Ep.02(42) 神道の滾リスト
〈クルコノシェ山脈 麓〉
ジッと、目の前に聳え立つ山脈を眺める、"鬼神" 凶禍 権。
そんな彼の後方には、武装した軍約300名と、兵器多数。
凶禍 権の突入に合わせて、彼らもまた戦闘態勢に入っていたのだが、
「ーー"不快!!" おい、お主ら! いつまでそこで構えておる! さっさとどこかへ避難せんか!!」
後方で構える軍の者たちに対して、彼は怒りを露わにした。
「"疑問!!" おい、レヴァンドフスキ! はよぉこいつらを撤退させんか!! いつまで拙者を待たせる気じゃ?!」
空中に配備されたドローンに向かって話しかける凶禍 権。
本部からそれを確認したレヴァンドフスキは、鬼神につけてある通信機を通して、彼に話しかけた。
「鬼神様。後方で構えるは、我が国の軍隊です。つまり、戦闘に向けての訓練を積んできた者たちです。足手まといになど決してなりませんので、、」
「"邪魔!!" お主は馬鹿か!? 拙者は今から戦をするのだぞ? 拙者の愉悦の時間をお主は邪魔するというのか? それに、こんな間近で拙者の神力を浴びればどうなるか、お主でもわかるだろうが!!」
「神力を浴び……る?? すみません、それはどういう……」
あぁぁぁ面倒臭い!! 星が変わったせいでいちいち説明せんといかん! もうよい!!
「"間越して角結び 天地閉ざして無き力"ーー従操 『霄壌断絶』」
この力により、後方で構える軍隊のちょうど目の前から、山脈を覆うほどの巨大な結界が展開された。
それにより、目の前にいたはずの権の姿が消え、軍の面々は動揺を見せた。
「"失敬!!" レヴァンドフスキ、もう我慢の限界じゃ! 今しがた結界を張らせてもらった。まぁ見えもせんし、感じもせんじゃろうが、後方におる軍に伝えろ。これより、一歩でも前進した者は、死ぬか変異者になる。それが嫌なら拙者の言うことを聞け。もし聞けぬというのなら、拙者はこの件から降りる。良いな!!??」
明らかに語気が強まった彼の言葉は、遠く離れた本部の皆に緊張感を与えた。
「ーーわ、わかりました。軍は撤退させます」
「"懸命!!" では、拙者は参る!!」
そう言い残した彼は、瞬時にその場から消えた。
「!?!? き、消えた! 消えました!
大統領、鬼神様が姿を消しました!!」
「な、何してる!! 早くドローンで追え!!」
ま、全く見えなかった。多分だが、消えたのではなく、正確には猛スピードで走り出したってところか。
まさか、最新のスピード型ドローンですら追えないとは……わかってはいたが、これが人ならざる者の力か。
全員が慌てて彼を探す中、
「ーーはっ、発見!! 鬼神様を見つけました!! ……うん? あれは、、?!?!
だ、大統領!! し、し、鹿です! 討伐対象の鹿も捉えました!! 繰り返します! 鬼神様が、鹿と接触しました!!!!」
その声で一気に緊張感が高まり、映し出されたモニターの映像を見て、彼らは再び恐怖した。
「こ……これが、、魔戎」
映像には鬼神と、その前方に二足歩行で真っ黒の皮膚に、体の至る所から尖ったツノの生えた巨大な鹿が映っていた。
そして、鬼神と魔戎の戦が幕を開ける。
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2人が接触し、すぐに戦いが始まる。そう思っていたが、なぜか両者睨み合い、動かないまま数分の時が流れた。
この異様な光景を、ドローンを通じて確認したレヴァンドフスキは、
「ーーこちらレヴァンドフスキ。上空のヘリの高度をもっと上げろ。距離が近すぎる」
今現在の状況は、国内全域に、上空にいるヘリから中継されている。
「大統領。これ以上高度を上げれば、ちゃんとした映像が撮れません」
しかし、レヴァンドフスキは何かを危惧したのか、高度を上げるまで何度も何度も強い口調で繰り返した。
痺れを切らした撮影隊は、彼の言う通りゆっくりと浮上した。
「よし、それでいい」
そして、2人が睨み合うこと約3分。
「ーー"興奮!!" やはり、良いなお主。かなり強い」
「ほぉ? 見ただけで強いとわかるのか?」
「"無論!!" どうやら勘違いしていたらしい。お主は魔戎ではなく、その上、覚醒種 摩瓈爾奠だな?」
「……アッハハハハッ!! 正解だ!
