Ep.01(41) 凶禍 権
ーー地球。そこは、数多の生物が存在する星。
そして、その星の統治種と言っても過言ではない生物、それは"人間"。
だが、それも最早昔の話。今は、謎の力を要した"人外"と呼ばれる者たちが各地で蠢く世界。幾つもの国や地域では、安寧とは程遠い、人類の経験したことのない未知が広がっていた。
そんな数国の内の1国で、またしても人外による被害が出ていた。
〈ポーランド イェレニャ・グラ〉
ここイェレニャ・グラは、ポーランドの南西部に位置し、近くにはクルコノシェ山脈もある、とてものどかな街である。
その街の中に位置するとある教会。そこに男は足を運んでいた。
男は、教会の外で待っていた牧師に、何やら焦った表情且つ早口で何かを伝えると、駆け足で1人教会の中へと入った。
それと同時に、スーツを着た屈強な男たちが教会周辺を囲んだ。
何だ何だ、なんかあんのか??
異様な雰囲気漂う教会付近には、あっという間に人だかりができた。
「ーーちょいと、そこのスーツの! あんただよあんた」
・ ・ ・
「何だね、無視かい。最近の若いもんわ……まぁいい、すまないが中へ入れとくれ。今日のお祈りがまだなんじゃよ」
・ ・ ・
「これっ! お祈りをするんだから、はやく退かないか!!」
「おばあさん、こいつらダメだよ。何言っても返事しない。ロボだロボ」
「ロボ? なんじゃいそれは。しかし困ったのぉ」
教会を囲むスーツの男たちは、住民に何を聞かれても答えないし、一歩たりとも動かない。ただただ真っ直ぐ前だけを見ていた。
そんな中、人だかりの片隅で、コソコソ話す2人の若者。
「ーーおい、聞いたか?」
「なんだよ」
「こいつら、大統領の護衛らしいぞ」
「は? 大統領って、レヴァンドフスキ大統領か!?」
「バカッ! 声がデケぇよ!!……俺はな、この人だかりが出来る前に、牧師と大統領が話してるのを見たんだよ。つまり、いま教会の中には大統領がいる」
このヒソヒソ話の内容は全て事実で、今この教会の中にいるのは、ポーランド共和国大統領 イグナチ・レヴァンドフスキである。
「そ、それが本当だとして、なんでこの街に?
あ……わかった。大統領が来た理由! あれだ、あの"獣"の退治じゃないか?!」
「いやいや、それはねぇだろ。だって、前に政府はその獣の捕獲失敗して数名の死者が出たって言ってたろ? それで完全に手を引いたって俺のばあちゃんが言ってた」
「そのばあちゃん情報当てになんのかよ」
最初はヒソヒソと話をしていたのに、色々と考えるうちに声はデカくなり、次第に2人の会話は、周りの人間にも伝わる。そして、教会付近が一段と騒がしくなった。
そんな中、
「ーーおい! お前ら政府の役人ってのは本当か!? だとしたら何しに来やがった!! この腰抜けどもが!!」
昼前だというのに、酒を片手に荒れまくる40代後半の男が、大統領の護衛の1人に掴みかかる。
「どうした? んあ?! 何とか言えよ、この腰抜け!!」
今にも殴りかかりそうな彼を、間一髪のところで友人が止めに入る。
「おいやめろよマレック。落ち着け!!」
「離せ!! 絶対許さねぇ!! 離せッ!」
「やめろ! お前もニュースは見たろ!? 最近首都に巨大な生命体が出たり、それを殺した脅威的な人外が出たりで、政府も大変なんだ! 気持ちはわかるが、とりあえず落ち着け!!」
「落ち着いてられるか!! 巨大生物? 人外? そんなもん知るか!! 俺はその前の話をしてるんだ!! いいか! このクソ役人どもは、意気揚々とあの『獣』を駆除しに行った。ところが結果は返り討ち。挙句、兵士を見捨てて撤退させやがった!!
