Ep.35 心に住み着く男
絶対絶命、そんな状況の中、牛若と倒れる云大のちょうど真ん中に、上空から彼らの師"虎影"が舞い降りる。
「ホッホ、かなり疲弊しておるのぉ己ら。じゃが、胸を張れぃ。今日の経験が己らをさらに強くした」
威風堂々、彼が戦場に姿を見せただけで、危機的状況が一変する。
「さて、そこまで時間もかけたくなところじゃが、幾つか聞かないかんこともある。まずは、云大を回収するかのぉ」
そういうと、虎影は牛若に背を向け、倒れる云大に向かって歩き出し、彼をゆっくりと抱えた。
「モ……モォ!! なんだ今更テメェ!! この戦いに茶々いれるつもりかぁ!? 邪魔すんじゃねぇモォ! 云大は牛若様の餌だモォ!!!!」
背を向ける虎影に襲い掛かろうとする牛若。
しかし、どれだけ威勢をよくしようと、どれだけ殺す気があろうと虎影の前では全て無意味。
勢いだけが前へと進み、牛若自身は一歩足りともその場から動けずにいた。
な、、動けないモォ!! こいつの神通力か?! ックソ……ここまできて……クソ。
「ホッホ、そう慌てるな。云大を逃したら自由にしてやる。ちと待て」
虎影は抱えた云大と一緒に、グレンとキゼルの元へと移動。
そのまま彼を2人に預けると、再び牛若の目の前へ移動した。
「ホッホ、ではまず、牛若の背後で暗躍しておる人物は誰じゃ? 牛若は誰と手を組んでおる?」
「は? 教えて欲しかったら拘束を解け! 話はそれからだ」
教えて欲しかったら……か。手を組んでおるのは確定じゃな。
「バカもの。拘束を解けば牛若が死ぬ。
それでは話にならんではないか。いいから答えよ。誰じゃ?」
「だから言わねぇよ!」
ふ〜〜、困った。どうするかのぉ。此方はあまり拷問が好きではない。だが情報はほしい。う〜〜ん。
「悩んでるとこ悪いが、牛若様は絶対に仲間を売らない。死んでもだ。わかったなら拘束を解け」
なんと?! 群れをなさない摩瓈爾奠から"仲間"という言葉が聞けるとは……。 つまり、背後におる人物は相当な手練れ、または人垂らしということじゃな。つまり……
「ホッホ、わかった。そこまで言うなら詮索はよそう。ーーおぉそうじゃった、1つ訂正してもよいか?」
「訂正? なんだ?」
「"茶々を入れるな"とさっき言ったな? それは間違いじゃ。師である此方が弟子たちの頑張りに水を差すような真似をするわけなかろう。単に、もうこの戦いは終わったから迎えに来ただけじゃよ」
「は?? 終わった……だと?
ウッシッ、ウッシッシッ〜〜〜〜!!
バカか老いぼれ! この戦いのどこが終わりだ? いいか? そのガキども3人が牛若様の腹の中で消化されて初めて、この戦いに終わりが来るんだよ!! それを今からするってのに、後から来たテメェが手出しすんじゃねぇモォ!!」
「ホッホ、そうかそうか。 哀れじゃのぉ。
力あっても学なし。故に、己の死すら悟れず。本当に哀れじゃのぉ」
そういうと、虎影は辺りを包んでいた従操『霄壌断絶』と、牛若にかけていた拘束を解いた。
「ほれっ、何をぼさっとしておるかグレンとキゼル!! はよぉこっちにこんか!!」
いやいや、こっちに来いって……牛はまだ、やる気満々だし……
「モォォォオ゛!! なぁにモォ勝った気でいやがる老いぼれ!! そんなに牛若様を愚弄するなら、いいだろう。テメェの前に、今から雷飯と炎飯を殺してやる! ウッシッシッ、弟子たちが死ぬ様をそこで見ておけ!!」
牛若はグレンとキゼルの元へと走り出したーーがしかし、
「あれ……」
動き出したと同時に、なぜだか分からないが前のめりに倒れた。
「何だ……なんなんだモォ!! 力が入らないモォ!! 何しやがった老いぼれ!!」
「ホッホ、此方は何もしておらんぞ? 勝手に倒れたのは己であろう?」
勝手に? 嘘だ、牛若様が……なんだ、何だこれ!? 力が……力が入らない!!
