Ep.37 因縁
〈イギリス〉
首都ロンドン壊滅からすぐのこと、その主犯である人外アムス・ソレアは、完膚なきまでにこの国の全ての制圧を始めた。
国の中心人物の処刑と公開。軍基地の破壊に、国外への移動と情報の遮断。
次々に起こる前例のなさすぎる事態を前に、国は大きく揺れ、
"もう、誰も頼りにならない"
"この国は終わった"
"自分の身は自分で……"
全ての決定権は国民1人1人に委ねられた。
だが、アムス・ソレアはそれすら許さなかった。
〈同国マンチェスター:エティハド・スタジアム入口〉
無造作に並べられた大量の車。それはまるでバリケード。
何のために作ったのか、なぜそうする必要があったのか。
その答えは、スタジアム内に避難した大勢の地元民の怯えた表情と、彼女の登場が全てを物語った。
「ーー考えることを辞めなさい。脳を止めなさい。自分はただの餌だと自覚しなさい。
それが出来ると約束し、ソレアに従うのであれば、"今は"殺さない」
アムス・ソレアは、次なる標的としてこの国の一般市民を狙い始めていた。
それを察知した(というより、アムス・ソレア自身が、狙うと声明を発表した)各都市の市民は、こうして彼女から身を守ろうと、武器を取り、必死に争った。
「黙れ人外!! お前と対話はしない。こちらの望みはただ1つ! この国から出て行け!!」
拡声器ごしにアムス・ソレアに檄を飛ばす市長と、それを囲い、彼女を睨みつける警察と、両手に武器を持つ屈強な一般市民。
「さぁ、後ろにいる"売国奴"とともに、今すぐこの国から出て行け!!」
その言葉を合図に、彼らは発砲した。
「おおおおおい!! 私に当たったらどうする気だ?! 国王だぞ!?」
ソレアから少し離れた場所で戦況を見守っていた現(元)国王オリバー・フレッグに襲いかかる銃の雨。
気づかれていないとばかり思っていた矢先の出来事に、彼は萎縮し、その場にうずくまった。ーーが、何たる幸運の持ち主。避けることなく奇跡的に一発も被弾しなかった。
「お……おぉ。奇跡……だ。はは」
「おい下手くそ!! ちゃんと狙えよ!!」
「狙いましたが、車が邪魔で……」
「クソッ!! ならもう1回だ! 次は外すなよ!?」
再びオリバーに向けられた銃口。しかし、弾は放たれることなく、銃を構えた者たちが次々に倒れ始めた。
「な……何してる……」
驚きのあまり一瞬頭が真っ白に。だが、目の前には強大な敵。悠長にしている暇はない。
市長は近くで倒れた1人に手を伸ばし、「起きれるか?」と声をかけながらその者に触れた。
そして気がつき、腰を抜かす。
「し、死んでる!!!!」
そう、彼らはただ倒れたのではなく、心臓が止まり、死んだから倒れたのだ。
「ば……馬鹿げてる……こんなっ、、こんな……」
初めて体験する"異常"を前に、彼から表情が消えた。
「ーーアッハハハハッ!!!! いまの数秒で面白いことが沢山起きたわね(笑) まず、オリバー君。キミは本当に運がいい。あれだけの弾が1発も当たらないとは……本当にキミは面白いよ」
「御言葉ですが、当たり前です!! 貴方様の行く末を見ずに死ねませんから」
オリバー・フレッグ……ふっ、こいつは本当に面白い人間だ。少し、興味が湧いた。大事にしてやろう。
「そうか。生きててよかったよ。
次にそこの市長。キミはいい表情をするね。魔戎が悦ぶ滑稽な面だ。そんなキミに、知りたいことの答えをくれてやろう」
・ ・ ・
あらあら、気絶しちゃってるね。
市長は恐怖のあまり意識が飛んだ。
「じゃあもういいや。あとは奴隷の確保をしますか。はい残りの皆さ〜〜ん、抵抗も、思考も、生きることも辞めて、こっちに来てくださ〜〜い。拒めば、いますぐに確実な死が、逆に拒まず従えば、運にもよるけど生きれるかも? しれないよ? どうする?」
