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KAN NAGI〜〜神様実在、地球に襲来?!  作者: ヤチ ヒトニカ
神道十二界編
57/76

Ep.16(56) 鍵



       〈イギリス首都某所〉



 デウスにて、父親で神道十二界である"獣神(ジュウシン)宏憐(コウレン)に告げた『刻導(コクドウ)に入る』。その宣言通り、息子である堺若(カイジャク)は今、刻導の1人、"太陽神"アムス・ソレアと接触をしていた。


「ーー入っていいよ」


 扉をゆっくりと開け、堺若は中の様子を見渡す。


「ーーお前1人のようだな。警戒して損した」


「いやいや、警戒することはいいことだよ。

刻導は決して仲間ではないからね。理念が一致してるだけの、謂わば同盟。いつ寝首をかかれるかわからない。それだけは覚えておくように」


そう言いながら、ソレアは堺若に席に着くよう促す。


「ーーそれで? お土産はどこかな?」


「ちゃんと持ってきてる、焦るな。……おい、入れ」


堺若のその言葉とともに、扉が再び開く。


「ニャア〜〜ニャア〜〜、重たいから手伝えよな堺若〜〜」


 そこに現れたのは、中位獣連の1人、名は"野良(ノラ)"。二足歩行で耳がピンと立ち、口元から長い触毛。それはまるで猫のような見た目をした女性である。


 野良は、何かを引きずりながら、室内へと入り、堺若の横に立つと、引きずっていた何かをソレアの前に投げ捨てた。


「ーー約束の品、中位獣連の一人、大蛇(ダイジャ)だニャア。気絶するまで、筆頭が殴り続けたニャア。まぁ死んではいないニャア。あとは好きにしろ」


 投げ捨てられたのは、同じく中位獣連の大蛇であった。


ソレアは、投げ捨てられた大蛇の所まで歩み寄り、脈を測る。


「ーーうん、まだ生きてるね。素晴らしい、よく出来ました」


「踏み絵なんて趣味が悪いな」


「これくらいしないと信用しようにも……ね? まぁいい、合格。ーーお〜〜い、入ってきなさい」


 "パチン"と鳴らした指の音とともに、壁に現る黒い影。

 その中から、地球で誕生した神通力者 ギムレットが姿を見せる。


「ま〜〜た運びの仕事ですかい? えぇ加減、もうちょいえぇ仕事くださいや〜〜。死体じゃないから、運んでる途中に目覚めると厄介なんやで? ほんま頼んますわ〜〜」


「グチグチ言わない。キミは、刻導を集める仕事をミスったからね。これくらいで許してもらってるだけ感謝しなさい」


「そりゃ、この地に集めることはできへんかったけどもやなぁ、伝えることはちゃんと伝えたで? 十分やろ?」


「グチグチ言わない。いいから早くそれ持っていって」


「へいへ〜〜い」


 ギムレットは、堺若に薄ら微笑み会釈をし、床に転がる大蛇を抱え、再び影の中へと姿を消した。


「あれは誰だ? 見たことのない神通力者だ」


「あぁ、彼は地球で生まれた神通力者だよ。どうやって誕生したかは知らないけど、いい能力だし、従順だから有効活用してる」


地球で誕生した? そんなことがあり得るのか?


「まぁそんなことはさておき、キミたちを呼んだのは、ただ顔合わせだけってわけじゃないんだ。ダラダラ話すのは嫌いだから、結論から言うね。

我々刻導は、ひと月後の今日、神和(カンナギ)を得るために、神王勢力とぶつかる」


 神和という言葉を聞き、無表情だった堺若の面持ちが一変する。


「神和の在処を知ってるのか!?」


「いやいや、在処は知らない。でも、手に入れる方法は仏陀(ブツダ)から聞いた」


「仏陀様が? 俺は何も聞いていないというのに…… そんなことより、お前は仏陀様のご尊顔を拝見したのか!?」


「いや、ソレアも多分キミと同じで、あいつの傀儡にしか会ったことはないよ。まぁ声は聞いたけど」


 このやり取りで分かる通り、堺若は仏陀に心酔している。


 その始まりはデウスでのこと、



〜〜〜〜



     〈デウス創始歩(ソウシホ)期〉



「ーー筆頭、ある程度の残党は片付いたニャア」


「そうか、以外と呆気なかったな仏陀宗」


 この日、獣ノ国にて仏陀宗徒の集会が行われるという情報を得た神王勢力。

 それを一網打尽にするため、中位獣連には、神王からの必須任務書"仏陀宗徒の拘束"が言い渡されており、猛仔(モウコ)、野良、堺若の3名が対応に向かっていた。


 ※仏陀宗徒

表立った行動はせず、裏で仏陀を崇め、仏陀に従うものたち。魔戎(マジュウ)、変異者、普者(フシャ)などで構成されている。(反乱分子の可能性大)

