Ep.16 天告
"キゼル・ラーシュ"
彼は、生まれてすぐーー『親に捨てられた』
考えることも、伝えることも、何も出来ない赤子の状態で捨てられた彼は、それから何日と誰にも見つかることなく放置された。
普通であればこのような状況、命を落とすのが当然の話なのだが、彼は生きていた。
雨に打たれ、風に吹かれ、身体中泥まみれ。当たり前だが、食事も取れていない。
だが、彼は生きていていた。それは、彼が神通力者だったからだ。
捨てられてから一月、神通力の影響もあってか、0歳であるはずのキゼルは言葉を話し、歩くこともできるようになっていた。
そして彼は自分を知り、意志を持ち、「せっかく生まれたんだ、必死に生きよう」そう考えるようになった。
しかし、そんな彼の前向きな生き方を、生まれた環境が拒んだ。
キゼルが生まれたとされている場所は、神のいない国。つまり非神通力者のみが住む国だった。=普者ノ国。
※普者ノ国
何の力もない人族や、神力の余波で変異者になってしまったもの達の住む国。
また、同国は特区とも呼ばれており、神王以外の神通力者の立ち入りが禁止されている。
⇒過去に神通力者から酷い仕打ちを受けたり、強大すぎる力に恐れたりなど、この国に住むものは、一様に神通力者を嫌悪している。
それから数日、国にある噂が流れる。
"言葉を話し、立って歩く小汚い赤子がいる"
その噂はみるみる広がり、遂に1人の国民とキゼルは接触する。
「神通力者だ!!」
「全員、武器を取れ!!」
住人たちは、国にいるはずのない神通力者であるキゼルを激しく嫌悪し、迫害した。
所詮は言葉を話し動けるだけの0歳児。それでも、住人たちはあらゆる武器を手に取り、無抵抗の赤子に対し、罵声を浴びせながら痛めつけた。
そして、殺すとあとあと厄介なことになると感じた彼らは、衰弱するキゼルを、危険生物"魔戎"の多く生息している地に捨てた。
捕食され、死に至るのも時間の問題だろう。普者の民は笑いながらその場を去った。
身体中アザだらけで、息も浅い。周りには、涎を垂らし殺気立つ魔戎の群れ。しかし、キゼルは死ななかった。運良く彼を見つけ、救い出した男がいたのだ。
それが天千年である。
たまたま任務で来ていたこの地で、キゼルを見つけるや否や、彼をそっと抱きしめ、自国へ連れ帰った。
そして、何の報告もせず、勝手に、名も何もない彼に『キゼル・ラーシュ』という名を与え、王直眷属として王に仕えさせた。
そういう経緯もあり、彼は誰よりも千年を敬愛していた。それは神域であのようなことがあっても変わらなかった。
そんな彼は今、どこかは分からないが綺麗な花畑の上で、千年と楽しく遊んでいた。
「千年様! 今度はあっちにいきましょう!」
「千年様! これ見てください!」
「千年様!」
これは死の世界なのか、それとも、ただの自分の妄想なのか。まぁとにかく、彼は死んだというのに、意外にも楽しくしていた。ーーだが、
「ーーおい、起きろ! 起きろキゼル! おい!!」
はぁ……うるさい。黙れよ、くそグレン。ったく、千年様との楽しい時間を邪魔しやがって……それにしても何か可笑しいな。死んでいるのに無自覚な揺れを感じる。それにグレンの姿はないのに声だけは聞こえる。ははっ、死後の世界、中々面白いな。
「おいって!! 起きろ! キゼル、起きろ!!」
あぁ煩い黙れ!! 今、千年様と散歩中だ。殺すぞ!!
「ダメだ、全然起きねぇ。あぁ、もういいや! おいっ、いい加減起きろ!!」
キゼルはグレンの怒鳴り声とともに、頬に強い痛みを感じた。
痛い。え……なんで痛みを感じる?
