Ep.28 VS魔戎
〈テレルジ国立公園〉
第三等害種『魔戎』の捜索開始から30分。ここでようやく、グレンが何かを発見する。
「ーーおい2人とも! ここ見てみろ!」
彼が指差す場所には、茂みに絡まった1人の死体と、折れた変な形のツノ? のようなもの。
「これは……動物のツノですかね?」
「動物? こんな|鎌みたいなツノの生えた動物なんかいるか??」
「う〜〜ん、確かにそんな動物知らないですねぇ」
「おいちげぇよ2人とも!! そんなことはどうでもいいんだよ! 俺が言ってのはツノじゃなくて死体の方!! 触ってみてわかったけど死んでからそんなに時間経ってない。ってことは、もしかしたら近くに……」
グレンが警戒し始めたその時だった。云大のちょうど真下、地面を突き破り、牛の見た目をした、牛よりも遥かに巨大な生物が姿を現した。
「モォォォォォォ゛!!」
云大は瞬時に神力を全身に込め防ごうとしたが、一瞬出遅れ、巨大生物の頭が、背中に直撃。そのまま空中に投げ飛ばされた。
「ッ、云大!!」
「グレン!! 前だ! 前!!」
巨大生物は云大を突き飛ばしたのち、すぐに地面に着地し、近くにいたグレンに向かって、ツノを前に突き出しながら猛スピードで突進した。
「ウッシッシ〜〜!! 2人目!!」
奇襲とはまさにこのこと。考える暇も、避ける間も与えず牛は突っ込んだーーしかし、当たる寸前のところで、グレンは頭から生えた両方のツノを掴み、力づくで宙に持ち上げた。
「あっっぶねぇな!! 挨拶もなしで攻撃しやがって、この礼儀知らずのクソッタレが!! "燃やしてやる"」
グレンはツノを掴んだまま、自分ごと発火。対象は、溜まらず発狂した。
「あちぃ!! あぢぃ、あっちぃ!!」
叫びながら暴れる牛の動きがあまりにも力強かったため、グレンは手を離し、すぐさま後退った。
「あちぃ!! あぢぃ、あっちぃ!!」
グレンが手を離した後も、火に包まれ暴れる牛。
「これはチャンス」 そう感じたキゼルが動くのは必然。
対象の頭上へと瞬時に移動し、
「グレン、云大! 悪いが仕留める!」
抑えていた神力を解放させた彼の周りに電撃が走る。
「"霳鳴霅 " ーー神戯 『雷纏鑓』」」
雷で作られた1本の長い鑓が、対象の腹部を貫通。と同時に、激しい電撃と、雷音が辺り一帯に広がる。
「っっしゃぁぁあ!! ナイスキゼル!! なんだよなんだよ! 一撃で終わるとか、めっちゃチョロいじゃん!」
「おい、バカやめろ。フラグを立てるな。……って、ちょっと待て。云大どこ行った!??!」
ここでようやく、空中に投げ飛ばされた云大の姿がないことに気がつく。
クソっ!! バカか俺は!! 一番見とかないといけない云大から目を離した。クソッ……
《キゼル先輩!! 聞こえますか?!》
!?
《云大か!? お前、意志伝達も使えるのか?!》
《はい! 集中すれば何とか!》
こいつは驚いた…… さすが千年様だ。
いやいや、んなことどうでもいい!!
《なら話が早い。今どこにいる? 従操が使えてるってことは霄壌断絶の中にはいるってことだな?》
《多分そうだとは思うんですけど……真っ暗で何も見えないです》
真っ暗?