仏陀宗に入るということは、神王への反乱の意思があるということで、見つけ次第拘束ということになっている。


今回、3人が拘束したのは、変異者57名、魔戎26体、普者150名の計233。これは、大きな手柄である。


「それより、拘束した連中はどうした?」


「ニャア、いま猛仔が護送してるニャア」


「そうか」


過去を遡っても、仏陀宗に対し、ここまでの功績を上げた例はない。

野良は物凄く喜んでいたが、堺若はどこか浮かない表情をしていた。


「ニャンだ? 筆頭、元気ねぇな? 凄え手柄ニャンだから、もっとはしゃごうニャア!」


「いや、多分だが、俺たちは何か大きな見落としをしている」


「見落とし??」


おかしすぎる。今まで尻尾すら掴めなかった連中だぞ? それが、こんな急に……。 しかも、なぜ獣ノ国なんだ? 拘束した連中は、ほとんどが獣ノ国の国民ではなかった。それに、集会だというのに、幹部である七福(シチフク)陰道(インドウ)の姿はどこにもない。不自然すぎる……。


「ーーニャア…… おい、筆頭!!」


「おぉ、悪い。考え事をしてた」


「ニャア、もう済んだことだニャア。あとは、上が処理してくれるから、ニャア達は宏憐(コウレン)様の所に、」


その時、2人は得体の知れない何かを察知する。


「野良、構えろ。ーー何か来る」


最大限の警戒態勢、2人は前方を凝視する。


「ーーいやぁ、中位獣連。少し侮ってました。ここまで強いとは。ふふっ、天晴れです」


物陰から、手を叩き、姿を現したのは、仏陀宗幹部 七福陰道の穢毘諏(エビス)


彼女が2人の前に現れたと同時に、野良は『霄壌断絶(ショウジョウダンゼツ)』を展開し、堺若の神力が跳ね上がる。


「"貌遂(バウ)" ーー『(ファント)』」


 ※ 『(ファント)

体毛150本で1体、体長10m、体重1.5トンの巨大なゾウ。


発動と同時に(ファント)は走り出す。


「お前、七福陰道だな? 仏陀について色々と聞きたいことがある。抵抗せずに……死ね!!!!」


勢いよく飛び出す(ファント)。しかし、穢毘諏(エビス)はそれを全く避ける気配がない。それどころか、薄ら笑みを浮かべていた。


「威勢だけは神道十二界並みですね(笑)。流石は中位最強。ですが、その判断は誤りです」


穢毘諏は向かってくる(ファント)に対し、右手を突き出し、


「ーー『縫糸(ホウシ)』」


すると、(ファント)の4本の足元に、無数の糸が現れる。

そしてそれは、地面と(ファント)の足を縫い付ける。


「はい、お利口さん」


 (ファント)が完全に動きを止めた。


「はいはい、余計なお遊びはここまでにして、中位獣連筆頭 堺若さん。私はあなたとお話ししにきたの。いいかしら?」


「バカも休み休みにしろよ? お前と話すことなどない」


「いいえ、あります。だって私は、いや仏陀様は、あなたの"真意"を知っているから」


「真意……だと?」


「えぇ。そして、その真意、あなたがしたいことを私たちは手伝い、肯定する」


こいつは何を言ってる? 俺の真意? それを仏陀が知ってる? 


「話にならんな。言いたいことがあるのはわかった。それは後で、神王様の前でゆっくりと聞いてやる」


「いやいや、それはダメでしょ? 話せば、あなたも獣神も失脚する。それでもいいと?」


「まどろこっしい。何が言いたい? 俺の真意とはなんだ? お前らは俺の何を、」


「したいんでしょ? したくてしたくて堪らない。そうじゃない? でも、法が、職務が邪魔。今の地位・環境全てが邪魔。そうじゃない? だったら全てを捨てればいい。全てを壊せばいい。その方法も、その力も、仏陀様は持っている。……どう? ちょっとは話する気になった?」


2人がいったい何の会話をしているのか、堺若の真意が何なのか、野良には到底理解できなかったが、1つだけハッキリしていることは変わらない。目の前にいる"あれ"は敵である。


