Ep.27 害種
ーー魔戎。それは『※妖異』が、ある条件を満たすことで進化を遂げた姿である。
魔戎は、普者や国そのものを標的にする習性や、高い知能、並大抵の神通力者では対処できないほどの凶暴性も兼ね備えている。
そして、それがとうとう地球にも出没してしまった。
※妖異
動物が変異した場合の呼称。(人間が変異した場合は変異者)
「ーーとまぁ、魔戎とはこういう生き物じゃ」
グレン、キゼル、榮多云大の3名は、師である虎影から魔戎についての話を聞かされていた。
「って、ジジイ! なんでまた勉強会してんだよ! 早く魔戎の討伐に行かせてくれよ!! あ、師匠!!」
「水を差すなバカッ! 今から相対する敵の情報が、全くない状態で挑むのと、ある程度把握して挑むのとでは雲泥の差。理解できないなら黙っとけカス」
「ちょっと言い過ぎな気もしますが、自分もキゼル先輩と同じ意見っす! グレン先輩! 喧嘩はセンスや力ももちろん大事っすけど、戦略や情報はもっと大事っすよ!!」
へぇ、てっきりこいつはグレンタイプのバカだと思ってたんだけど意外と賢いのか。まぁ、俺の舎弟である以上、グレンよりかは賢くなくては困るんだがな。
「それで、虎影師匠先輩! 魔戎はどこにいるんですか?! 早く闘いです!!」
師匠先輩って……やっぱバカだなこいつ。
「ホッホ、血気盛んなのは良いことじゃが、まぁそう慌てるな。さっき己らが言うた通り、殺し合いでは、敵の情報は出来るだけ多く知っておくことが大事じゃ。そうじゃなぁ、グレンでもわかりやすく言うと、いくら神力や腕っ節が勝っていても、"弱点"を知られていたら苦戦するし、災厄殺される。そうならない為にも、情報や知識といった事前準備はとても大事なことなんじゃ」
「全くもって仰る通りです。おい、分かったかバカ1.2」
「勉強になります!!!」
「それは分かるんだけどさ、だったら魔戎の弱点教えてくれよ!」
「確かに!! 今の虎影師匠先輩のセリフを要約すると、『魔戎には弱点がある』っていう風に聞こえました! もしあるなら、めちゃくちゃ気になります!!」
バカとバカが共鳴し始めたぞ。
「お前もそう思うか?! さすが俺が見込んだだけはある!!」
「ありがとうございます!! 次はグレン先輩よりも早く気づいて、早く質問して見せます!!」
「はぁ? 負けるかよ!!」
バカとバカが共鳴し始めたぞ。てか何の張り合いだよそれ。
「あっ! 待て待て、凄えこと思い出した!! 俺結構前に千年から、"魔戎はまだお前には早いから絶対に近づくな"って言われたことあったわ! ってことは、魔戎討伐しちゃダメじゃね?」
「ホッホ、安心せい。魔戎討伐は千年からの依頼じゃ」
「おっ、そうなんだ! 一応、約束は守って魔戎には近づかないようにしてた!!」
嘘つけ、忘れてただけだろうが。
「しかし、"いざ駆除"って言われてもなぁ〜〜。なんか全然わからん!!」
「ホッホ、だからそれを今から話すんじゃよ。
良いか、まず魔戎は第三等害種に該当する。それは理解しているか?」
キゼルとグレンは「うんうん」と頷いていたが、云大は言うまでもなく首を傾げ「ポカ〜〜ン」としていた。
「云大……害種を知らないのか?」
「……はい」
ホッ……千年様よ、色々とはしょり過ぎではないですかな?(笑) ホッホ、まぁ適当なところも千年様の魅力ではあるがのぉ。
「1名理解しておらん者がおるみたいじゃから、改めて害種についてのおさらいからするぞ」
害種とは、神王が危険因子として認めた種。個人もしくは国・世界に害を与えた・与える危険性のある者たちのことを指す。(害=重度な背徳行為)
また、被害の規模で害種のレベルが決まる。
『第五等害種』
変異者 < 妖異 < 芽吹
『第四等害種』
初位の神通力者
『第三等害種』
中位の神通力者 < 妖異の進化種(魔戎)
『第二等害種』
魔戎覚醒種 = 変異者覚醒種 = 上位の神通力者
『第一等害種』
天霊、最上位の神通力者
※上記文言、地面に記載。
「とまぁ、こんな感じじゃ。まぁそれぞれの詳しい説明はとりあえず置いといて、今回、己らが駆除に向かう魔戎は妖異の進化種。つまり、ここに書いてある『第三等害種』に該当する」
第三等害種…… 魔戎と中位神通力者……なるほど、つまり裏切った神通力者なんかも危険因子として害種に認定されるってことか。
「はい!! よろしいですか?」
「元気良いな云大!! どうした? 言ってみろ!! 聞くぜ?」
グレンよ……それは此方の台詞じゃよ。
「これを見る限り、第三等害種"魔戎"は中位の神通力者よりも強いってことですよね?