《まぁいい、とりあえず神力を強めろ。そしたら位置は何となくわか……》
云大と話す最中、グレンの立てたフラグが回収される。
「ウッシッシ…… お前ら、"神通力者"だな? だとしたらおかしいなぁ……モォ。
この国には、神通力者はいないって情報だったんだが……モォ。仕方ない……モォ。めんどくさいけどやるしかない……モォ。ーーしかしあれだぁ、神通力者は相当強いと聞いていたが、案外大したことないなぁ……モォ」
両者共に動き続けていたせいでしっかりと見えていなかったが、目の前にいる牛は相当なデカさだった。
体長約4.5メートルの図体に、額からは鎌に似たツノが2本。加えて、皮膚はゴツゴツとしており、お尻から伸びた尻尾の先にはノコギリ型のツノが生えていた。
容姿の変化、会話の成立、身体強度の増幅。これが妖異の進化種『魔戎』である。
「……って、気持ち悪い見た目だなお前!!」
「ウッシッシ、気持ち悪いとは酷いことを言うな……モォ」
「確かに常軌を逸した姿で気持ち悪いが、少し黙ってろグレン。ーーおい、牛。お前には幾つか聞きたいことがあるが、その前に云大をどこにやった? 返答次第では跡形もなく痛みすら与えずに殺す」
「ウッシッシ、怖い怖い。けど、教えてやらないモォ。知りたきゃ、この牛若様を殺してみな……モォ」
「そうか」
キゼルの殺意と神力が跳ね上がり、"バチン"という音ともに彼がその場から消えた瞬間、
「おっと! 慌てるなよ神通力者……モォ。
牛若を殺したら、あの少年も死ぬかもしれないぞ?……モォ」
その言葉のせいで、殺意と神力の込められたキゼルの指が牛若の首元寸前止まる。
「ウッシッシ、いいのかいいのか? 牛若を殺したらあいつも死ぬぞ? モォモォ。そうなれば、悲しいだろ? 悲しいよな?」
「脅しのつもりか? だとしたら実にくだらん、、」
いや待て、俺らは魔戎のことを知らなすぎる。
こいつを殺したら云大が死ぬ的な能力だったらどうする? いやそもそも、魔戎は神通力のような力を持っているのか?
脅しか事実か。考えを張り巡らせるキゼルを見て、牛若はニヤついた。理由は簡単、"彼の気を逸らすこと"それが目的だったからだ。
「死ねぇぇぇ!!!」
尻尾から生えたノコギリ型のツノが、キゼルの首元目掛けて襲いかかる。
ンモォ、ンモォ!! 1人目終了!!!
完全に意表を突いたことで、彼の死を確信した矢先、
「ウ、、モモォ゛ォ゛」
視点がキゼル首元から足元に。
そして、とてつもない痛みを背中に感じる。
な、なにが起きた……モォ
現状を把握できていない牛若は当然戸惑った。
しかし、牛若が今しないといけないのは考えることではなく、退避すること。その一瞬の判断ミスが、"彼"に好機を与えた。
「ごめんよ牛さん! 頭、失礼!!」
今度は、先程以上の痛みが頭を襲う。
顔は地面に埋もれ、その衝撃で地面が少し傾く。
「ーーふぅ……すんません! 捕まってました!!」
そこには、牛若の頭を踏みつけ、にこやかな表情を浮かべた、全身土まみれの云大の姿があった。
「お……おま、お前!! なんだその汚い身なりは!!」
急に戻ってきた彼にかなり面食らったが、
「違う違う! お前、大丈夫か?!」
「はい、何とか! それにしてもこの牛、何か気持ち悪い見た目っすね」
「今はそんなことどうでもいい! 説明しろ! 何があった?」
「え? あぁ確か俺、こいつに空中に投げ飛ばされたあと、地面に着地したんですけど、その地面に穴が空いて……そのまま落下した? と思います」
落下? 地面の中にいたということか。つまり、それが牛の能力……なのか?
「因みにどうやって穴から抜け出した?」
「腕力です!! 結構深かったんですけど、何とか腕の力だけで登れました!!」
「お前はバカか? いやバカだな。なぜ神通力を使わない? 飛べば一瞬だろ」
「そうなんですけど……あの、それがですね、さっき先輩と話してる途中からなんですけど、なんか神通力が使えないっていうか……なんていうか」
神通力が使えない? ってことは穴を作る系の能力者じゃないってことか?! いや待てこの牛、まさか※特異か!?
