Ep.23(63) 極戯
グレンとキゼルが勝利を収める少し前、云大vs中位獣連"野良"の戦いが始まっていた。
「ーー神戯 『殴戈』」
彼から放たれた神通力の威力、神力の凄まじさ、殺傷性を見て、野良は背を向けて逃げ回っていた。
ダメだダメだダメだ!! こいつ、強すぎるニャア!! データがない上に、これだけデタラメな強さ。無理ニャア、堺若様を待つ以外の選択肢がないニャア!!!!
中位獣連は堺若のワンマン。故に、それ以外は正直なところ強くない。魔戎を1人でギリギリ討伐できるレベルである。
そんな野良が、云大に勝てる見込みなどあるわけもなく、彼女はただただ防戦一方となった。
「ーーっおい猫!! お前、やる気あんのか!? 俺は暇じゃねんだよ!! やる気ねぇなら降伏しろ!」
「こ、断るニャア! 時間稼ぎも重要な戦闘。この戦法は変えないニャア!!」
確かに攻撃範囲が広くて威力もあるし、強い。だが、ニャアの速さには追いついてない。ニャア〜〜ニャア〜〜、これなら案外、堺若様が来るまで持ちそうだニャア。
「ニャア? どうした? 早くこい、その下手くそな神通力、ニャアに当ててみな!!」
データがないということは、相手を知らないということ。つまり、野良は云大のことをほとんど知らない。
堺若も言っていたが、神通力者同士の戦いに情報は必要不可欠。
まぁ、逆も然りで、云大も彼女のことを知らない。だがその場合、考え方はシンプルで、より強い方が戦況を握る。
虎影師匠先輩に、あまり使うなよと釘さされてるけど……仕方ない、一瞬なら……
「捕食"部分纏化" 『武闘式賦 羽衣』!!」
彼は、千年と別れた後、虎影の神域で更に力を向上させていた。
それにより、部分的に纏化+自分の意思で解除することが可能となっていた。
その成果もあり、云大は足のみを纏化し、脚力を飛躍的に向上させた。
「今の俺なら、世界陸上ぶっち1位」
その言葉通り、彼は一瞬にしてその場から消え、あっという間に野良の首を掴んでいた。
首を掴まれたタイミングで、云大が動いたことに野良はようやく気がづく。
「ニャア!?」
驚きと恐怖で思考が止まるも、彼は止まらない。首を掴んだまま野良を持ち上げ、そのまま勢いよく地面に叩きつける。
それにより、地面酷く割れ、辺りに破壊音が響き渡る。
「ーー俺は平等だ。だから、女も男も関係なくやれる。まぁ善悪の区別をしてからだけどな」
云大は彼女の首から手を離さないまま、足の纏化を解き、反撃に備えて腰から頭の先までを纏化する。
意識が朦朧とする中、その姿を目の当たりにした野良は"敗北"を覚悟した。
「ニャア……や、やるなら、早くやれニャア」
「やる? 何を?」
「だ、だから……早く、こ、殺せニャア」
「なんで? 殺す必要ある? 俺の目的は外に出ることだ。お前を殺したいわけじゃない」
……ニャア〜〜。みっともないニャア。負けた挙句、情けを……まぁどっちみち、負けてしまった以上、堺若様に殺されるオチだニャア。あの人は敗北を嫌う、弱者を嫌う。ニャアに残された命は変わらず少しだニャア。
「わかったニャア。なら早く外に行け。ニャアはもう動けない」
「マジか!? あ、俺がやっといてなんだけどさ、だ……大丈夫?」
「うるさい。早く行けニャア」
「わかった! ならお前はそこでじっとしてろ! 堺若ってやつは必ず先輩方がなんとかしてくれる。そのあとのことは、仲間であるお前がどうにかしろ! 頼むぞ!!」
仲間……どうにか……
「それは無理だニャア」
「無理? なんで? つうかそもそも、お前ら何のために反抗してんの?」
「反抗……とは少しだけ違うニャア」
「じゃあ何だ? 摩瓈爾奠とかと一緒で人間が嫌いとかそういうやつか?」
「いや、その逆だニャア」
逆??