しかも、さっきからこっちの声は届いてない気がする。どういうことだ?
信じ難い状況を前に、彼は戸惑った。
そんな中、更に彼の頭を悩ませる謎の声が響き渡る。
《ーーキゼル・ラーシュ、聞こえておるか?》
何だ今度は……女? いや変声期前の男? どちらにしろ、誰だ? 待て、、何だこれ……意識が……。
《聞こえておるな。なら余計なことは考えてず聞け。ーーこれは天からの告げ。汝は死を得た。従って、次"雷の神"とす。世界の安寧を祈り、我が身を捧げ、励め》
その言葉が終わると同時に、止まっていた思考が急激に動き出し、その反動で開くはずのない目蓋に力が入り、勢いよく目を開けた。
すると、目の前には、雲ひとつない綺麗な空が一面に広がっていた。
そして辺りを見渡し気がつく。ここは以前、綾瀬朱奈と会っていた山奥だということに。
「なんだこれ……生きてるみたいだ」
死の世界とは到底思えないほどのリアルな空間に、彼は戸惑っていた。
「起きた! 博士、起きたぞ!!」
「わかっとるわ。はしゃぐなバカ」
目の前から、同じく死んだグレンと博士の声が聞こえると同時に、グレンに殴られたであろう頬の痛みを改めて感じ始めた。
どういうことだ……
混乱しながらも、彼はゆっくりと起き上がり、目を擦りながら、声の聞こえる方へと顔を向けた。
するとそこには、博士とグレン、そして、自分が殺しかけた榮多云大の元気な姿があった。
・ ・ ・ ダメだ、色々と意味がわからない……
とりあえずキゼルは、自分の頬をつねり、本当に生きているということを確認し、
「俺は……生きてるのか!? てかお前らも……生きてるのか?!」
「死んでねぇよ! つうか千年が俺たち殺すわけねぇだろ! まぁ、実際かなり焦ったけど」
「うちは知っとたけどな」
「キゼル先輩、おはようございます!!」
何がどうなってるのか、彼にはまだ到底理解できなかったが、3人の姿を見て、一先ず安堵の表情を浮かべた。
「なぁなぁ博士〜〜、んなことより千年はどこだよ〜〜。いい加減教えてくれよ〜〜」
「さっきも言ったやろ、うちは知らん」
「もったいぶってないで言え。殺すぞ」
「起きて早々喧嘩売んなクソガキ。次はうちが本当に殺してやろうかキゼル」
「あの、博士先輩。千年先輩は大丈夫なんですか??」
「新入りはもっと黙れ。つうか先輩呼びやめろやキショい。なんやねん、博士先輩って。語呂悪すぎやろ」
またこうして皆んなではしゃげることの喜びと嬉しさからか、千年の前以外ではあまり見せない、キゼルの笑顔が場を和ませた。
それから数分後。
「ーーお待たぁ」
空間移動の中から千年がようやく姿を現す。
1、2、3、4っと。よし、全員揃ってるね。
「おい、どこで何しとった」
「え? 教えるわけないじゃん。引くわ〜〜」
じゃれ合う博士と千年の会話を遮るように、グレンが突如大きな声で、
「おい千年! 何で俺のことぶっ殺したんだよ!!」
それに続くように、
「千年先輩!! 改めまして榮多云大です!! 自分、元気さと真っ直ぐさは誰にも負けません!!」
「うるさいうるさい。ごちゃつきすぎ。つうか何の自己紹介それ?」
そんな中、誰よりも彼に会いたがっていたはずのキゼルは何故かモジモジしながら、じっと黙っていた。
あ、やばい。そんな時間経ってないのに。なんだか凄く緊張する。あぁ、千年様だ。
「千年様……お、お久しぶり、です」
え、何でこいつ緊張してんの……?
