Ep.11(51) 慈と尊
〜〜〜〜回想
〈創始歩期 デウス 竜ノ国 長室〉
ここは、竜神"武蔵寿"の治める竜ノ国。
その国の中央に位置する建物の一室、通称"長室"に慈禅は呼び出された。
※長室
その国の王がいる部屋。=武蔵寿の執務室。
「ーー失礼します!!」
ノック3回、ハキハキとした発声、開ける前の一礼と、開けた後の一礼。尻は決して見せず、目線も変えない。
そういうのに厳しい武蔵を知り尽くした彼からしたらいつもの変わらぬ所作だった。
「おう、来たか禅!! 時間きっちり、所作も完璧。さすがはワシの正統継承者!」
「え? どうしたんですか? やけにテンション高いですね」
「カッカ!! ここ暫く天明様と話す機会が多くてな! それ故のテンションかもしれぬ!!」
あはは、相変わらず王への愛が凄いな(笑)
「それで、今日は如何なさいましたか? 新たな任務ですか?」
「おうそうじゃな、まずは座れ!」
慈は武蔵の前にある椅子に腰掛けた。
「うん、いい面構えだ。ところで禅よ、ワシとはもう何年になるか?」
「そう……ですね、数えきれないくらい一緒にいさせてもらってます」
「うむ、そうじゃな。天明様の次くらいに長いのではないか?」
「いや、そこまではないかと」
「カッカ、そうかそうか」
なにか言いたげな武蔵と、それを察してあえて何も聞かない慈。無駄な会話がダラダラと続く。
「いや〜しかし、本当大きくなったよな禅。
初めて会ったと、」
「あの、武蔵様。どうされたんですか? 言いたいことがあるなら遠慮なく言ってください」
流石に痺れを切らした慈のその言葉に対し、武蔵の雰囲気がどんよりとなり、彼は急に立ち上がって、慈に背を向けた。
「ーー禅。今日から、お前は天使神に仕えろ。これは決定事項、いわゆる異動ってやつじゃ。良いな?」
一語一句、彼の言葉を聞き逃しなどしない。だからこそ、武蔵の言っている意味がわからなかった。
「どういう意味ですか? 理解できませぬ」
「そのまんまの意味じゃ」
「いや、意味もわかりませんし、何より納得しかねます。説明を!!」
数十年と、武蔵に仕えていた慈に言い渡された突然の出来事に、当然ながら彼は驚いた。
「まぁそうじゃな。驚くのも無理はない。
しかし、これは天明様とこの武蔵寿がお前を見込んだ上での頼みぞ? 断るのか?」
「な、天明様が?! いったいどういうつもりで、」
「まぁ聞け、簡単な話じゃ。天使神は最近誕生した神。しかも、神通力を手にして半年も経たずに神格を会得した、謂わば神童ってやつじゃ。しかし、禅も知っておるだろうが、尊迦玄はまだ子供。強さはあれど、知識や礼儀がない。そこで、禅に教育係兼、護衛を任せたいということじゃ」
天使神は元々正統継承者がおらず、前任が死亡して以来、この世に存在していなかった。
だが、彼の話す通り、新たに生まれた尊迦玄は、天使神の継承権を持って生まれ、つい最近、神として王に認定を受けた。
しかし、彼の若さに加えて、神通力者の過疎化も相まって、彼を支えるものがいなかった。
そこで、白羽の矢が立ったのが慈禅ということである。
「……まぁ意図はわかりました。しかし、なぜ某なのですか? 別、他にも、」
「認めておるからだ。天明様も、他の神々も、そしてこの武蔵寿も。これ以外に理由が必要か?」
「……はっ、まさか神座ですか?」
「そうじゃ、神座にて今回の異動が決まった」
頼りにされていること、認められていることは嬉しかったし、神座で決まったこと故、拒否権がないことも分かっていた。
しかしそれでも、すぐには返事が出来ず、慈は数日の時間をもらった。
〈天使神領土 教ノ国〉
はぁ、明日には返事せねばならんのに……はぁ、とりあえず尊迦玄に会ってみるか。
徐に立ち寄ったのは天使神の宮殿。尊敬する武蔵から離れることへの不安感は日に日に増すも、とりあえず彼に会うことにした。
「ーー入るぞ」
数回ノックをし、天使神のいる部屋へと訪れた。
「初めまし……てだよな? 某が分かるか?」
「うん? おじさん誰? てか勝手に部屋入らないでよ。気持ち悪い」
んな、、想像以上のクソガキ。
「某は慈禅だ。名くらい知ってるだろ?」
「慈? 禅?? う〜〜ん、わかんない! で何? なんの用? 今から勉強の時間なんだけど??」