ーークソ……クソッ……。その兵士の中には俺の息子もいたんだ。……何で、何で見捨てた!! 答えろ!!」
彼が激昂していたのにはちゃんと理由があった。
それは、今から1ヶ月前のことである。
〜〜〜〜
一月前。変異種による暴動が各国で収束し始めた頃、チェコ共和国の北部とポーランドの南西に位置するクルコノシェ山脈にて事件が起きた。
「ーーはい、997 警察です。事件ですか、事故で、」
「た、助けてくれ!! ば、化け物だ!! 助けてくれ!!」
「もしもし?! どうされました!? 落ち着いて!!ーーもしもし? もしもし!!」
この電話からすぐ、位置情報を割り出した警察は、現場とされているクルコノシェ山脈に向かった。
〈クルコノシェ山脈〉
「こ、これは……」
「惨すぎる……」
通報から暫くして、現場に駆けつけた彼らが目にしたのは、複数人の死体だった。
それもただの死体ではなく、臓器や脳みそがそこら中に飛び散り、体は原型が殆どないほどにグチャグチャにされていた。
「何をどうすればここまで残虐に……」
全員が呆気に取られる中、1人の男があるものを見つける。
「こ、これを見てください!!」
そこには、熊や猪とは思えないほどの大きな足跡。さらに、その足跡の指先は刃物のように鋭く尖っていた。そして、それが向かう先には大量の血痕。
この先にいったい何がいるんだ?
全員が足跡の先を見つめていたその時だった、
「ギャァァ!!」
"グチャ、、ボキッ、、"
その声と音は、背中の方から聞こえた。加えて、全身に感じたことのない視線と、恐怖が突き刺さる。
「ギャァァ!! やめろ!! や、め、、」
"グチャ、、ボキッ、、ブジュッ、、"
見なくてもわかる。また誰かが死んだ。振り返るべきか、いや無理だ。動かない。逃げる? いやもっと無理だ。なら死ぬか?
未だ息のあるものたちは一斉に思考を巡らせた。
「あっ、、あっ、、あ゛あ゛ぁぁあ!!」
そんな緊張と恐怖の中で、最後尾にいた1人の男性が走り出す。
今にも転げそうなほどに、勢いよく駆け出した彼は、身動きの取れない仲間たちを横切り、全員の視界に映る位置で殺された。
"グチャ、、ボキッ、、ブジュッ、、"
「アハ……アハハ……アハハハハハハッ!! 怖い? ねぇねぇ、怖い? アハハハハハハッ!! 美味しそう、食べたい……食べたい。いいよね? 今まで食べられてきたんだからさぁ!!!!」
一同の眼前で、逃げた男を笑いながら踏み潰し、ツメで必要以上に切り裂いていたのは、やはり熊や猪ではなかった。
尖ったツノと爪、ゴツゴツした手足。縦ではなく横に巨大なそれを見て、直感的に皆がこう思った。
あれはーー鹿だ。
「アハハハハハハッ、楽しい、楽しい!! 沢山虐げられた、沢山殺された。今度は我々の番。自然を元の姿に戻すんだ! 腐った人間どもは皆殺しだ!! アハハハハハハッ!!」
それから数時間後、この情報は一気に国中に知れ渡り、政府は軍を動かし、駆除に向かった。
ーーだが、鹿の強さを前に成す術なく、彼らは撤退。数名の死者と、生死不明者を出す結果となった。
〜〜〜〜
「ーーそれから数日後だ、こいつらが家に来た。その時、この腰抜けどもは俺に何て言ったと思うか? 「立派な最期でした」だとよ。俺は意味がわからなかった。だから、「息子は死んだのか?」と何度も何度も聞いた。だが、分からないとしか言わない。ーーふざけるな……ふざけるなっ!!!! まだ息子は死んでない! こんな所で突っ立ってる暇があるなら、頼むから探してやってくれよ!! 頼むよ……」
膝から崩れ落ち、涙をボロボロと流すマレックの姿を見て、皆が口を閉じた。
そんな中、教会の中から「カタ、カタ」と足音がゆっくりと近づいてくるのがわかった。
そして、足音はマレックのすぐ近くで止まる。
「ーーマレックさん」
その言葉とともに、マレックの肩に手の震えが伝わる。
これは、怒りか? 恐れか?