時間にしたらおそよ半日。それなのに、グレンとキゼルは何十年と千年に会ってないかのように、彼との会話を楽しんだ。
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「よし、じゃあ始めますか!」
千年は全員を自分の目の前に座らせると、1人立ち上がり、片手は腰へ、もう片方の手は人差し指を突き立てて天に向けた。
「それでは、チキチキ 第1回 王直眷属4名と他1名による衆会を開催しま〜〜す! はい拍手!!」
博士以外の3人は合図とともに拍手を送った。
「はいは〜〜い!」
拍手を終えるとグレンが真っ先に手を上げた。
「何で第1回なんだ? デウスで何回もやってるじゃん! あとチキチキって何?」
「地球では初だろ? だから第1回なのである。チキチキは云大の家で見たテレビの中の人が言ってた」
あぁ、確かに録画してたやつ見てたなぁ。あれ? 千年先輩いま、俺のこと云大って下の名前で呼んだ?!
「なるほど……星が変わったことでリセットされる。デウスを忘れるなという意味と、新天地でも頑張ろうということですね。さすがです千年様!!」
「いや、そこまでは言ってないよ(うわ、、何か云大の目がキラキラしてる……何故だ)」
「おい! バカがバカを褒めてるところ申し訳ないが、衆会すんのに間出さんでええんか?」
そんな博士の提案を聞いた千年は、何故かドン引きしていた。
「え……間は当然必要だよ?? あのさ、そういうのって気がついた人がやればよくない? え……怖っ、他人任せなの? え……怖っ、」
「はいはい」
そういうと、彼女は立ち上がり、
「"汝 我が命に従い その身で囲み断て"ーー従操 『間』」
すると、彼らの周辺に、正方形の巨大な結界が張られた。
「おぉ、凄い。あんな一瞬で」
目の前で起きた現象に、云大は改めて神の凄さを実感する。
「なぁなぁ、何で間出すんだよ〜? 別に神力使わねぇぞ??」
「バカか。衆会をするんだぞ? 会話を盗聴されたらどうする?」
「あ、そっか!! 間にはそういう役割もあったな! 悪りぃ悪りぃ」
「よし、キゼルのおかげで、グレンのバカタレの疑問も解消できたので、じゃあまず、俺たちに新たな仲間ができたわけだから、とりあえず挨拶してもらうか。いけるか?」
そういうと、彼は立ち上がり、大きく息を吸い、
「改めまして、人類最強の男 榮多云大です! 今後は、先輩たちに少しでも近づけるよう精進していきますので、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします!!」
気合の入った挨拶に、グレンだけが大盛り上がりしていた。
「じゃあ挨拶も終わったことだし、早速今日の議題2つを発表する。まず、云大、グレン、キゼルの3名の今後についてと、俺の成すべきことについてだ」
議題を聞いた瞬間、普段であれば一番最初に食いつくのはグレン。だが、今回は違った。焦った表情で真っ先に手を上げ、勢いよく立ち上がったのはキゼルであった。
「俺たちの今後とは何ですか!? まさか、別行動とかじゃないですよね? 千年様!!」
いやまだ何も言ってねぇし。
「落ち着けアホ。それを今から話すって言っとるやろ。黙って座っとけチンチクリン」
「おい、いま千年様と話してる。お前が黙れ」
「うん、博士が正しいからキゼルが黙ろうね〜〜。ではでは1つ目についてお話します。まず初めに、云大。お前は俺の出した条件をクリアし、キゼルに勝った。だから約束通りお前に力についての全てを教える」
「勝っただなんて……正直、完全に俺の負けです」
「過程がどうであれ、キゼルが負けを宣言した以上、勝ちは勝ちだ。それとも何だ、やっぱりやめとくか?」
云大は下を向きながら、ゆっくり首を横に振る。
「だよな。なら堂々としていればいい。次にグレンとキゼル。お前らは、俺の神域で死を経験した。つまり、お前たちには神格の権利が与えられたということだ。よって、云大には神通力の基礎・基本を、グレンとキゼルには応用を教える。以上、何かあるか?」
さっきはキゼルに先を越されたと言わんばかりに、今度は一目散にグレンが手をあげる。
「シンカクって何? シンイキって何? 俺バカだからそういうの全然わかんねぇよ! もうちょっと俺でもわかるように教えてくれ!」
「うん、だからそれを教えるって言ってるの。わかる?」
「う〜〜ん……あ、なるほど。わかった!!」
嘘つけ!!