※ 特異
通常、神通力は1人に対して1つ。(例えば、グレンは炎の神通力者で炎を扱うことしかできない)
しかしごく稀に、命源細胞を2つ持ち、神通力を2種類操るものもいる。それが特異である。
いやいや、それは流石にあり得ないか。神通力者で特異はわかるが、それ以外でそんな例は聞いたことない。だとしたら、一体なんだ……
「あ、そうだ。先輩先輩! 穴に落ちた時に、底に何か光ってるのあって、一応持ってきたんですけど、これ何かわかりますか?」
云大が手に持っていたのは緑色に光る石だった。
!?
「神力封石 消隠の緑?! おいバカ! さっさっと捨てろ!!」
「え!? あ、はい!!」
あり得ない。神通力者以外作ることのできない神力封石がなぜ穴底に? しかも、上位クラスの神通力者じゃないと作れない緑石をだ……何が起きてる。
「……先輩? 大丈夫ですか?」
「あぁ悪い。気にするな」
「それより、神力封石ってなんですか?
俺そんなの習ってません!」
「後で教えてやる。今は敵に……」
ここでようやく、グレンがいないことに気がつく。
「またかよっ!! 云大、牛から離れろ!!」
2人は勢いよく地面に埋まる牛若から離れた。
「先輩どうしたんですか!?」
「どうしたじゃねぇ! あいつどこに行った?!」
「落ち着いてください! 何のことですか?」
「グレンだよグレン!! あいつどこ行った!?」
「グレンって誰ですか?」
・ ・ ・ は?
「おい、こんな時に冗談言うな」
「いや、冗談とかではなくて、、本当にわからないんですけど……」
おいおい、何だその顔は。本気で言ってるのか? だとしたら、流石にこの状況はやばい
《師匠、少し手を貸して貰えませんか?》
・ ・ ・
《師匠!! 虎影師匠!! おいクソジジイ!!》
・ ・ ・
「クソッ!! あのジジイ、霄壌断絶の外にいやがるな?! 傍観しやがって!!!! ックソ、いったい何が起きてやがる!?」
グレンの消息不明に加え、虎影との音信不通。
焦りと怒りでキゼルの不安が高まる中、
「ウッシッシ……焦ってるのか? 恐れているのか? ウッシッシ、滑稽だなぁ神通力者よ……モォ」
目の前には、無傷の牛若が、足2本で立ち上がっていた。
「何が起きたかさっぱりか? モォ。ウッシッシ、面白いな面白いな。目には目を歯には歯を。そして、『神通力者には神通力者を』だなモォォ」
キゼルは困惑していた。それは、牛が立ったことでも、無傷であることでもない。牛若の言った『神通力者には神通力者を』というフレーズに対してだった。
……落ち着け。今のが事実なら、この戦いに別の神通力者が関与してるってことだ。それなら、神力封石の件も納得がいく。つまり、"牛だけ"ではなく、"上位の神通力者"も敵側にいるってことか。
「ーー舎弟、事が発展し過ぎた。この場は一旦退く。お前は先に行け、俺が時間を稼ぐ」
・ ・ ・
「おい云大!! さっさっと行動し、」
その瞬間、神力が大量に込められた云大の拳が、キゼルの右頬に直撃する。
そして、彼はそのまま辺りを破壊しながら、牛若と云大が見えなくなるくらいの距離まで吹き飛ばされた。
「ウッシッシ〜モォ〜モォ〜!! 爽快だ爽快だぁ!! なっかま割れ〜〜、なっかま割れ〜〜あらよっと♪♪」
その場で踊り出す牛若とは対照的に、云大は殴った拳をただ呆然と眺めていた。
一方その頃、少し時間を遡る。
〜〜〜〜
「あぁくそ、ヘマした!! 絶対あとでキゼルに怒られる。つうかここどこ!? 暗くて何も見えやしねぇ!!」
突如姿を消したグレンは、暗くて深い穴底にいた。
「……ダメか、意思伝達使えねぇ。あれ、もしかして俺が従操下手なだけか? いやいや、違うだろ! 神通力が使えないから、意思伝達ができないんだ。うん、そうだ」
