Ep.07(47) 寒がりな氷神さん
〈ジブチ共和国近海アデン湾付近〉
千年からの必須任務書を受け取ったキゼルとグレンは、この地にて神道十二階最上位 "零王" 真白 澪の捜索任務にあたっていた。
任務開始から2日と23時間弱。期限3日ギリギリでようやく、対象である真白との接触に成功したのだが……
「おいコラガキてめぇ。誰がおっさんだ? もっぺん言ってみろゴラッ」
名前から見た目を想像してしまっていたグレンの咄嗟に出た"オッサン"という言葉に、真白はわかりやすくブチギレていた。
「わ、悪かったよ。ただ、、名前が……真白澪……やっぱりオッサンにこの名前はおかしいだろ!!!」
火に油。真白は、グレンの胸ぐらを掴んで、思いっきり揺らしながらブチギレた。
「あ〜〜ぁ、もういいや。ウゼェしめんどくせぇ。でなに? お前ら俺に何の用? てか、テメェら本当に王直眷属か? こんなグレンが千年の従者ってのは信用ならねぇ。証拠見せろ証拠」
「は? 証拠ってなんだよ!」
「オメェに聞いてねぇ! おい、キゼル! 証拠だせ、しょ・う・こ!」
未だ頭の整理がついてないキゼルは、普通に会話しているグレンに戸惑った。
相手が誰かわかってるのか、このグレンは。なんで普通に喋ってる? 1回殺されかけたんだぞ? 怖くねぇのか? いや……アホすぎてその類の感覚がないだけか。
「おい! 何回無視する気だテメェ」
「あ、ぁあ。すみません。少し戸惑っていて……」
「そういうのいいから! 早く証拠出せ! 出せねぇなら敵とみな〜〜す!」
執拗以上に証拠に拘る真白を納得させるため、キゼルはポケットにしまっていたリングを彼に見せた。
「ーーこれで我々が王直眷属だと信じてもらえますか?」
そのリングは、地球でいうところの身分証。神王勢力に属する者には必ず付与されるもので、神道十二階には、菱形の水晶にそれぞれの"階級"が彫られたペンダント、王直眷属には、"クラブの柄"が彫られた金色のリングが渡される。
「千年様から初めて頂いたプレゼントなので、第一級様とはいえ、触らせることは出来ませんが……」
「……ふ〜〜ん、それ、俺知らねぇ。何の指輪だ? 自作か? あ、千年に貰ったって言ったか。つうか、あいつこんなの作れるんだな。意外意外」
あ……なるほど、緊張感持って損した。真白、バカだ。
このリング自体を知らない真白に、グレンと似た何かを感じたキゼルの全身から緊張感がなくなった。
「失礼だけど、(流石に馴れ馴れしいか?)
し失礼ですけど、貴方は本当に第一級ですか? 一応、貴方も証を提示してもらえますか?」
聞く必要も、見る必要もないけど、何かムカついたから一応。
「証? あか……し、、あ! あ〜〜ぁはいはい。あれな、ペンダントな! はいはい。えっ……と、あれ、、ねぇな。う〜〜ん、あっそうだそうだ、思い出した! あれ邪魔だったから凍らせて捨てたわ!」
よし、確定した。やはりバカだ真白。
「アッハハハハッ! おもしれぇなオッサ、真白! こりゃあ確かに千年が気にいるわけだ! アッハハハハッ!」
あぁ、グレンもバカだ。何で、誰かれ構わず馴れ馴れしく出来るんだったく。
「まぁ、神力で本人というのはわかってたので、証はもう大丈夫です。それより、いま時間いい、」
「無ッ理! どうせあれだろ? 千年からの必須任務書だろ? 断る!! 基本的に千年と天明のオッサンからの頼み事は了承するが、今は無理だ! やることがある!」
自分に不都合なことは忘れないんだな。グレンと瓜二つだ。
「違います、必須任務書ではないです」
「嘘つけバ〜〜カ、ブワ〜〜カ」
想定外のめんどくささ。見た目オッサンのくせに中身クソガキ。うん、下手に出る必要なさそうだな。
「俺とグレンは、あんたの安否と現状の確認がしたいだけだ」
「あ、そうなの? ほんとに? 必須任務書ないの?」
「ない。で? やることって? 今なんか抱えてるのか?」
「抱えてるっちゅうか、イラついてる。俺の眠りを妨げた摩瓈爾奠どもを皆殺しにするために動いてる。だから今は何頼まれても断る。根絶するまでは絶対にな」
澪は地球に再誕してすぐ、この国の暑さに興奮した。
寒いより暑い方を好む彼にとっては最高の地。ここがデウスじゃないとかは速攻でどうでもよくなり、再誕してすぐにゴロゴロしていた。
しかし、そんな彼の眠りを邪魔したのが摩瓈爾奠。
澪が根城にしていた近くに、山羊の摩瓈爾奠の縄張りがあった。
山羊は、眠りにつく澪を襲撃したが、即返り討ち。
