Ep.21(61) 力の差
〈モンゴルアルタイ山脈〉
「ーー"貌遂" 『鯨鯢』」」
※『鯨鯢』」』
体毛1万本で一体、体長35メートル、体重250トンの巨大な鯨。
急激に神力が上昇したグレンとキゼルを見て、堺若も更にギアを上げる。
「『鯨鯢』は、毛の消費量が多いからそう簡単には出さない。出したということは、お前らを認めたと同義。だから、もっと足掻いて、もっともっと楽しませろよ?」
その言葉から溢れる愉悦・快楽・殺意。それら全てが、足先から頭部に至るまで、全身に激しく突き刺さる。
「さぁーー行け」
動き出す『鯨鯢』に合わせて、グレンは上空へと飛び、キゼルは止まったまま、
「出し惜しみはなしだ。言う通り、楽しませてやるよーー"混血族種転換" 『雷獣』」
雷の獣と化したキゼルは、族種特質である"速異"の効果で、彼のスピードは『鯨鯢』を凌駕する。
速い……。優れた反響定位を持つ『鯨鯢』が、奴を全く捉えられていない。
※反響定位
自分の出した音が物に当たって跳ね返ってくる反響を利用し、距離や物の大きさを知る索敵方法。
敵の動きを読み、一撃で仕留めるのが特徴の『鯨鯢』からしたら、こんなにも相性の悪い相手はいない。
キゼルもそれを分かった上で、『鯨鯢』に微弱の雷を流しながら、グルグルと対象の周りをまわっていた。
「小賢しい。『鯨鯢』に見えていなくても俺には見えている。俺も獣族だ、つまり同じ族種特質を持つ。お前が速いのは認めるが、俺には通用しない!!」
堺若や宏憐の出す獣徒は、基本的に自動操作。勝手に動いて敵を殲滅する。
だがこの場合は、敵の見えていない『鯨鯢』が自動で動くよりも、堺若が操った方がどう考えても効率がいい。
自動から手動へ。堺若のその一瞬の機微を、キゼルは見逃さなかった。
「ーー絶戯 『鳳雷残迅』」
※ 鳳雷残迅
まず、片手を送雷手(雷を送るための手)に、もう片方の手を避雷手(雷を受け取る手)にする。
次に、形状を少し変えた微弱の雷を、送雷手で対象に触れながら体内に流し続ける。そして、一定量体内に送り終え、キゼルが同能力を発動したタイミングで、体内に移した雷を暴発させ、体内から避雷手に向かって雷を発生させる力。
(要は、体の中で発生させた雷が、体を貫通して、ギゼルの片手(避雷手)にむかって流れるという能力)
体を突き破った強力な雷は、キゼルの避雷手へと集約し、彼はその雷をそのまま鑓へと変換する。
「神戯 『雷纏鑓』」
放たれた鑓は、『鯨鯢』の眉間に突き刺さり、直後、凄まじい音と威力の電撃を与えた。
「あり得ない…… 中位如きが『鯨鯢』を殺しただと!? 」
「面食らったか? お前は自動から手動にする際、少しだけ神力がブレる。そこを突けば毛の量が多い生物でも破壊できる。って、お前の親父に教えてもらった。情報戦なら俺も得意だ」
クソ親父が。余計な真似を……
「"少し"驚いたが、それでも俺の優位は揺るがない。また出せば、」
「あぁそれと、お前の嫌弱、確か『脆体』だったよな? ーー大丈夫か? 後ろ、ガラ空きだぞ?」
※脆体
普通の人よりも体が脆い=防御力がない。
キゼルのその言葉で、背後で巨大な炎の球を構えるグレンに気がつく。
「絶戯 『落炎業火』」
※落炎業火
周辺の命源を全て炎に変え、巨大な炎の球を作り出す。(直径約32メートル)
その炎球は堺若に振り下ろされる。直後、彼のいた周辺は真っ赤に燃え盛り、堺若は炎の中へと姿を消した。と同時に、グレンはキゼルの横に移動する。
「ーーなぁ、やったかな?」
「さぁな。まぁ死んではないだろな」
燃え盛る炎を前に、2人は堺若の動向を身失わないよう、じっっと一点を見つめた。
頼むから、せめて傷一つくらいはついとけよ。これでダメなら結構厳しいぞ。
キゼルはそう願ったーーしかし、
「あ〜〜ぁ熱い暑い。お前ら、俺の拘束が目的なんじゃねぇの? これじゃ死ぬって(笑)」
『落炎業火』の効果が切れ、綺麗になくなった炎の中から、無傷の堺若が姿を見せた。
これには流石にキゼルも目を閉ざした。
「ははっ、まぁそう悲観するな。お前らは十分強い。間抜けそうに見えて戦略も立ってるし、神通力の威力なら俺より強い。ーーだがまぁ強いだけだがな」