彼が神通力を使えなくなったのは、穴に落ちてからすぐのこと。底についた彼は、辺りを見渡し、云大同様、緑に光る石を見つける。そしてそれを握り、ポケットにしまった。それから神通力が使えなくなった今に至る。
「落ち着け俺。一旦整理しよう。まず、俺は穴に落ちた。これは仕方ない。で次、緑色の石を発見、それを拾う。……うん、これも問題ない。ーーいや待て、やっぱりこの石、何か見たことあるんだよなぁ。習ったか? いやいや、習って……ない? まぁどっちにしろ、ただ光ってる石に意味はない……よね?」
いや、大有りである。彼と云大が手にした石は、キゼルの言う通り、神力封石 消隠の緑 通称、緑石と呼ばれるものだ。
効果は、手にした者を強制的に※消隠姿状態にするもので、神通力が使えないのは、そういうことである。
(緑石の持続時間は約10分。体のどこか一部に触れていれば効果は発動され、体から離れたら効果は消える)
※消隠姿
命源細胞による命源の吸収を止め、酸素による肺呼吸に切り替える。=神通力が使えなくなる。
ちなみに、神力封石の概要はキゼルも知っているのだから、当然グレンも教えてもらっている。
「はぁぁあ! 考えててもしゃあないか! とりあえず、力ずくで上に登るしかないかなぁ。まぁキゼルと云大、それにジジイもいるから地道にゆっくり行きますかなぁ」
呑気に構える彼だったが、突然大きな揺れと、凄まじい音を聞いて表情が一変する。
「……全員負けるとかないよな? 上がった時には死んでるとかない、よな? ……っ! 何か嫌な予感がする。とにかく、早く上へ行かねぇと」
〜〜〜〜
殴り飛ばされ、頬が少し腫れたキゼルは、仰向けのまま、呆然と空を眺めていた。
「舎弟に殴り飛ばされた…… もはや意味不明、考えることすら馬鹿らしくなってきたなーーそれに、殴られる瞬間、云大が鎧を纏ってるように見えた……幻覚? いや違うな、このダメージ量から見て、あれはあいつの神戯か何かだ」
ぶつぶつと、独り言を呟き終えた彼は、ゆっくりと起き上がり、地面に尻をついたまま頭を抱えた。
「……平常心、平常心。整理、整理、整理」
ーーそうか……そういうことか。
何かを察した彼は、尻を払いながら立ち上がり、
「千年様との修行を開始してまだそんなに経っていない。なのに、あそこまでの成長速度。そうか、俺らに出会う前からあいつは誰かと繋がっていた。そして俺らに取り入った。つまり、"あれ"はもう仲間じゃない。殺していい、いや殺さないといけない『害種』なんだ」
彼の全身から憎悪と怒りが爆発。それとともに、周辺の草木が"バチバチ"と音を立てながら焦げ散り、直視できないほどの雷による輝きを全身から放つこと数秒……それは一気に怒りの矛先へと牙を向いた。
「ウッシッシ! そろそろ殺しに行くかモォ。どうせあれくらいじゃ死んでないだろうしなぁ……モォ。 っておい云大! 早く殺しに行、」
『ーーまずはお前から……"死ね"』
一瞬にして牛若の眼前に現れたキゼルは、その言葉を吐き捨てたのち、全く目では追えないスピードの殴打と、体毛すらも痙攣するほどの電撃を浴びせた。
「ギャァぁあぁあぁぁぁあ゛あ゛!!!」
苦痛を表現するのにこれ以上とない叫びが響き渡る。
だが、それでも彼は止まらない。
「ーー絶戯 『黒霧雷走』」
悶絶する牛若の全身を覆う黒い雲。
そして、牛若の動きに反応して、雲から体を貫く高威力の電撃が放たれた。
牛若は、そのあまりにも強力な電撃に、声すら発することなく、泡を吹き、膝から崩れ落ちた。
しかし彼はそんなことに目もくれず、
「ーー次はお前だ云大。俺への無礼と攻撃には目を瞑る。しかし、千年様への背信行為だけは死んでも許さない。……せっかく舎弟として認めてきていたのに、、"残念だ"」
