Ep.32 総力戦
ーー摩瓈爾奠。それは、魔戎にのみ命源から与えられる『権能』=一型の権能"命の複製"、二型の権能"身体強化+命源の纏化"、その両方を所持する魔戎の覚醒種。
第三等害種から第二等害種に繰り上がり、上位の神と同等またはそれ以上と格付けされるほどの生物である。
「いいな、力が漲る……モォ」
覚醒から暫く、自分の変化した体をじっくりと観察する。
「……おいおい、流石にやばくねぇか? どうするキゼル?」
云大・グレン・キゼルの3人は、摩瓈爾奠誕生とともに、すぐに移動し、亀石の影に身を潜めていた。
今のところ襲ってくる気配がないとはいえ、3人の心拍数は徐々に高まる。
《おい、云大、グレン。聞こえるか? 念のため意思伝達で話すぞ》
《聞こえてます!》 《俺も!》
《よし。まずは現状の確認からしよう。今あそこにいるあれは、間違いなく魔戎の覚醒種『摩瓈爾奠』だ。つまり、第二等害種ということになる。ここまではいいな?》
《はい!!》
《おう、それはわかってるんだけどよ、何であいつ生きてんだ? ちゃんと残り3つの命は削っただろ?》
《そこなんだが、俺たちは勘違いをしていた。あいつは途中で馬面の神通力者を捕食しただろ? 恐らくあれで1個増えてる》
《待て待て! 10個命を食らったら1つ命が増えるんだろ? 1人食っただけじゃん!》
んな……まじか……グレンがちゃんと覚えてるなんて……
《おい、いまバカにしただろ?》
《してない。 確かに、1人食べたからといって1つの命が増えるわけじゃない。だがよく思い出せ、牛が今日まで食べた数は119だ》
《119……あ!! そうか、あの馬面を食べたことで120になったから、1つ命が増えたってことですね先輩!!》
《そういうことだ。つまり、あいつの残り命は3ではなく4だったってわけだ》
キゼルの読み通り、牛若は覚醒のために中位の神通力者、七福陰道の飛射馼を捕食したことで命が1つ増えていた。よって、牛若は覚醒を完了できたということだ。
そんな中、キゼルは虎影との会話を思い出す。
〜〜〜〜
《ーーそうか、そういうことですね! つまり、3分以内に残り"3つある命"を全て削れば良いってことですよね?》
《そ、その通りじゃ、、》
〜〜〜〜
あの時の虎影の反応が少しおかしかったのはそういうことか。残り4つに増えたことがわかってたのに言わなかったなあのクソジジイ!!
《え……何でお前キレてんの?》
《別にキレてない。まぁとにかくだ、あぁなった以上は俺たちじゃどうにもできない。師匠に連絡して撤退するぞ》
いくら3人とはいえ、第二等害種が相手では勝ち目がない。
それはキゼルだけではなく、2人も同じ考え。全員同意のもと、虎影に意思伝達を飛ばした。
《師匠、すみません。覚醒を止めれませんでした。お叱りなら後で受けますので、我々はとりあえず撤退します。申し訳ないのですが、あとは任せてもいいですか?》
・ ・ ・
《師匠!!》
《おぉすまんすまん。なんじゃ?》
《いやですから、摩瓈爾奠が完全に覚醒を終えたので、自分達ではもう無理です。後処理をお願いします》
《ほぉ、覚醒を終えたか? それはそれは。
しかし困ったのぉ。此方はもうモンゴルにはおらんからのぉ》
《……は? いない?! どういうことですか!?》
《だいぶ前に別の要件で離れておる。だから向かうことはできん。う〜〜ん、よし。己らで何とかせい。摩瓈爾奠になったとはゆえ、捕食せんことには命は増えない。つまり、敵の残り命は1つじゃ。それなら己らで何とかなるじゃろ》
《は? え、いや無理です! 俺たち神力がもうほとんど、、》
