Ep.22(62) 格下
モンゴルにて、堺若vsグレン&キゼル。野良vs云大の戦いが激しくなる中、
〈エクアドルガラパゴス諸島 獣神根城〉
ガラパゴス諸島全域に展開された守護領域。そこで眠りについていた宏憐の前に突如として現れた謎の男、ウイストン。
目を覚ました宏憐は、神通力の使えないこの状況をどう打開するか考えていた。
それと同時進行で、ウイストンの尋問が始まる。
「まず、第一級最上位"真白澪"の所在を教えろ」
「真白の所在?」
「オウム返しするな、1回で理解しろ。真白澪の所在は?」
「悪いが知らない。そもそも吾輩だけではなく、神道の誰1人として真白のことは把握していない。故に、答えることはできない」
やっぱ知らねぇか。あ〜〜ぁどうすっかなぁ。
「じゃあ、真白がいそうな場所は? ジブチにいるって聞いてたけどあれから場所を変えたみたいでな、正直検討がつかない。神道の仲間なんだから、なんとなく予想くらいつかねぇの?」
「知らんな。神道は基本的に真白にはノータッチだ。理由は簡単、圧倒的は強いから。連携を取ろうとすれば返って奴の邪魔になる。だから、真白のことはほとんど知らない」
事実、神道十二界に真白と深い関わりがあるものは1人もいない。
唯一、彼と仲良し? と言えるものがいたとしたらそれは天千年のみ。
そのことは知っているが、そこまで答える義理もなければ、仲間を売る理由もない。宏憐はとにかく、聞かれたことだけを答えるスタンスを取った。
「わかった。なら次、お前らが知ってる『神和』についての情報を全て吐け」
「『神和』? 悪いが真白のことより知らない」
「本当か? 神座で議題にあがったろ? あれから調べてねぇの?」
なぜ神座のことを!? まさか、裏切り者が……。
「おいおい、余計なことは考えるな」
「わかってる。確かに議題にはあがった。だが、吾輩はそれどころじゃない。だから調べていないし、あの神座以降、神道の誰とも連絡は取っていない」
ふ〜〜ん、多分これも嘘じゃねぇな。
「わかった。じゃあ最後、お前が知ってる範囲でいい。神道十二界、12名の嫌弱を教えろ」
・ ・ ・
「おい、聞いてんの、」
「吾輩は絶対に仲間を売らない。だからそれは言えない。何をされても」
明らかに宏憐の顔つきと雰囲気が一変したことで、ウイストンの態度も急変する。
「だから、お前は黙って答えてればいいんだよ」
「知るか。誰も全てを答えるなどとは言っていない」
「正気か? この状況だぞ?」
「どんな状況であれ、仲間は売らない」
「教えてくれたら殺さない、って言ったら?」
「死んだ方がマシだ」
確固たる意志のもと話す彼の姿を見て、ウイストンはタバコに火をつけ、天を仰ぐ。
「ーー不器用だなお前。俺も本当はこんな仕事したくねぇんだけどよ、うちのボスが復活するためには必要な作業らしい。だから、こうしてさ、嫌々ながらもやってるわけよ? 利口になって手貸してくんねぇかな?」
「知らんな。オンシは吾輩を殺しに来たのだろ? ならそうすればいい。何を言われても、何をされても、吾輩は絶対に仲間を売らない」
「ふ〜〜ん、そっかそっか。わかったよ」
まだ半分ほどしか吸っていないタバコの火を消し、ウイストンは宏憐の目の前へと歩み寄る。
「お前は決して口を割らない。それでいいか?」
「あぁ」
「カッケェな、敵じゃなければ惚れてたよ」
その言葉と同時に、ウイストンの右拳が宏憐の頬に直撃する。それにより、宏憐は後方へと吹き飛ぶ。
「神通力の使えない相手に手を出すのは不本意極まりないが、まぁ許せ。こっちにも譲れないものはある」
宏憐の吹き飛んだ方へとゆっくり歩き出すウイストン。しかし、目の前から感じる強烈な神力に足を止める。
おいおい、ここは守護領域内だぞ? しかも、不意打ちだ。神力をストックする暇なんかなかったはず。なのになぜ奴のいる場所から神力を感じる? ふっ、こりゃあ面白い。ただじゃ死なないか。
