Ep.20(60) 同等対峙
中位獣連筆頭"堺若"をどう探すか試行錯誤していたグレン、キゼル、云大のもとに、突如姿を現したのはその当の本人であった。
いきなりの出来ごとすぎて、最初は戸惑っていた3人だったが、現れたのが堺若1人だったことから、少し気が楽になった。
「っしゃあ!! 3vs1ならやりあえます!
先輩方、ガンガン行きましょう!!」
「おぉ、気合入ってんな云大!!」
「当然です!! 摩瓈爾奠のとき足引っ張りまくりましたからね! 今日で汚名返上します!!」
「おい云大、盛り上がってるところ悪いが、お前は『霄壌断絶』の外に出て、退避経路の確保をしてこい。それと、外に出たら獣神に『意思伝達』を飛ばせ」
バカ2号?? グレ……ン先輩のことかな?
「おい云大、何してる? キゼルはお前に言ったんだぞ?」
「え!? 自分ですか?!」
「当たり前だろ! 2号って言ったじゃん! 1号はどう考えても俺だ……っておいっ!! 誰がバカだこの野郎!!」
ほら、バカ丸出しじゃん。
「ちょっキゼル先輩! バカはいいですけど、何で俺が避難経路確保係なんですか!? 3vs1ですよ!? 納得できません!!」
「納得しろ。数的有利なこの状況だからこそ、冷静な対処が必要になる。数がいるからこそ、避難経路の確保もできる。 それと、相手は堺若だ。タッグ歴でいったら俺とグレンの方が長いからな、申し訳ないがこっちの方がやりやすい」
あ……そうか。俺いつの間にか勘違いしてた。
そうだよな……俺はまだ付き合いが浅いし、信用されてないんだ。
「ちょ、お前。なんだよその言い方!! 云大が可哀想だろうが!」
「可哀想? どこが? 俺は云大を信頼してるから1人で行かせるんだぞ? グレンよりも、云大の方が安心できるから任せてるんだぞ?」
グレンを行かせ、コンビネーションのまだない彼と組むよりも、1人でも十分やれる云大を行かせる方が得策。
まぁ言い方は悪いが、云大を1人で行かせるということは、彼ならできるという信頼の証であった。
「つうか外出たら『意思伝達』を飛ばさないいけない。従操はお前より云大の方が断然うまいからな。なんか俺間違ってるか?」
「……いえ、そうですね。すんません! 勘違いしてました!! 了解です、必ずやり遂げます!!」
「おう。終わったらすぐ戻って加勢を頼む。
もたもたしてると、終わらせちまうからな」
「はいっ!!!!」
嬉しさの笑みを浮かべながら、云大は走り出した。
「……んだよお前、口下手すぎ。千年そっくりだな」
「千年"様"だ。ーーまぁあいつは強いし、お前よりも頼れる」
「そうかいそうかい」
云大が見えなくなるのを確認した22人は、顔を引き締め、構えた。
「ーー話は済んだか?」
「あぁ、わざわざ待ってくれてありがとうな」
「気にするな。"あっち"には"野良"がいる。あのどこの馬の骨かも分からない雑魚神通力者相手なら、野良で十分事足りる」
「『霄壌断絶』を展開したやつだな? 悪いが、この結界の感じから見て、云大の方が絶対に強い」
「だろうな。ーーだが、足止めくらいはできる。お前ら2人を殺して俺が向かえばいいだけの話だ。そこまで気にすることじゃない」
なんなんだこいつの自信は? ナルシストめ、吠え面かかせてやる。
「なぁ、んなことよりよ、お前なんで裏切ったんだ? キゼルから大体のことは聞いたけど、よくわかねぇんだよ。何が不満なんだよ? 獣のオッサン、いいやつだろ?」
「あぁ、父上はいい人だし、尊敬してる」
「は? じゃあなんでだよ? あ、もしかして神王のおっさんに不満が??」
「いや、天明様にも不満はない。
もういいだろ、これ以上会話する必要もなければ、理解してもらう必要もない。ーーそれに今から死ぬやつに教えてもなんの意味もない」
その瞬間、堺若の神力と殺意が一気に増幅する。
なるほど……こいつの自信の意味がわかった。
これはとんでもない神力だ。1人では絶対に勝てないな。ーー1人では。
堺若に合わせるように、グレンとキゼルも同時に力を解放した。
「火楼羅炎」「霳鳴霅 」
激しく燃える炎と、凄まじく轟く雷。
そんな2人の神力を見て、堺若は薄ら微笑んだ。
「ーーいいね、摩瓈爾奠を倒しただけのことはある」
「なぜそれを知ってる?」
「なぜ? 別にいいだろう。それよりも、もし摩瓈爾奠"如き"を倒したから俺に勝てるなどという淡い幻想を抱いているのなら、悪いことは言わない、抵抗しないで死ね。介錯は得意だ、痛みは与えない」
「如き?? はっ、闘ったこともないくせに何言ってんだこのバカッ!! お前じゃ絶対に勝てねぇよ!!」
その発言をうけ、堺若は驚きながらも、呆れた表情を浮かべた。
「お前ら、俺を探してたんだよな? 俺と戦おうとしてたんだよな? なのに、俺が神王勢力で2番目に摩瓈爾奠討伐数が多いことを知らないのか?」