「堺若様は普者を愛している。神通力者以外の弱きものを尊く思っている。だからこそ、彼は神王に背いているんだニャア」
「は? 言ってる意味がわからない」
「愛を与えてはならない。愛しているのにだ。そんな苦痛を彼は耐えているニャア。お前に分かるか? お前に、何かできるか? 答えてみろ」
「……う〜〜ん、俺さ大抵の悩みは根性とか、必死に考えるとかで解決できるタイプなんだよね。でもさ、悩みって人によって重さが違うじゃん? 俺にとっては簡単なことでも、性格とか立場とかで変わってくると思う。だから、堺若ってやつがどんなことで悩んでて、どんだけ苦しい思いをしてるかは正直わからないし、今の俺じゃ助けることは出来ないと思う。……でも1つだけ言えるとしたら、それを救うために友達や家族、"仲間"っているんじゃねぇの?」
云大の話を聞いて、野良の中の何かが動き、表情が一変する。
そうか……そうだニャア。堺若様が悪いんじゃない、法が悪いんじゃない。全て、支えないといけないはずの野良たちが……
「……おい変人」
変人!?
「感謝する。ニャアは覚悟を決めた。もう堺若様を1人にはしニャイ」
「そう……か。よかった!」
「だが、ニャアだけでは多分難しいと思う。
だから……その……」
言葉が詰まる野良を見て、云大は駆け足で彼女の元に近寄り、手を差し伸ばす。
「皆まで言うな、わかってる。安心しろ、堺若は先輩方が絶対に倒すし、なんかあったら微力だが俺も手伝う!」
「そう……か。わかった、ありがとう」
「気にすんな!! じゃあ俺はそろそろ……」
「あぁ待て、礼と協力のついでだ、お前に堺若様の苦痛、即ち彼の嫌弱を教える」
堺若の嫌弱??
「いや、知ってるぞ? 脆体だろ?」
……なるほど、宏憐様が。
「いや、それは嘘だ」
「えぇ!? ううう嘘!?」
「ニャア。だが、宏憐様がついた嘘ではなく、堺若様がついた嘘。彼の本当の嫌弱を知ってるのはニャアのみだ」
堺若は父である宏憐に嘘の嫌弱を伝えていた。それは、彼の悩みが打ち明けられるものではないし、絶対に解消できるものじゃないからだ。
「堺若様の嫌弱はーー」
伝えられた嫌弱を聞き、云大は「え?」と呆れながらに首をひねった。
「いや、ごめん。それは……普通にすればよく、」
彼は話してる途中であることを思い出し静止。直後、頭を抱えた。
「なるほど……それは災厄な嫌弱だな。……うわ、どうすればいい? めちゃめちゃだな本当」
「だろ? だからニャアは今まで彼に何も言えずにいた。というより、かけていい言葉が見つからな、」
「あ!!!!!」
云大は何かを思い出した? というより、何かが閃き、ポケットに手を突っ込む。
そして、ポケットから携帯を取り出し、何かを調べ出す。
「ーーなぁ猫! お前らの世界に"これ"あるか!?」
野良に見せたのは何かの画像。それを見た彼女は首を傾げ、「ニャイ」と返答。
云大は声高らかに笑った。
「そうかそうか! オッケ〜〜! おい猫、俺なら、というより、この世界なら堺若を救えるぞ!!」
云大、とっておきの策が動き出す。
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一方その頃、
〈エクアドルガラパゴス諸島 獣神根城〉
「"貌遂" 『魚群』」
※ 『魚群』
イワシの群れ。体長約25センチ。毛一本で100匹。(今回は10本の毛を投げたので、1000匹を出現させた)
攻撃力・防御力はともに低いが、相手の視界を遮る効果がある。
発動した 『魚群』は、ウイストンを囲うようにグルグルと回り、視界を遮った。
なるほど、やっぱ逃げの一手か。まぁストックしてる毛には限界があるだろうから、そう動くしかないわな。にしても、こんだけ不利な状況だってのに、冷静に俺を倒すことより、視界を遮りながら距離を取り、この魚の群れを俺がどう壊すかで、俺の神通力を見極めようとするその行動。ふっ、流石は神道ってとこかな。ーーでも、
「そんなに離れたら悲しいじゃねぇか」
ウイストンは、自身の周りをグルグルと回る魚の群れを暫くぼぉ〜〜っと眺め、その後、地面に両手をつく。
「こんな魚の群れ、神通力使わなくても壊せそうだけど……いいぜ、お前の思い通り動いてやるよ」
その瞬間、ウイストンの神力が跳ね上がる。と同時に、数十メートル距離を取った宏憐は立ち止まり、すぐに物陰に移動する。
やっと解放したな。さて、やつの神通力は何か……それ次第で、吾輩の動きが決まる。逃げか、それとも攻めか。
両者が動きを止めること数秒、それは一瞬にして辺りを白く染める。
「"白の恐怖に苛まれ 遠のく意識 死の傍らへ"
ーー ※極戯 『雲容烟態』」
