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KAN NAGI〜〜神様実在、地球に襲来?!  作者: ヤチ ヒトニカ
神々再誕編
31/76

Ep.30 リミット



 ーー 『武闘式賦(ブトウシキブ)羽衣(ハゴロモ)"』。

 それは、二型の魔戎(マジュウ)にのみ与えられた権能"身体強化+命源(ミョウゲン)纏化(マトイカ)"の真の姿で、全身に命源を纏わせることで完成する肉弾戦最強生物である。

 

 それをまさか敵ではなく、味方である云大(ユウダイ)がするとは……。

 高笑いする魔戎"牛若(ウシワカ)"を前に、グレンとキゼルの2人は言葉を失っていた。


 そんな中、彼らのいる場所より少し離れた木の上で、不気味な笑みを浮かべる1人の女。

 手に持つ携帯の画面に映る彼らの戦況をじっくりと見つめながら、1人でに語っていた。


魔戎(マジュウ)とはいえ、牛若(ウシワカ)はまだまだ赤子(アカゴ)。捕食数も少なければ、戦闘の経験もほぼない。そうね、3.5等害種(ガイシュ)、が妥当かな。

でも、彼は違う。榮多(エイタ)云大(ユウダイ)。日本で生まれた神通力(ジンツウリキ)者で、二型の捕食生成(ホショクセイセイ)者。仏陀(ブツダ)様の読み通り、かなりの素質がある。

……欲しい、どうしても欲しい!! 正直、牛若程度失うのはなんともない。というより、弱すぎるからもういらない。私が今すべきことは、榮多云大を七福陰道(シチフクインドウ)に引き入れることね。王直眷属(オウチョクケンゾク)のガキ2人は無視してでも、必ず手中に……」


女の名は歩停損(ホテイソン)。仏陀宗七福陰道の一角、洗脳(センノウ)の神通力者である。



     〈テレルジ国立公園内亀石周辺〉



 云大の姿と力が豹変したことで焦るグレンとキゼル。それを見て、高らかに笑う牛若。争いは佳境を迎えていた。


 ※《》

意思伝達(ヴェルシオン)による会話。(口に出すのではなく脳内で話す)


《グレン、さっきのお前の一撃で確実に1つ命を削った。つまり、牛若を絶命させるには、あと8回殺さなければならない。まぁ、それに関しては容易だと俺は思ってる。

多分だが、牛若は魔戎になって日が浅い。だからお前も気付いてるとは思うが、あいつはそんなに強くない。実際は第四等害種から三等害種の間くらいの強さだろう。つまり、俺とお前の2人、いや単独でも相手できるレベルだ。ーーだが、今の云大は違う。第二等害種寄りの第三等害種って言っていいほどの強さだ。俺ら2人でも対処できるかどうか……》


《何だよ急に……随分と弱気だな。まぁ確かに今の云大(あいつ)は相当やばいと思う。上位の神が対応すべき相手だな。てか虎影(ジジイ)がやりあうべきだと思う。でも、虎影(ジジイ)は手を貸す気ないんだろ?? だったら俺とお前でやるしかない。だろ?》


《それはわかってる。ただ、その……》


《わかってるよ、お前の言いたいことは。本気でやりあったら、云大を殺すかもしれないって思ってるんだろ?》


・ ・ ・


《はぁ〜〜ったく素直じゃねぇなぁ!! でも、そう思えるようになったってのは成長だな!》


《うるせぇ! お前に言われると腹立つ》


《ははっ(笑)。 まぁどっちにしろ逃げるわけにはいかないから、とりあえずやれるだけやってみようぜ!!》


2人は会話を終え、静かに息を整えたーーそして、


火楼羅炎(カルラエン)」「霳鳴霅 ( リュウメイトウ)


2人は同時に力を解放させ、尋常じゃない殺意を剥き出しにする云大に向かって飛び出した。


これは俺の勘だが、キゼルは自分が目を離したから云大が洗脳されてしまった、そして、その状態の云大を裏切り者として粛清しようとしたことに責任を感じてるはずだ。だからキゼルじゃ、云大とはやりあえない!!