「まぁいいや、とりあえず3人の今後はこんな感じ。後で詳しく説明するね。次に、2つ目、俺の成すべきことについて。これは正直みんなの力が必要になる。でも、俺が勝手にやるって決めたことだから、嫌なら断ってくれてもいい」
「何をおっしゃいますか。自分が千年様のお願いを断るわけがありません」
「俺も俺も!! 千年の考えることは面白いから喜んで手伝うぜ!」
「千年先輩、頼りないかもですけど、俺も頑張ります!」
お、お前ら……
「しょうもない茶番やな。時間の無駄や、いいからはよ言え。つうかお前が勝手に決めんのは今に始まったことちゃうやろ。キモいから畏まんなウンコ野郎」
うわ〜〜、1人マジで可愛くねぇぇ。
「はい、えっとですね、俺は"神和"を探し、手に入れることにした」
"神和"。それを聞いた瞬間、グレンははしゃぎ、云大はキョトン、キゼルはワクワクした様子。一方、博士は何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。
「千年に神和かぁ。うん、似合ってるな!!」
「バカかグレン、当然だ。千年様にこそ似合う力。おめでとうございます!!」
いやいや、まだ手に入れてないし。
「すみません、全然話についていけないんですけど、神和って何ですか?」
「そうだな、まずその話からしようーー」
「いいぜ! 仲間になった祝いだ! このグレン・ハイズヴェルム様が教えてやる!」
グレンは勢いよく立ち上がり、
「神和っていうのはだな!! 神和ってのはだな!! ……あれ、神和って何だ? えっと、、あっ、そうそう。あれだ、う〜〜んっと、まぁ、はちゃめちゃな力のことだ! もうそれはそれは凄い力だ!」
「バカが。わからないなら黙っとけよ」
「じゃあキゼルはわかんのかよ!」
「当然。千年様、僭越ながら失礼します。ーー神和とは、デウス誕生の時、つまり古より存在するこの世の全てと言われる最古最強最高の神通力のことだ」
それを聞いた榮多は驚き、グレンは「それそれ」と自分が言ったかのように自慢げな顔をしていた。
「まぁ簡易的ではあるが、今キゼルが説明してくれた通りで、神和とは謂わば何でも出来る力のことだ。つまり、それさえあれば"俺たちの世界に戻れる"ってことだ。もうわかるな? 俺は神和を手に入れ、全員でデウスに帰還する」
確固たる覚悟。グレンとキゼルは静かに頷き、微笑んだ。がしかし、彼女は違った。
「お前が決めたことや。今更否定しても、どうもならん事はわかっとる。だから否定はしない。その代わり1つ教えろ。なんで急に神和が欲しいと思った? お前別に、力とかに興味ないやろ」
すると千年は博士は見つめ、
「俺さ、デウスも神王様も大好きなんだ! だからもう1回会いたい、もう1回住みたいんだ!」
博士は「はぁ」と呆れた表情を浮かべたが、千年の純粋な顔を見て、すぐに笑みを浮かべた。
「わかった。気乗りはせんが手伝ったる」
「うん、ありがとう!」
「でもよぉ、神和って本当にあるのか? 正直俺見たことないし」
「存在はしてるよ。天明様が持ってるって言ってたからね。まぁ俺も見たことねぇけど、あの人が嘘つくとは思えないし、古くからの言い伝えもある。確信はないがデウスに戻るにはそれに縋るしかない」
「なら神和が存在しているという前提で聞くが、どうやって見つけるんや?」
「うん、それも踏まえて色々模索してみないとだね。まぁでも、大丈夫! なんてったって、俺らには王直参謀で天才の博士『様』がいるからね! 期待してるよぉ〜〜」
