Ep.15 芽生えた感情、消える命
〈場所:神域〉
全身に雷を纏い、力を解放したキゼルを前に、云大は何故だか笑っていた。
「す……凄ぇなぁ……。『上には上がいる』、爺ちゃんが俺にずっと言ってきた言葉だ。でも正直俺はその言葉信じてなかった。俺より強い奴がいなかったから。でも……いたな」
「なにを笑ってる? 死ぬのが嫌すぎておかしくなったか?」
「違ぇよ、嬉しいんだ。なんかこう……高揚してる。ありがとな、この戦い、引き受けてくれて。俺は、これからもっと強くなれる気がする」
「勘違いも甚だしい。お前に『これから』はない!!」
やっとの思いで立ち上がり、再び構えようとする云大だったが、キゼルがそれを待つはずもなく、瞬く間に云大の目の前から消え、1秒と満たない時間の間に、50発近く、雷を纏った拳が彼の顔面や腹部を捉える。
殴られた箇所には電撃が走り、硬直しながら震えた。
堪らず、再び両膝から崩れ落ちるかと思われたが、彼は片膝で踏みとどまった。
これには、さすがの千年たちも驚きを見せた。
「何やあいつ。意外とやるやんけ」
「タフだなあいつ!! いいないいなぁ、やっぱり俺がやりたかった!!」
楽しんで観戦している彼らとは違い、キゼルは今にも怒りでおかしくなりそうだった。
「痛ぇ……ボコスカボコスカ殴りやがって畜生。つうか何発殴った? 速すぎて見えねぇーーでも……耐えれるな」
顔を上げ、挑発する云大に、キゼルの怒りが限界を超えた。
「ーー神戯 『雷怒』」
※『雷怒』
広範囲に及ぶ、地面を這う電撃。
云大は慌てながら後退したが、雷の速さになど勝てるわけもなく、瞬く間に彼の全身に雷が走る。
「ガアァァア゛ア゛ア゛!!!!」
全身が痙攣を起こし、肌は焼け、辺り一帯に人間の焦げた異臭が漂った。
そして、白目を剥き、口から泡を吹き、彼は背中から地面に倒れた。
しかし、それを見ても彼の怒りが収まることはなく、云大の真上上空に移動し、
「ーー神戯 『雷纏鑓』」
当然、それを彼が避けることはできず、雷の鑓は腹を貫き、それと同時に、三度全身に電撃が走る。
最早生きているのかもわからない状態の云大に対し、彼は地上に降りると、さらに力を増幅させ、
「前言撤回、お前は今すぐ殺すーー"絶戯"」
彼がそう唱えただけで、気絶しているはずの云大の体がブルブルと震えだした。
それ程までに、今までとは比にならない力を彼は解放したのだ。
そして、そのまま完全に息の根を止めにかかろうと更に力を増幅され、倒れる彼の首元に手を触れようとしたその時、何故か、キゼルは全ての力を解いた。
そのまま、動きを止め、暫くすると云大から離れる。そして、下を向き何かを考え始めた。
ーー待て、このまま殺していいのか? グレンにあって俺にないものは結局何だ?? 殺したらわかることなのか?
この戦いが始まる前に、千年から言われたことを思い出した彼は、1度冷静になり、そのまま動くことなく、思考を続けた。
これは絶対に見つけないといけない最重要案件なのに、俺は怒りで我を忘れてた。危ない。でも、何だ一体。俺にないもの……クソ、わからない。多分だが、このままこいつを殺したら恐らく絶対に分からないままだ。千年様も教えてくれない。そうなれば、グレンとの差も埋まらず、俺は取り残される……嫌だ、それだけは何があっても嫌だ!! ならどうする? 何をすればいい。
しかめっ面で長考しているキゼルを見て、博士が何かに気がつく。
「千年、お前キゼルに何か言うたんか?」
「なんかって?」
「惚けるな。あいつに何言うた?」
「何って……グレンにあってお前にないものを探せとしか言ってないよ?」
それを聞いた博士は、呆れた表情を浮かべ、千年を睨みつけ、怒号を飛ばす。
「お前、バカか?! キゼルが人や魔戎にどんな扱いされて育ったか知ってるやろ?! それが分かってて、本気でお前の望む決断をあいつができると思ってんのか?! あんまりやでそれは!!」
空間内に博士の怒号が響き渡るも、集中し思考するキゼルは何の反応も見せなかった。
「うわ、何急に!? どうしたの博士? 何で千年に怒ってるの?」
「お前は黙っとけ!! おい千年、なんとか言えや!! そもそも、グレンとキゼルは生い立ちが全然ちゃうんや! あいつには無理や!」
「無理? じゃあ何でキゼルは今止まってるの? 殺そうと思えばもうとっくに殺してるよね? でもしてない。あいつは考えてるんだ。そして必ず答えに辿り着く。大丈夫、キゼルは優しいし、出来る子だから」
「だからそれが、、……あぁクソ!! そんなん言われたら何も言えんやろ」
「なになに!! 2人ともどうしたの? 痴話喧嘩??」
グレンだけが状況を理解していない中、遂にキゼルが動いた。