相手は神通力の使えないただの獣。そう思っていたウイストンからしたら予期せぬ事態。彼の足が止まるのにこれ以上の理由は要らなかった。
「ーー守護領域内なのに、吾輩の寝ているタイミングで不意打ちしたのになぜ神力を感じる? そう思ってそうな表情だな?」
宏憐は殴られた箇所を触りながら、ゆっくりと立ち上がり、
「勘違いするなよ。吾輩はただの獣ではない。天明様より任を与えられし王の矛……神道十二界第六級、獣神だ!!!!」
宏憐は手に握りしめる"前もって神力をストックしていた体毛"をウイストン目掛けて投げ飛ばす。
「"貌遂ーー"『山犬』」
投げ飛ばされた体毛は、31匹の狼へと変貌を遂げる。
「お前らの思い通りにことが進むと思うなよ外道が!!!!」
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〈モンゴル〉
「ギャァァァァァアアア!!!!」
堺若の出した『鯨鯢』(クジラ)5体、『逆叉』(シャチ)・『鮫鱶』(サメ)それぞれ10体を前に、グレンはなす術なく逃げ回っていた。
一方で、キゼルは雷獣の速度を利用しながら攻撃を回避し、冷静に堺若を倒すことだけを考えていた。
数は多いが、なんとか避けれる。グレンも……まぁみっともないが、今のところ問題なさそうだな。だが、このまま何もしないというわけにもいかない。ならどうする? 一蹴するか? いや、ダメだな、ただ殺してもどうせ新しいのを出される。だったらーー
《グレン、"あれ"をやるぞ》
突如飛ばされるキゼルからの『意思伝達』に、グレンは高揚する気持ちを何とか押し殺した。
《"あれ" やんだな!? わかった!!》
《おい、昂るなよ? 冷静に、》
《わかってる! 大丈夫だ、堺若相手に浮かれたりしねぇよ》
《ならいい。それと……(いや、今のこいつならその後の指示は不要だな) やっぱいい、俺に合わせろ》
《おう!!》
認めたくはないが、グレンの戦闘センスは俺よりも上だ。しかも、今のあいつはかなりの集中状態にある。ーーよし、やれる。
会話を終えると、グレンは『炎鎧』を発動し、キゼルは更に速度を上げて獣徒の周りをぐるぐる走り出した。
※獣徒
毛で作られた獣の総称。
「ほぉ? グレン・ハイズヴェルム、その鎧はなかなかに良いな。いくら獣徒でも触れたら溶けそうだ」
「だろうな! 俺の炎鎧は誰も壊せねぇ! ほらほら、来いよ!!」
ふん、バカが。その状態のお前に触れるわけがない。やはり経験の少ない甘ちゃんだな。
こうなれば、"脳"であるキゼル・ラーシュを先に潰す。いくら速かろうと、所詮は1人。俺にとってはこの状況、とても好都合だよ間抜けども。
堺若はグレンを無視して、獣徒全てをキゼルに向け、誘い込むように、徐々にキゼルの行動範囲を狭めた。
「流石に速いな。だが、さっきも言ったが俺も獣族だ。生まれながらに『速異』の族種特質を持つ。いくら速かろうが、俺には見えていて、捕らえられなくとも、動きは封じられる」
堺若の言葉通り、キゼルの前後・左右を獣徒が囲う。
これにより、完全に逃げ場を失い、キゼルは足を止める。
「惜しかったな。最後の最後で経験の差が出たな」
「経験の差? バカかお前。んなもんなくても、俺らには千年様がいる。その程度の差、あの方の一言で埋まる」
そういうと、キゼルは初めて最高速度を出す。
バカな、今までのが最速じゃないのか!?
これには流石の堺若も目で追えず、キゼルは獣徒の間を鮮やかに抜け去り、炎鎧を解いたグレンの真横に立つ。
「デカブツどもが一箇所に集まったな。絶景だ」
まさか、わざと誘い込まれたのか!? 獣徒を一箇所に集めるために。 いや、落ち着け。あいつらは所詮中位の神通力者だ。『神格』はできない。大丈夫、絶対にこれだけの獣徒を一掃することは不可能だ!!