マレックはゆっくりと顔を上げた。そこには、哀愁なのか、覚悟なのか。なんとも言い表せない表情を浮かべた大統領の姿があった。
「息子さんのことは本当に申し訳ない。あの時は、撤退する以外選択肢がなかった。当然、助けようとも考えたが、あそこで踏み出せば更に大勢が死んでいた。本当にすまない。でもこれだけは信じて欲しい。彼らを見捨てたわけではない。我々は必ず助け出す。そのために準備をしていたということだけは……どうか信じて欲しい」
肩に置かれた手と、彼の表情を見ればわかる。「本気」なんだと。
でも……
「な、なら、ど、どうやるんだ。気持ちだけ伝えられても、こっちはどうすればいいんだ! 具体的なことを教えてくれ。何故ここに来たのかとか。俺にはそれを知る権利がある!!」
歯を食いしばり、睨みつける彼を見た大統領は、肩から手を離し、立ち上がり、
「えぇ、当然です。ここに来た理由はーー」
彼が話し出そうとしたその時、教会の屋根の一部が激しい音とともに破壊される。それと同時に、皆の視線が上を向く。
するとそこには、陽の光のせいで、よく見えないが、腰に刀のようなものを2本携える人が立っていた。
「スゥーー、、 "悲哀!!" 悲しき思いをしたものは、未来永劫、幸せでなければならない!! そしてそれを守るは拙者の使命。天明様の定めた、決して破ってはならぬ掟である!!」
そういうと、屋根の瓦礫を蹴散らし、大統領の目の前に飛び降りた。
「"参上!!" 随分と待たせてしまって申し訳ない! だがもう安心しろ、『この国との契約に従い』、悪しき魔戎の討伐は、拙者"凶禍 権"が引き受けた!!」
救世……主?!
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突如現れたこと、大怪我or死亡してもおかしくない高さがある教会の屋根から飛び降り、無傷であること、そして訳の分からない口上を述べたこと。
その全てが理解のできない行動であったが、何よりも、彼に対し1番理解出来ず、驚いたのは、その男の姿だった。
男は、全身赤黒い皮膚に、頭には2本のツノ。そして、何故だか知らないが半裸。
両腰には、去無頼と刻まれた刀を携えていた。
まぁ言っちゃ悪いが、普通じゃない。こんなふざけた見た目をした男が、急に現れ、急に喋り出したのでは、理解できないのも無理はない。しばらく静寂が続いた。
「……"不快!!" 拙者の見事で華やかな登場に拍手喝采がない?! あり得ん! おい、レヴァンドフスキ!! ここにいる人族どもには感情がないのか!?」
勢いよくカッコつけて登場したものの、無反応な住民に対し、少しだけへそを曲げた。
「す、すみません。 その、まだ皆に説明していなくて……(というか、今のところ説明する予定はなかったんだが。何故出てきた……もう仕方ない!! 出てきてしまった以上は)」
この滑りきった、じゃなく、静まり返った空気を一変させるため、レヴァンドフスキは彼の説明を始めようとしたのだが、
「何だこのふざけたコスプレ野郎は。レヴァンドフスキ大統領、俺は息子を救ってくれってお願いしたんだよ。まさか、こんな変態に頼るつもりじゃないだろうな?」
そのマレックの発言を聞き周りがヘラヘラする中、大統領含む数名に緊張が走る。
凶禍 権が現れて、数分が経つだろうか。
未だマレック同様、大半の人が彼を『コスプレした変態野郎』と思っている。
しかし、中には彼のことを強烈に認識しているものたちがいた。
「ちょ、ちょっとあんた!! 謝りな!! 息子を助けたいのなら、今すぐ謝りな!!!」
マレックの発言に、お祈りをしに足を運んでいたお婆さんが激怒し始めた。
「な、何だよ急に……」
「いいから謝りな!! あんた息子に会いたくはないのかい!?」
「会いたい決まってるだろ! でも何でこの変態に謝る必要があるんだよ!!」