さすがは神道十二界! よくわかったな!! お前の言う通り、亜鹿様は摩瓈爾奠だ」
鹿の名は亜鹿。魔戎だと思っていたが、合間見えてわかった。こいつが魔戎から覚醒した摩瓈爾奠だということに。
「"疑問!!" お主が摩瓈爾奠なのは、見ればまぁわかる。しかしだ亜鹿よ。なぜ、拙者が神道十二界であることを知っている? まだ名乗っておらんぞ?」
「あ〜〜、これ言っちゃいけないやつだったわ。つい口が滑っちまったなぁ。まぁいいや、言っちゃったもんはしょうがない。お前、神道十二界第七級上位 "鬼神" 凶禍 権だろ? お前らのことは全部知ってる。つうか、殺せって言われてるからな」
「"疑問!!" 誰にそう言われたのかは、聞いたら教えてくれるのか?」
「アッハハハハッ! 教えるわけねぇだろ」
まぁ確かに、誰からも教えてもらってないのに、魔戎が自力で摩瓈爾奠に覚醒できる訳ないか。
「"承知!!" なら、1つだけ教えてほしい。お主はどうやって覚醒した? 神通力者を喰ったのか?」
「……いいや、神通力者は喰ってねぇ」
なんと!? なら、、
「亜鹿様が喰ったのは同種、つまり他の摩瓈爾奠だ。あるやつから死にかけの摩瓈爾奠をもらってな。そいつを喰った」
やはり共喰いか。ったく、相変わらずイカれたことをさせるな。
「"解消!!" お主が誰と手を組んでいるかは大方見当がついた。だから、もう情報交換は終わりだ」
「は〜? 亜鹿様は情報交換なんかした覚えはねぇよ。ただ、殺す前にお前がどんな奴が知りたかっただけだ。そっちの方が、喰う時に美味く感じる」
「"不快!!" そうやって命を奪ってきたか摩瓈爾奠よ。よかろう、ならこっからは命の奪い合いといこうではないか。拙者がお主の養分となるか、将又、お主が無惨に切り刻まれるかーーさぁさぁ、殺し合いと行こうではないか!!!!」
声高らかに行われた戦闘開始の宣言。その合図とともに、両者同時に動き出した。
抜いていた刀を顔めがけて振り下ろす鬼神に対し、纏化で強化した拳を刀にぶつける亜鹿。そして、刀と拳が触れ合った瞬間、とてつもない衝撃波が発生し、周辺の木々は粉砕、かなり距離を取っていたはずの、ドローンが数機粉々となった。
それに伴い、レヴァンドフスキたちが直視していた映像がショートする。
「なっ、、何が起きた……じゃ、じゃない!! 残ってるドローンを近づけて、早く映像を切り替えろ!!」
刹那とはこのこと。人間の身体能力では絶対に捉えることの出来ない超速のぶつかり合い。
レヴァンドフスキの指示で動かしたドローンも、彼らに近づくと同時に即座に破壊される。
「大統領っ、無理です!! 近づけません!!」
「ックソ、ここまで凄まじいとは。ドローンは残り何機だ?」
「残り……9機です」
キュキュ9?! 100近く配置していたのを、一瞬で……
「とりあえずドローンは一旦退かせる。タイミングを見て、残りの9機は上空に移動させてくれ」
「了解です。ーーだ、大統領! 映像出てます!!」
「本当か?!」
全員が見つめる先には、先にレヴァンドフスキが高度を上げさせたヘリより、リアルタイムで中継している映像だった。
「仕切りになっていた高木が、2人の争いでなくなった。それで、あの距離からでも撮影できるようになったってことか。よし、ならドローンは距離を取りつつ四方に配置。上空の撮影隊には、高度を保ったまま撮影を続けるよう指示を出してくれ」
「了解しました!!」
彼らがそうこうしているその間も、両者は止まることなく、力をぶつけ合っていた。
「"歓喜!!" よいぞ、よいぞお主!! そうだ、もっとだ。もっとこい!!!!」
次第に激化する戦い。それに感化されるように、鬼神は笑みをこぼした。
「アッハハハハッ。な〜〜に笑ってやがる鬼野郎。あまりナメるなよ!!」