どうやって凌いだのか、なぜ無傷なのか。キゼルの頭はパンク寸前だった。
そんな中、彼は……いや彼だから素直に堺若に疑問を投げ飛ばせたのかもしれない。
グレンは、怒りながら堺若に対し、
「何でだよ!! 良い連携だったし、キゼルの策も完璧だった。なのに……何で無傷なんだよ!!」
素直過ぎるその投げかけに、キゼルは少し微笑み、堺若は腹を抱えて笑った。
「面白いなお前(笑) 敵にそれを言うか普通?(笑笑) あはは、あぁおもろ」
「バカにすんな!! 俺は本気で言ってんだ!! お前の嫌弱は"脆体"で、自動から手動に変えるときに隙ができる。これは合ってるのに……何でだよ!!」
「あぁそうだな、たしかに合ってるよ。
俺は自動から手動に切り替える際、意識を獣徒に移し替える。つまり、俺自身は意識のない空の状態になる。そしてその際、数秒だけ時間がかかるから神力がブレる。お前らはそこを狙ったんだろ? 神力がブレたタイミングで『鯨鯢』を殺し、その瞬間、炎のお前が背後をとる。
で、俺の嫌弱である脆体を利用して、直接攻撃を仕掛ける。ってとこかな?」
ッチ、全くその通りだよ。
「いやでも、本当に素晴らしいよ。賞賛に値する。
ーーただ、勝てるかどうかは別の話だ」
そういいながら堺若は、空気を"摘んだ"
「相当近づかないと見えないが、俺の周りにはこの『飛鼠』が常に30匹以上飛び回っている」
※ 『飛鼠』
堺若の神通力中、最強の盾をなす力。(体毛約3万本で一体)
大きさは約1ミリ程度の小さなコウモリで、常に堺若の周辺を飛び回ってる。
「この『飛鼠』は、俺に危険が及ぶと体が巨大化し、俺を包み込んで盾となる。つまり、俺自身に攻撃を当てることは不可能に近い」
「不可能? どういう意味だ? お前の神通力は神力と同じくらい体毛を消費をする。そして、消費した体毛は神力同様元には戻らない。時間をかけて回復していく。つまり、毛がなくなればお前は力を使えない」
「うんうん、ちゃんと調べてお利口さんだ。
だが、間違えてる。確かに、俺は神通力を使う際、神力と同じ、いやそれ以上に体毛は消費する。
命源細胞は間隔をあければすぐに回復するが、体毛ってのはそう簡単に生えない。だから俺は、"体毛をストック"してある」
堺若はコートを開き、内側を2人に見せる。それを見て、グレンとキゼルは言葉を失った。
「これでわかったか? 不可能の意味が」
コートの内側(裏地)には、色の様々な大量の毛がびっしり貼り付けられていた。
「勘違いしてるようだから教えてやるが、俺の神通力『変貌』は、DNAを取り込んで毛に神力を混ぜることで、そのものの姿や形、力、質量などの全てを毛で再現、プラス神力で強化し体格や力を自在に変貌させることのできる能力だ。即ち、"毛"であれば、別に自分の体毛じゃなくても良いってことさ。だから俺は常に毛を集めて、その毛に前もって神力を付与している。
つまり、俺は戦闘中にほぼ自分の毛も神力も消費してない。見たらわかるだろ? 俺の神力と毛が減っていないことくらい」
「なら、さっきから空に向かって投げてたあれは、ストックしてあった毛ってことか?」
「その通りだ。まぁこの戦いで結構ストック減ったから、お前らを殺した後で、毛を頂くとするよ。ーーじゃあ話疲れたことだし、そろそろ死んでもらうか」
堺若は両手でストックしてある毛を毟り取り、それを空へと投げた。
「ーー戦略の立て方、神通力の強さ、戦闘センス……どれをとってもお前ら2人は優秀だ。ただ、俺はもうそういう次元にはいない。神格ができないから中位なだけで、神格さえできれば、俺は最上位に位置するレベルの神通力者だ」
空へ投げられた無数の毛は神々しい光を放ちながら、『鯨鯢』5体、『逆叉』・『鮫鱶』それぞれ10体へと変貌を遂げた。
「ーーさぁ俺の糧となれ」
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少し時間を遡る。
〈同国 『霄壌断絶』内 云大の現在地〉
「ーーダァァァァ!! はぁ……はぁ……ダメだ……どこが出口がわらんねぇえ!!!!」
キゼル指示のもと、ここら一帯に展開された『霄壌断絶』から抜けるべく、云大はとにかく一直線に走りまくった。
