Ep.15(55)希少な血統正統継承者
〈ガラパゴス諸島 獣神根城〉
"獣神" 宏憐からの依頼は、彼の従者4名の捜索。
しかも、その4名が裏切り者であると聞かされたキゼルと云大。
その話に、彼らの存在すら知らない云大ですら驚きを見せた。
「おい、捜索対象は把握した。だが、なぜ裏切ってる思う? 自分の従者だろ? そんな簡単にだな、」
「わかってる。自分の従者だから神座で報告せず、こうやって王直に依頼してるんだ。察しろ」
宏憐が神道十二界の集まり"神座"で報告をせずに、王直に依頼した理由は2つ。
1.神座で裏切り者を報告した場合、理由の有無関係なく、対象(中位獣連)と遭遇したら即時死罪との通達が出るため。
2.裏切り者のランクが中位以上の場合、その者の主(この場合、宏憐)の更迭、住国追放のどちらか、またはその両方が科せられるため。
だが、王直に依頼した場合は、王直の管轄となり、神道は手出しできない。
また、王直は頭領である千年に全権がある。従って、彼に直接依頼すれば、意図を汲んでくれたりするため、宏憐は王直に依頼したというわけだ。
「ーーつまり、お前は保身のために、追放を避けるために俺らを利用したということだな? 呆れたバカだな」
「違う、そっちはどうでもいい。吾輩は天明様から頼まれたから神道に属しているだけで、地位や権力に興味はない。吾輩が危惧しているのは、"アイツ"が殺されてしまうということだ。それだけは避けたい。だから、オンシらに頼んでる」
「ちょ、ちょっと待ってください!! 自分だけ置いてけぼりなんですけど!? 1から教えて欲しいです!!」
「黙れ。後で教えてやるから、お前はまだ反省してろ」
「はい……」
ちょっと待てよ。色々とごちゃついてるな。えっと『中位獣連』……あ、そうか。思い出した、あいつだ。
「ーーお前は、神王法7条の第4項〜第7項を危惧してるんだな?」
神王法7条 [正統継承者]の第4項〜第7項
④自身の正統継承者となったものを、自らの手で殺めた場合、その者を死罪とする。
⑤自身の正統継承者となったものを、自らの手で殺めた場合、今後一切の後継に対する指南・接触の禁止。また、血統者を産むことも禁止とする。
⑥自身の正統継承者となったものを、自らの手で殺めた場合、神王の治める領土全域への出入りの禁止。並びに、神王とその勢力との接触を禁止する。
⑦正統継承者が、自身の血統者で、その者が罪を犯し、死罪が言い渡された場合、神王の治める領土全域への出入りの禁止、並びに神王とその勢力との接触を禁止する。
「その通りだ。オンシも知ってると思うが、中位獣連の中には、獣神の正統継承者がいる。しかも、血統者、吾輩の息子だ」
『中位獣連』。
獣神の従者4名で、ランクは全員中位。
裂切の神通力者 名は"野良"。
予知の神通力者 名は"猛仔"。(守護)
霧の神通力者 名は"大蛇"。
変貌の神通力者 名は"堺若"( 中位獣連筆頭)
以上4名で構成されている。
「堺若か……。よりによって、血統正統継承者が謀反とは……笑えないな」
キゼルのその問いに、宏憐は起き上がり、深々と頭を下げた。
「そうだ。あのバカは、正統継承者でありながら……。100歩譲って吾輩はいいが、天明様の意向に背くなど、息子であっても許せん!! 本来であれば、この手で殺してやりたいーーと、威勢よく言いたいところだが、息子故、ケジメだとしてもこの手で殺めることはできない……。だから頼む! 奴を見つけ出して、殺す以外の選択肢でどうにかして欲しい。この通りだ!!」
……法だとか、王に背いたとか、色々と理由づけしてはいるが、本心じゃねぇな。本当は息子だから死んでほしくない、ただそれだけだろ。しかし堺若か……。正直、野良・猛仔・大蛇は、さほど脅威ではない。だが、堺若は違う。あいつは正統継承者であり、"中位最強"と言われている男だ。それを捕らえるとなると……