「筆頭!! あんなのに耳を貸す必要はないニャア! いい加減にするニャア!!」


堺若の様子がどう見ても最初と違う。野良は彼に罵声を浴びせながら、穢毘諏に向かって走り出す。


筆頭がやらないなら、ニャアが!!ーーしかし、


「止まれ野良!!!!」


 堺若のその声に足が止まる。


「いったい何なんだニャア?! さっきからおかしい、」


「猛仔と合流しろ」


「ニャ? 今なんと……?」


「ここはいいから猛仔と合流しろ。後のことは俺が処理する。それと、ここでの出来事は伏せろ。いいな?」


 長年の付き合いがある彼女だからこそわかった。彼が何か大きな決断をしよとしてるということに。


「理解ができない。ニャアもここに残って、」


「行け。2度も同じことを言わせるな。これからも俺の側で闘いたいなら従え。嫌ならここで殺す。どうする?」


この言葉に嘘はない。従わなければ殺される。そんな想像すらできない、重い選択が彼女に迫る。ーーしかし、意外にも彼女は凛としていた。


「はぁ……。ほんとワガママだニャア。わかった、筆頭に従う。その代わり、これからもニャアを側に置いてくれ」


「……わかった。お前の覚悟は後で聞く。今は行け」


「了解ニャア」


 野良は『霄壌断絶(ショウジョウダンゼツ)』を解き、『空間移動(ゲート)』で姿を消した。


「ーーさて、聞かせてもらうか。俺の目的が達成されるためのシナリオを」


 そしてこの日、堺若・野良・猛仔の3人は、神王勢力脱退を決意した。(大蛇は反対。その際に、3人に拘束される)



〜〜〜〜



「まぁ何はともあれ、今からキミは立派な刻導だ。尽力してくれよ? 期待してる」


「あぁ、言われるまでもない(まぁ仏陀様の命令しか聞かないがな)。 それより、どうやって神道十二界に挑む? この際だからハッキリ言うが、お前らじゃ無理だぞ?」


「無理とは?」


「まず、普通に考えて戦力差がありすぎる。というか全てが劣ってる。それと、どんだけ策を練り、工夫し、奴らを出し抜いたとしても、『あいつ』がいる限り刻導に勝ち目はない。それはお前らが一番わかってるだろ?」


「うん、強烈なdisをどうも(笑)。 まぁでも確かに、言ってることは間違いないかな。デウスで一度負けてるしね」


デウス創始歩期に、刻導は一度、神王勢力と戦争を行った。


決戦当日、全員が一気に神王の王宮に攻め入る。

王直(オウチョク)眷属(ケンゾク)や、遅れてきた神道十二界との激しい戦争が起きる。


当時の刻導構成員は上位が15名、その他魔戎・変異者が合わせて300名。神王勢力にとっても、楽な相手ではなかった。


奇襲ということもあって、戦況は刻導有利で進む。

しかし、"あの男"の到着が、刻導に敗北をもたらした。


「ーー第一級最上位(サイジョウイ)真白(マシロ)(ミオ)』。あれさえいなければ、あの日確実に神王を殺せた。あいつさえ……いなければ」


 真白澪が到着して数分、刻導の上位8名と、魔戎・変異者約270名が死亡した。(凍死)

 残ったものたちも最早虫の息。歴史に名が残るほどの大敗北であった。


「俺はあの時まだ初位(ウイ)だったから現場にはいなかったが、まぁ大方の話は聞いてる。正直、お前ら刻導にはガッカリした。あの時俺は、お前らが勝つ方に賭けてた、勝ってくれと願ってた。だが、蓋を開けてみれば酷いほどの惨敗。それで俺は、お前らへの興味がなくなった。だから知らないんだが、どうやってあの場から逃げ切れた?」


「……あの日、キミの言う通り、ソレアは死にかけてた。いや、もう死んだと思ってた。だけど、(テン)はこちらに味方をした。やられる寸前、あいつらが現れたんだ」


あいつら? 七福……いや、ないか。雑魚だ。

じゃあいったい……


「あの光景は今でも忘れない。ソレアにとっても敵だと思ってたあいつらが、我々に賛同……いや、違う。仏陀に賛同したんだ。だから、ソレアは思った。仏陀を敵に回してはいけない。手を取らないといけないやつだと」


「もったいぶるな、早く言え。誰がきた?」


・ ・ ・


「……3体の天霊(テンレイ)だよ」


「な、なんだと!?」


驚きの余り、堺若は勢いよく立ち上がった。


「バカな……天霊が助けた……だと? あり得ない。あれは謂わば天災、目の前にあるもの全てを壊す。それが誰かを救うなど……あり得ない」


「そう思うだろ? だがあの日、確かに救われた。なぜそう思うか? それは天霊がこう言ったからだ。


天守(テンシュ)の名の下に、刻導を救う"