だとしたら、魔戎の討伐に適任なのは上位の神だと思うんですが、俺は初位、グレン先輩とキゼル先輩は中位なので、討伐は難しいんじゃないでしょうか?」
ホォ〜〜、なんじゃアホかと思っておったら、意外に鋭い。
「半分正解じゃ。まず、誰が討伐に向かうかという点は正解じゃ。それは書いてある通り、害種と同等またはそれ以上の神通力者が討伐に向かうのが基本。つまり、魔戎は上位以上の神通力者が対処するのが好ましい。じゃが、対象よりも低ランクであっても、絶対に勝てないわけではない」
「師匠。その先の答えがわかりました。よろしいですか?」
「うむ、ならキゼルが代弁してみせぃ」
「はい。つまり、相手の特性や弱点を理解した上で、数的有利な状態で、戦略的に挑む。ということですね?」
「その通りじゃ。これは一見簡単そうに見えるが、とても難しいことで、普者ではない者たちは、持ってる力が強大すぎる故に慢心する傾向にある。"俺1人で十分、俺はもう誰よりも強い"。
こういった無駄なプライドをいかに捨てれるか、ひたむきに生きることだけを考えれるか。それだけでも勝敗は大きく左右するということじゃ」
初めて3人が同時に頷く。
「ではこっからが本題じゃ。今から己らが相手する魔戎。此奴らは謂わばプライドの塊。故に群れを成さない習性がある。つまり、魔戎は必ず1個体で動くということじゃ」
「はいは〜〜い!! じゃあ、多数で奇襲をかけて狩るってことか?! あ、ですか!?」
「その通りじゃ。魔戎の弱点は圧倒的慢心。そこさえつければ、今の己らの実力なら問題なくやりあえる」
1vs数……か。 言うのは簡単だが、この3人となると……
「どうしたキゼル? 何か不安でもあるか?」
「は、はい。その、俺とグレンは出会って長いし、そこそこの信頼関係があるのでアレですけど、云大は……」
「おいっ!! お前はまたそういうこと言う! それは、」
「いや、こいつが嫌いとか足手纏いとか、そういう意味で言ったんじゃない。死んでほしくないから、連携の取れないままだと危なくないかって意味だ」
キキキゼル、、成長したなぁ……。
「なんかすみません、気を使わせてしまって」
「いや、それは確かにキゼルの言う通りじゃな。背中を預ける相手がどういうやつかは知っておくべきじゃと此方も思う。しかし、そんなことをしている暇は一切ない。なぜなら、魔戎は捕食生成によって、更に進化を遂げるからじゃ」
「え……捕食生成??(体内生成と体外生成しか習ってないぞ?!)」
捕食生成、それを聞いて驚く云大と、全く同じリアクションのグレンとキゼル。
「ホッホ、そうか己ら、捕食生成を知らんか。
うん、なら良い機会じゃ。知っておくがいい、禁忌の生成方法を」
捕食生成とは、命を喰らうことによって、神通力とは『全く違う力』を強制的に得る方法。
捕食した数や、捕食した対象によって、力は強大化する。
「妖異が魔戎へと進化を遂げる方法こそが、この捕食生成じゃ。更に、捕食生成を繰り返すこと、即ち生き物をくらい続けた魔戎の中から、覚醒種『摩瓈爾奠』が誕生する」
「摩瓈爾奠?! 本や話では聞いたことがありますが、実在するのですか?! それに、命を喰らうだけで力を手に出来るなんて……そんなことが……」
「うむ、実在するし、あり得る。良いか? 『命』というものには説明できない未知のエネルギーが存在していると言われおり、それを喰らうことで神通力と同等の力を手にすることができる。
しかし、これは変異した者、または神通力者が対象であって、普者には何ら影響は出ない」