今でも人の目では捉えることのできない速度だというのに、亜鹿はさらに速度を上げた。
これには鬼神も対処しきれず、今迄防いでいた拳が、彼の顔面に直撃する。
「クリ〜〜ン、ヒットォ〜〜!!!!」
鬼神は殴られた勢いそのままに、樹木を破壊しながら後方に吹き飛ぶ。
「アッハハハハッ!! 油断するなよ鬼野郎。亜鹿様をもっと楽しませてみせろ!」
「"承知!!" そうさせてもらうわ」
吹き飛ばされたはずの鬼神は、亜鹿の真上にいた。
「なに?!」
今度は亜鹿の反応が遅れ、鬼神のカカトが頭に激突。
亜鹿の顔が下がったと同時に、ツノの生えていない腹部に拳を打ち込み、亜鹿も同じように後方へと吹き飛ばされる。
「"油断!!" 先の台詞、そっくりそのまま返すぞ摩瓈爾奠。もっと拙者を楽しませろ!!」
「ーーイッテェな……。アハッ、アッハハハハッ!! いいぞ鬼神。なら、もっと楽しませてやるよ!!」
それから、2人はさらに殴り合った。
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「……はぁ、、はぁ……。アハ、アッハハハッ、中々やるな鬼野郎」
「"異常!!" お主も、想像以上に手強いな」
2人の殴り合いから、早くも30分が経過していた。
うん、やはり中々に手強いな摩瓈爾奠。これまでの攻撃で手応えがあったのは数回。だが、命まで削れたかはわからなぬし、残りの命が何個かもわからぬ。ーーうむ、こうなれば……
「"認定!!" 拙者はお主を強敵として認めた」
「は〜〜? な〜〜にを上から。調子に乗んな」
「"褒美!!" よって、お主にはそれ相応の力を示す。有り難く頂戴するが良い」
うん? あ〜〜あれか。神通力か。
「アッハハハハッ、お前もしかして知らないのか?」
「"疑問!!" 何の話だ?」
「なんのって……。はぁ。しょうがない、亜鹿様もお前を気に入った。だから、教えてやろう。権能について」
「"承知!!" 権能のことなら知っている。命の複製と、身体強化+命源の纏化。魔戎であれば、このどちらかの権能を授かるが、摩瓈爾奠はこの両方を使用できる。加えて、摩瓈爾奠には神通力が効きにくい。理由は、命源を大量に纏っているから。神通力は命源による攻撃。それを命源に対して使用するわけだから、威力は当然下がる。故に、摩瓈爾奠を殺すには、物理攻撃、または老化。だな?」
「アッハハハハッ、なんだ知ってんじゃねぇかよ。知った上で神通力ぶっ放そうってか? 悪いことは言わねぇ、体力の無駄だからやめとけ」
「"無用!!" お主こそ知らんみたいだな。確かに、摩瓈爾奠への神通力による攻撃は威力が下がる。だがな鹿よ、下がる=弱いってわけではないんだぞ?」
両腰に携えられた2本の刀を抜き、それをコの字に構えた鬼神の神力が跳ね上がる。
「ーーアッハ、アッハ、アッハハハハッ!!
意味わかんねぇなお前。まぁいい、やれるもんならやってみな!!」
「ーー"神戯" 」
全身から、急激に溢れ出す神力。そしてそれは、彼の全身から2本の刀へ。
「さぁ、来いっ!!!!」
「ーー"喜喜" 『参廻』」
※喜喜 参廻
神力を刀に流し、斬撃を飛ばす力。通常より何倍も切れ味が上がる。
彼が言葉を発し、刀を振り下ろした瞬間、
亜鹿の両腕が、肩から綺麗に切り落とされた。
「ウグッ、、グア゛ァァァア゛!!!!」
鬼神、凶禍権。彼は勢滾の神通力者。
感情が高まれば高まるほど、それが力へと変わる。また、上昇する力の上限はない。
ただ、感情ゆえ自分で制御ができない。つまり、肉体に力を込めて、神通力を使おうとすると、自身の神通力で、自身の体を損傷する場合がある。
なので、必ず両刀"去無頼"を経由して、神通力を発動する。
(昔、昂りすぎて、刀を使わずに力を発動し、死にかけた経験あり)