彼の言う通り、堺若は神王勢力の中で2番目に摩瓈爾奠の討伐数が多い。(地球に来るまでは1位だったが、つい最近、真白澪に抜かれた)
「この程度の情報、いくらバカでも知ってる。調べなくても周知の事実、だがそれすら知らないとは……正直、失望したよ」
「おい待て、俺をこのバカと一緒にするな。俺は当然知っていた」
「え!? キゼル知ってたの!? じゃあ知らないの俺だけ?!」
「そうだバカ。だが、そんなこと、この戦いには関係ない。俺と堺若じゃ目的が違うからな。摩瓈爾奠を討伐した数なんてどうでもいい。そっちこそ、その程度で威張るなよ」
「ははっ、別に威張っちゃいない。ただ、神通力者同士の争いでは"情報"も大事ってことを言いたかっただけだよ」
情報? 何をそんな当たり前のことを……。
「余計なお世話だ。いいからさっさとかかってこい」
「言われなくても。ーー"貌遂" 」
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同時刻
〈エクアドルガラパゴス諸島 獣神根城〉
ここに住む神道十二界第六級獣神 宏憐。彼は、王直に息子の奪還を依頼したのち、深い眠りについてた。
そんな彼に忍び寄る不穏な気配。眠りについていなければ絶対に気づくくらいの大きな違和感。
だが、彼は気づかなかった。いや、気づけなかった。宏憐の『嫌弱』、"過眠"のせいで。
※嫌弱
神通力者は、命源さえあれば基本的になんでもできる。だが、その力を持つが故に、代償として必ず1つだけ何かしらの不得手が生じる。(噛み砕いて言うと、弱点があるということ)
宏憐の嫌弱は"過眠"。本来、神通力者に眠りは必要のない行為だが、彼は嫌弱のせいで寝ないと衰弱してしまう。加えて、普者よりも眠気は強い。
「Zzz〜〜グルルル……Zzz〜〜グルルル……」
全く起きる気配のない彼の部屋の扉がゆっくりと開き、男が室内に入る。
「ーーへぇ〜〜、めちゃめちゃ綺麗だな。つうか豪勢、とんでもねぇな」
部屋に入ってすぐ、タバコに火をつけた男は、暫く辺りを物色し、一息つくと椅子に深く腰掛けた。
「こんだけ音立てて、臭いも出てるのに起きねぇとは……歴代災厄レベルの嫌弱じゃん」
それから、男は身動き一つ取らず、じっと宏憐の目覚めを待った。
〜〜2時間後。
「Zzz〜〜グルルル……(パンッ) ーーあ゛ぁぁ、よく寝た。いや、寝過ぎた。体重い……」
「お? 起きたな。やっとか、待ちくたびれたぞ」
「あぁすまない。地球に来てからあまり寝てなかった……?!!?」
ここでようやく宏憐は椅子に腰掛ける男の存在に気がついた。
「な、何者だ!!??」
気づいてすぐ、宏憐はベットから跳ね上がり、後方へと退避し、神力を解放しようとした。ーーだが、
「っな……、神通力が……使えない。……これは……守護領域か!?」
「起きてすぐなのに判断能力高ぇ〜〜。さすがは神道。
そうだ、お前の言う通り、いまここは守護領域内。つまり、お前は神通力が使えない」
※守護領域
神力系統が守護の神通力者のみが展開できる特殊な結界。
その結界内では、発動者の許可なく命源の吸収・命令ができなくなる(=神通力を使用することができない)
また、結界外からの侵入もできなくなる。
「ご明察通りってことで、色々と理解したと思うから、無駄な抵抗はしないでくれ。
まず初めに色々と聞きたいことがある。答えてくれるな?」
災厄だ……。くそ、従者がいない状態で寝るのはやはりマズかった。完全に失態だ。
神通力が使えない以上、従う以外に選択はないーーだが、こっちにも手はある。状況を見て……やるか。
「オンシが守護の神ならまだ勝ち目があったが、多分オンシは破攻だろ? なら、従う以外に選択肢はない」
「聞き分けいいじゃん。まぁ言う通り、俺は守護じゃない。だからその判断は正しいよ」
「だろうな。守護がみすみす姿を現すわけがない。 それで? 何が望みだ? というかその前にオンシは誰だ? 見たことがない」
宏憐は彼のことを知らなかった。
「あ、そっうだな、自己紹介まだだったか。
俺の名はウイストン。今は孤独の浮浪者ってとこかな」
ウイストン?? 偽名か? これほどの神通力者だ、普通なら知ってる。だが、聞いたことがない。
「それでウイストンよ。オンシになんの用だ?」
「用……ね。まぁ掻い摘んで言うと……あぁ、なんだ。そうだな、"死体集め"ってとこかな?」
「死体集め?? そんな風には見えないが、随分と趣味が悪いな」
「おいおい、勘違いするな。俺にそんな趣味はねぇ。
ただ、死体を集めて封印を解きたい人がいるだけだよ」
死体を集めて封印を解く? なんだそのふざけた話は。聞いたことがない。
「誰の指示だ?」
「仏陀だよ」
仏……陀だと?