「何のつもりか知らんが、やれるもんなら、」
「あぁ、うるせぇよ。やるから黙ってろ。行くぞグレン」
彼の合図で、グレンは右手に炎を集約させ、キゼルは左手に雷を集約させる。
そして、2人を呼吸・声・神力を合わせ、
「「 絶戯 炎雷 "重"ーー擬似『屍宴』!!」」
炎、雷、2つの神通力が重なることで、千年のとほぼ変わらない威力と範囲の『屍宴』が、一箇所に集った獣徒を包み込み、宴が催される。
いくら強度な肉体を持つ獣徒であっても、決してこの宴を拒むことは出来ず、獣徒は炎雷の中で激しく叫び、暫くすると跡形もなく消え去った。
「バ……かな」
これには堺若も空いた口が塞がらず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
信じられない。まさかここまでとは……というより、こんな技があるなど"あいつ"から聞いてないぞ? まさか、あの野郎……。
邪念の多くなった堺若は、当然彼らの次の一手を防ぐことができず、キゼルの「グレン!!!!」と叫ぶ声で正気に戻る。ーーが、時すでに遅し。
「神戯 『隔離包火』」
グレンが放ったのは堺若への直接攻撃ではなく、3人を炎の中に閉じ込めるだけのものだった。
「どういうつもりだ? 俺はいま一瞬冷静さを欠いた。つまり大きな隙ができた。なのに、この攻撃……なんの冗談だ? まさか、俺をバカにしてるのか?」
「はぁ? アホか。俺もキゼルもお前を強者と認めてるから、こうやって2人で必死に考えて挑んでんだろうが、このタコ!」
必死に考えてるのは俺だがな。
「必死に? ……ふふっ、なるほど、必死に考えた結果がこれか? なら宝の持ち腐れもいいとこだ。せっかく強いのに、頭が足りないと、」
「残念でした〜〜。この策考えたの俺じゃなくてキゼルですぅ〜〜。俺はバカだけどキゼルは頭いいんですぅ〜〜」
おいおい、それ言ってて悲しくないのか?
「まぁなんにせよ、これでお前はもう終わりだ。観念しやがれ!!」
「……終わり? ふっ、これだからバカは嫌いなんだ」
大方こいつらの作戦は、炎で俺を囲うことで獣徒を出させないつもりだろうな。確かに、俺が今まで出してきた獣徒の大きさを考えると、この炎の囲いは邪魔っちゃ邪魔だ。だがーー
「勘違いするなよ。獣徒の大きいさは俺の配分次第で変わる。つまり、強さはそのままに、大小を変えることくらい容易ということだ」
堺若は懐から毛をむしり取り、前方に投げ飛ばす。
「それくらいの対処をしてくるやつなんか過去にもいた。全く、浅はかで稚拙な知恵だ」
「ーー残念ながら、それはお前の方だ」
投げられた無数の毛に向かって、3人を囲う『隔離包火』から太い紐状の炎が放出される。
それにより、投げられた毛は「チリチリ」と音を立てながら変貌することなく地面に落ちた。
「お前は獣徒を出す際、必ず毛を投げ飛ばす。それは恐らく、獣徒と自分との間に距離を取るためだ。
理由は3つ。
1、お前の周りをうろつく『飛鼠』が反応してしまうから。
2、毛から獣徒に変貌する際、エネルギーが大量に放出される=衝撃波のようなものが発生するから。
3、獣徒が大きすぎて自分にも被害が出る恐れがあるから。
つまり、お前は必ず毛を投げ飛ばさなければ獣徒を発動できない。それさえわかれば、あとは簡単。発動する前に毛を潰せばいい。都合のいいことに、グレンの炎とお前の毛は相性災厄だろ?」
キゼルの策は、堺若の行動範囲を絞りつつ、投げられた毛を先に潰すこと。
だがそれは、普通の状況では失敗する恐れがある。なので、グレンに『隔離包火』を発動させ、投げられた瞬間に、『隔離包火』から炎を放出させて燃やす、というものだ。
「わかったかタコ助! 俺の『隔離包火』は俺の意思で動かすことができる。火力は低いが、毛を燃やすだけなら簡単な作業! つまり、お前はもう獣軍団をだせねぇ!!」
……戦い方を間違えた。やはりキゼル・ラーシュ、あいつを先に殺すべきだった。
「ーー完璧な策……というわけか。キゼル・ラーシュ、お前は実にいい。賢く、強く、冷静だ。そんなお前に提案だが、俺と手を組まないか? というより、こっち側にこい。どうだ?」
「はぁ?? アホか! キゼルは俺の仲間ですぅ! ふざけたこと言うなタコ助!」