しかし、結果はご覧の有り様。どこが出口かもわからないまま、体力だけが消耗していた。
どうすりゃあいいんだよ。そもそも見えないのに出口って……ダメだ、考えたら考えただけ頭がおかしくなる。ここは一旦冷静になろう。
闇雲に走っても意味がないと、ようやく気がついた彼は、深呼吸しながら地面に座った。
ーーよし、まずは復習から。『霄壌断絶』は内側と外側を断つ力で、『霄壌断絶』そのものは目では見えない。それと、『霄壌断絶』の形は様々……で? おや? おやおや? あぁぁあ!!
「そうだ! 『霄壌断絶』の形は発動者が決める。四角だったり三角だったり。ってことは……」
いま言った通り、『霄壌断絶』の形は様々で、まずは形を探ることから始めるのがベスト。
そこで、云大はある仮説を立てる。いま展開されている『霄壌断絶』が、横に長い長方形ではないのかと。
「横に長いと想定した場合……うん、そうだ。走るよりも飛んだ方が早いかも!!」
思い立ったらすぐ行動。彼は勢いよく立ち上がり、空に飛び出した。
頼む頼む頼む!! 抜けてくれぇぇぇえ!!
そして数分後、かなり浮上した空中のある位置で、彼の表情が一気に和らいだ。
「すげぇ……内と外でこんなにも違うのか」
彼の読みは的中し、『霄壌断絶』の外側へ抜け出すことに成功した。
「任されたことができるってこんなに嬉しかったっけ? やべ……テンションが……ーーじゃない!! 早く全身を出して虎影師匠先輩か、千年様先輩に連絡をーー」
抜け出せたことへの達成感、それが彼の判断を遅らせ、邪魔となり、チャンスを棒に振る結果となった。
「ーーニャア? 意外と賢いんだニャアお前。まぁ、それでも堺若様は出し抜けないがニャア」
云大のいる場所より更に上。『霄壌断絶』を展開した中位獣連の野良がそこにいた。
「ここまでご苦労。だが、連絡は取らせニャい。振り出しに戻りな。ーー絶戯 "飛爪"『裂波』」
野良から繰り出されたのは、無数の斬撃。
跳ね上がった神力で云大はそれにすぐに気づき、両腕を纏化。
しかし、空中での戦いになれていない彼は、防ぐことだけに専念してしまったため、浮遊のコントロールがぶれる。
従って、バランスを大きく崩し、そのまま地上=『霄壌断絶』の内側に押し戻された。
「ニャアニャア。爪が甘いニャア〜〜」
そういうと、落ちていく云大を追うように、野良も地上に向かって飛び出した。
「ックソ、しくった!! なに浮かれてんだよ俺のバカ野郎!」
急降下する中で、激突する心配よりも反省を優先する云大。まぁそれが彼のいいところではあるのだが、この状況においては不正解。彼は勢いそのままに、地面に激突した。
それにより、辺り一帯の地面は抉れ、ど偉い音の地響きが鳴り渡る。
それから暫くして、彼を追いかけていた野良も地上に降り立つ。
「ーーニャア〜〜、バカかこいつ? バランスを崩してたとはいえ、防御くらいできるニャア。なにをどうしたらこんなに……」
目の前に広がる崩壊した状況に、野良は呆れて、ただただ立ち尽くした。
まさかこれで死んだ……とかラッキーなことが……ってそれは流石にニャいか。
でも、かなりのダメージは負ったはず。とりあえず、この砂煙が消えたら殺すかニャア。
野良はとりあえず様子を見ることにした。だが、彼女はすぐにその考えを切り捨て、後方に飛びながら戦闘態勢に入った。
「ふぅぅぅかぁぁぁっつ!!!!」
辺りの瓦礫を吹き飛ばしながら、ほとんど無傷の云大が地面から姿を見せた。
「痛てて……ちょっと腰やったか? まぁでも、うん、動ける! 切り替え切り替え!」
首や指の骨を鳴らし、体を伸ばす。それはまるで、朝ベットから落ちて体を打った"程度"にしか見えない身のこなし。
これには流石に野良も声を荒げて驚いた。
「おま、お前!! お前のランクは初位じゃニャいのか!? 初位レベルなら、神通力者であったとしても、あの高さから、あの落下の仕方で無傷は有り得ニャい!! お前、ニャに者だニャア!!」
「はぁぁあ?? まず自分から名乗れよ猫野郎!! つうか、いきなり襲ってんじゃねぇよ! 俺の体が少しばかり頑丈だったからよかったものの……普通に危ねぇだろうが!!」
頑……丈!? そんなレベルの話じゃニャい!