「オンシ、騙されてるだけではないか?」
「騙されてる? 知らねぇよんなもん。俺はやれって言われたことやるだけだし」
従順……故に、言葉で説き伏せるのは無理か……。
「というかオンシ、そんなにペラペラと情報を流してもよいのか? どう考えても言っちゃいけないやつだろ?」
「かもな。でも俺は聞かれたから答えただけ。まぁなんにせよーー今から死ぬお前に喋っても問題ないだろ?」
何を話しても、何を聞いても全く表情一つ変わらないウイストンのその姿に、宏憐は少しだけ恐怖していた。
「じゃあそっちの質問は終わりで。次は俺から幾つか聞くから、分かる範囲で答えてくれ」
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〈モンゴルアルタイ山脈〉
「"貌遂"」
その言葉と同時に、堺若は懐から何かを取り出し、それを天に向かって投げた。
「ーー『鮫鱶』」
投げられた何かは光と、強烈な神力を放ちながら、みるみる変化し、グレンとキゼルの目の前に一匹の巨大な鮫となり姿を現した。
「さささ鮫?! ここ陸だぞ!?」
「そういう神通力だバカッ! 狼狽えてないで構えろ!!」
出現した『鮫鱶』は暴れ回りながら、標的である2人に向かって突進。
グレンが背を向けて逃げ出す中、キゼルは逃げることなく、
「ーー絶戯 『黒霧雷走』」
突進する『鮫鱶』の全身を覆う黒い雲。それを振り払うとする『鮫鱶』の動きに反応して、雲から高威力の電撃が放たれた。
牛若にもだいぶ効いた技だ。恐らくこれで絶命……
そう思っていた彼の思惑は大きく外れる。
覆っていた黒い雲が消えると、中からは傷一つついていない『鮫鱶』が姿を見せた。
「ま……じかよ」
相手は中位の神通力者、決してナメていたわけではないが、同等と言われている魔戎ですら気絶寸前まで追い込んだ力、それが全くの無傷であったことから、キゼルの堺若に対する危険度が倍増した。
「ーーなんだ、絶戯っていったから相当なものかと思えば……たった"50本"で作った『鮫鱶』すら殺せないのか。天千年の従者と聞いていたから少し期待していたが……正直ガッカリだ」
すると、堺若は再び懐に手を突っ込み、同じように空に向かって何かを投げた。
「"貌遂"ーー『逆叉』」
『鮫鱶』よりも大きく、威圧感のある鯱が姿を現した。
「拮抗すると思ってたから小出し小出しにと思っていたが、存外大したことがない。だから、もう終わらせる」
体毛約5000本、『鮫鱶』より10倍の毛の量。故に、早く・硬く……強い。
「ミヤ〜〜〜〜カチカチッ」
甲高い鳴き声を発するとともに、立ち尽くすキゼルのもとへと動き出す。
それに合わせて、『鮫鱶』もまた動き出す。
「まぁ悲観はするな。お前たちは弱くはない、相手が悪かった。ただそれだけのことだ」
完全に勝ちを確信した堺若は、2人から視線を外し、先に走っていた云大の方へと歩き出す。
さて、野良のほうはどうなったかな。まぁ足止めくらいできるだろう。
しかし、堺若は急に立ち止まり、暫くして笑みを浮かべた。
「ーーまぁそうだわな。普通、抗うよな。
前言撤回、もうちょっと本気で遊んでやるよ」
堺若の言う通り、死に抗ったからなのか……いや、そうではない。彼が散々してきた呆れ発言に、2人はようやく火がついたのだ。
「『落雷』」 「『火葬灰焃』」
※火葬灰焃
全身の炎を拳のみに集約させ、火力を最大まで上げた殴打。触れた箇所から灰となる。(拳に集約しているため、拳以外はガラ空き)
キゼルは『逆叉』を、グレンは『鮫鱶』をたったの一撃で葬った。
「「ナメんじゃねぇよ!!!!」」
争いは激化する。