「謝る必要? 当然あるさ。知らないのかい? この御方は、先日首都に出現した巨大生物を、たったの一撃で葬ったあの鬼神様だよ」
お婆さんの発言は皆に衝撃を与えた。ただのうるさいコスプレ野郎かと思いきや、凶禍 権は、この国に出現した人外であった。
「う、嘘だろ…… それは本当か?」
「あぁ間違いないよ。私はあのとき孫に会いに首都いたんだ。見間違いじゃない。そうだろ、レヴァンドフスキ大統領」
緩んだ空気から一変、全体に緊張が走る。
「ーーその通りだ。この御方は、鬼神 凶禍 権様。
先日、首都に出現した巨大生命体を単独で駆除し、この国を救って下さった大恩神。そして今回、クルコノシェ山脈に住み着く化け物の討伐に名乗りを挙げて下さった」
大統領自らが、声高らかにそういうのだから、彼が鬼神というのは間違いないのだろう。
しかし、どうして凶悪だと言われている人外が人に手を差し伸べるのか。現段階ではわからないことが多すぎた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その野郎、、その御方が鬼神様なのは、まぁわかったよ。でも、何でこの国に手を貸す? 理解ができない。大統領、教えてくれ!」
皆の視線がレヴァンドフスキに集まる中、
「"無駄!!" さっきから黙って聞いていれば……何をごちゃごちゃとしておる! さっさっとせい!! 拙者、待つのは好かん」
いやいや、鬼神様が顔を出すから……
「なんじゃ?」
「い、いえ!!(そうだった。心読まれるんだった)
もう少しだけお待ち頂けないでしょうか? ここの住民にだけでも、まず経緯を説明しないと……」
「"認知!!" そんなことはわかっておる。それをさっさとしろと言っているんだ全く。……はぁ、仕方ない! 10分待つ。それまでに終わらせろ。拙者は、そこら辺をウロチョロしておく。よいな?」
「は、はい!!」
そういうと、鬼神はその場から姿を消した。
「き、消えた!? 驚いた……本当に神様なんだな……」
「あぁ、私もまだ慣れないよ。じゃあ、せっかく10分貰ったんだ。手短に何があったのか話をする。全員聞いてくれ」
それは今から数日遡る。
〜〜〜〜
ポーランド共和国首都ワルシャワ。この地にも、巨大生命体の出現があり、他諸国同様、応戦した。
しかし、結果は言うまでもなく、全員がこの国の未来を諦めた。そんな中、彼は突如として現れた。
空中を飛び回る巨大生命体よりも遥頭上で、手を合わせ、目を瞑っていた。
"悲哀!!" 生まれる必要のない哀れな害蟲よ。今、拙者が楽に……
手を合わせ終わった男は、辺りをキョロキョロ見渡し、
「"発見!!" あれがこの国の長だな」
そういうと、男は抑えていた力を解放し、刀を抜いた。
そして、現場から離れた場所にいるレヴァンドフスキの脳内に語りかけた。
《"再誕!!" 再び頂きしこの命、天明様の全てに捧げましょう。拙者、通りすがりの神道十二界 上位 "鬼神"、凶禍 権と申す。天明様の命に従いーー助太刀致す!!》
登場してわずか数秒。そのたった数秒の間に、暴れていた巨大生物を、携えていた刀で駆逐。
その際に、対象の片目だけをくり抜き、「鬼神がこの地を救ったぞ!!」と叫んだのち、その場を後にした彼は、レヴァンドフスキのいる場所に姿を見せた。
「"初見!!" 改めて、拙者 神道十二界 上位 "鬼神" 凶禍 権と申す。お主がこの国の長で間違いないな? 先ほどの拙者の自己紹介は聞こえておったか? お主にだけ聞こえるように操作したんだが。ところで、拙者の華麗な刀捌きは見てくれたか? ハッハ! 凄いだろ!! あ、そうそう。これは手土産、※蝶蟲の目玉だ。さぁ、受け取ってくれ」
※蝶蟲
蝶々の見た目をした巨大生物。他の害蟲と比べるとやや小さいが、羽が無駄にでかいのが特徴。日本に出現した訃ヶ蟲などと同種。
地面に投げ捨てられた蝶蟲の目玉と、異様な姿をする男を見て、室内に、奇声と怒声が響き渡った。
"だ、誰だこいつは!!??"
