまさに地獄だった。
次々に倒れる兵士を踏みつけ、掴み、ちぎる。
5分も経っただろうか。全兵士が、なす術なく惨殺された。
仲間が、自身の国の兵士が無惨に殺される姿をモニター越しに目にしたアルチョムは、現場から遠くに配置していた司令室を抜けだし、一目散に飛び出した。
悲鳴が鼓膜に突き刺さる、異臭が鼻を刺激する。
それでも振り返らなかった。そう、彼は国を捨てたのだ。
「あ、ア。オワた。ハらへリ」
ロシア連邦国首都モスクワ陥落。
時間にして僅か数10分。それは、たった1体の神の力によって。
名は、症懺。『疫病神』である。
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〈中華人民共和国首都北京〉
「グチャ、、ボキ、、ブチ、、」
「ーーこら大國。必要以上に形を変えない。そんなに酷い死体では供物になりませんわよ」
「あ、、穢毘諏、ごめんなさい。またやってしまった、、」
「そんなに落ち込まなくてもいいのよ。やってしまったものは仕方ありませんから」
「穢毘諏、、ありがとう」
ここ中国には、訃ヶ蟲や鎌蟲といった巨大生物は出現しなかった。
しかし、アメリカのように複数の力を持った謎の人外が出現していた。
「う〜〜ん。それにしても、弁細と樹楼が帰ってきませんね。どっかでくたばったのかしら。ふふっ、いい気味だわ」
穢毘諏と呼ばれる女が声高らかに笑っていると、後ろから新たな3人が姿を見せた。
「ーーおいこら、ふざけるな。死んでないわ!!」
「あら生きてたの、残念。遅いから死んだかと思ったのに」
「仏陀様の悲願を見届ける前に死ねるか! 樹楼のガキがゴネて少し手間取っただけだ!」
「またですか? はぁ……樹楼、もう少しで仏陀様に会えます。それまで一生懸命頑張りましょう? ね?」
「穢毘諏さん。それ今ので69回目。もう死んでもいい? これ以上仏陀様に会えないのはストレスだ」
「まぁまぁ(笑)。それよりも、その女性が?」
弁細という男は、ボロボロの姿になった1人の女性の頭を握り、引きずっていた。
「あぁ、この国の長だ。つうかいい加減教えろよ。こんなやつに何の価値があんだよ。さっさと殺そうぜ」
「ダメです。仏陀様の意向に背くのですか?」
「んなわけねぇだろ! ならさっさと治せよ」
「わかってます。ーーかわいそうに、今治してあげますね」
穢毘諏は、ボロボロになった中国首席、王 幸倪の、原型のほぼない顔に手を添え、何らかしらの力を発動させた。
「あ、あ、あ゛ぁ゛ぁ゛」
すると、気絶していた彼女が、突如もがき苦しみ出した。
そんな彼女に、穢毘諏は優しく話しかける。
「いいですか? あなたの名前は今日から飛射馼です。七福陰道として仏陀様に仕えるのです。さぁ、始まりますよ。ーー神和を奪うための第一次侵攻が」
世界各地で人外が動き出す。