なるほど。体内・体外生成のどちらかをできるものは、捕食生成もできるってことか。だから、神通力者は『食べる』ことが禁じられているのか。
「おいおい、さっぱりわからね〜〜ぞ? いま何の話してんだ?」
「ホッホ。別に理解せんでも、そういうのがあるってことだけ知っておけばよい。
では話を戻すが、今の己らの実力なら、魔戎は数で対抗すれば圧倒できる。しかし、魔戎が捕食生成を繰り返し、覚醒した『摩瓈爾奠』となってしまうと、第三等害種ではなく第二等害種となる。そうなれば流石に己らだけでは対応できん。つまり、そうなる前に、いま現在いる魔戎は全て討伐する。じゃが、己らは信頼関係がまだない。いざ戦いになれば確実に連携ミスが起こる。そこでじゃ、云大に問うが、この2人を信頼することはできるか?」
「信頼……ですか? う〜〜ん、ざっくりしすぎてて何て言えばいいかわかりませんが、信頼できると思います」
「ホッホ、難しく考えるな。この場においての"信頼"とは、この2人に命を預けることができるか? ということじゃ」
命を預ける? どういう……いやいや、難しく考えるなって。あれだ、ドラマとかでよく見る、「背中は任せた」的なニュアンスだ!
「わっ、かりました! 背中は任せます!!」
「ちょっと待ってください師匠。意味が全然わかりません」
「うん? わからぬか? 簡単なことじゃ、云大が先頭に立ち、グレンとキゼルでバックアップ、という意味じゃ」
!? まだ初位の云大を先頭に立たせる?! それじゃ……
「……見殺しにしろってことですか?」
「ホッホ、バカを言うでない。云大は、千年から預かった大事な仲間=此方の愛弟子じゃ。死んで良いわけがなかろう」
「なら先頭は……」
「勘違いするでない。云大が死ぬか、捨て駒で終わるかはグレンとキゼル次第じゃ。死んでほしくないなら、力を合わせて戦えぃ!!」
俺とグレンが少しでも判断を誤れば云大が死ぬってことか……クッソ、鬼畜ジジイめ。
「な〜〜んだ。それなら簡単じゃん! 俺とキゼルが云大守りながら戦えば良いってことだろ? 楽勝楽勝〜〜」
「はぁ……お前な、俺たちは云大の神通力がどんなものなのかも知らなければ、魔戎がどれくらい強いのかもわからない。それを理解した上で「簡単簡単〜〜」って言ってるならお前はもう救えないどころか、脳みその死んだバカだ」
「いやいや、わかってるよ? でもさ、俺もキゼルも強いじゃん? それに、なんかあったらジジイが助けてくれる。だよな? あ、師匠」
「ホッホ。まぁ危なくなったら手は貸すが、基本的には己らでどうにかせい。と、少し話しすぎたのぉ。そろそろ行くぞ」
ひとしきり話を会えると、虎影は3人を連れ、空間移動の中へと消えた。
************************
〈同国首都ウランバートル テレルジ国立公園〉
ウランバートル北東部に位置するこの場所に、4人は降り立った。
そして、周辺に漂う不穏な空気と、禍々しい殺意の存在に気がつく。
「……いるな」
観光地としても有名な同公園が、厳重立ち入り禁止区域となってから数日。
周辺には、誰1人としていなかったが、所々に争った形跡があった。
そしてその周辺を更によく見ると、何者かに喰われたであろう残骸があちらこちらに転がっていた。
ーー遊牧民の情報から数日余り、あれだけ近づくなと言うておいたのに……残念じゃ。
「はてさて、まずは"閉じる"かのぉ」
虎影が何かをしようと、動き始めたのを見て、
「ジジイ! あ、師匠! 間出すんだろ?! 俺がやる!!」