その際に神通力を使ったせいで、この地は極寒に。澪の怒りは爆発し、山羊だけに留まらず、各地にいた摩瓈爾奠を標的にし、自分の幸福の時間を奪った代償として、命を狩り続けていた。
「摩瓈爾奠……ね。ならさっきの海賊もそれ関連か?」
海賊? あ〜〜さっきのあれか。海賊っていうのか。
「いや、あれはまた別だ。鬱陶しかったから殺した」
「鬱陶しかったから? そんなことで殺したのか? 攻撃されたからとか、そういう理由ではないということか?」
「おう。鬱陶しかったから殺した。まぁ、善人じゃない極悪人だったみたいだし……別にいいだろ」
まじか。流石のグレンでもここまでバカじゃないぞ? 正気かこいつ。
「いや、よくない。天明様が害種認定していないものの命を奪う行為は是とされていない。法でも定められてる。いくら最上位でもそれはダメだろ」
神王法3条 [生命]
害種認定されていない生き物の命を奪う行為を認めない。但し、敵意を向けられ場合は除く。
と、あるように、神通力者は害種認定されている生物以外に危害を加えてはならない。
例外として、身の危険を感じるような攻撃を受けた場合はそれが許されるが、それ以外は許可されない。
どんなに悪いやつであろうと、自国民を殺されたとしても、害種認定されていない生物を殺す事をしてはならない。はずだが……
「い〜〜や、俺は許される」
「いや、ダメだろ。つうか、これはどう見ても俺ら王直が取り締まる案件だ。一旦、千年様に報告させてもらう」
「してもいいけど、意味ないと思うぞ?」
「どういう意味だ?」
「だってよ、この世界には天明のオッサンも貴族もいねぇだろ? なら、序列に従い、全統である俺には決定権がうまれる。だから、何をしても許される」
全統? 何だそれ、初めて聞く言葉だ。
「まぁでもあれだぞ? 悪意がないやつを殺したりはしない。さっきの、海賊? だっけ? あれはどう見ても害だ。だから殺した。文句あるか?」
「文句……って、いや全統がなんにしろ、ダメなものはダメ、」
「いやいや、それはキゼルの知識不足だ。んでもって、俺が教えてやる道理もねぇ。千年に報告したいならしろよ。まぁ、鼻で笑われると思うけどな」
澪の言葉は、全く嘘とは思えなかった。故に、キゼルは口を閉ざした。
「なんの話してるか知らねぇけどよ、オッサン摩瓈爾奠の強さ知ってんのか? 俺、最近戦ったから知ってるけど、中々に強いぜ? 1人で勝んのか?」
「急に話変えんなグレン」
「ポンコツじゃねぇ!! バカだ!!」
どっちも一緒だろ。
「で? 質問に答えろよ! 摩瓈爾奠を1人で討伐出来んのか?」
「愚問だな。もう既に、20以上は殺した。残り数体くらいだろう。余裕」
ま……まじか。1人であれを20……
「オッサン…… 嘘はダメだぜ嘘は(笑) 1人で摩瓈爾奠に勝てるわけねぇじゃん! それも20体って……アッハハハハッ! ウケる、まじウケる」
「煽りスキル高ぇなグレン。つうか、てめぇら敬語使えや! 零王だぞ? なに馴れ馴れしくしてんだよ!」
え……今かよ。
「まぁいい。現状と安否の確認はできた。全統が何かは知らないが、千年様にはしっかりと報告しておくからな!!」
「はいはい、お好きにどうぞ〜〜(笑)」
っち、ムカつく。
「じゃあ俺らは行…… 」
キゼルの言葉と足が止まる。
ーー殺意!? どこからだ? 間違いない、近いぞ。しかも、かなり……強い。ーーまさか
察知した殺意は、3人の後方から異様な姿ととも現れた。
「ゲロゲロゲロ、ゲ〜〜ロゲロ。お前かな? お前かな? あぁ、お前だな!? 蛙様の同族を狩ってるという愚か者は」
体長2メートルちょい、二足歩行、全身緑で、黄色の斑点。グレンとキゼルはすぐに察する。
"摩瓈爾奠だ"
摩瓈爾奠との戦闘経験を得た2人は、思考よりも先に体が動き出した。
「ーーキゼル!! どうする? 一旦退くか?!」
「そうだな、弱点は熟知してるが、焦らずここは一旦、」
前回得た知識と経験をもとに作戦を練ろうと、2人は後方へと走り出したのだが、
「ーーおい真白澪! 一旦退くぞ! 早くこっちにこい!!」
「は? 退きたきゃ退けよ。敵に背を向けるなんてマネ、俺にはできない。つうかお前らさ、本当に千年の従者か? 俺が知る限り、あいつが敵前逃亡したとこなんか見たことねぇけど? だらしねぇなったく」
両ポケットに手を突っ込んだまま、一歩たりとも動こうとしない真白。
「おいおい、キゼルあいつふざけてんのか? どうすんだよ、なぁ?」
「薄々気づいてたが、ありゃあお前の上位互換だなグレン。強さが邪魔で何も言えない。ただ、確かに言う通りかもな。同じ敵に対して背を向けるのは…… よし、退くのはなしだ。やるぞ!!」