グレンは加速し、少しキゼルよりも前に体を出し、


神戯(ジンギ) ※『隔離(カクリ)包火(ツツミビ)』」


 ※隔離(カクリ)包火(ツツミビ)

 対象(云大)と自身を巨大な火で包み込み、その中に閉じ込める力(炎の檻)。

 火の中から外へ、また外から中への移動も可能だが、勿論火であるため、触れれば熱い。火傷では済まないだろう。


「おい、グレン!! どういうつもりだ!」


 目の前には火で作られた檻、そして中にはグレンと云大。自分だけ火の外に追いやられ孤立させられた。


・ ・ ・


「聞こえてんだろうが!! 無視すんなボケッ! 2人でやるって言っただろうが!!」


《キゼル悪い、お前は牛を頼む》


《おいふざけるな! 火傷覚悟で俺は中に入るぞ》


《ダメだ! お前は牛とやれ。俺が云大とやる》


《無理だ! お前1人じゃどうもできない。いいから早、》


……ッチ、だまってろよクソ牛が!!


2人が会話をしていた中、キゼルに対して牛若による攻撃が開始した。


牛若は、3人からかなり距離をとり、尻尾と両手を使い、蚊帳の外状態のキゼルに岩や石、木などの、そこら辺にあるものをとにかく投げ始めた。


「ーーバカが、当たるわけねぇだろ」


言葉通り、彼は避けることなく自身の纏った雷の余波のみで飛んでくる全てを払った。


「モォモォ、モォモォ……。モォモォ、モォモォ……」


その意味のない攻撃は止むことなくキゼルを襲った。だがそんなことよりも、彼は牛若の様子がおかしいことに気がつく。


「おいクソ牛、テメェいったい何がしてぇ? 牽制してるつもりか? だとしたらお下劣なのもいいところだ」


「モォモォ、モォモォ……。モォモォ、モォモォ……」


やはり何かおかしい。あんなお喋り野郎だったのに「モォ」しか言わない。それに、攻撃が単調すぎる。

まさか誘ってるのか? ーーいや違う。視線……おかしい。あいつ、俺を見てない?! 


 攻撃はこちらに、視線は上空に。これは明らかにおかしい。視線に違和感を覚えたキゼルは、牛若の攻撃を避けながら、牛若の見つめる先に視線を移す。


なん……だあれ? 空飛ぶ……ゴミ?? 


 牛若の見つめる先、つまり上空には一機の小型ドローン。

 当然、ドローンなんてもの知らないキゼルからしたらただのゴミ。だが、あれを見ているせいで、牛若の動きがおかしいのは一目瞭然。つまり、破壊することに抵抗など微塵もなかった。

 

絶戯(ゼツギ) 『雷纏鑓(ドルジェヴァジューラ)ーー"(ムレ)"』」


 絶戯解放と同時に、彼の背後に広がる真っ黒な雷雲。

 それは次第に形を変え、100……いやそれ以上、正確に数えると気が遠くなりそうな程の無数の雷の鑓となった。


「なんかよく分からないが、あれを壊せばいい事ありそうな予感」


そのまま、片方の腕を上にあげ、勢いよく振り下ろす。

すると、無数に発生した雷の鑓が、牛若と、上空に浮くドローン目掛けて発射される。


「モォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!」


 無数の鑓がモロ直撃した牛若はたまらず悶絶。そのうち何本かは体に突き刺さり致命傷を与えた。

 当然、宙に浮かんでいたドローンは、跡形もなく消え去る。


ーーあれ?? 特に変化ないな……じゃあ、あの浮くゴミはいったい……まぁ、いいか。


「おいおい、まだ鑓は大量にあるぞ? もしかして今ので何回か死んだ? だとしたら弱いにも程がある。あまり、俺をガッカリさせるなよ」


 それから、4回に渡り同じ攻撃が繰り返された。


「ーーやはり雑魚だなお前。時間の無駄だ、もう終わらせる」


 そういい、彼は再び手を振り上げた。

……しかし、キゼルはすぐに手を止めた。理由は明白。牛若の目の前に、突如として黒い(モヤ)が出現したからだ。それを見て、彼は混乱する。


待て待て、空間移動(ゲート)だと?! あり得ない、魔戎が従操(ジュウソウ)を使えるわけがない!! なら何だ?! ーーそうか、隠れていた中位の神通力者だな。ついに姿を見せるということか。


 警戒しつつ、すぐに攻撃できるよう神経を研ぎ澄ますキゼル。ーーだが、空間移動(ゲート)の中から何かが放り出されると同時に、そのまますぐ空間移動(ゲート)は消失する。