「おい、中位獣連が何故裏切り者だとわかる? ただの反抗期とか…… う〜〜ん、理由がわからない。なんか確証があんのか?」
「あぁ、確証はある。デウスから吾輩らが消える数日前だ。堺若の口から刻導に入ると宣言された」
それは、彼らの世界デウスが消える数日前に遡る。
〜〜〜〜
〈獣ノ国 獣神地下宮殿〉
地下宮殿の一室、そこで宏憐はいつものようにグッタリと寝そべっていた。
「ーーおい、何度言えばわかるか堺若よ。吾輩の背後に立つな、それと部屋に入る際はノックをしろ」
「さすがは父上。結構、消隠姿には自信があったんですが……やはり父を超えるにはまだまだですね」
物音1つなし、気配もなしの見事な消隠姿で、宏憐の背後に立つ堺若。
「いや、お前が吾輩の"息子"だからわかっただけで、見事な消隠姿だったぞ堺若」
「なるほど、"親だから"、そういうことですね。やっぱり、父上だけは超えられそうにないですね」
「まだまだ負けんわい! それで、今日はどうした?」
「いえ、ただ父上との2人の時間が欲しかっただけですよ」
「ほぉ? なんだなんだ、まだまだ子供よのぉ。っよし! 今はそこまで眠くもないし、どうだ? 2人で茶でも?」
「えぇ、是非」
それから2人は、親子水入らず、国のことを忘れ、楽しいひと時を過ごした。
「ーーいやぁ、久々に父上とお話ができて嬉しかったです」
「はっはっはっ!! 吾輩もだ息子よ!」
「それでは、そろそろ」
そういうと、堺若は空間移動を出し、片足だけ中へと突っ込み、
「ーーあぁそうだった父上。野良と猛仔と大蛇の事なんですが、あいつら刻導に入ったみたいです」
「おぉそうか。……!!?? おい、今なんと? あいつらが……刻導……だと?!」
「えぇ、俺の命令で刻導に。ですので、今日をもって中位獣連は神王勢力を抜け、新たに刻導への加入をします」
さっきまでの談笑はどこへやら。急な出来事に、宏憐はパニックに陥った。
「あぁそれと、この話は内緒でお願いします。もし口外すれば、父上にも危害が及ぶ。俺はそれを望んでいない。でも安心して下さい、あくまでも俺らは裏で動きますので、まぁバレることはないかと。ですので、間違っても神座などで報告しないように。それでは、お元気で」
そう言い残すと、彼は全身を空間移動の中へと……
「"貌遂" ーー『鯨鯢』」
空間移動に彼が入る寸前で、宏憐は力を解放した。
※『鯨鯢』」』
体毛1万本で1体、体長35メートル、体重250トンの巨大な鯨。
「ーーはぁ……最後まで尊敬できる父でいて欲しかった。俺の選択を祝福して欲しかった。残念だ、こんなことを父上に言う日が来るなんて……」
鯨鯢が発動すると同時に、宏憐たちのいた部屋の四方が崩れる。
「ーー実に哀れ。いま初めて、お前が父であることが恥と知った。やはり、俺のこの選択は正しく、それを否定するお前は哀れそのもの。"運命"に従えない醜い老兵よ、せめて迎える運命のその日まで、生に縋りながらも美しくあれ」
既に体の半分が空間移動の中にある状態で、堺若は力を解放した。
「"貌遂" ーー『鯨鯢』」
それは父の出したものより、ひと回り大きく、放つ神力も倍、且つ作り出すために減る体毛数も父より抑えられた精錬されし戯であった。
両者がぶつかり合うことに、時間も会話も必要なし。
2人は動くことなく、発動した鯨鯢の衝突が起きる。
その衝撃で、宏憐の地下根城はものの見事に破壊され、辺り一帯に凄まじい神力の余波が溢れる。
「ーーあんたは神格できるだけ。中位の俺にすら勝てない神に価値はない。これが答えだよ父上」
宏憐の出した鯨鯢は、堺若の鯨鯢によって、体を真っ二つに裂かれていた。