そういいながら、彼女は片手で車を持ち上げ、退かし、自ら道を作る。
そして、入り口で待ち構えていた彼らへと徐々に近づく。
「どうするの? そんなに長くは待たないわ。今すぐ決めて、今すぐ行動しなさい。
じゃなきゃ、問答無用で殺します」
迫る恐怖に体が震え、彼女の言葉の意味すら理解できない。これは最早、死人も同然。
だが、彼らの内にある、人としての本能はまだ死んでいなかった。
手に持った拳銃を自然と彼女に向け、"ドンッ"、"ドンッ"と1人が発砲。
それに呼応するかのように、銃を持つ全員が彼女に弾を撃ち込んだ。ーーがしかし、
「はぁ、残念無念。興味ないんですよね、そういう"無意味"」
弾は彼女に直撃した、何発、何十発と。
だが、貫通はせず、ただ体に当たっただけ。丸めた消しゴムのカスが当たったかのように、彼女は弾が触れた箇所をそっと叩いた。
「時間も選択を与えた。なのにその結果がこれ。非常に残念です。ってことで、死んでください」
そう発した瞬間、入口前にいた約200名もの人間が、一気に倒れ、絶命した。
「じゃあオリバー君。次は中の掃除に行こうか。
ほら、早くこっちに来なさい」
「は、はい!!」
ソレアの作った道を辿り、死体を避けながら彼女の横へ。
「ーー『間』」
オリバーが近くに来たのを確認後、彼女は従操『間』をスタジアム全域に展開した。
「今のはなんです??」
「間だよ。これはね、対神通力者にはそこまでの効果はないけど、対それ以外なら効果は抜群。これを使うことで、このスタジアムを囲うことができ、中の人間は外へ出られない。=逃げれない」
「なるほど! 1匹足りとも逃がさないということですね!」
「そゆこと。じゃ行こうか」
改めて間とは、人の目でも視認可能な結界。内側から発生する神力を、外に逃がさないよう抑え込む力。(限度あり)
また、結界外から内側に侵入することは出来ない。(発動者の許可が有れば侵入可能+外からの破壊も可能)となる。
これは、あくまでも対神通力者の話で、それ以外の生物は例外。
人間が、従操によって作られたものを、破壊したり、避けたりは当然できない。よって、囲われた時点で、逃亡不可というわけだ。
かなり徹底されてるな。そんなに奴隷が欲しいのか?? ソレア様はそんな方には見えないが……。というより、さっきの市民たち。なぜ死んだ?? 何かしたようには見えなかったが……。
「キミキミ、学習したまえよ。思考、全部聞こえてるよ??」
「あ!! 大変失礼しました!! 煩わしかったですよね?」
「うん、とてもね(笑)。でも、ごく普通のことだから責めたりはしないよ。ただね、聞きたいことがあるのなら聞きなさない。我慢することはストレスになるからね」
なな、なんとお優しい……。
「ありがとうございます!!!!」
「大袈裟ね(笑)。 えっとそれで、何だったかしら??」
「はい、僭越ながら。先程は、どのようにして市民を始末なさったのですか??」
市民の始末?? そんなの普通に……あ、そうか。確か、省いて説明したか。
「命源の話をしたのは覚えてる??」
「はい、当然です! 力の根源ってやつですよね?」
「そうよ。その時に、命源は"普者には影響を与えない"って言ったのも覚えるかしら?」
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
オリバーは立ち止まり、胸元からノートを取り出し、読み漁る。
「ーーあ、はい、思い出しました!! 命源は、空気中に大量に存在する気体で、我々人間には見えず、影響せず。です!」
「その通り。そこら中に命源という気体は存在している。だが害はない。つまり、普通にしていれば何の問題もなく生きていられる。
普通にしていればね」
「……そうか、そういうことですね!!
