Ep.21 従操
〈千年の神域内〉
座学を終えた榮多云大は、地面にあぐらの状態で座り、心臓の位置に手を添え、目を閉じ、集中していた。
「ーーいいか、まずは心臓内にある命源細胞を感じろ。心臓の鼓動とは少し違う、別の鼓動があるはずだ。集中しろ」
「押忍!!」
ーードックン ーードックン ーードックン……
「どうだ? 音の違いがあるか?」
「そう……ですかね? 確かに少し違う……かもしれません」
「命源細胞は基本的に心臓の中にある。感じとるんだ」
「はい!! ーーところで、命源細胞の位置がわかることで、なんかメリット?的なのってあるんですか?」
「ば〜〜か、大ありだ。命源細胞は神通力者の核だ。即ち急所! 絶対に守らないといけない部分だろ? 把握しておくのは当然だ」
「確かにそうですね! 失礼しました!」
「じゃあ次は、そのままの体勢でいいから、10回大きく息を吸って吐くを繰り返してくれ」
云大は、言われた通り、丁寧にそれを行った。その間に、千年は空間から再び紙を出した。
「終わりました!(なんだこの感じ、わかんねぇけど何かすげえ)」
気づいたかな。よし、ならーー
「じゃあこの紙をもっかい折って、飛ばしてみてくれ」
「わかりました!」
紙飛行機を折り終えると、彼は立ち上がり、1回目と同じように、振りかぶって投げた。
すると、さっきやった時は粉々になったのに、今度は紙飛行機がふらふらとしながらも前進。距離にして約750メートル、その普通の紙飛行機は人では不可能なほどに飛んだ。
「す、すげぇ。めちゃ飛んだ……。あれって普通の紙ですよね?!」
「あぁ、なんの変哲もないただの紙だ」
驚く彼を横目に、千年はもう1枚紙をだし、ぐちゃぐちゃに丸めた。
「見とけ」
そういうと、丸めた紙を"ポン"と上へと投げる。そして、それを千年が指差すと、紙は空中で静止した。
「う、浮いてる!?」
差した指を動かすと、それと同時に紙も動き、指を云大に向けると、紙もその方向に向かって動き出し、彼の額に当たり止まった。
「空気中の命源を意のままに操る……これが命令だ。まぁ今のは紙周辺の命源を紙に付着させて、ただ動かしたり止めたりする、謂わば基礎中の基礎。これが出来なきゃ先に進めないから、まずはこれを出来るようになってもらうぞ」
「これで基礎…… まだまだ先は長いっすね。ところで、1ついいですか?」
「うん?」
「さっき深呼吸させたのはどんな理由が?」
「あぁ、空気中の命源を従わせるとはいえ、体内の命源細胞に命源を取り込まないと力は使えないからな。取り込むのには呼吸するだけでいいんだが、お前はまだそれが下手くそだから、大袈裟ではあるが、あれくらいするのが効果的だったってことだよ。やってみて違いがあったろ?」
「確かに。何かこう、高揚するというか、沸き立つというか。表現が難しいですけど、体に何か入った感覚はありました」
「十分だ。慣れればそれが自然になって、俺が今やったことくらいは指を動かす程度の感覚でできるようになる。だから、まずは慣れることだ」
「はい! やりまくります!!」
それから暫く、云大は紙を飛ばしまくった。
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「だぁ……だぁ……疲れたぁ。紙飛ばしてるだけなのに」
「そりゃあ慣れてない力のコントロールにはめちゃくちゃ集中力が必要だからな。ちょっと休もうか」
云大は覚えも、慣れも早く、まだ1時間弱しか経っていないのに、随分とコントロールが上手くなった。
かなりコントロールがうまいな。授かってからかなり時間が経ってるから、無意識のうちに、ある程度は身についてるのか?