それにより、宏憐の鯨鯢は姿を消す。
「じゃあ、別れも告げ、実力も示せたことですので、俺はここで」
「待て!! なぜだ……なぜ天明様を裏切る!?」
「裏切る? ははっ(笑)。父上、凋落しすぎでは? 王はあくまでも王であって、従うか否かは強制ではない。選択権ってものは1人1人にあるんです。つまり、俺はあなたと違う選択をしただけ、裏切りも何も、はなから王に仕えてなどいない」
未だ信じられない息子の暴挙。宏憐の心中は既にボロボロであった。
「まぁ本当は、上からの指示で神格の権利を奪ってこいと言われていたので、あなたを殺す手筈でしたが……正直落ちぶれすぎててガッカリです。俺じゃなくても、誰かに殺されるのも時間の問題。ここは、手を汚さず、俺は俺の目指す楽園を創りにでもいきます」
「待て!! 今までの……今まで吾輩と過ごした月日は全て嘘だったのか!? オンシは、嘘を、」
「"身は強く、心はさらに強く、己の信念に従い生きろ"ーーあなたに教わった言葉です。別に嘘などついていない。俺は、俺の信念に従っただけ。まぁ簡単に言うと、俺の信念からあんたら神王勢力は逸脱してた。ただそれだけのことです」
完全に亀裂の入った2人。もうどうやっても修復できないこの関係を前に、宏憐は膝から崩れ落ちた。
「では父上、もう会うことはないでしょうが……お元気で」
そう言い残し、堺若は空間移動の中へと姿を消した。
〜〜〜〜
「ーーなるほどな、ただの反抗期ではなさそうだ」
宏憐から、ことの経緯を聞いたキゼルは、暫く目を閉じ、考えた。
刻導加入の経緯はわかった。だが、なぜ刻導に? 仏陀宗に入るならまだわかるが、刻導はただの浮浪集団。信念もなければ、刻導同士が手を組むこともない、ただの落ちぶれ連中だ。堺若は何がしたい? 勢力だけみてもこちら側が圧倒的に優勢だというのに、リスクしかないというのに……あいつの狙いはいったい何だ? それとも、俺らが気づいてないだけで、何か大きな、、
「ぱい……キゼル先輩!!!!」
「お……悪い、考え事してた」
「凄い怖い顔してましたよ! てかてか、質問いいですか?!」
反省はしてたみたいだが……急にそのテンションで来られるとイラッてするな。
「何だ?」
「あの、全然理解は出来てないんですけど、聞いてた感じ、その息子さん? が、どう考えてもおかしいと俺は思うんっすよ! だから、事を公にして、全員で説得するとかの方が早く解決すると思うんです! まだ、息子さんが完全に闇堕ちしたとはどうも思えなくて…… どうすっかね?!」
・ ・ ・ あぁ、そうか、こいつ神王法知らないのか。はいはい、これは説明しなかった俺が悪いな。
キゼルは呆れながらも、云大に法の説明、他の神王勢力に言えない理由などの全てを、端的且つ分かりやすく説明した。
「えぇ〜〜!!?? 息子がグレて悪いことしたら親が追放される!? なな何すかその法律は?!」
「少し違うな。"親子"だからではない。"正統継承者"だからだ」
「どういう意味ですか?」
「お前、千年様に正統継承者については習ったな??」
正統……継承……者……あ!
「はい、習いました! 後継の中から1人が選ばれるやつですよね?」
「そうだ。正統継承者ってのは、天告があった後継のことで、別に実際の血の繋がりがなくても誰でもなれる。だが、選ばれるかどうかは別の話し。そんな簡単になれるものではない」
「え? そうなんですか? 後継って芽吹と血統者から生まれるんですよね?? 神血の譲渡が禁止されてるから芽吹は誕生しにくいにしても、血統者は沢山作れるくないですか??」
何を言ってるんだこいつは? まさか……千年様が色々とはしょった説明を……いやいや、それはない。こいつがアホなだけだ!!