何だあれは……死体? いや、微かに生きてる。……待て、この神力……


「馬ヅラ!? 中国で俺が捕まえた馬野郎だ!!」


空間移動(ゲート)の中から捨てられたのは、彼が中国で捕獲し、のちにギムレットに始末された飛射馼(ビシャモン)であった。


 混乱の一途を辿る彼だったが、目の前で起きた光景に更に目を疑った。


「おいおい……何してんだお前……」


彼が目にしたのは、放り出された飛射馼を必死になって捕食する牛若の姿だった。


 キゼルには目もくれず、まるで何年ぶりかの食事にありつけた捕食者かのように、必死になって食らった。


 それを見た上で、未だ現状を理解できてはいなかったが、直感的に何かやばいと感じた彼が動くのは至極当然のこと。

 無意識に振り上げた腕な、勢いよく振り下ろされた。


 焦って放った一撃故に、命中率はかなり下がったが、それでも何発かは命中するーーが、それでも牛若は食べるのをやめなかった。悶絶し、痛みを受けながらもひたすら食べ続けた。


 そして、飛射馼を完全に食い尽くすと同時に、異変は起きる。


「モ゛……ア゛ァァァ!!!! ウ゛ォォォォォオ゛!!!!


 尋常じゃないほど苦しみ出す牛若を前に、キゼルの足は完全に止まる。


「なんだ……何が……何が起きてる?!」


 どうすればいいかすら分からないこの状況。刻一刻と時間は過ぎ去る。


 ……そして、


「おいおい……何の冗談だよーーそれじゃまるで、今の云大と一緒じゃねぇか!!」


 いま彼の目に映っているのは、ただの魔戎じゃない。

 肌で感じる圧倒的殺意と暴力性。加えて、二型の特徴である全身が黒く染まる現象。


 中位の神通力者(飛射馼)を捕食したことで、第三等害種魔戎『牛若』は、第二等害種『摩瓈爾奠(マリシテン)』へと覚醒を始めた。



************************



〈再び現場から少し離れた場所〉



 ドローンから映像を中継し彼らを見ていた歩停損だったが、キゼルに破壊されたことで、確認方法がなくなる。

 苛立ちながらも、彼女は見える場所に移動しようとしたーーそんな時だった。

 魔戎から摩瓈爾奠(マリシテン)へと覚醒を始めた牛若のエネルギーを察知する。


「これは……これは!!」


 動くことをやめ、居場所を悟られないよう、今にも溢れ出そうな歓喜の声を必死に押し殺した。

 が、体は言うことを聞かず。全身をウネウネとさせながら、恍惚感に浸り、いわゆる「アヘ顔」を浮かべ今にも死にそうになっていた。


これが一型と二型の融合種『摩瓈爾奠(マリシテン)』!!!! あはあはぁ。良い、良い、良いぃぃぃ。はぁあはぁは。誰が餌を与えたのかは知らないが、これは良い!! 牛若程度の魔戎ですら、これほどまでに跳ね上がるか! 素晴らしいぃ。素晴らしい!!



     〈テレルジ国立公園内亀石周辺〉



 明らかに常軌を逸した変貌を遂げる牛若に対し、キゼルが現時点で驚いたことは2つ。

1.力が桁違いに跳ね上がったこと。

2.牛若の全身が真っ黒に染まり、今の云大とほぼ同じ状態になったこと。


キゼルの中で、牛若は一型で、全身が黒く染まる現象は二型の特徴だと認識していた。


しかし、一型のはずの牛若が、二型の云大と同じ姿に変貌したことで、優位だったはずが、一気に窮地に立つこととなった。


今のこいつは明らかに云大以上だ。今の云大でさえ俺たちじゃ勝てるかどうかわからないというのに……クソッ、災厄だ。


 まとまるどころか全く追いつかない思考。

加えて、勝ち筋すら見失った今の状況を見兼ねてか、ようやく彼が動き出す。


《ホッホ、流石に手詰まりかキゼル()よ》


 虎影の声を聞き、「はっ」とすると同時に安堵の表情を浮かべるキゼルだったが、


《先に言うておくが此方(コチ)は手出しせん。中位の神通力者が見つからずイラついておるからのぉ。己らでなんとかせい》


 期待したせいで、萎えは高まる。


《ーーただ、此方もそこまで鬼ではない。知っていることは共有しておく。心して聞くが良い。

まずは第二等害種『摩瓈爾奠(マリシテン)』についてじゃ。摩瓈爾奠(マリシテン)とは一型・二型の両性質を併せ持った魔戎の覚醒種で、中位以上の神通力者を捕食することで誕生すると言われておる。簡単に言うと、命を複数所持した上で、殺傷性が高まるということじゃ》