「千年先輩、何かこうコツみたいなのないんですか?」
「ない!」
即答!! まぁそんな簡単なわけないか……
「もし仮にあったとしても、俺は感覚主義だから教えられない! とにかくやりまくれ! 以上!」
た、体育会系でもあるのか……まだそんな時間経ってないけど、なかなか掴みどころのない人だな。
それから、再び彼は紙を飛ばしまくった。
〜〜1時間後
「うん、紙のコントロールはまぁ上手くなってきたな」
「はい! でもまだ、指を動かす感覚くらいにはできないですね。かなり集中してやっとです」
「いやいや十分過ぎるくらいだ。あとは慣れだ」
「頑張ります!!」
しかし驚いた、本当に覚えが早いな。早すぎて怖いくらいだ。地球生まれととデウス生まれでは何かが違うのか? あとでそれとなく博士に聞こう〜〜っと。
「よし、じゃあステップ2! その場でいいから、浮遊してみろ!!」
「え……浮遊? え、浮遊……?!」
いきなり無理難題を突きつけられた云大は困惑していたが、
「難しく考えるな。紙から自分になっただけだ。周辺の命源に「俺を持ち上げろ」と命じればいい。絶対出来るからやってみな」
まさか自分が空を飛べる日が来るなんか思ってもいなかった彼は、内心千年を疑いながらも、
「ーーふぅぅ、、 "俺を持ち上げろ!!"」
すると、彼はゆっくり上に向かって浮き始めた。
「う、うわぁぁ!! すげぇ!! 俺飛んでる!! やばやば!!」
しかし、数秒もすると足が地面に着いた。
「バ〜〜カ、はしゃぐな。集中しないと続かないぞ。まずは飛んでることに慣れろ。そして感覚を掴め!」
「はい!!」
それから、云大は飛び続けた。
〜〜3時間後
「うん、だいぶ上手くなってきたな!」
云大はこのたった3時間で、浮きながら走ったり、回転したりと、完全に浮遊を習得した。
これも、そつなくこなすか。俺の中での云大への期待値がどんどん跳ね上がるなおい。全く、教え甲斐がある。うん、ならこれもーー
何かを確信した彼は、浮遊する云大を呼び、
目の前に座らせた。
そして、彼は空間に文字を書き出した。
【従操】
「正直、半年以上はかかると思ってたが、素晴らしい!! じゃあこれより、従操の修行を始める」
「従操??」
「心配するな、今の感じならすぐにできるようになる。じゃあまず、説明から。従操とは、空気中の命源への命令、これの応用と考えてくれ。
従操は、『命令』又は、『命令と吸収』を同時に行うことで発動できる。その中でも、まずは大事且つ勝手がいい4つの従操を伝授する。心して聞きたまえ」
そういうと、千年は空間に文字を書き出した。
・【消隠姿】
・【意思伝達】
・【空間移動】
・【妨止遮】
「従操は他にもあるが、まずはこの4つをマスターしてもらう」
再び彼は文字を書き出す。
【|消隠姿《ショウインシ】
→神力の抑制
"汝 我が命に従い 人との境を絶て"
【意思伝達】
→命源を通じての会話
"汝 我が命に従い 疎通の橋を渡せ"
【空間移動】
→命源を通じて見たことのある場所へ移動する
"汝 我が命に従い 先へ導け"
【妨止遮】
→特定の従操の妨害。(出来るものと出来ないものがある)
他者が発動した従操を打ち消すことが出来る。
"汝 我が命に従え"
「こんなとこかな。まぁ見ててもぽかぁ〜んだと思うから、とりあえず1個ずつ実践してみる。よく見とくように」
千年は云大から少し距離をとり、
「まずは、消隠姿。
ーー"汝 我が命に従い 人との境を絶て" 」
・・・
「はい終わり!! じゃあ次はーー」
「ちょちょちょっと待ってください!!
え!? な、何がどう、え!? ごめんなさい、全然わからなかったです」
「おい〜〜、よく見てろって言ったじゃんかぁ。ったく、サービスだぞ。よく見とけ」
・・・ 「!?」
「……なるほど、千年先輩から神力が消えましたね」
「そう、その通り。消隠姿とは、命源の吸収を完全に遮断する力のことだ」
「なるほど。じゃあ、この消隠姿を使うことによって、人に近づくってことですね?」
おぉ、
「そういうこと。消隠姿を使っていれば、下手じゃねければ他の神通力者に自分が神通力者だとバレることは絶対にない。
因みにだが、消隠姿状態とそうじゃない状態の時の大きな違いってわかるか?」
「大きな違い? ……力が使えないですかね?」
「残念! 外れたついでに話すが、消隠姿状態でも、心臓内の命源細胞に気体である命源が取り込まれている、即ちストックされていれば使用はできる。
では話を戻そう。大きな違いってのは、呼吸の仕方だ。神通力者は、息を吸うと同時に命源を体内に吸収する。そしてそれが力となり、神力・神通力に変換される。ってことは?」
「命源細胞は神通力者の心臓でもあり、肺でもあるってことですね」
「そう、肺であり心臓だ。つまり、神通力者が呼吸をするには酸素を取り込むのではなく、命源を取り込むってこと。
じゃあ話を戻すが、消隠姿は命源の吸収を遮断する力。つまり、消隠姿を使用してる時のみ、命源細胞で行なっていた呼吸が停止し、酸素を取り込む肺呼吸に切り替わるってことだ」
頷きながら必死にメモを取り、取り終えると、首を傾げて、"はっ"とした表情を浮かべた。
「消隠姿を使っていれば、神力が漏れることがない。つまり、それを浴びる人がいなくなる。変異者の誕生を抑制できるってことですね!! 」
「素晴らしい! 正解だ!消隠姿のメリットは3つ。
1.変異者誕生を大幅に軽減できる。
2.神力がでない=人と変わらない状態になる。即ち、居場所を秘匿できる。
3.命源細胞の抑制。
命源細胞は、神通力を使うたびに疲弊し、力が弱まる性質にある。(使わなければ回復する) つまり、消隠姿を使うことによって、無駄な労力を削減できる」
「これは、絶対に覚えないといけない力ですね。因みに、千年先輩が消隠姿使う前に言ってた、"汝 我が命に従い 人との境を絶て"とはなんですか?」
「え? 1回聞いただけで覚えたの?!」
「あ、いやメモ取ってました」
あぁ、なるほど。書くことに集中してて違いがわからなかったのか。いい事だけど……真面目か!!