「ーー"爽快!!" カッハッハッ! やはり、戦いは滾る滾る!! カッハッハッ!!」
「く、、クソが……」
膝をつき、苦しむ亜鹿を見て、高笑いする鬼神。
しかし、
「ーーふっ、な〜〜んってな!!」
直後、切り落とされた両腕が再生。何事もなかったかのように、亜鹿はほくそ笑んだ。
「アッハハハハッ! やはり、神通力を使っても亜鹿様は殺せないってことが証明されたな! 残念だったな、鬼野郎!!」
「ーー"疑問!!" 何を言ってるお主。もしや、脳なしか?」
「あ?!」
「"呆気!!" 今の攻撃で、お主を殺そうとはしていない。ただ、神通力が効くかどうかを見たかっただけだ。まぁでも少し残念ではある。"いま程度の攻撃"で両腕を切り落とされるとは。お主の底が見えたよ」
少し悲しむ表情を浮かべる鬼神に対し、眉間にシワを寄せ、怒りを露わにする亜鹿。
「……底が見えた、、だと? 自惚れるのも大概にしろよゴミが。誰がいつ、本気を出したと言った?」
そういうと亜鹿は、体から生える無数のツノの内の2本を手で握り、叫びながらそれを抜いた。
「"狂気!!" ついにイカれか?!」
「安心しろ、端からイカれてる。
そんなことよりもだ、亜鹿様は決めたぞ。ただ殺して食うのは面白くねぇから、お前をバラバラにしたのち捕食することにした。喜べ、亜鹿様を怒らせたのはお前が初めてだ」
「"愉悦!!" そうか、なら拙者も、お主が息絶えるその時まで、全力で楽しませてもらうぞ!!」
そして2人は再び、目にも止まらぬ速さで打ち合いを始めた。
「ーー"快感!!" 良いぞ、良いぞ、良いぞお主!! もっとだ、もっと来い!!」
威力は鬼神が上。ただ速度は亜鹿が上回っており、抜いたツノが何度も何度も彼を捉える。
体の至る所から血を流すも、彼はなぜか笑っていた。
「ッチ、何笑ってんだよテメェ。お前の方がよっぽど亜鹿様よりイカれてるじゃねぇか!!」
「ーー"闕乏!!" 楽しいな……最高だ!! もっと、もっと来い!!」
まじで何なんだよこいつ。速度もどんどん上がるし、切ってるのに手応えがまるでない。おかしいだろ。聞いてねぇぞ、こんな化け物だなんて!!
血が流れるほどに楽しみ、切っても切っても前に出てくる鬼神に、亜鹿は少し恐怖した。
「あぁぁあ゛ックソ!! さっさっと死にやがれ!!!」
亜鹿が焦れば焦るほど、鬼神の斬撃は亜鹿を捉える。
当たっていなかった攻撃が徐々に当たり出し、致命傷を与えるのも時間の問題。一方で、決定打に欠ける亜鹿は苛立ちを隠せなかった。
そして、取り乱したその感情は、極限の集中状態である今の鬼神にとって、格好の獲物。
隙だらけとはまさにこのことであった。
「"絶戯!!"」
雑念の混じった2本のツノによる攻撃。それを軽く弾いた鬼神は、亜鹿よりも速く次の動作に入り、神力を込めた二刀を亜鹿の腹に突き刺す。
「刺さっ……ックソ、抜けねぇ!!」
「ーー"怒怒" 『刺廻』」
※怒怒 刺廻
鋼すらも豆腐のように切り裂く威力。怒りの感情が高まった時に使用できる。突き刺したのち、手首を捻りながら横に切り裂く技。
「グァァァア゛ア゛ーー!!!」
刺した箇所から真っ二つ。上半身と下半身が切り離され、今にも地面に落下しそうになる上半身を腕で抑える亜鹿。
「"根性!!" これでも死なぬとは、相当喰ったなお主。い〜〜や、そんなことよりもだ!! この一瞬たりとも気を抜けない真剣勝負の最中、お主は少し気を抜いたな? 雑念が混じったな?! 許せん、許せんぞ!! もっと気合いを入れぬか!!」
鬼神からの励まし? アドバイス? まぁ何にせよ、痛みでほぼ意識が飛びかけていた亜鹿だったが、その言葉で痛みを必死に堪え再生を行った。
「は、、はぁ…… ダァァァァァ!!!!