だろうなと言わんばかりの嫌な顔を浮かべた彼女は、
「だと思っとったよ。まぁしゃあない、やるだけやったる。どうせ暇やし。その代わり、それ以外のことはお前でせぇよ?」
「うん? それ以外?」
「この3人の修行や」
「え……」
「当たり前やろ! うちは物凄い大変なことをするんやで? 手なんか回るかい! 悪いが、3人のことはノータッチや。それ以外もノータッチ。それが無理ならうちは何もせん。ええな?」
「はぁ」とため息をつくも、正直彼女以外に頼める案件ではなかったため、彼は渋々了承した。
「千年様、お取り込み中すみません。どうしても聞きたいことが」
「ん? どうしたキゼル? そんなに畏まって?」
「その……幻聴……かもしれないんですが、目を覚ます直前に、若い女か男によく分からないことを言われて……」
「どんな?」
「えっと……次、世界の安寧を祈り……的なことです」
目を覚ます直前、キゼルの脳内に流れた言葉、千年なら知っているのでは?と思い、聞いたのだが、千年よりも先に反応したのは、まさかの……
「おいおい、あれはどう考えても女だろ? 男があんな丁寧言い方するか??」
幻聴ではなかった、自分だけに訪れたものではなかった、と一瞬だけ安堵するも、返答したのがグレンなだけに、彼は一層不安になった。
「待て、適当に共感するな。いま俺が話してるのは、さっき俺だけが体験したことで、」
「いやいや、それなら俺もあったぞ?? 確か、次……ヒト? ホノオ? あれ、忘れたけど。とにかく、変な男が喋りかけてきた!!」
待て、あの現象は俺だけじゃない? グレンも? おいおい、なんだよまじで。訳がわからない……。
最初は自分だけに起きた幻聴のようなものだと思っていた。だが、グレンの話を聞いたことで、それが幻聴ではなく、明らかに何かを示すものだと分かったが故に、彼は戸惑った。ーーだが、ふと目に入った千年と博士のニヤニヤする表情を見て、戸惑いが消える。
「ーー千年様、やはり知っているのですね?」
「もちろん。そのためにお前らを殺した。声が聞こえた……だったよな?」
「はい」
「そいつは天告だ」
天告……?? 聞いたことがない……いや、あるぞ。ある!! そういえば前に師匠が言って……はっ、思い出した!!
「簡単に言うと天からのお告げ。=お前らが『正統継承者』になったってことよ。まぁそこらへんの詳しい話は修行の中で聞けばいいさ」
キゼルと千年の会話に全くついていけてなかったグレンだが、千年の"修行"という言葉に物凄い勢いで食いつく。
「修行?! いま修行って言ったよな?! っしゃぁぁ! 千年と修行だぁぁ!!」
はしゃぎ回るグレンの側で、キゼルは頬を赤らめ、静かに大喜びしていた。がしかし、
「は? 何言ってんの? めっちゃ疲れるお前らの遊び相手を、俺がするわけないじゃん」
「え〜〜じゃあ誰が……」
千年が相手してくれるわけではない。それを知った2人は機嫌を損ねたが、「ふっふっ」と更にニヤつく千年のその顔をみて、とても嫌な記憶が全身に走った悪寒と共に蘇る。
「ま……まさか。おい、やめろ千年。それだけは……頼む、早まるな!!」
「ち、千年様!! 修行は俺とグレンの2人で仲良くしますので、お気になさらず。もちろん、榮多のこともちゃんと面倒見ますので!!」
「いやいや、君たち仲良くしないでしょ? それにお前らはまだ誰かに教えるほど強くない。心配しなくても、云大は俺がちゃ〜〜んと面倒見るよ。だから、お前らはーー」
「や、やめろ千年!! それ以上は……それ以上は言うなぁぁ!!!!」