※極戯
一部の選ばれた神通力者のみが発動できる。
⇒天告時と同じ現象が起きる。(知らない誰かの声が聞こえる)
"名を決め 唱えよ 力は更なる高みへ 身をもって知れ 命源の真髄を"
これがあった者は、独自の綸音を作ることができ、それを唱えることで、極戯が発動する。
〈極戯〉
通常、神通力は空気中の命源を吸収して、体内で神力に変換、そして技を繰り出すという流れだが、極戯は違う。発動した瞬間に、発動者の神通力の性質に合わせて、空気中の命源が勝手にその性質に変化する。
ウイストンの神通力は雲霧。
つまり、『雲容烟態』とは、彼の周辺にある命源を全て雲に変換する力なのである。
(『雲容烟態』は空気中の命源に触れるたびに、形を変え、大きくなる。その点は発動者のコントロール次第)
発動と同時に、ウイストンの周辺は真っ白な雲(彼を中心に半径約500メートル)で覆われる。
待て、いまの綸音はなんだ!? なっ、まさか極戯か!? では、彼奴は天に選ばれしものということ……。一体、何者……
動揺が増し、集中力の切れた今の宏憐の隙を彼が見逃すわけもなく、
「おいおい、尊敬しだしたところなのに……ガッカリさせんなよ獣」
巨大な雲から、手のような形をした太く長い線が空目がけて無数に伸び、立ち昇り、直後、宏憐の隠れる場所目掛けて一気に襲いかかる。
なるほど、"そっちタイプ"の極戯か。速さは……よし、避けれる!!
『雲容烟態』から伸びた無数の雲の手。それを、大きな体をしている宏憐は意外にも軽い身のこなしで次々と避ける。
「へぇ〜〜、その図体のくせにかなり動きが速いな。……あぁ、族種特質か。なるほど、やっぱかなり強いなお前」
そう言いながら、ウイストンはさらに雲の手を生やし、宏憐を徐々に追い詰める。
そろそろやばいな、逃げ場がなくなる。ーーなら、
宏憐は動きながら、毛をむしり、
「"貌遂"ーー『家鴨』!!」
無数の手に対して、宏憐が生み出したのは約1000羽のアヒル。
アヒル? 神力……も、さほど強くない。どういうつもりだ?
あまり強くない大量のアヒルにウイストンが困惑する中、宏憐は動きながらアヒルを一箇所に集める。
「聞こえてるからわからんが知ってるか? アヒルは体温が非常に高い。そして、吾輩の神力でその点のみを強化している。つまりこの『家鴨』は、その特性を活かし、体から熱を発生させる」
集まったアヒルの群れは、互いに体を擦ったり、激しく動き始める。
すると、『家鴨』の体から強烈な熱が発生、周辺は極暑に変わる。
温度の上昇により、雲はみるみる消えていく。
「なるほど、考えたな。でも、ちょっと幼稚な発想かな?」
再び『雲容烟態』から無数の雲の手が伸びる。
「この雲は俺の神力から成る。つまり、俺が神力を上げれば、雲は硬く・威力を増す」
発言の証明をするかのように、雲の手は宏憐ではなく、『家鴨』の集まる場所へと放たれ、直後拳の雨が降り注ぐ。
「雑魚は何しても所詮雑魚。その場凌ぎにしかならねぇよ」
『家鴨』は拳に踏み潰され、跡形もな消え去る。
出力を上げたか。だが、極戯は神力の消費が激しい。このままいけば……。
「俺の神力が枯渇する。とでも願ってるか? 残念、それはない」
ウイストンのその声は、聞こえるはずのない、いるはずのない背後から聞こえ、振り返るとすぐに彼の拳が宏憐の顔面に直撃する。
「そういやぁ、殴られた借りを返してなかった。そういうの、意外と大事にするタイプでね。ってことで借りも返したし、これで心置きなく殺れるよ」
綺麗に顎に入ったことで、吹き飛ばされた宏憐は未だ立ち上がれずにいた。
何が起きた……遠くにいたはずのあの男が、突如、吾輩の背後に……そんなことより、なんて威力にセンス。あの一瞬で、完璧な位置に拳を。
「お、驚いたぞ。い、いつの間にそこに?」
「さっきだよ。雲と一緒に」
雲と一緒に……あぁ、
「※流動か」
※流動
従操の一種で、自身の体を一定時間、神通力そのものに変化させる力。
⇒永続的には出来ない。(長くて10秒)
また、連続使用も出来ない。(体への不可が大きいため)
「お、流石、正解」
なるほど、雲の拳と一体化して、吾輩の後ろに着地、そして殴ったというわけか。
「本当に、オンシは強いな。守護領域じゃなくても勝てるかどうか」
「いやいや、『神格』されたら流石に負ける」
会話しながらゆっくり立ち上がる宏憐を見て、ウイストンは極戯を解き、タバコに火をつける。
「立つか。ったく、ほんと根性あるよお前」
「ふっ、この程度の逆境で命を投げ出すほど、吾輩は雑魚じゃない」
「ふぅ〜〜、言うね」
タバコを咥えた口から溢れる大量の煙。
なんだその異常な量の煙は……まさか!?