彼は口を大きく開け、
「絶戯 『瞬迅咆哮』」
云大に向けて放とうとする電撃の咆哮。
しかし、それを放つ間際、彼は見てしまうーー云大の瞳から流れる涙を。
その涙の真意はわからないし、想像すらできない。
それでも、一度剥き出しにした殺意が簡単に治まることはない。
「さらばだ……」
・ ・ ・
ーーは?? な、何が起きた……体が全く動かない。
口に溜まる雷。しかし、それは放たれることなく、キゼルの全身は、何故か1ミリ足りとも動かなくなった。
"本当は殺したくない" "これからも一緒に"
云大の涙を見てから、そういった彼に対する思いが、無意識にキゼル体を硬直させた……わけではなかった。
確かに、半分、いや1/10くらいはその感情があった。でも正直彼は、千年以外にそこまでの情を持たない主義。
千年か他かと問われれば迷うことなく千年を選ぶ彼にとって、云大への思いはまだその程度。
そんな彼が、千年の脅威になるうるかもしれない云大に同情などするわけもないが、何故か攻撃は止まった。
こいつを殺すことを無意識に拒否してるのか? いやあり得ない。確かに今後も仲間ではいたい。でもこいつは裏切り者。そんな奴に俺が同情するわけがない。
この謎の硬直状態に彼は頭を働かせた。しかし、それでも体は動かない。もちろん答えもわからない。
そうこうしている内に、
「ーークッソ、流石に痛いモォ……ムカつく。
頭にくるモォ゛ォ゛ォ゛!!!」
気絶していた牛若は、目を血走らせながら起き上がり、目の前で硬直するキゼルを殺しにかかる。
「絶対殺す……モォ。食い散らかしてやるモ゛ォ゛」
しかし、牛若もまた、立ち上がると同時に体が硬直した。
それに加えて、牛若は、背後から強烈な何かを感じる。
やばいやばいやばいやばい……モォ……。何だ、この背中から感じる恐怖は……モォ。誰だ? 聞いてないぞ……、歩停損は何してやがる……助けに来いモォ。
じんわりと額から汗を流し、"コツ……コツ……"と背後から聞こえる足音に耳を澄ますこと数秒、ようやく横目にそれが映った。
「ーーホッホ、なるべく手出しはしたくなかったんじゃが、相手が魔戎と神通力者。ちと分が悪い。
それに、このまま放置しておればキゼルが云大を殺しそうじゃったからのぉ、流石に手を出さざるを得ない。はぁあ、全く、手のかかる弟子たちじゃよ」
牛若の目に映ったのは、彼らの師 虎影。ゆっくりと歩きながら、牛若を横切ると、そのままキゼルに歩み寄り、彼の肩に手を置き、耳元に顔を近づけ囁いた。
「ーーよいかキゼル。分かっとると思うが敵は2人じゃ。1人は目の前におる牛の魔戎。
そしてもう1人は、云大に『洗脳』をかけておる中位の神通力者じゃ」
中位の神通力者?! それに舎弟が洗脳されてる?!
「落とし穴で分断、などという小細工を仕掛けて来ておるのも、間違いなく中位じゃ。
じゃが、以外と隠れるのがうまくてどこにおるかわからん。とりあえず無視せぃ。此方でなんとかする。
だからキゼルが今からしないといけないことは、まず云大を気絶させることじゃ。恐らく気を失えば洗脳も解かれる。まずはそれを優先的に対処せぃ」
いや、対処せいも何も体が動か……あぁ、このジジイの神通力か。なるほど全て理解した。
「じゃあ此方はそろそろ消えるでのぉ。あとはキゼルで考えてやってみせぃ。
あぁ、それと言い忘れてたことが2点。
1.グレンは生きとる。あと少しで戻るから、情報を共有してやれ。
2.此方がここから消えた同時に、キゼルの拘束が解ける」
グレンは生きてたか……よかった。なら、あいつが戻り次第手分けして対処しよう。とりあえず云大は俺が……んん?? おい、待て待て待て!!!! ジジイが消えたと同時に拘束が解けるって言ったよな?!