"目玉だ、、血がついてる……きっとあの化け物の目玉だ!!"
"ならこいつは人外じゃないのか!? 早く殺せ!!"
レヴァンドフスキがいたのは軍の司令室。
一同が数秒前に起きた、巨大生命体の突如とした消滅に頭を抱えていた最中、半裸で鬼のような見た目をした男が姿を見せたことで、さらに混乱していた。
しかし、この男だけは違った。皆が騒ぎ立ててるところ、レヴァンドフスキは、凶禍 権に向かってゆっくりと歩き出した。
「だ、大統領!! お下がりください!」
彼の近くにいた数名が、レヴァンドフスキの衣服を引っ張り、制止させようとしたが、彼はそれを全て振り払い、凶禍 権の目の前に立った。
「……お、鬼神様、とお呼びすればよろしいですか?」
「"愚問!!" なんとでも呼んでくれ!」
「で、では鬼神様。先程は、この国の窮地を救ってくださり、本当にありがとうございました」
「"当然!!" 気にするな! 任を全うしただけのことだ!」
意外にも普通に会話する2人。とりあえず、危険な雰囲気は全く感じなかった。
「ところで鬼神様、1つよろしいでしょうか?」
「"当然!!" 遠慮せず、何でも聞いてくれ!」
「ありがとうございます。その、何故この国を救って下さったのですか? 私の聞いた話では、あなた方は別の世界から来られた謂わば異人。なのにどうして、関係のない我々を救って下さったのですか?」
それは素朴な疑問だった。現状、人外が出現したとされ、連日ニュースになっている国(アメリカ・中国・ロシア・イギリス・スウェーデン)は、どれも甚大な被害が出ている。つまり、人外が危険な存在という意味だ。しかし、彼はどうだろう。被害を与えるどころか、窮地を救ってくれた。もしこれが偽りの善ではなく、真の善なら……
彼の何の変哲もない素朴な質問には、今後のポーランドの命運が掛かっていた。
一方で、いろんな思いが込められていることなど露知らず、凶禍 権はその質問を嘲笑った。
「"愚問!!" お主は間抜けか? 神が人を救うは当然のこと。そんな畏まった面で「何故?」と聞かれても「当たり前」と答えるしかなかろう」
呆れた表情を浮かべる男を見て、レヴァンドフスキは安堵の笑みを浮かべた。
「"疑問!!" 何故笑っておる? あぁ、そういうことか。お主は拙者が悪に見えたのだな? 全く、失敬なやつだ」
「いえいえ、そんなわけじゃ」
「建前はよい。 まぁ何だ、でも安心せい。拙者がこの国の王となったからには、もう安泰じゃ。安心して暮らすがよい!」
え……王? 国? え??
「"疑問!!" 何を戸惑っているんだ? 拙者はこの国で1番強い、即ち王に相応しい! ……うん? 拙者が勘違いしているのか? 王とは強気者がするのであって……」
熱弁すればするほど、頭のクエスチョンマークの増えるレヴァンドフスキを見て、
「"か、誤認!!" そうだそうだ、この世界では強さは関係ないんだった! ワッハッハ! 拙者としたことが! いかんいかん……」
徐々にというか、元から赤い皮膚が更に赤くなるのがハッキリとわかった。
「"退散!!" で、では拙者はもう帰るとするわっ! た、達者でな!!」
そういい、この場を立ち去ろうとする彼を、レヴァンドフスキは止めた。
「お待ちください!!(やばい、このままでは行かれてしまう。どうする? 独断だが、あの手を使うしかないか? 迷うな、ずっと決めてたことだ!!)