「キゼル・ラーシュ、お前はわかってるはずだ。俺を倒すことも殺すこともできないと。確かに、この状況で俺は獣徒を出せない。燃やされるから。だが、『飛鼠』は出し続けられる。理由は俺が出す獣徒の中で一番小さいから。発動したところで俺に被害はないし、投げなくても発動できるから燃やされない。だがお前はどうだ? グレン・ハイズヴェルムは恐らくいまの状態だともう戦えない。そいつが考えながら、この囲う炎を操りながら俺と戦えるとは思えない。ってことは、お前は今から1人で俺に挑むわけだ」
「な、なんでお前が優位に立ってるみたいに話してんだよ!! いいから早く降参し、」
「キゼル・ラーシュよ、どっちが先に神力を使い果たすと思う? お前ら2人と俺と1人。考えなくても見たらわかるだろ? 我慢比べは嫌いじゃないが、事この状況ではただの時間の無駄だ。さぁ、手を取れキゼル・ラーシュ」
堺若の言ってることに間違いはない。それはキゼルもわかっていた。
神通力者同士の戦いは、強いものが勝ち、弱いものが負ける、も当然あるが、それ以前に、神力が尽きてしまえば強かろうが関係なく終わる。
2人は神力を消費しながら、鉄壁の堺若を倒さなければならない一方で、堺若はストック分の神力を使い防ぐだけ。
つまり、2人の神力は消耗するが堺若は違う。グレンの神力が尽き、『隔離包火』が消えたタイミングで攻撃を再開すればいいだけのこと。
「格上相手によく健闘したよ。だがもういいだろう。自分だけは助かる道があるんだ。諦めて、、」
そう語る堺若を前に、キゼルは地面に片足と両手をついた。
「そうだ、それでいい。なんだ、物分かりもいいのかお前は」
「ーー確かにグレンは操作しながら動けるような器用な奴じゃない。だから堺若の言う通り、俺はグレンを守りながら、神力を消耗して戦わないといけない。一方でお前は消耗しない。側から見たら俺に勝ち目はない。ってことだろ?」
「待てよ! 別に俺は守られなくても戦えるぞ!? 操作くらい、」
「いいんだ。別にお前が不器用とかそういうことを言ってるわけじゃない。お前の今の仕事は、堺若に獣徒を出させないことだ。そして俺の仕事はこいつを倒すこと。ーー1対1……正直かつての俺だったらあたふたして終わりか、とりあえずお前の言う通りに動いて隙を伺うか……だったんだろうな。だが、お前は知らないだろうが、俺はお前とは比にならない圧倒的な力ってやつを体験したんだ」
圧倒的な力? 摩瓈爾奠のことか?
「おいおい、摩瓈爾奠が圧倒的? 笑わせるなよ」
「あんな"ゴミ"と一緒にするな。
というか、気になっていたんだが、お前、重度のナルシストだろ?」
「ナルシスト? どうかな、まぁ俺は俺を誇ってる」
「違うな。それは誇りじゃなくて驕りだ。お前は全てを勘違いし、履き違えている」
「何が言いたい? 時間稼ぎか?」
「時間稼ぎ? ははっ、全く分かってねぇなお前。お前の言う消耗戦、確かにそれならお前に軍配が上がるだろうな」
この瞬間、キゼルの神力がみるみるうちに上昇していく。
どういうつもりだ? 消耗戦は分が悪いとわかっているんだろ? なのに何故……。
「お前は驕りがすぎる。なぜ、1対1で俺が負けると思ってる?」
「は? どういう意味だ?」
「頭悪りぃな。なら、馬鹿でも分かるように教えてやるよナルシスト。
消耗戦? 笑わせるな、獣徒を出せないお前程度のカス、消耗する前に終わらせられるんだよ!!」
キゼルの全身に雷が走り、直後、彼は目線を堺若の足下に向ける。
足を見た? それに地面を手につく姿勢……下からの攻撃か。 はぁ、浅い。実に浅い。
堺若は瞬時に下を警戒するが、
待て、キゼル・ラーシュは若いとはいえは頭がキレるやつだ。いまの動き……そういうことか。あからさますぎたな。
堺若はすぐに、顔の位置を変えないまま意識を下から上へ。それにより、自身の頭上に何かがあることに気がつく。
やはりブラフ。頭上に小さい何かがある。恐らく、雷の塊……ふふっ、経験の差が出たな。
堺若は気付いていないふりをしながら、『飛鼠』数体を頭上に動かす。
とりあえず、上から攻撃させて『飛鼠』の能力を解放する。そしたら俺は視界から消える。その後で毛を数本投げて……よし、やはり俺は強い。
「勘違いしてるのはお前だキゼル・ラーシュ。さっきも言ったが俺は強い。これは驕りではなく事実。まぁ、やればわかるさ」
「同意見だな。すぐにわかる、どっちが格下か」
そして、キゼルは神力を解放する。
「絶戯ーー」
発動より少し前に堺若は視線を上に向ける。そこには、彼の読み通り、小さな雷の塊。
やはりな、小童が!!