アハッ、アッハハハハッ!! 無事生還!」
「"歓喜!!" やはり、やりがいがあるぞお主!!」
……ックソ、今の再生でかなり命を削られた。
ったく、何なんだこいつマジで。どんどん強くなりやがる。
「アッハハハハッ! 悪かったな。正直、亜鹿様の本気についてこれるとは思ってなくてなぁ。動揺というか少し嬉しくなっちまった。いいぜ、もっとやろう。互いに本気を出した今のまま、最後までやり合おうぜ」
激しさを増す戦い。互いが互いを認め合い、鎬を削る。だが、亜鹿の今の発言に、笑っていた鬼神の表情が一変。彼は一瞬驚き、直後なぜか下を向いた。
ん?? なんだ? 力を解きやがった。
「おい、鬼野郎。どうした? さっさっと続きをーー」
「"疑問……" お主、今なんと言った?」
「あ? だからさっさっとやろうって、」
「"相違ッ!!!!" そうじゃない。 お主は本気を出していると言ったのか?」
「ん? あぁ、そうだぜ。亜鹿様も正直驚いてる。まさか、亜鹿様の本気についてこれるやつがいるなんてな。お前は自分を誇っていいぜ? まぁ最後には亜鹿様が勝つがな」
「・ ・ ・そうか、そうだよな。そうかそうか。所詮は摩瓈爾奠。その程度ということだな。ははっ、完全に浮かれていた。期待して損した。本当に、残念だよ」
そういうと、鬼神は持っていた刀を2本とも地面に置き、立てた右の親指を首の左側に添えた。
「な……なにしてる?」
「"悲哀……" もう飽きた。というか完全に底が見えた。これ以上は時間の無駄と判断。即刻、お主の命を頂戴する。次、生まれる時は、強者であることを祈っている」
「は……? なに言って、、」
鬼神は涙を流しながら、立てた親指を右側にスライドさせ、自身の首を斬りつけた。
首を切った……血が出てる……なにしてる?
「ーー『神格』」
直後、鬼神から強烈な神力が放たれる。
唱えただけだというのに、至近距離でそれを食らった亜鹿は後方へと吹き飛ばされ、体の6割が損壊する。
「ッ……痛えぇ…… なんだ今の…… 何が起きてやがる」
再生を行いながら、前方で光に包まれる鬼神の姿をジッと見つめる。
そして、彼を包んでいた眩い光が消えた瞬間、その中から先ほどまでとはまるで別人の凶禍権が姿を現した。
「な……なんだよそれっ!!??」
全身真っ赤、3メートル超えの身長に、ガッチリとした体格。
額から生えていたツノは、空に向かって高く伸びる。
何よりも、一番変化していたのは手足だ。普通の形とは違い、棍棒に指が生えたかのようにゴツゴツとしていた。
これが神格した凶禍権、改め "鬼神"の真の姿である。
見た目だけではなく、放たれる全てが常軌を逸した存在。
プライドの高い摩瓈爾奠ですら、背を向けて逃げ出した。
ダメだダメだダメだ、殺される!!!!
嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくない!!!!
亜鹿の逃げるその姿を見て、彼の表情が更に曇る。
「"滑稽……"
これ以上は失望させてほしくなかった。残念だよ、哀れな摩瓈爾奠よ」
もはや唯一彼に勝っていたであろう速度すら雲泥の差。
よちよち歩きの赤子を、大人が捕まえるようなもの。
鬼神は嘆きながら、背を向け逃げる亜鹿にすぐ追いつき、背後からトドメを刺した。
「"絶戯" 哀怒 『奈落』」
※哀怒
悲しさと怒りが同時に昂った時のみ使える力。鬼神の中で3番目に威力の出る感情。
※奈落
棍棒状の拳を脳天に叩きつける技。
神通力発動時の鬼神の感情で威力は変化する。
鬼神の振り上げた拳が、逃げる亜鹿の脳天に直撃。全身の骨は砕け、一瞬にして頬が足の指にくっつくまでに潰される。
そのまま、亜鹿ごと地面に叩きつけたことで、彼らのいる一帯に巨大な穴ができた。
「"無念" 本当に残念でならない。次は会える日が来れば、必ず滾らせてくれよ」
摩瓈爾奠 亜鹿。
鬼神遭遇時の命ストック数 53。
神格前の交戦により、マイナス6。
神格時残り命ストック数47。それを、たったの一撃で全て削った鬼神の圧勝で幕は降りる。
「ーー"完了" レヴァンドフスキ、任務は遂行した」
「そ、そのようですね。お疲れ様でした。
(ほとんど見えなかったが、今の状況を見ればわかる。やはり、敵対しなくてよかった)」