《大丈夫じゃ。3人おればなんとかなる。ほいじゃ、頑張るんじゃぞ〜〜》
《って待、おい!! ジジイ! クソジジイ!!!!》
ま、、まじか。ジジイがそういう奴だってのは知ってたけど、まさかだ……。でも、遠くに行ったってのは嘘だな。意思伝達が届くってことは霄壌断絶の中にはいる。だが、あのジジイのことだ。助けには来ない……な。
「……先輩??」
「お、、おい。まさか、ジジイ……」
「あぁ、そのまさかだ。ックソ、やるしかねぇよ。
いいかお前ら! 俺たち3人であれの討伐をする。もう後には引けねぇ。気合い入れろ!!」
一方その頃、云大に洗脳をかけていた"七福陰道"歩停損がいた場所。ここに虎影はいた。
ホッホ、いい感じに育ってきたのぉ。
"己よりも力量のある強者には決して挑むな"ちゃんと肝に銘じておるようじゃのぉ。じゃが、ちと弱気になりすぎじゃな。今の己らなら、"あの程度"の摩瓈爾奠くらいちゃんと倒せる。
此方は何も心配おらぬぞ。ホッホ。
虎影はモンゴルを去ってなどいなかった。自分がこの地にいると言えば、必ず縋ると思っていたから。
3人の成長のために、嘘をつき、遠くから眺める選択をした。
それと同時に、消えた歩停損の現場の確認を行なっていた。
ーーしかし、歩停損はいったいどこに行った? 恐らくキゼルの攻撃は当たっておらん。じゃがこの場にはいない。逃げた? いやそれも違う……。
なんなんじゃ、ここに残るこの得体の知れない憎悪と怒りは……
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「とりあえず俺と云大が突っ込むから、キゼルは後方支援頼む!」
「わかった」
「え?! いやいや、キゼル先輩はゆっくりしててください!」
「は? 舎弟の分際で人の心配してんじゃねぇよ。骨くらい数分有れば元に戻る。神通力者なめんな」
そういうと、グレンは『火楼羅炎』を発動し、未だ動かない摩瓈爾奠に向かって走り出した。
「ーー先手必勝!! 誕生したばっかで悪りぃな牛!! 絶戯 『忌火炎渦焼尽』」
絶戯を解放したと同時に、牛若はグレンの目の前に瞬時に移動する。
「あぁあぁ、遅い遅い。ナメクジかと思ったモォ」
グレンの技は発動されることなく、亀石の上部まで吹き飛ばされ、衝突による激しい破壊音が、辺りに響き渡った。
何が起きたのか、キゼルと云大は亀石上部をただ見つめながら、呆気に取られていた。
「ウッシッシ、弱いなぁ。こんな連中に防戦一方だったのか? 情けない、恥ずかしいモォ。
う〜〜ん、どうしようかなぁ……よし決めた! 今からお前らを、死ぬ寸前までボコボコにするモォ。その後、生きたまま足からゆっくり食べてやるモォ」
その瞬間、2人はようやく気がつく。自分達が、一体何と向き合っていたのかに。
「せ、先輩!!」
云大の怯えた声と同時に、キゼルは『霳鳴霅 』を発動し、彼を掴んでその場から消えた。
「ウッシッシ、ウッシッシ。今度はブンブン飛び回るハエかよ。あぁ゛ぁ゛、喰ぃてぇぇぇぇ!!!!」
亀石の裏側に逃げ込んだ2人は、
「云大! お前、あの黒くなるやつできるか?!」
「え!? 黒くなるやつって、えっと……捕食なんちゃらですか?」
「そうだ! 二型の権能、あれできるか?!」
「……わからないです」
クソまじか。多分グレンは死んでない。だが、グレンが避けれないほどのスピードと、あの破壊力。
二型の権能が使えないんじゃ、今の云大では対抗できない。どうする。考えろ、考えろ。
彼が必死に思考を巡らせる中、突如頭に落ちてきた細かい瓦礫で「はっ」となる。
「ーーイッテェなぁぁクソ牛がっ!! あったまに来たぁぁぁ!!! 仕返しだ、燃え失せろ!!