「気づくのおっそ。ーー『白界』」
発動と同時に、一帯が真白な世界へと変わる。
「くそ、タバコの煙に雲を混ぜて張り巡らせていたのか」
「正解。状況判断も早いな」
姿を消したウイストンの声が、宏憐を覆う巨大な雲の至る所から響き渡る。
「いまお前の目には白しか映っていないだろ? 白ってのはさ、よく"なんにでも染まる"とかって言われるけど、それは間違い。白ってのは"無"であり染まらない。表面上が変わるだけで、本質的には何も変わらない。全ては白から成り、白がなければ何も始まらない。全ては白だ。つうことで、お前も白に戻れ」
止まっていた大量の雲は、宏憐の周りをぐるぐると周り始める。
「ナメるな、こんなもの一撃で蹴散らしてくれるわ」
そういうと、彼は毛をむしり、それを投げる態勢に入った。ーーだが、
「お前の貌遂はもう飽きた」
毛を握る右手に、一気に集まる雲。
「な、なんだこれ。くそ、離れない」
雲は、毛を握った状態のまま彼の手を包み込む。
「雲を一蹴するために巨大生物をだそう。的な策かな? でも残念、お前は巨大な獣を出す際、毛を必ず遠くへ投げる。それは、巨大な生物が誕生する際に出るエネルギーから身を守るため。つまり、投げる前に押さえ込めば、それはもうただの毛玉だ」
その瞬間、広範囲にぐるぐると周っていた雲が、宏憐の手・足・胴の順にまとわりつく。
「くっ、身動きが……」
どんどんと縮小していく雲の中から姿を見せたウイストンは、少し悲しい表情を浮かべ、
「お別れだ。ーー"終極" 『凝固白界雲固メ』」
※凝固白界雲固メ
体の自由を奪い、雲で呼吸器官を塞ぎ、酸素・命源を断つ力。
これにより、対象は呼吸ができなくなり、窒息する。
攻略方法は3つあり、
1.馬鹿力。体の力のみで破壊する。
⇒破壊しても雲は再び形成される。
2.神通力を纏う。グレンのように発火したりできれば防げる。
⇒当然、事前に細胞に命源をストックしておく必要がある。
3.第三者の助け。
「お前の神通力と俺の神通力。やっぱり、相性災厄だよな。お前の神通力じゃ、どう足掻いてもこの力からは逃れられない。残念だったな」
雲による圧迫、宏憐はもがくことすら出来ず、ただただ死を待つだけとなった。
意識が……苦しい……これが、、"死"か。
天明様……堺……若……。
走馬灯がよぎり、次第に目蓋が落ち始める。
「守護領域内でよくやったよ。(ガチでやり合ってみたかったよ)」
雲に背を向け、タバコに火をつけ、ひと吸い。空を見上げながら、悲しい表情で煙を燻らす。
終わっ……?!!??!!?!??
雲で固めてから数秒、完全に勝ちを確信した彼の隙を宏憐は狙っていた。
一か八か。だがこれしかない。死なば諸共、絶対に徒では帰さない!!!!
意識が遠のく中、宏憐は全身に力を入れ、ストックしていた神力を一気に解放する。
「"貌遂" 『藍鯨鯢』!!!!」
その瞬間、宏憐の体毛が、『鯨鯢』の倍近い大きい、巨大なシロナガスクジラへと変貌する。
こいつ、自滅覚悟で!?
巨大な体と、消費する神力量に比例し、発動と同時に常軌を逸した高エネルギーが放たれ、辺り一帯を吹き飛ばす。
それにより、宏憐を包み込む雲は一蹴され、近距離にいたウイストンと宏憐にそれは襲いかかる。
これでいい。吾輩の任は何としてでも王への脅威を取り除くこと。これでいい。
決死の一撃、2人の行方は……