《え……はっ?! じゃあ、牛若は摩瓈爾奠(マリシテン)ってことですか!? いやいや、なら俺らじゃ対処できません!! 無理です!》


《ホッホ、焦るでない。誰もあれが摩瓈爾奠(マリシテン)とは言うておらん。正確には、"まだ"未完成な摩瓈爾奠(マリシテン)じゃ。

良いか? まず、今の牛若は覚醒中ゆえに、あらゆる攻撃を無効化する。一種の無敵状態じゃ》


《無敵??》


 虎影の話に疑問を抱いたキゼルは、発動していた『雷纏鑓(ドルジェヴァジューラ)』を数本、牛若に対して放った。


 すると、鑓は牛若に当たるどころか、直前で跡形もなく消えた。


《こ、これはいったい……》


《それが無敵状態じゃ。今ので分かる通り、覚醒中の牛若に対して攻撃はできん》


《じゃあ、覚醒するまで待つってことですか? そうなれば、覚醒後に俺たちは全員……》


《ホッホ、人の話は最後まで聞け。よいか? 魔戎は覚醒直後の約3分間にあらゆることが起きる。まず、五感の停止じゃ》


《五感の停止? 覚醒後3分は目が見えず、音が聞こえずということですか?》


《そうじゃ。神通力者を捕食するということは、命源(ミョウゲン)を食うのと同義。それなりにリスクはある。加えて、自我が消失する。簡単に言うと、脳の機能が停止する》


脳の機能が停止? いわゆる、植物状態ということか。


《じゃが、これらは大体3分程度で治まる。

3分経って牛若(あれ)が動き出したときが、完全な摩瓈爾奠(マリシテン)となった状態と思え》


《ーーそうか……そういうことですね! つまり、3分以内に残り3つある命を全て削れば良いってことですよね?!》


《そ、その通りじゃ。じゃが油断するなよ?

今の牛若(あれ)は覚醒中とはいえ、ほぼ摩瓈爾奠(マリシテン)じゃ。つまり一型と二型が混じっておる。故に体の強度も上がっておるから今までみたいに簡単には殺せない。それに、己らはもう神力が限界に近いじゃろ? ならどうすべ、》


《云大の洗脳を解いて3人で討伐する……ですね?》


《うむ、その通りじゃ。時間ないぞ? 急げ》



************************



〈※隔離(カクリ)包火(ツツミビ)内〉


 ※グレンと云大を包む巨大な炎



「っおい云大!! 俺だよ俺! いい加減目を覚ませ!!」


 キゼルが牛若と対峙していた間、自分から手を出すことをせず、ただただ耐え、声をかけ続けるグレン。


 だが、一向に変化はなく、それどころか凄まじい猛攻。

 グレンは、体の至る所から血を流し、呼吸の乱れも激しくなってきていた。


そろそろやばいな……体力は有り余ってるのに、隔離包火(カクリツツミビ)を発動しながらだから、神力の消耗が激しい。このまま平行線を辿れば、確実に俺が先にガス欠になる。そうなったら……。