「お前らは、今から5日以内に虎影を探しだし、虎影に稽古をつけてもらえ。わかったな?」
"虎影"…… その名を聞いた途端、2人は同じように肩を落とし、顔から全ての感情が消えた。
「せ……先輩方、だ、大丈夫ですか?」
「今はそっとしといてやれ。多分、何言っても聞こえへんで」
博士の助言通り、2人は魂を抜かれたかのように、数分間沈黙を続けた。
「ーーまぁ2人のことは置いといて。云大、お前は1度家に帰れ」
「え? 俺全然今からでも」
「いやいや、これからお前が知ろうとする世界は生半可な気持ちじゃ無理だ。身辺整理とか色々してこい。終わってからまた来ればいい。いいな?」
「確かに。退学の手続きとかもあるし……。わかりました! ちょっと時間もらうかもですけど、必ず戻ります!」
「わかった。ーーお〜〜い、グレンかキゼル。云大を家まで送ってやれ」
・ ・ ・
今だ放心状態の彼に、千年の声が届くわけもなく。
そんな2人に対し、流石にイライラした博士は、彼らの頭を強めに殴り、
「何やお前ら!! 強くなりたないんか?! どっちやねん。あれは嫌これも嫌。シャキッとせんかい!!」
「……だって、5日だぞ? 前は3ヶ月くれたのに……。つうか3ヶ月もらっても見つけられたの最終日だったし」
「それも、虎影の方から顔を出した。つまり単なるまぐれだ。千年様の命令とはいえ……無理だ」
今のこいつらなら「余裕で行く!」って言うと思ったんだけど……はぁ、仕方ない。
「わかった。虎影を見つけ出せたら1回だけ相手してやる。だから行ってこい」
さっきまで落ち込みはどこへやら。2人は勢いよく立ち上がり、云大の肩を掴み、
「では行って参ります!!」
「千年、今の言葉忘れんなよ!!」
3人はそのままの勢いで姿を消した。
「あいつらこれ狙ってたのか?! くそ、やられた……」
まんまと嵌められた千年。そんな彼のズボンが小刻みに揺れた。
「おぉ、すげぇ。本当に来た」
そういうと彼はポケットから、携帯を取り出し、
「もしもぉ〜し! 凄いねこれ、本当に声聞こえる! やべぇ!!」
何やら誰かと楽しげな会話をし始めた。
「え、まじ!? 仕事早いねぇ。わかった。今から行くわ! はいはーい!」
彼は電話を切ると、そのまま携帯をしまい、
「じゃあ博士、色々よろしく! 俺ちょっと出るわ!」
「わかった。 ーーってなるかボケッ!! な、なんや今の?! それに急に一人で喋り出した思ったら、どこかに行く?! 意味不明や、説明せい!!」
「えぇ〜、め〜〜ん〜〜ど〜〜い〜〜」
「ほな神和は放棄や」
「それはせこくない?」
「早よ言えカス」
彼は再び携帯を取り出し、
「これはね、前に朱奈ちゃんに貰った携帯電話ってやつなんだよ。凄いよこれ、どこにいても連絡の取れる超やばい道具なんだよ!」
「へぇ〜〜。つうか得体の知れないやつから得体の知れない物を貰うな。きしょい」
「なになに? 嫉妬ですかい?」
「まぁええわ。お前どっか行くんやろ? うちはとりあえずここで色々考えるわ。なんかあったら呼べ」
「うん、わかった。あ、そうだ。俺、云大の準備が出来次第、神域に入るから、この携帯は博士に預けとく。使い方は模索して」
「は!? いらんわ」
「いいからいいから」
携帯を渡した千年は、その場を後にした。
やることが多いとやっぱり楽しいな。"忙しいは楽しい"。なんか、あの頃を思い出すなぁ。
「ーー天明様、必ずやってみせます」
神和を手にすべく、彼らも動き出した。