混血族種転換『炎魔』」
キゼルの見上げた頭上には、吹き飛ばされたグレン。
「絶戯 『焔流噴炎』」
彼は、殴られたことで苛立ってたはいたが、冷静さは欠いておらず、相手の尋常じゃない速さを考慮した上で、炎魔の中でも最も攻撃範囲の広い『焔流噴炎』を発動した。
※『焔流噴炎』
混血族種転換時のみ使用できる青黒い炎。
高熱の粒子を大量に発生させ、その高熱の粒子が攻撃対象に触れると、その箇所に付着し、発火する。
また、焔流噴炎は焚誑同様、高い殺傷性に加えて、攻撃対象に直撃すると同時に、相手から削った分だけ自身の体力や気力などを回復できる。
「おい!! てめぇ強くなったんだろ? ならその分、俺によこしやがれ!!」
高熱の粒子は牛若の前後左右、上下に展開され、完全に逃げ場を奪った。
そして、グレンの合図とともに粒子は牛若目掛けて動き出し、数秒もしないうちに牛若の全身に粒子が付着し、その箇所から激しい発火が始まった。
「ッモォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛」
覚醒したとはいえ、これには流石に悶絶。
それに反して、グレンはみるみるうちに回復を遂げた。
「まぁまぁだな。でもこれで死なないのは大したもんだ、褒めてやる。なら、次行くぞ」
亀石上部から、悶え苦しむ牛若の目の前へと移動したグレンは、混血族種転換を解き、
「絶戯 『大炎柱』」
すでに火だるま状態の牛若を中心に、地面から空目掛けて立ち昇る炎の柱。
体力を回復したのもあって、覚醒前に放った時よりも数段威力は増していた。
「ま、これでも死なないのはわかってるけどね。さてさて、どのくらい削れたかなぁ」
炎の中で奇声をあげ続ける牛若。しかし、その声は突如止まった。
「……え? おいおい、嘘だろ? まさか死んだのか?」
炎から薄ら見えていた牛若の影が消えていた。
「まじかよ……。ちょっと、俺強すぎね?!」
摩瓈爾奠を1人で倒したことに興奮し、能力を全て解き、灰になったであろう牛若を確認しに走った矢先、
「ばぁ!!」
地面からほぼ無傷の牛若が姿を現し、グレンの首を掴み、持ち上げた。
「ウッシッシ〜〜 愉快愉快!! バカすぎて笑いを堪えるのに必死だったモォ。あれで死んだ? あれで灰になった? そう思ったのか?! ウッシッシ〜〜
間抜け間抜けぇぇぇぇ!!」
グレンはすぐに炎を纏い、必死に抵抗したが、摩瓈爾奠の腕力に勝てるはずもなく、ジタバタともがくので精一杯だった。
「ほらどうした? 炎を出せよ。燃やしてみろモォ。無理か? 無理だよな!? いいんだぜ? このまま首をへし折ってやってモォ〜〜」
次第に掴む力は高まり、徐々に意識が遠のき始めた。
やべぇ、完全にやらかした。最後の最後で持ち前のアホがでやがった。ックソ、、怖ぇよ…… ックソ。
グレンは震えていた。絶戯を2回放っても倒れず、傷すらほとんどつかない目の前の化け物に……
「あ〜〜ぁ、またやったなお前。これで2回目。前は確か、大好きなおもちゃ全破壊の刑だったけ? 次はなにかなぁ?」
声のする上空へと顔を向けた牛若だったが、数秒遅く、
「絶戯 落雷」
放たれた落雷は脳天に直撃。同時に、体の硬直・痙攣により、グレンを掴んでいた手が緩んだ。
モォ〜〜、ウザイなこの神通力!!!! 早くて避けれないし、喰らうと動けなくなる。アァ゛イライラするモォ!!