「ほぉ? グレン、間ができるようになったのか?」
「師匠、こいつは出来ません。ただやりたいだけだと思います。時間の無駄です、無視して下さい」
「は!? できるし!! 見てろ!」
「ホッホ、意欲は良いことじゃが、今回は間は使わん。なぜなら、間では神力が外に漏れてしまうからのぉ。どれ、少し離れておれ」
3人は、虎影から少しだけ距離を取った。
「ーー"間越して角結び 天地閉ざして無き姿" 従操 『霄壌断絶』」
すると、テレルジ国立公園一帯が、巨大な結界で覆われた。
「ななな、なんだよそれ!! 見たことも聞いたこともねぇぞ??!!」
嘘をつくな。何度も見てるだろうが。
「俺は見たことありますよ! 千年先輩が前に使ってました!」
「なに?!」
「放っておけ云大。そいつに、記憶というものは無いに等しい。それより師匠、なぜ霄壌断絶を使うのですか? これは、上位クラスの神通力者が戦闘を行う場合にのみ使用する従操ですよね?」
「ホッホ、皆まで言わせるでない。己らの実力では、上位にはまだまだ遠く及ばないが、それなりに力はある。此方は過大評価も過小評価もせん。わかるな?」
「……なるほど。ありがとうございます!」
「え? は? どういう意味だよ!!」
「ホッホ、ほいじゃあ、あとは己らで何とかしてみぃ。此方は、離れたところで見ておくでのぉ」
そういうと、虎影はその場から姿を消した。
ジジイは俺らを認めているってことか。まぁ当然だがな。ーーって、何の情報も言わずに去りやがったあのクソジジイ!!
「はぁ…… とりあえず、どこにいるか探ろう」
「そうだなぁ〜〜。てか本当に結界張ったのか? 何も見えねぇけど?」
「見えないんだよ。説明ダルいから後にしろ」
「へ〜〜い」
どこに、どんな魔戎がいるのやら……何の情報もないまま、とりあえず3人は歩き出したのだが、
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
云大の震えた声で立ち止まる。
「何でそんな平然としてるんですか?! おかしいとは思わないんですか?!」
「んん? 何がぁ?」
「いや、何がって……。その、本当にここに魔戎はいるんですか? さっきから神力っぽいの何も感じません。俺が弱すぎるから感じないだけなんですか?」
慌てふためく彼とは正反対に、2人はクスクス笑い出した。
「千年は相変わらず教えるの下手だなぁ。全然伝わってねぇじゃん(笑)」
「千年"様"だ。あと下手なんじゃない、苦手なんだ」
「一緒だろ(笑)」
何やら楽しげに会話する2人を見て、
「ちょっと、何か知ってるなら教えてくださいよ!」
「あぁ悪い。いいか舎弟、変異者や魔戎は神通力者じゃない。=神力が発生しない。
だから、何も感じないのは当然のことだ」
「え、でも人間とかは見つけることできますよね? 何で神通力者じゃない変異者や魔戎は見つけられないんですか?」
「それは、変異者や魔戎が命源の加護を受けてるからだよ。命源の加護を受けてるってことは、常に命源が纏わりついてるってこと。それ即ち、命源に紛れることができるってことだ。
空気中には命源が大量にあるわけだから、その中から変異者や魔戎を特定して探すのは無理じゃないか?」
・ ・ ・ !!
「なるほど! そういうことですね!
なら探し回るしかないですね! 頑張りましょ!」
云大も理解したところで、公園内の探索が始まった。
そんな3人を遠くから見つめる大きな影。
「ーーウッシッシ、美味そうなやつらだモォ。絶対に、絶対に食い殺す。ウッシッシ」