俺に足りないもの……そうか……そういうことか。
キゼルは云大に向かってゆっくりと歩き出し、腰から垂らしていた紐を取り、彼に投げ渡した。
「ーー俺は人が嫌いだ。魔戎も、変異者も嫌いだ。弱いくせに、卑劣で傲慢な脳ミソどもが大ッ嫌いだ。……でも、全員がそうではない。中にはいい奴だっている。認めていい奴だっている。お前は、今日のために努力した。認めてもらいたくて必死に向き合った。そんなお前を俺は殺そうとしたーーだから、俺の負けだ」
キゼルに足りなかったもの。それは、見極める力。そして、思いやり信じること。別に彼の今までを否定するわけではないが、それでも必ずいつかは、信頼し信用しないといけない時が来る。千年は、彼にそれを教えたかったのだ。
そうして、死者を出すことなく、無事戦いを終えた2人に、千年は拍手しながら歩み寄った。
「お疲れ様! キゼル、気分はどうだ?」
「……何でしょう。なんというか、負けたのに悔しくないです」
「うん! それでいい」
キゼルの頭を数回撫でた千年は、未だ倒れたままの榮多の側でしゃがみ、
「お〜〜い、聞こえてる? 意識はあるか〜〜い?」
「……あ、、あ、、」
「なんか言ってる。ウケる」
ギリギリ意識のある云大を見た千年は、そのまま立ち上がり、左手を前に出すと、そこから、真っ黒の霧ががった刀が出現する。
それを見たグレンは、興奮しながら立ち上がり、
「あれ『宵闇』じゃん!! 久しぶりに見た! すげぇすげぇ」
その刀を見て、グレンは物凄くはしゃぎ、興奮した。しかし、それは千年の行動を見てすぐに収まった。
「もうこれは助からないレベル。所謂、死にかけってやつだなぁ〜〜。なら変に足掻くより死んだほうが楽だろ」
彼は、抜いた刀を云大の首元に突きつけた。
「まぁあんだけくらって生きているのは大したもんだよ。ナイス生命力! ーーでも、お前は死ななきゃいけない。死んでようやく俺は認める」
千年は抜いた刀を振り上げ、倒れる云大の首を勢いよく刎ねた。
それを目の当たりにしたキゼルは驚きで動くことが出来ず、逆にグレンは怒りながら千年の下へと駆け寄った。
「おい、、何してんだよ!! あいつは勝ったんだぞ!? それはあんまりだ!!」
千年の目の前に立ち、怒りを露わにするグレンを見て、彼は笑った。
「やっぱり、お前はいい奴だな。いや、ちょっといい奴すぎるな」
そういうと、千年は云大同様、目にも止まらない速さでグレンの首も刎ねた。
「怒りの感情は我を忘れさせる。怒りたい気持ちはまぁ分かるけどさ、死んだら元も子もないよ? 冷静だったら避けれたでしょ、今の」
無造作に転がる2つの死体は、千年が指を鳴らすと、跡形もなく消えた。
そして彼は、そのまま博士の目の前に移動し、再び刀を振り上げた。
「待てや、斬首はグロいから嫌や。するなら他の殺し方にせい」
博士の頼みを聞き、彼は刀をしまう。
「本当ワガママだなぁ〜〜。死ぬ前くらい、いい子になれよ」
そういうと、彼女の胸に手を当て、
「ーー絶戯 『虚空』」
彼が触れた博士の胸に、大きな穴が開き、そのまま彼女は倒れた。そして再び指を鳴らすと、博士の死体は消えた。
「ーーさてと」
千年は、残ったキゼルの前へと再び移動した。
終始笑みを浮かべていた彼だったが、キゼルの顔を見て、笑顔が消える。
キゼルは、動くことなく静かに涙を流していたのだ。
「おいおい、お前そんなに情の厚い奴だった?? "清々しました千年様!!"的なこと言うと思ってたんだけど……うん、やっぱりお前も根はいい奴だな!!」
千年はしまった刀を再び出し、キゼルの首に突きつけた。
すると、黙って千年を見つめていたキゼルがゆっくりと口を開く。
「……事情はわかりません。でも、意味のないことを千年様はしません。なので1つだけ聞かせてください。俺の死に、あいつらの死に意味はありますか?」
キゼルのその問いかけに、千年は微笑んだ。
「そう……ですか。あ〜〜ぁ、まだ千年様としたいことが沢山ありました。まだまだ貴方様に仕えていたかった」
そういうと、キゼルは自ら、突きつけられた刀を首に刺した。
「あなたに業は背負わせません。自分で死にます。
その代わり、最後に1つだけ……生まれ変わっても必ずまた千年様に仕えさせてください。側に置いてください。次は、もっといい従者になりますから」
そして、彼は首元を貫通した刀をギュッと握りしめ、自らの首を切り裂いた。
そのまま地面に倒れると、千年は指を鳴らした。
自分以外いなくなった悲しき空間、彼は天を見上げ、大きなため息を吐き、何とも言えない表情を浮かべた。
「はぁ……これでまた強くなれるわけだが、でもあれだな、やっぱ楽しくねぇわ」