……とな。まぁそんなこんなで、天霊と一緒に現れた七福の手引きでソレアたちは事なきを得た、というわけだよ」


「……経緯はわかった。それより天守とはなんだ? 初めて聞く単語だ」


「あぁ、天守ってのは仏陀の異名らしい。詳しくはソレアも知らないけどね」


なるほど、それで刻導は仏陀様に降ったと。ーーははっ、面白い。益々仏陀様に惚れた。これは期待値が高まる。


「と、今のでわかった通り、ソレアたち側には天霊がいる。つまり、」


「真白澪に天霊をぶつける……そういうことか?」


「うん、察しがよくて助かるよ。ただね、天霊がいるとはいえ、正直キミの言う戦力差は埋まらない。ソレアたちは過去の戦で仲間を失いすぎたからね。つまり、真白1人を抑えたところで、数で負ける。それは貴方が1番知ってるでしょ??」


「あぁ、俺の父の神通力が邪魔。そうだろ?」


「その通り。獣神は毛さえあれば傭兵を何体も生み出す。ほんと、邪魔でしかない」


「ならどうする? 奇襲で1人1人潰すか?」


「いやいや、それは無理かな。だって、ソレアたち仲間じゃないから。すぐすぐには連携が取れない。多分、普通に逃げられて終わりだね」


「だったらどうやって、」


 ソレアはゆっくりと立ち上がり、窓辺に向かって歩き出す。


「キミさ、刻導に入るってことは、非情になれるってことだよね? いや、言い方を変えよう。"肉親を潰す覚悟はあるよね?"」


「なにが言いたい?」


「さっきも言ったけど、ソレアたちは数で負けてる。現状では有利な状況に事を運べない。だったらこうすればいい、味方同士で潰し合い、中から崩壊させる」


味方同士で潰し合い? なにを言ってるこのバカは? 神道の結束力は強固な……あぁ、


「ーーなるほど、俺が鍵ってことだな?」


「うん、本当にキミは賢いね。その通り、キミは鍵だ。ソレアたちは神王法7条第4項を利用し、内部崩壊を起こさせる。それを餌に、残りの刻導を動かす。そして定日、崩壊した神道を全員殺す。ということさ」


 ソレアの作戦を聞いた堺若は、大きな疑問を抱く。


「ちょっと待て、なぜ第4項だ? 俺は生きてるぞ?」


改めて、神王法7条 [正統継承者]の第4項とは、『自身の正統継承者となったものを、自らの手で殺めた場合、その者を死罪とする』。


つまり、ソレアの話通り作戦が進むのなら、正統継承者である堺若は、獣神に殺されなければならない、ということになる。


「あはは、別に殺されなくても平気。死んだふりすればいいだけよ」


「いや、証拠もないしバレるだろ? そもそもどうやって俺が父に殺されたと伝える? お前らがやるのか? それは流石に怪しすぎ、」


「なに言ってるの? キミには2人、信頼できる部下がいるでしょ?」


……あぁ、そういうことか。


「理解したかな? まぁ一応説明するけど、まず野良と猛仔が神道の誰かに、あなたと大蛇が殺されたと報告させる。そうね、第二級の水神(ミズガミ)、第三級の炎神(エンジン)辺りに伝えるのがベストかな? 伝えたら、確実に獣神を省いた神座(カミザ)が開催される。あとは簡単なこと、獣神を殺す派と、殺さない派で意見が分かれ、衝突。って感じかな?」


「……なるほどな。つまり、衝突させて連携を崩す、それが狙いで間違いないか?」


「えぇ、まぁ理想は何人か大怪我してもらうことだけどね」


ソレアの作戦を聞き、堺若は少し目を閉じた。


「あらら? もしかして悩んでる? やっぱり辞める?」


「バカを言うな。男が一度決断したことを曲げるわけないだろ。俺はいま驚いてるだけだ。お前の軍師として力にな」


「へぇ、それはどうも。(仏陀が考えた策だけどね)」


確かにこの策なら、我の強い神の集まりだ、イレギュラーがない限り、内部崩壊は間違いなく起こる。神道は仲間思いな奴と、神王以外には興味ないやつでハッキリ別れてる。恐らく、そいつら同士がぶつかる。そうなれば……


 堺若はゆっくりと目を開け、ソレアの目を見つめる。


「ーーもう1度お前らに賭けてみることにした。いいぜ、俺が鍵になってやる」


「あはははっ!!!! 本当に素晴らしいよキミはさ!! おっけい、じゃあ忌々しい神王の犬どもを殺し、ソレアたちの桃源郷を作り上げましょう!!」


 それから数日後、彼らの狙い通り、主催第三級炎神シャーマ・ハイズヴェルムによる神座が開催された。


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