「て、敵に名乗る名などニャい!」
「だったら俺も言わねぇよ!! アホかテメェ!」
ックソ、こっからどうする? こいつを相手しながら抜け出すのは多分難しい。
なら、倒すか? 多分、こいつ堺若ってやつの仲間だよな? あぁダメだ、不確定要素が多すぎる。だったら……
「おい猫!! お前は堺若ってやつの仲間だよな? 俺はグレン先輩とキゼル先輩の仲間だ! つまり、俺とお前は敵同士、争うのが当然なんだが、俺はお前を知らないし、ぶっちゃけ興味もない! つまり、俺からしたら明確に戦う理由がない状況だ。正直困ってる」
・ ・ ・ は??
「ニャ、ニャにが言いたい?」
「俺はこの結界の外に出ないといけない。だから邪魔をしないでほしい。ただそれだけだ」
云大は考えることをやめ、ただただ正直に自分のしたいことを彼女に伝えた。
だが、
「お前アホか? ニャアは堺若様の部下だ。だから、堺若様の言いつけは絶対。みすみす逃すなんて真似、するわけニャいだろ!!」
堺若が野良に与えた任はただ1つ、それは誰1人外に逃すなということ。
つまり、その任を真っ当しなければならない野良からしたら当然の返答。というか、この状況で「おっけ〜〜! 逃げていいニャア〜〜」なんて誰がどう考えても言うわけがない。
だというのに、彼は返答を聞き、膝から崩れ落ちた。
「お前……さてはアホだニャア?」
「アホじゃねぇ! まじで頼むよ……ちょっと連絡するだけだからさ……」
「ダメに決まってるニャア!!」
「よしわかった! なら、実力行使だ。全力で飛ぶから追いかけてこい! ぶっちゃけ俺の方が速そうだし。それなら文句ないな?」
ニャア、ニャア〜〜、やっぱりこいつアホだ。
「お前の方がニャアよりも速い。それは確かにそうかもしれニャい。でもいいのか? お前が外にでたら、ニャアは外で神通力を使う。ってことは神力が辺り一帯に広がる。そうなれば、変異者が誕生するかもしれニャいニャア? それでもいいのかニャア?」
「変異者……。 "!!" ……ダメじゃん。それは絶対にダメなやつじゃん!!」
「だろ? わかったなら、ニャアと戦うか、大人しくしとくかどっちかにしろニャア」
野良と接触した時点で彼女との戦いは避けられない。つまり、彼女を倒さない限り、外には出れない。
ここでようやく、云大の決心は固まる。
「ぶっちゃけお前に恨みもなんもないから、話し合いで済むなら……って思ってたけど……わかったよ、なら俺は俺の任のためにお前を傷つけていく」
その瞬間、野良は彼から放たれる想像以上の神力を目の当たりにし、一瞬だけ戦意を失う。
嘘……だろ……こいつ、本当に初位ニャのか!?
中位のニャアよりも明らかに神力の質も力強さもある。いや、下手したら堺若様と……。
「お前……本当にいったい何者なんだニャア?」
「しつけぇな。ーーしゃあない、いいぜ、教えてやる。俺の名前は榮多云大。絶賛成長中の新米神通力者だ!!」