「お? まじか!! 慎重なキゼルがやる気満々じゃんか!(千年との稽古の成果だな!) っしゃあ、やったるぜ!!!」
2人は退くのをやめ、同時に力を解放した。
『霳鳴霅 』 『火楼羅炎』
キゼルは雷を、グレンは炎を纏う。
「ゲロゲロ〜〜? 興味ねぇ雑魚どもが、なぁにやる気になってんだぁ? 蛙様の狙いはお前らじゃねぇよ!!」
2人の変化に対して、蛙も戦闘態勢に入る。
「いくぜ!!!」
そして、蛙の摩瓈爾奠に向かって2人は勢いよく飛び出し、真白のちょうど真横を通り過ぎたタイミングで前のめりに倒れる。
「ゲロゲロ?? なんだなんだ? 仲間割れか? ゲロゲロ」
うつ伏せで倒れる2人は、勢いよく違和感のある足元の方へと振り返る。
「ーーおい、なんのつもりだ真白澪。なぜ俺とグレンの足を凍らせた?」
2人の両足は脛付近まで凍結されており、全くといっていいほど動かない、そしてじわじわと感覚がなくなる。
「なんのつもり? そりゃあ俺のセリフだ。さっき言ったろ、地球の摩瓈爾奠は俺が全て狩ると」
「はぁ〜〜? だからお前はバカかって! 1人で勝てるわけねぇだろが!! それに、お前はこいつの特性と弱点知ってんのか? 俺らは知ってる! 知りたいか? 教えてやろうか? だから足元の凍り溶かせ!」
へぇ、摩瓈爾奠の殺し方を知ってるのか。にしても、知ってたとしても普通飛び出すか? 中位クラスじゃ無理だろ。いや……千年の従者なら…… あぁないない。千年教えるの下手くそだからな。いや待て、あ〜〜なるほど、虎影か。そゆことね。
「おい! 聞いてんのか?!」
「グレン構うな! 何言っても聞く耳もたねぇよ! とりあえず、お前の炎でなんとかならないか?」
「炎? お! なるほど、さすがキゼル!!」
グレンは両手に炎を集約させ、足へと近づけようとした。その時、
「はぁ、弱いってホント惨めだな。
あのさ、特性とか弱点とか……俺には関係ねぇのよ。
まぁ、中位クラスで摩瓈爾奠に挑もうとする気合は認めてやる。弱点知ってても普通は逃げるからな」
そう話す真白の神力が、徐々にだが大きくなり始める。
「ちょうどいいや、お前ら見込みがあるから、"本物の神通力者"の力ってやつを見せてやるよ。ーーとその前に、俺はいま意外にもかなり冷静だ。炎のおかげで寒さもだいぶ和らいだからな。そこで、キモいお前に質問。どこの神通力者を喰って摩瓈爾奠になった?」
「キモいのぉ? 蛙様に言ってるのか?」
「そうだ、キモいお前に言ってる。キモいの」
「ゲコォォォォ!! そんなムカつくやつに教えるわけねぇだろうが!!」
「はいはい、そういうのいいから。誰だ? 何食った?」
「だ〜〜か〜〜ら〜〜、言うわけねぇだろうが!!」
「じゃあ問いを変えよう。覚醒前のお前と比べて、その神通力者は強かったか?」
「ゲロゲロ? 強いわけねぇだろ。ゲロゲロ言いながら全身溶けて、死んでいったよ」
ふ〜〜ん、なるほどね。
「おけおけ。色々とわかったからもう死んでいいぞお前」
・ ・ ・ は?
「何をさっきからゲロゲロ言ってんだてめぇ? 死んでもいいだぁ? 蛙様をなめすぎだぁ!!!!」
「あぁ、悪い。間違えた。"もう死んでるか"」
「なめんなクソが!!!!」
頬を大きく膨らませた蛙は、口から巨大な胃液を3人に向けて放出する。
「あれはやばいやつだ!! グレン、早く足の溶かせ!! じゃないと、全身溶けるぞ!!」
「いや、やってるんだけど、この氷全然溶けねぇ!!」
2人がかなり焦っているというのに、澪は全く微動だにせず、飛んでくる胃液に背を向け、
「ーーおい、もう終わったぞ」
焦る2人はその言葉とともに、異常なまでの寒気を感じ、その方向へと体を向け愕然とした。
「だから言ったろ、弱いって惨めだなって」
放出された巨大な胃液と、蛙の大きな体が小さく見えるほどに、辺り一帯が真っ白に凍った。
「う……そだろ…… ヤバすぎだろ……」
前方の景色がたったの一撃で一変し、そこが元々そうであったかのように、巨大で強大な氷の造形は凛としていた。
「あ〜〜ぁ寒みぃ。やばい、イライラしてきた。おい炎子供。早く火……火つけろ」
「いや、じじじ自分で寒くしたくせに……つつつうかその前に! ははは早く足の拘束解けよ!!」
「こここ拘束? あ、あぁ、悪い悪い」
凍った2人の足元は「パリパリ」と音を立てながら崩れ、それと同時に蛙一帯の氷も「バリバリ」と砕け散った。
「ほら、早く早く。寒い……」