「云大ッッ!! 頼む、もうやめてくれ!!」


 しかし、その声が届くことはなく。それどころか、時間が増すごとに彼の殴打は勢いを増した。

 一撃、また一撃と、グレンの顔や腹に拳は直撃する。


本気でやばい!! もう反撃するか?! いやダメだ。洗脳されてるこいつを傷つけることはできない。っクッソ! どうする……。


 猛攻を受けながらも、どうにか現状を打開しようと必死に考えるグレンだったが、突如動きを止め、彼から距離を取った云大を見て、焦燥感が一気に増した。


「おいおい待て待て。それはさっきのやつか?! やばいって、流石にそれはやばいって!!」


 右腕は腰、左腕はグレンに照準を合わせるかのように前へ向け、足をしっかり開き重心を下げる。それはまるで武道で使われる「正拳突き」の構え。

 そしてこれは、隔離包火発動後、1番最初に放ち、グレンに大ダメージを与えた時と同じ構えであった。

 2度目は耐えれないと、グレンの鼓動が一気に高まる。


流石にあれはもう耐えれない。やむ終えないが隔離包火(カクリツツミビ)を解くしかないか。


 グレンはゆっくりと後退りながら、発動している隔離包火(カクリツツミビ)の解除のタイミングを伺う。そして、


「ーー神戯(ジンギ) 『殴戈(オウカ)』」


 言葉を発したと共に、左腕を引き、腰に構えていた右腕をグレンに向けて突き出した。


 すると彼の右拳から、信じられないほど蓄えられた神力と殺意が一気に放出される。

 と同時に、グレンは隔離包火(カクリツツミビ)を解除した。

 解除したことで、彼らを覆っていた炎はなくなり、避ける範囲が広がった。それに伴い、彼は目一杯高く上へと飛ぶ。


 それが功を奏し、云大の一撃を回避することに成功。

 放たれた攻撃は、グレンが元いた方向に向かって、一直線上に地面や周辺の物を抉り、突き進む。


「やっぱり、見えない衝撃波的なのを放出する力なんだなそれ! さっきは初見でわからなかったし、隔離包火で避難経路がなかったから避けれなかったが、ちゃんと解除して、効果もわかってれば全然避けられるぜ!! ざまぁみやがれ後輩!!」


 『神戯(ジンギ) 殴戈(オウカ)』は、練り上げた神力を、打ち出した拳の進行方向に巨大な衝撃波を繰り出す力。衝撃波ゆえ目でとらえることは出来ない。

 しかし、誰に放ったかさえわかれば避けることは可能。

 つまり、グレンの読みは正しかったということだ。


ふぅぅ。無事耐えたぁぁ。しかし、なんて威力だよ全く。捕食……なんちゃらと神通力が混ざったらこんなにやべぇのか。


 苦い笑いを浮かべるグレンの目線には、殴戈(オウカ)によって抉られた地面や、吹き飛ぶん木々。


「は、ははっ!! こ、これくらい俺にもできるぜ!」


 なんの張り合いなのか、上空から云大を見下しながら、聞こえないようにボソッと呟いたグレンを、云大以上の殺気と、感じたことのない異常(オーラ)が襲う。


背中……俺の後ろ側に何かいる。。近い? いや、遠い。誰だ…… つうか、今までなんで気づかなかった? あれか、云大に集中しすぎたせいか? いやいや、今はんなことどうでもいい。俺の後方にはキゼルがいるはずだ。あいつ、大丈夫なのか。


 彼が何かを感じた先にいるのは、絶賛覚醒中の牛若。だが彼はそれを見ることができない。

 理由は簡単、いまの云大から一瞬でも目を離せばやられるとわかっているから。


 前と後ろ、両方からの圧迫感。額からじわりと汗が流れる。


 そんな緊張感の高まる中、神戯発動から動きを止めていた彼が再び構えに入った。


 だが今度はさっきとは違い、"左"腕が腰で、"右腕"は前に出す「正拳突き」の構えを取っていた。


 ほんのちょっとの違和感だが、グレンはそれにすぐ気がつく。


「さっきとは腕が逆……しかもなんか神力上がってね?! ……あ、そういえば虎影(ジジイ)が前になんか言ってたな」



〜〜〜〜


「よいかグレン()、利き腕とそうでない腕では腕力差がある。これは普者だけの話ではない」


「なんだよ急に。そんなの当たり前じゃん!