手が緩んだことで、グレンは手元を離れ後方に退避。
すると、顔から血の気のひいた表情=絶望を露わに、ひざまづきながらキゼルを見つめる。
「た、、頼むキゼル。いやキゼル様……お願いだから虎影に告げ口は、、」
「ははっ(笑)。バカかお前は。言うに決まってるだろ? お前は千年様の従者だ。あの御方に仕える以上、あんな体たらくは許されない。しかも2回目だ。しっかり師匠に報告する。楽しみだなぁぁ」
グレンは決して牛若に恐れていたのではない。
"油断大敵"それは 虎影がもっとも忌み嫌い、許さない行動の1つ。
以前も同じように相手を倒したと油断し、力を解いたことのある彼はこっ酷く叱られたのち、大切にしていたおもちゃ数10個を破壊された。以降、2度としないと誓ったのだが、
「間抜けもいいところだ。前は俺との戦いだっからまだ良かったが、今回のはやばいな。まぁでも安心しろ。やっぱ俺からは報告しない。というより、報告する必要はないみたいだからな」
その瞬間、グレンの顔から更に血の気が引く。そしてそれは、グレンだけではなく、雷で硬直する牛若も同じであった。
彼らのいる場所より遠方、禍々しいとはまさにこのこと。
怒りの感情だけで、ここまで身も心もすり減ることなんてあるのだろうか。関係のないキゼルや云大までもが少しだけ恐怖した。
《き、キゼル先輩。この神力は?》
《師匠だ》
《え? 虎影師匠先輩はモンゴルにはいないって》
《あれは嘘だ。いるっていったら俺らが頼ると思ったんだろう》
《えぇ……》
《まぁ師匠が託すってことは、俺らだけで勝てるってことだ。でもそれは、お前が二型の力を使えるってのが前提のはずだ。だから、お前はそのためだけに集中しろ。牛が逃げて、どっかで捕食でもしたら、本当に終わりだ。そうなれば俺もお前も、あの師匠の怒りの巻き添えだぞ? だから早くしろ》
《グレン先輩には悪いですけど、それだけは勘弁すね(笑) でも、グレン先輩、あんな状態で大丈夫なんですか?》
《それなら問題ない。もう怒られる確定だからな。ヤケクソになったあいつは、、》
地面を叩きながらゆっくりと立ち上がったグレンは、未だ硬直と緊張状態の牛若に近づき、
「ーーおい、テメェのせいで俺は……俺は!!!!」
怒りに任せ一気に炎を纏うと、勢いそのままに殴る蹴るの連打を放った。
単調ではあったがこれが意外にも効果的面。最後の殴打が直撃すると、牛若はそのまま殴られた方向に吹き飛んだ。
「見たかオ゛ラァ゛!!」
吹き飛んだ牛若を逃すまいと、キゼルはすぐに移動し、
「神戯 『雷怒』」
牛若の着地地点に合わせて、雷怒を発動。それにより、地を這う電撃が直撃。再度硬直と痙攣が始まる。
《グレン、休むな!! そこから撃て!!》
キゼルの合図よりも前に、彼はすでに攻撃態勢に入っていた。
「絶戯 『忌火炎渦焼尽』」
牛若目掛けて放たれた巨大な炎の渦は、一直線に周辺を燃やしながら激しく突き進み、そして直撃。
2人の連携によるダメージは、普通の生物であれば即死レベル。だが、相手は普通ではない。
水浴びをした動物が、水を払うように、ブルブルと体を震わせただけで、あの激しく燃え盛っていたグレンの技を消し去った。
「ォモォ゛ォ゛、クソッタレがぁ!! 完全にブチギレたモォ゛! テメェら全員皆殺しだぁ!!!!」
二足歩行から四足歩行へ。最大スピード且つ、最大攻撃力を放つことのできる態勢を取った牛若。
「まずは、お前だ。クソガキィィ!!」
ツノを向けた先にはグレン。足で何度か地面を蹴り、荒だった息が落ち着いたと同時に、目にも止まらぬスピードで、彼目掛けて突進した。
「グレン!!!!」
動き出しと同時に、グレンは避ける態勢に入ったが、間に合わないとすぐに気づく。
「やばっ、!」
全く動けないまま自分の目の前に到達した牛若と目が合う。
「死ね!!!!」
止まらず勢いそのままに、突き出したツノが彼の腹部に触れそうになったその時だった、
「邪魔するぜ!」
2人の間、上空から大量に神力の込められた云大の左足が振り下ろされる。
「モォ゛ォォ」
異常なスピードゆえ回避は当然出来ず、振り下ろされた足は両方のツノの中心を捉えた。グレンはその衝撃で後方に吹き飛ぶ。
牛若は蹴られた威力そのままに、顔面が地面に直撃。
その反動で、後ろ足が宙に浮き、グレンと牛若の間に降り立った云大に背を向けた。
俺はまだ色々と半端ものだ。出来ないことが多すぎる。それでも、今やれることを全力でやるんだ。
出来ないじゃない、やるんだ!!
並々ならぬその覚悟と闘志は力に変わる。
「ーーやればできるじゃねぇか、云大」
牛若の背を前に、云大は左腕を後ろに引く。すると、その左腕のみが黒く変色。
これは、纏化。またの名を『武闘式賦 "羽衣"』。部分的ではあるが、彼はそれを会得した。
特訓じゃ、ほとんど成功しなかったけど、今ならやれる気がします"千年先輩!!"
云大の取った構えと、そこから感じる懐かしさ。
「お前……それは、まさか!?」
「初お披露目です。ーー天明流拳武」
武と力の融合が、牛若を襲う。