「何の用って……貴公は聞いておらんのか?」
尊の表情を見て、何も知らないのだと認識した彼は、ゆっくりと椅子に腰掛け、武蔵との会話をそのまま伝えた。
「ーーと、いうことじゃ。つまり、某が貴公の教育係兼、護衛をすることになりそうじゃ」
「ふ〜〜ん、そっか。わかった! てことは、おじさんをいっぱいこき使って、死ぬまで働かせればいいってことだよね?」
「全然違う!」
はぁ……やはり某には無理だ。いや、某じゃなくても無理だろこれ……
「い、今の話はやはりなしだ。忘れてくれ」
よし、戻ったら某には無理ですとハッキリ言おう。神座で決まっとはいえ、こんなの理不尽すぎる。
尊に背を向け、扉に向かって歩き出す。
「へぇ、おじさん強い人だと思ったけど、案外そうでもない人?」
尊のその言葉に足を止める。
「なんだと?」
「僕が子供だからって理由で職務放棄するんでしょ? それって、"逃げる"ってことだよね? ははっ、やっぱりオジサン雑魚じゃん」
子供の戯言。そうだと分かってはいたが、溜まり溜まったものがある慈は我慢出来ず、尊の胸ぐらを勢いよく掴み、
「貴公に何がわかる?! 貴公のせいで、某は武蔵様のもとを離れなければならない。
これがどれだけ苦しく、どれだけ……」
ここ数日、武蔵のもとを離れ、1人葛藤し続けた慈。
子供に対して言うことではないかもしれないが、それでも抑えていた感情を我慢できなかった。
「某は、子守をするために神通力者になったのではない!! 命を救って下さった、武蔵様と天明様への恩義のために尽力すると誓ったのだ!! だから、貴公のような新参者に、」
「僕の統治する教ノ国の隣国がどこか知ってる?」
さっきまでの威勢はどこへやら。急にトーンダウンした尊の問いかけに、慈も昂った感情を抑えた。
「教ノ国の隣国は……魔ノ国だな。それが何だ?」
「魔ノ国で起きたあの事件の日、僕の両親は死にました。友達も、好きだった子も、全員死にました。だから、僕は母と父から授かった神通力の修練を必死にしました。もう二度と誰も失わないために。でも、オジサンの言う通り、僕は子供です。泣き虫です。学もないです。力をつけただけで、民を守れる自信がありません。もう失わないための方法がわかりません。もう涙を流さなくてもいいやり方がわかりません」
こい……つ、まだ子供だと言うのに、両親を失ったというのに、自分のことではなく、民のことを……。
「だから、オジサンが僕を強くしてください。立派な、父上、母上にも劣らない、歴代最高の天使神にしてください。お願いします」
堪えながらも溢れる涙。そんな深々と頭を下げる尊の胸元から手を離した慈は、彼に背を向け、
「ーー男が簡単に泣くものでない。涙は、本当に悲しいときにだけ流せ。それができるか? それと、某は厳しいぞ? ついてこれるか?」
溢れる涙を必死に拭き、
「だ、大丈夫。こう見えて僕天才だから」
「……ふんっ、よかろう」
慈は再度振り返り、尊に手を差し伸べた。
「ーー今日この日より、竜神 武蔵寿様の側近を退任し、天使神 尊迦玄様の護衛を仕る。某の名は慈禅。よろしくお願い申す」
尊は、差し伸べられた手を、小さな両手で掴み、
「うん、よろしくお願いしますオジサン!」
「オジ……せめて慈さんか、慈殿と呼べ」
「オジサンが僕より強くなったらね!」
「っこのクソガ、、はぁ、わかりました。
なら、泣き虫卒業と立派な神になるまでは、某も坊ちゃんと呼ばせてもらいます」
「はぁ? 坊ちゃんはやだぁ! もっといい響きの、」
「では坊ちゃん、早速いろいろと勉強しましょうか」
〜〜〜〜現在
「ーー某が坊ちゃんに仕える理由は、天使神 尊迦玄が某の主君だからじゃ。某が強くすると誓ったからじゃ」
そういうと、慈は全身に発動していた『硬固』を解除し、
「貴公如きじゃ、坊ちゃんの足元にも及ばないということを、某が証明してやろう」
なんだ……力を解いたのに、明らかに様子が違う。何が起きる。何をする気だこいつ。
「ーー貴公は某の異名を知っておるか?」
「異名? 何だそれ」
「某の異名は天竜。竜と天使の混血者じゃーー混血族種転換 『堕天』」
慈が本領を発揮する。