「どういう意味だ? お前が理解してるなりに説明してみろ」
え……なんかスッゲェ怒ってる……
「は、はい。えっと、言葉選ばずに言いますと、神通力者と非神通力者がS○Xすれば、確定で同じ神通力を持った子が産まれる。つまり、神通力者がS○Xしまくって、子供を産みさえすれば、同じ神通力を持った子=正統継承者が絶えることはないと思うんです。
だから、この法は少しやり過ぎのような気が……」
云大の説明を聞き、眠っていたはずの宏憐ですら驚き目を覚ました。
「お、おいキゼル。このガキは何を言ってるんだ?? 正気か?」
「いや、正気じゃない」
やはり千年様……色々と、はしょって説明を……いや、違う。読み取れなかった云大が悪い。うん、絶対にそうだ。
「おい、いいか? まず、非神通力者と神通力者が交配するとどうなるかわかるか?」
「え? どう……って、子供が生まれる??」
「違う。それは女性が神通力者で、男性が非神通力者である場合だ。男性が神通力者で、女性が非神通力者の場合、子供が生まれる可能性は0%。というより、子供が生まれる前に母親が絶命する」
千年からは習っていない(キゼルの読み通り、説明してない)新情報に、云大は立ち上がって驚いた。
「そ、それって、どういうことですか!?」
「当たり前の話だ。神通力者の精液が、普通の人間と同じだと思うか? 当然、命源の影響を受けている。じゃないと、子供が神通力者として生まれてくるわけがないだろ」
「だ、だとしても、母親が死ぬって言うのは? 何でなんです……そうか、非神通力はあくまでも非神通力者。つまり、耐えられないんだ」
「その通りだ。考え方としては芽吹の生み出した方とほぼ同じだ。芽吹は神血、血統者は精液を非神通力者に与える。=体内に神通力者の一部が入るということだ。芽吹と違う点は1つだけで、芽吹は、与えた側が体内で神血を操作して細胞を作り出す。だから、操作の仕方が上手ければ、確率はグッと上がる。だが、血統者の場合は干渉ができない。つまり、操作なしで自然に母親(非神通力者)が子供を腹の中で育てなければならない。それはどう考えても不可能。つまり、母親は死ぬということだ」
まとめると、女性が神通力者+男性が非神通力者の場合、身籠る女性が神通力者のため、免疫がある。
=体内管理がしやすい。産まれる可能性が上がる。
逆に、男性が神通力者+女性が非神通力者の場合、
身籠る女性が非神通力者のため、免疫がない。=死ぬ。(子供は産まれない)
「神通力者にとって、他の神通力者の血液は毒だ。だが、それ以外は何の問題もない。だから、女性が神通力者であれば、変なことがない限り、子供は生まれる。でも、女性が非神通力者の場合は……何度もいう必要はないか。つまり、血統者にもリスクがあり、簡単に子供を作ろうなんてことは無理なんだよ」
「……じゃ、じゃあ!! 神血で後継を作って、それを正統継承者に……」
「無理だ。さっき自分で言ったろ? 神血を与えることはそもそも禁止されてる。これも死ぬ確率が高いからな。それと、芽吹は神血を与えからと言って、自分と同じ神通力者になるとは限らない。環境や元の性格などが左右されるからな」
「そ……そういうことですね。だから、正統継承者は特別なんですね……」
ひとしきり話を聞き終えた云大は席につき、キゼルは、再び眠りについた宏憐を叩き起こす。
「じゃあ、話も済んだことだし、千年様に報告後、すぐに任務に入る。そっちも何か情報を得たら教えてくれ」
「Zzz〜!!! わかった、任務にあたって1つだけ」
そういうと、宏憐はゆっくりと立ち上がり、
「知ってると思うが、あのバカ息子は中位最強だ。言いたくはないが、神格がなければ吾輩よりも強い。だが、どうか頼む。あいつを、息子を救ってやってくれ」
深々と頭を下げる彼を背に、
「ーー当たり前だ。それが王直の仕事だからな」
そう言い残し、2人は国を去った。一方その頃、
〈イギリス首都某所〉
真っ黒に焼け、至る所に燃えカスが散乱し、あの美しかった首都とは思えないほどの変わり果てた姿。
その場所から少し離れた所に位置する建物内に男は姿を見せた。
目の前には大きな扉。男は、そこをノックする。
「ーー中位獣連筆頭、堺若だ」