ソレア様は、市民の周辺にある命源を力に変えて、ぶつけたのですね!?」
「フッフッフ。惜しい、ほぼ正解ね。
市民の周辺にある命源を力に変えた。そこは合ってる。でも、"ぶつけた"ってところは間違い。ソレアは、命源を力に変えて、それを動かし、体内にある心臓に流し込んだのよ」
「な、なんですって!?」
あの時ソレアは、彼らに合間見えた瞬間に、周辺の命源を自身の神力に変換していた。
そして、タイミングを見てそれを彼らの体内に移動し、心臓に流し込んだ。
するとどうなるか。答えは簡単、神力という力が心臓内で暴発し、心臓は破裂。それによって、彼らは絶命に至ったのだ。
「何たる力……それを駆使すれば、他の神々も!」
「いや、それは無理だね。神力に変えた時点で気づかれるし、なんなら体に入る前に防がれるね。(入ったとしても、体内で分解されるから、100%殺せない)だから、対神通力者向きではない」
「そう……なんですか?」
「そうだよ。集中しないといけないし、操作をしながらになる。だから、かえって逆効果なんだ。対神通力者にはね。でも、普者は違う。防がれることはないし、その術もない。
だから我々神は、人間程度ならすぐに殺れる」
改めて彼女がどれだけ凄いのかを再認識したオリバー。だからこそ、いまから彼女がしようとしていることに納得がいかなかった。
「ーー大変失礼なのは承知の上です」
「なんだね?」
「私は、ソレア様に奴隷は必要ないかと思います。なぜなら、1人で何もかも出来るから。逆に奴隷を集めることで、貴方様の邪魔になる。なのに何故、こんな面倒なことを?」
「う〜〜ん、たしかにキミの言う通り、ソレアに奴隷は必要ない。全部できるし、いてもイライラする。性に合わない。でも何故集めるか。それは、金魚の糞を殺すためだよ」
金魚の糞??
「まぁあとは、仏陀から刻導に与えられた使命だからかな」
仏陀……前にも言っていた。多分、大物だろうな。
「その、仏陀様? という方が、奴隷を集めろと??」
「そうだよ。理由は分からないけど、あいつは頭がキレる。必ず、なんかの役に立つはずさ」
奴隷を使って出来ること……建築? 世話? 調査……いや、どれも違うな。なんなんだ一体……。
「まぁそんなこと気にしなくていいから、とりあえず質疑は終わりでいい? ちゃっちゃっと終わらせたいんだけど?」
「し、失礼しました! 残りは後で大丈夫です!」
「何よそれ。あるならいま言いなさい。まどろっこしい」
「ですが、」
「おい、ソレアを否定するなよ? せっかく好意を抱き始めたのに、頼むから壊させないでくれ」
しまった。やばい、耐えろ。耐えろ!!
「申し訳……ございません……」
「ーーま、いいよ。で、何? 他に聞きたいこと?」
耐えたぁぁぁ。
「はい、あの以前から仰られてる"刻導"とは一体?」
「あ〜〜、そういえば言ってなかったわね。
いいわ、教えてあげる。いずれ会うかもしれないしね。知ってて損はないわ」
ソレアは椅子に腰掛け、オリバーを呼びせる。
オリバーは一礼したのち、彼女の隣に座る。
「刻導とは、正しい"刻"を"導く"もの、を意味する。メンバーは6名で、
"太陽神"上位『アムス・ソレア』
"悪魔神"上位『怤會烝』
"疫病神"上位『症懺』
"貧乏神"中位『悪童』
見習い『ギムレット』。と、もう1人、最上位の"邪虚神"の計6名が刻導に名を連ねる。まぁ簡単に言うと、反神王勢力よ」
反神王勢力……なら神王勢力が、神道なんちゃらってやつらか。
「神道十二界ね。まぁそいつらだけじゃないけど、今のところソレアたちの標的は神道ってとこよ」
「因みに、戦力差はどのくらいあるんですか?」
「う〜〜ん、そうね。ぶっちゃけソレアたち、絶望的かな?」
「ほおほお……ってえぇ!!?? ぜ、絶望的!?」
「うん(笑)」
相変わらず面白い反応(笑)。
「ソレア様でも絶望的って……神道はそんなに……」
「いやいや、単体でいえば、一部を除いてだけど、そこまでの戦力差はない。問題なのは数よ」
「数??」
「そう、刻導が6人に対して、神道は12人以上。それ以外の勢力を合わせても、遠く及ばない。のに加えて、神道にいる"ある人物"は更にその数を増やすことができる。厄介でしょ〜〜?? あと、大きな問題ももう1つある。だから結構大変なのよね〜〜」
そうだったのか。楽勝、と思っていたが、意外と……。
「でも安心して。勝算はある。だから、こうして仏陀の言うことを聞いてるわけだし。
だから貴方も、勝ち馬に乗りたいならしっかりと手伝いなさいよ? 遅れても助けてあげないからね」
「分かりました。精一杯、援護できるよう努めます」
「ふふっ、いい心構えよ。なら、行こうか」
そうして、数日と経たないうちに、ソレアは約2500万人の奴隷を手にする。
これがのちに、千年の怒りを買うこととなる。