倒れたままジタバタする牛若を見て、
「ーーはぁ……正直"もう死ぬ"というやつの為に教示たくないのじゃが……仕方ないのぉ。ほれ、己の足を見てみれ」
言われた通り、自身の足を見た牛若は、驚きのあまり声を荒げた。
「あぁ……あぁ……あ、あ、足がァア゛!!」
視線の先には、ボロボロと崩れる自身の足の指。
それはまるで燃え尽きた炭のように、少しの風で崩れ、吹き飛ぶほどに、牛若の肉体は朽ち始めていた。
「ーー老いじゃよ」
「は? 老い……だと?」
「そうじゃ。己、何度再生した? 何度、加護による力を使った? まさか、加護が何の代償もないと思っておったのか? ふん、やはり哀れじゃよ己は」
「どういう意味だモォ!! う、うわぁ!!
あ、足が!! 足が、消えやがった!!」
そうこうしている内に、牛若の両足は完全に灰となり、ヒラヒラと宙を舞った。
「命源は、力を与える代わりに、使用者の寿命を奪う。これは神通力者も同様じゃ。じゃが、神通力者は力を使っても寿命は減らない。それは何故か。簡単じゃよ、神通力者には命源細胞があるからじゃ。細胞で、命源というものを力に変えることで、本来の命源の性質を打ち消し、新たな力に変換しておる。じゃがまぁ、使いすぎで細胞が消耗すれば、神通力者も己と同じように老いるがな」
「ってことは、牛若様の死因は……老衰……」
「少し違うのぉ。己が今そうなっておるのは、己を追い込んだ此方の弟子たちの力じゃ。何度も何度も再生を繰り返させ、己から命を奪い続けた。故に、これは老衰ではない。グレン、キゼル、云大……3人の勝利じゃよ」
「……ッソ、、ックソォォォォオ゛!!!」
そして、摩瓈爾奠"牛若"の全身が灰となって消え去った。
「ーーさて、よぉやったと褒めたいところじゃが、幾つか改善点もみつかった。それぞれに思い当たる節があると思う。とりあえず場所を変える。グレン! キゼル! はよぉこっちへ来い!!」
こうして、3人の始めて共闘は、勝利で幕を閉じた。
一方その頃、
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〈日本 富士樹海〉
「ーーここはどこの森だ? 何がどうなった?」
牛若とグレンたちの戦況を遠くから眺めていたが、彼らに気付かれたことでその場を立ち去ろうとした七福陰道の歩停損は、身に覚えのない森の中にいた。
……確かあの時、グレンに気付かれて、キゼルに襲われそうになった。だから私はすぐに空間移動を出した…… いや、そうだ。思い出した。
一瞬のことすぎて忘れてたけど、あのとき背後から誰かに引っ張られた。だから今ここにいる……ってことは、別の誰かが出した空間移動に引きづり込まれたってことか? いや違う。あれは空間移動じゃない。空間移動のようなものでそうじゃないもの……なんだいったい。
分からないことが多すぎて、彼女は困惑したが、すぐに空間移動を出し、その場から立ち去ろうとした。しかし、
「空間移動が出ない?! 何故だ? どういうことだ!!」
冷静さを欠いた彼女の一瞬の隙を、彼は見逃さなかった。
「ーー絶戯 『蹂躙』」
頭の上からとてつもない何かで押し潰されたかのように、彼女は膝をつき、両手で地面押した。
っな、、これは……重力!! つ……潰される!!
顔すらあげれない、争うその姿はまるで土下座。みっともなくも、彼女は必死に抵抗した。
それでも、動きを変えることすらできず、押し潰されないよう、必死になった。
やられた!! 一瞬の隙をつかれた。しかし、何だこの神通力は。重力? そんな神通力者は聞いたことがない。私は仏陀様の命を受けて、全員の神通力を把握してる。だが……こんな力は知らない!!