ーーしかし、その雷の塊からは何も起きない。それどころか極微弱な神力しか感じ取れない。
は? どういう……
混乱する中、
「アホが。ーー『逆塵散』」
それは千年が使用していた、地面から天に向かって立ち昇る雷。
意識も視線も、全てが上に集中する堺若はそれを防ぐどころか、反応すらできず、大量に生える雷が全身を襲う。
「お前は俺と同じか、それ以上に賢い。ってことは、俺と同じ考えに辿り着く。だから、その裏をかいた。どうやら、お前の方が格下だったな」
全身を襲う雷に、堺若は痙攣を起こす。しかし、彼は止まらない。姿勢を変えずに、次の攻撃を繰り出す。
「神戯 『雷怒』」
地を這う電撃。それにより、痙攣が激しさを増す。
やはりな。『飛鼠』は堺若に危険が及ぶ前に動くタイプの獣徒。つまり、危険が及んだ後ではただの小さいコウモリ、能力は発動されない!!
キゼルの読み通り、『飛鼠』は堺若に近づく危険を感知し、形態を変えて堺若を守る能力。
裏を返せば、『飛鼠』に気づかれさえしなければ、堺若自身に直接攻撃は可能ということになる。
読みは当たってる。『飛鼠』にバレなければ奴に近づける。なら次、気絶……いや、災厄ここで殺す。じゃなきゃ俺らがやられる。
『雷怒』発動後、キゼルは悶え苦しむ堺若に向かって走り出す。
そんな彼を見て、
ちっ、計算外だ。キゼル・ラーシュ、ここまで強いとはな。ーーだが、奴は勘違いしてる。『飛鼠』が察知する"危険"とは、俺に近づく神力や殺意。神戯や絶戯はもちろん、神通力者自身も"危険"として扱われる。
さっきは上空に『飛鼠』を移動させたせいで掻い潜られたが、今は全方向に配置している。
つまり、神力と殺意を纏ったいまのお前が俺に近づけば、100% 『飛鼠』が反応する。そうなれば、お前の負けだ。
堺若の狙い通り、キゼルは神力と殺意を纏ったまま彼に近づく。ーーだが、
「……今、完全に確定した。お前が格下であることが」
キゼルは『飛鼠』が察知する寸前のところで、殺意を抑えると同時に、『消隠姿』を発動。それにより、彼から神力が消える。
「俺自身も神力の塊。当然、察知される。ってことくらい、人族でもわかることだぞ、自意識過剰のナルシスト野郎」
殺意を抑え、神力を完全に消したキゼルに対して、『飛鼠』が反応することはなく、彼は未だ痙攣する堺若の胸に手を添え、
「おっと、人のことを脳みそと呼ぶのは禁止されていたんだった。いけないいけない。ーーそんなことより、いまの気分は? 勘違いしないよう先に言っておくが、こうなった以上、俺は手を抜かない。災厄お前は死んでもいいと思ってる。だから、"死にたくなきゃ、死ぬ気で抗え"」
その瞬間、キゼルの神力と殺意が上昇する。
因みに、『飛鼠』は目の前からくる危険にしか反応しない。つまり、堺若と『飛鼠』の間で起きた危険には当然反応しない。=今からの起きるキゼルの攻撃を防ぐことはできない。
「終極 『終告鳴止』」
手のひらから体内へ。キゼルの全てを込めた雷が、堺若の体内へと流し込まれ、凄まじい轟音とともに、体から煙を出しながら堺若は前のめりに倒れた。
「ーー感謝する。俺はまだまだ上へ行けそうだ」
vs堺若、キゼルとグレンの勝利である。