え、つまり動けるようになったら、俺が今放とうとしてる絶戯が云大に直撃するじゃんか!! 無理無理無理! 流石にこっから力は引っ込められない!!
だとしたら、気絶どころじゃ済まねぇって! しかも、俺いま魔戎に攻撃されかかってるじゃん!! どうすんだよこれ!
「以上じゃ。さっき"クソジジイ"と言った件は、この難解な問題で水に流すとする。ホッホ、あとは頑張れぃ」
聞こえてたのかよぉぉぉ!! 待て待て、行くなぁぁクソジジイ!!!
虎影がその場から消えた瞬間、キゼルの絶戯が云大に向かって放たれた。と同時に、魔戎のツノが彼に襲いかかる。
お、終わった……。
どうしようもないこの状況。彼は、背後から襲い掛かる牛若に見向きもせず、ただ自分の放った力と、その矛先にある云大を呆然と眺めていた……そんな時だった。
絶戯と云大のちょうど中間地点、地面が勢いよく突き破られた。
「うぉらぁぁぁ!!!」
そこには、拳を掲げたグレンの姿。
それを見たキゼルは驚き、声をかけようとしたが、
「キゼル!!! どけぇぇえ!!!」
そう言い放ち、グレンは炎を纏った。
「炎纏 火楼羅炎 ーー絶戯 『忌火炎渦焼尽』」
纏った炎は、キゼルの放った絶戯に向かって放出された。そしてぶつかり合う炎と雷。
ここで1つ余談だが、グレンとキゼル、どちらが強いかについて。
結論からいうと、力量や神力・神通力の強さはほぼ互角。ただ、勝率が高いのは間違いなくキゼルである。
例えば、2人で100回勝負をするとしよう。
そうなった場合、極論だがキゼルの99勝1敗もあり得る。
それがなぜかというと、グレンという男はテンションによってパフォーマンスに影響がでるからだ。
何回も同じ相手とやる事への飽き、疲れ、集中力の欠如など。テンションに比例して彼はパフォーマンスが落ちる。
では話を戻すが、互いにぶつけ合った炎と雷。
恐らく普段であれば、「何回もキゼルとは相手している」という理由で彼のパフォーマンスは落ち、キゼルの雷が勝り、炎を掻き消すであろう。
しかし、今日は違った。雑念が混じって放たれたキゼルの力と、気合十分のグレンの力では天と地の差。
炎は一瞬にして雷を包み込み、燃やし、勢いそのままに、キゼルと、その背後にいた牛若に向かって襲いかかった。
その距離、約25メートル。第三等害種である魔戎であれば、避けようと思えば避けれる距離。だがそれは体に異常がなければの話。
牛若の目の前に立つキゼルも当然炎を避けなければならない。しかし彼はただでは避けない。後ろを振り返り、真横に飛び込みながら、
「ーーふっ、形成逆転だ。
神戯 『雷怒』」
牛若の足元を中心に、広範囲に地面を這う電撃を流した。
それにより、牛若の体は三度硬直する。
「モォ゛ モォ゛ モォ゛ーーー!!!」
痙攣しながら叫び、近づく炎に抗おうとするも、時すでに遅し。その場から1歩たりとも動けず、全身が炎に飲み込まれた。
「っしゃぁぁあ!! ナイス連携プレー!!
いや、俺最強!!!」
「おいバカ! まだだ! 恐らくこれでも、この牛は倒せない。一旦退くからついてこい!!」
そういうと、キゼルは空間移動の中に、グレンを押し込み、その場から姿を消した。