「っな、何者だ。 私になん、何の用だ!」
すると、彼女の真横を誰かが通過し、地面から生える草木を踏む音が遠くなる。
そして、「よいしょ」という声とともに、何者かが木に腰掛けたのがわかった。
「わ、私は暇じゃないんだ。いい加減名乗れ不届きものが。私が……だ、誰だかわかってるのか?」
「よく知ってるよ。七福陰道"歩停損"」
ようやく聞こえた男の声。だが、彼女は全くと言っていいほど聞き覚えがなかった。
「えっと、あと何だっけ? 俺が誰か……だったっけ?」
それは今から少し遡る。
〜〜〜〜
「ーー見つけた。あいつが3人の邪魔してる七福陰道か。心配だったから見に来たけど、ほんと※仏陀宗はクソだな」
※仏陀宗
仏陀を崇め、仕えるものたちの総称。
その幹部が七福陰道。
遠くから、榮多云大を洗脳する歩停損のさらに後方。
空いた時間で3人の様子を見に来ていたのは千年であった。
棚ぼた。3人を見に来ただけだったが、大物を発見。七福の1人を潰せば、隠れ上手の仏陀も姿を現すかな?
彼女の機微を観察し、一撃で仕留めるために息を押し殺し、タイミングを計る千年。そんな極限の集中状態の彼の心に、謎の声が響く。
〔よぉ。随分と集中してんじゃねぇか〕
突如聞こえる声に「はっ」とするも、すぐに不機嫌な表情を浮かべた。
「またお前か……。てっきり地球では話しかけてこないのかと思ってたよ」
〔ははっ、挨拶が遅くなって拗ねてんのか?〕
「拗ねてねぇよ!!」
〔まぁいいや。とりあえず体渡せ。お前じゃあいつを仕留められない〕
「出てきて早々、相変わらず失礼な奴だな。
俺にできないことはない。黙って傍観してろ」
〔い〜〜や、お前じゃ無理だ。お前は優しすぎる。大切なものどころか、そうじゃないものも救おうとする。そんなお前じゃ無理だ〕
「随分な物言いだな。名も知らないお前の意見なんか呑むわけねぇだろ。つうか、俺のことなら知ってます〜〜みたいな態度やめろ! ストーカーが!」
・ ・ ・
ありゃ、、言い過ぎた?
〔ーー前にも言ったろ。お前は俺だ。そして、俺はお前だ〕
出たぁぁ、厨二病発言!! こっちの世界で知った言葉だけど、こいつにピッタリじゃねぇかよ(笑)
「はいはい。いま集中してるから黙っててもらえるかなぁ? 名も知らないキミと話してる暇はないので」
〔ーー頼む。体を渡してくれ〕
おや?? これは本気のトーンだ。初めて聞く、こいつのこんな声。
「理由は? 理由もないのに体は渡せない」
〔理由……わからない〕
「は?! バカかてめぇ! なら貸すわけ、」
〔だがこれだけはハッキリとわかる。歩停損と太陽神だけは、俺が殺さなければならない〕
……な、何なんだよこいつ。今日はやけに怖ぇじゃねえかよ。
「り、理由になってねぇよ! つうか俺は忘れてねぇからな! 地球にきてすぐ、意識が朦朧とする俺を、お前が勝手に体乗っ取って、何人か殺しこと!!」
〔……あぁ、※変異種狩りのことか? 悪いが、あれは殺して正解だ。あいつら、殺人罪で投獄されていたが、変異の力で脱獄し、同じ変異者を狩って売り捌いていたクソ野郎どもだ。殺したことに後悔もなければ、間違いもない〕
※一話内容
「大有りだ!! 俺は殺しをしたくない!
だから、俺の体でそんなことをしたお前に、体を受け渡したくない!!」
〔いや、お前だって訃ヶ蟲殺したろ〕
「あれはいいんですぅ〜〜。害蟲は俺らのせいで生まれるから俺らでやらないとダメなんですぅ〜〜」
〔はぁ……だだを捏ねるなよ。性格つうか、感情はお前の許可なしで乗っ取れるが、体はお前の許可がないと無理なんだ。だから頼む。今回だけだ。変異種狩りの件も、ちゃんと後で謝るから。な?〕
ったく、マジで何なんだよこいつ。いつからか俺の中に勝手に住んで、なんかあれば体貸せぇ〜〜って。つうか、性格も乗っ取ってたの?! はぁ……めんどくさ。
「わぁったよ。その代わり!! 次はないからな? あと!! ちゃんと謝れよ! いいな?!」
〜〜〜〜
「えっと、あと何だっけ? 俺が誰か……だったか?
ーー俺の名前は、天 千年。お前が最後に聞く名だ」