「"撤退" 悪いが拙者、少し気分が悪い。今後のことはまた今度話をしよう。お主はお主でやるべきことをやっててくれ」
「わ、わかりました! 諸々終わらせておきます」
「"合意" では拙者は、、」
虚無感を抱き、大きめの溜息をついた鬼神は、神格を解く。そして、その場を後にしようとした、、その時だった。
「ーー"か、か、感涙!!!!"」
突如大声で叫びながら、笑顔を浮かべ、ある一点を凝視し始めた。
その様子を見ていたレヴァンドフスキたちも、慌てながら彼の見つめる方向が映るモニターを凝視する。
「ーー"再会!!!!" やはりお主か! お主だな?! カッハッハッ! 今しがた落ち込んでいたところ、最高のタイミングだ!! さぁ来い!!」
去無頼を拾い、構え、楽しげにする鬼神に向かっていく一人の男。
真っ白い肌、左頬には痛々しい大きなクロス傷があり、鉄紺の死装束を着ていた。
男は前方上空から、巨大な鎌を片手に鬼神に突撃する。
ーー両者激突。鎌と2本の刀がぶつかると同時に、凄まじい衝撃波が発生する。
「なんだなんだ!! 今度は何が起きてる?!」
それをモニターから見つめるレヴァンドフスキ一向は、ただただ慌てふためいていた。
それから間もなくして、鎌を持った男は鬼神から離れた。
「ーー"懐古!!" 久しいではないか、ヴァイスよ!!」
男の名はモルト・ヴァイス。重度のトラウマで記憶喪失となり、その影響で人間不信に。ワンテンポ遅れてしか話すことが出来ないが、神道十二界第八級上位 『死神』である。
「・ ・ ・ッ、相変わらず元気だな権」
「"不変!!" お主も相変わらず喋るのが遅いな!! カッハッハッ、何はともあれ再会を嬉しく思うぞ! じゃあ挨拶も済んだことだし、本気でやり合おうぞ!!」
「・ ・ ・ッ、バカを言うな。お前の神力を感じたから会いにきただけだ」
「"疑問!!" 神力を感じた? それはあり得ない。拙者、ちゃんと霄壌断絶を発動しておったからな!」
「・ ・ ・ッ、それは知ってる。戦いが終わるのを待っていた。お前、加勢したらキレるだろ?」
「"疑問!!" どういうことだ??」
「・ ・ ・ッ、お前の方が早かったが、俺も鹿を狙っていた。何故なら、俺が協力している国がここの隣国 チェコ共和国だからだ」
「"納得!!" そうかそうか、お主は隣国で目覚めたのか! カッハッハッ、デウス同様、隣の国とは。
やはり拙者たちには、見えぬ糸のようなものがあるのかもしれんな! ってことで、やり合おうぞ!!」
「・ ・ ・ッ、断る。俺はお前の顔を見にきただけだからな。・ ・ ・ッ、もう帰るよ」
「"何故!!" もう行くのか? 折角じゃ、もうちょっと話そうではないか! あわよくば、天霊に襲撃され、その身で国を守り抜いた英雄様と、拳をだな、、」
「・ ・ ・ッ、拳は交えない。・ ・ ・ッ、あと天霊の件はもう随分と前の話だ。掘り返さないでくれ」
「"不明!!" とてつもない功績だと言うのに。まぁよい、久方ぶりの再会を楽しもうぞ!!」
なんだよ、楽しむって……
それから2人は、近況報告も兼ねて、暫く語り合った。
そんな最中、
(( だだ!! だだ?? 聞こえるだだか?))
どこから話しているかはわからないが、2人にだけ聞こえる訛った女性の声が響き渡る。
「・ ・ ・ッ、権 これは……」
「"確定!!" 間違いない、これは『山神』マウナ・バルハールの山声だ」
※山声
マーキングした特定の人物にのみ聞こえる山の声。山があれば、使用者がどこにいても声を届けることができる。(届けるだけで、会話はできない)
(( あ、聞いても返事はねぇか、わはは!
まぁいいや、え〜〜と、だだ!! 神道十二界に告ぐ。明日の正午、場所 ニューカレドニア首都ヌメア。主催、天使神による神座を開催するだだ。これは決定事項であり、拒否はできないだだ。以上だだ))
そして、声は聞こえなくなる。それを耳にした2人は驚き、顔を見合わせた。
「ーー"未知!!" まさか、最下位の天使神が主催とはな。こんなこと今までにあったか?」
※最下位
神道十二界の中で、十二級に位置するもの。
「・ ・ ・ッ、ないな。余程のことなんだろう。・ ・ ・ッ、とりあえず支度をしてニューカレドニアに向かうとしよう」
「"同意!!" 拙者もそうするとしよう!!」
2人はその場を後にした。