「従操は諸説あるが、原初の神のうちの1体が作った力で、決まった文言を言うことで、命源が反応するようになってる、と言われている。
つまり、"汝 我が命に従い 人との境を絶て" これを言うことによって、消隠姿を発動することができる。これは、声に出してもいいし、心の中で言っても発動はするようになってる。また、従操はそれぞれ決まった文言があるからそれも覚えるように。あ、因みに、こういう文言のことを『綸音』という。これも覚えておくように」
※綸音
空気中の命源が記憶している言葉の総称。
ある"特定の文言"を唱えたときにだけ反応し、力が発動する。
汝〇〇など。
「はいっ! 綸音とは、自分が勝手に作れるものですか?
もし作れるなら、自分仕様に変えれるので、文言を覚える必要がないかと思うのですが!」
「うん、無理だね。綸音は遥昔に出来た力だ。それ以降、従操の新しい綸音が誕生した形跡も、報せもない。多分だが、その昔に命源に直接干渉できる力を持った神がいたんだろうな。だから、勝手に作り替えたりは出来ない」
まぁ例外はあるが、今こいつに話しても理解できないだろうし、ぶっちゃけ面倒臭いから知らないふりを……。
「あぁ、やっぱそうなんですね。正直、体さえ強ければ神通力使えこなせると思ってたんですが……こりゃ、頭も良くないとダメですね」
「あははっ(笑)。記憶するだけだから、まぁ多少はな!(現にグレンは出来てないけど……)
でも、それなりに慣れてきたり、神力が強まれば、わざわざ綸音を言わずとも、命源が反応してくれるようになったりもする。そこな鍛錬あるのみだがな!」
「なるほどですね。色々と理解しました!
いやぁ〜〜それにしても、言うだけでいいなんて便利ですね! もっと難しいと思ってたので安心しました!」
あれ? こいつやっぱり間抜けか? いや違うか。俺の説明不足が原因か。
「あんたバカねぇ。言うだけで従操が使えるわけないでしょ!」
「え!?」
その反応は……うん、やっぱこいつ間抜けだ。
「あのね、言うだけでいいならこんな長々と説明しないよ。いいかい? さっきも言ったけど、従操は吸収と命令の同時に発動。=吸収した命源を神力に変えて命令するってこと。その作業が上手くないプラス、それぞれの従操を使えるくらいの神力量がないと、当然使用は出来ない。言っただけで使えるなら世話ないよ」
「あ、そうか……でも、なんか俺いけそうな気がします」
「ほぉ? ここまで上手くいってるから図に乗ってるな?(ニヤニヤ) でもそれはとてもいい心意気だ。出来ないって思うよりは出来ると思ってる方が絶対にいいからな。物は試しだ。やってみ」
そういうと、云大は立ち上がり、大きく深呼吸をし、
「"汝 我が命に従い 人との境を絶て"」
・ ・ ・ ーー驚いた。こいつ、本当に出来た……。 普通の神通力者でも1年近くかかるのに……
云大が言葉を発すると、彼から溢れていた神力は、ものの見事に収まった。これには、流石の千年も驚きを隠せなかった。
「ど、どうすかね……? いけた感じはするんですけど」
「うん、出来てるよ。なんだろう、凄い通り越してキモいわ」
「え!? 褒めるときは褒めてくださいよ〜〜。こう見えて、メンタル豆腐なんですからぁ」
「ごめんごめん。にしても本当にすごいな」
「そう……なんですかね?」
やっぱり、生まれてから時間が経過してるから、命源がある程度体に染み付いてるのか?まぁいいや、色々省けて助かるし。
「おけ! じゃあ残り3つもいってみようか!」
「お願いします!! あ、そうだった。質問いいですか??」
「カモ〜〜ン」
「ありがとうございます(笑) その、神通力ってどうやれば強く? 凄く? なるんですかね?? 多分ですけど、神力は神通力が強くなれば比例して上がると思うんですけど、神通力そのものはどうやって……とふと思いまして……」
「それに気付けるとは、流石の一言!
えっとね、神通力を強化するには、とにかく経験を積むことだ。経験を積む=神通力者ととの戦闘、これが1番手取り早い!! 理由は簡単、命源細胞は使えば使うだけ強くなるから。実践あるのみ! ってやつだ。
そのために、人の立ち入ることのできない、周りを気にせず修練できる神域にいる」
「なるほど!! 理解しました! ありがとうございます!!」
うんうん、でもこれがまたシンドイだよな〜〜。今頃、キゼルとグレン、へばってんだろうな〜〜。ププ、ウケる。
一方その頃モンゴルにて、虎影との修行を始めたグレンとキゼルの2人はというと、
「ーーホッホッ、なんじゃ弱いのぉ。まるでダメじゃ。ちとばかり強くなっておると思っておったが……残念残念。こんなもんで己らが神になる? ホッホ、笑わせるでない。もう1度、母親の子宮からやり直せぃ」
虎影1人を相手に、ボコボコにされ、2人揃って地に伏していた。