左利きは左の方が強いし使いやすい、右利きは右の方が強いし使いやすい。そういうことだろ? あ、ですよね?」


「うむ、そうじゃ。そして、これは神通力にも起因する。利き腕の方がより強く神力を纏い、放つことができる。よく覚えておくことじゃ」


〜〜〜〜



「この感じから察するに……こいつ左利きか?! ならさっきの神戯は……」


気づいた時にはもう遅かった。


「ーー絶戯(ゼツギ) 『抗彊(コウゴウ)』」


 腰に添えていた左拳に、一気に跳ね上がった神力が集まる。

 そして、右腕をひき、グレン目掛けて左拳を突き出そうとしたその瞬間、


「ーー|絶戯 『落雷(ルカ)』」


 云大の頭上から凄まじい音と威力の雷が落ちる。グレンに集中していた彼が、それを避けることなど当然出来ず、落雷は直撃。

 抗彊(コウゴウ)は発動されることなく、云大は軽い痙攣を起こし、その場に立ち尽くした。


「キ、キゼル!!!!」


 云大の頭上にはキゼル。グレンは安堵の表情を浮かべながら、彼に近づいた。


「無事でよかったよ!! 急に神力消えたからびっくりした!」


あいつ(云大)に気づかれる可能性があったからな。一応、消隠姿(ショウインシ)で神力を消した」


あ〜〜ぁ、そういうことね。相変わらず冷静な奴め


「それより、作戦変更だ。1回しか言わないから聞き返すなよ。まずーー」


「ちょ、ちょい待ち!! 話聞く前に、俺の後ろにいるのは誰だ? 牛は殺したのか?」


は? 何言ってんだこいつ……っあ、なるほど。云大から目を離せなかったのか。


「後ろ振り返れ。俺があいつ(云大)見とくから」


グレンはゆっくり振り返り、覚醒中の牛若を目にし、驚く。


「え……っと、キゼルくん。あそこにいるのはどちら様?? ま、まさか牛じゃないよね??」


「残念ながら牛だ。しかも、もうすぐ第二等害種『摩瓈爾奠(マリシテン)』に覚醒するらしい」


「・ ・ ・ は!? まままま摩瓈爾奠(マリシテン)?! 何がどうなったらそうなるんだよ!!」


「いま経緯(イキサツ)を話してる時間はない。いいか? あれが覚醒するまで残り7分。それまでに云大を何としてでも洗脳から解放する」


クソッ、絶対にこれじゃ伝わらないか。でも時間がない。頼む、理解してくれ!!


「ーー云大をこのまま野放しにして牛若を狩るより、云大を元に戻した状態で牛若を狩る方がいいってことだな! うん、わかった!」


・ ・ ・ わかった?! ま、まじか。理解できたのか……


「おい、なんかスゲェ馬鹿にしてるだろ?」


「ま、まぁ理解したならいい。だが、問題点が1つある。それは、どうやったら気絶させずに洗脳を解けるかだ。それだけが全くわからない」


「う〜〜ん、確かに。気絶させたら起きるか分かんねぇもんなぁ。 う〜〜んそうだなぁ……あっ!! 洗脳かけてるやつをぶっ飛ばせばいいんじゃね?」


「うん、それは無理だ。洗脳をかけてる中位の神通力者は師匠ですら場所が特定できない。そんなやつを探せるわけがない」


「そうか? 俺なら多分見つけられるぞ?」


・ ・うん? は?


「どういう意味だ?」


「お前さ、※天明(テンメイ)と※"隠れごっこ"したことある??」


 ※天明(テンメイ)

→彼らのいた世界の王=神王(シンオウ)


 ※隠れごっこ

→今でいう「かくれんぼ」


「天明"様"な? 千年様が聞いたらブチギレるぞ?」


「あぁ悪りぃ。で? したことある?」


何だよこんな時に。


「あるよ。だからなんだ?」


「じゃあ分かると思うけど、天明、天明様さ、あれ超強いじゃん??」


「当たり前だ。神王だぞ? 神通力者のトップだぞ? この世から消えたと錯覚するほどの消隠姿レベルだ。強いとかの次元じゃない」


「だろ?? でな、俺それがめっちゃ悔しかったからさ、隠れごっこだけのために作った神戯があるんだよ。多分、それなら見つけられると思う」


「なんだそれ。遊びで身につけた技?? そんなもんでいけるのか??」


「う〜〜ん、これ使って天明見つけたし、多分行けると思う。 まぁ、発動者があんまり遠くにいると無理だけど」


て、天明様を見つけた?! あり得ない……俺も天明様と隠れごっこは何度かやったことあるが、あれは無理ゲーの類、絶対に見つけることは不可能だ。ーーだが、何故か嘘をついてるようには見えない。事実か?? なら……賭けてみる価値あり。


「わかった。なら、舎弟は俺がなんとかする、だからお前は洗脳の発動者をなんとしてでも見つけろ。いいな?」


「命令すんな! 俺はやると決めたらやる男だ! 安心しろ!!」


牛若、覚醒まで残り7分。


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