鬼神様、無礼を承知で言いますが、我々と正式に手を組んでもらえないでしょうか?!」
大統領のその発言に、立ち去ろうとしていた凶禍 権の足が止まる。
しかし、その発言にいち早く反応したのは彼ではなく、この場に居合わせた政府の者たちだった。
"お待ちください大統領!! 手を組む!? それはどういう意味ですか!!"
"あり得ない!! そもそも、我々は未だこの者が何なのかさっぱりわかっていないんですよ? それなのに……"
"大統領!! 頭を冷やしてください! この数分のやりとりだけで、何故そんな決断をしようとしてるのですか?!"
彼らの意見は至極真っ当。鬼神と出会ってまだ数分。しかも相手は人ではなく人外。少し話をしただけで「手を組む」など、あり得ない話だ。
しかし彼は、自分に飛び交う罵声に対して、怯むどころか、真っ向から向き合った。
「皆んな聞いてくれ!! 私は、諸外国に人外が出現した時から考えていた。もし、我が国にも人外が出現したら……と。皆んなはどうする? 立ち向かうか? 抗うか? 山脈の化け物には返り討ちに遭い、首都に出現した巨大生命体には何もできなかった。もうわかってるだろ? 我々だけじゃ、人間では、この先の世界では通用しない。生半可な覚悟じゃ生きていけない! だから皆んな分かってくれ! これはこの国を守るための最善策なんだ!!」
普段は冷静で、あまり声を荒げない彼が、こんなにも必死に語る姿と、その話の内容には、頷く以外なかった。
だが、それでも「はいわかりました」と簡単に言うことはできない。それだけ人外が未知で脅威ということだ。
「大統領の言い分もわかります。我々では脅威に抗えない、その通りだと思います。ですが、この男もまた脅威の1つじゃないですか? そんな簡単に信用できません」
「信用できない……か。つまり、それが君たちが今抱いてる不安要素ということだね。なら、その不安要素さえ取り除けば問題はないということだ」
そういうと、レヴァンドフスキは振り返り、
「鬼神様、今の話で分かってもらえたかはわかりませんがーー」
「"承知!!" 言わんでも人族の考えはわかる。要は、拙者が信用・信頼されればいい。つまり、この国の救世主に。そういうことだろ?」
「……はい、おっしゃる通りです」
「ーー"合意!!" よかろう。お主の策に乗るとする。ちょうど、拠点も欲しかったしな。
では、早速皆に説明をしてくれ。拙者は疾うの昔に理解しているが、皆はポカ〜〜ンだろう。手を組む以上、隠し事はなしだ」
「はい、ありがとうございます!!ーーでは皆んな聞いてくれ。これから鬼神様には、国民からの信用と信頼を集めてもらう。そのために、まずはクルコノシェ山脈の化け物を退治してもらう。そして、その現場をリアルタイムで配信する」
〜〜〜〜
そして現在。
「鬼神様がクルコノシェ山脈の化け物を……じゃあ、俺の息子を助けてくれるってことか?」
「その通りです。時間は掛かりましたが、息子さんは必ず助け出します。鬼神様も了承済みです」
そういうと、マレックは膝から崩れ落ち、ボロボロと涙を流した。
「牧師さんの許可を得て、ここの教会を拠点にさしてもらいました。ワルシャワから必要物質が届き次第、作戦を決行します。皆さんに危害が及ばないよう尽力しますが、万が一のことを考えて、今日は出来るだけ家からは出ないようご協力お願いします」
それから間もなく、クルコノシェ山脈付近の地域全てに、緊急警報が出され、討伐の準備が始まった。
そして、、
〈クルコノシェ山脈〉
「ーー鬼神様、準備はよろしいですか?」
「"愚問!!" いつでもいいぞ」
「では改めて作戦を確認します。行方不明者47名の捜索と救出、並びにその地に生息する化け物の討伐が今回の任務です。それではご武運を」
「"合点!!" この感じ……うむ、懐かしいな。天明様はかつてこう仰った。神道の本分は、『守ると決めた国を必ず守ること』 世界が変わろうが、この言葉に変わりはない。そして、拙者がそれに背くわけがない。
ーーではでは、この地に住む悪しき魔戎の命を頂戴するとしようか」




