Ep.13 神格
〈イギリス:バッキンガム宮殿〉
宮殿内のとある一室。男は、椅子に座り、目を閉じ、薄ら笑みを浮かながら、1人語っていた。
「文明の発展、家畜の数、広大な土地ーー地球……ふふっ、ソレアが王になるに相応しい世界だ。素晴らしい」
そんな彼のいる部屋を、1人の男が訪ねた。
「ーー失礼致します。ソレア様、おはようございます」
男はかなり焦り、何かに対し恐れた様子だった。
「何かね? こんな朝早くに」
すると、部屋を訪れた彼は、椅子に腰掛ける男の目の前に座り込み、
「大変申し訳ございません。外が煩くてお休みの邪魔をしてしまいました。あの"カスども"はすぐに始末致しますので、今しばらくお待ち頂けないでしょうか」
今の時刻は朝の3:30。なのに、ここ王宮の周辺は、オリンピックでも開催されるのかという程に、人で溢れかえっていた。
「本当に申し訳ございません。本当に、本当に……」
「頭をあげないかオリバー君。別に気になどしていないよ。そんなことよりキミは大きな勘違いをしている。邪魔な者はソレア自ら消す。余計なことはしないように。いいですね?」
「そんな、ソレア様の手を煩わせるなど滅相もございません!! あれは我が国の民です。私にお任せを」
「うんうん、ソレアを否定するなよ人間。殺すぞ? ソレアがやるといったらやる。それにキミは、この国をソレアに"くれた"のだろう? なら黙って傍観していればいい」
「は、はい!! 大変失礼致しました」
2人の様子は、まるで王と子分。しかし、実際は、いま地面に両膝をつき、何度も何度も謝罪をする子分のようなこの男、何を隠そう、イギリスの現国王 オリバー・フレッグなのである。
時を遡ること数日前、この2人が出会ったのは、ロシアやアメリカなどが襲撃されていた時だった。
イギリスにも巨大生命体=害蟲が出現し、国は混乱していた。
そんな時、彼らに手を差し伸べ、害蟲を駆除した男がいた。それが国王の崇める彼、人外『アムス・ソレア』である。
彼は、イギリスの民に対し、
「"この国に、太陽が舞い降りた。もう何も恐れることはない。ソレアは見上げ、祈ることを許可する。幸福に思え"」
それから数時間後、イギリス国王 オリバー・フレッグは、"独断"でアムス・ソレアとの協定を成立させ、イギリスは人外との和平を結んだ。
そして現在に至る。オリバーは、和平成立の際、ソレアの自由の保障とイギリス全土の支配権を与えた。
その代わりに、彼はソレアにあることを教えて欲しいと伝えていた。
「まぁこんな時間だが、折角だ。例の話をしようか」
「よろしいのですか?」
「よい、確かキミがソレアに聞きたかったのは"我々のこと" だったよね?」
「えぇそうです。世界3強の軍事力を誇るロシア・アメリカ・中国を制圧したあなた方のことが知りたい。いや、知らなければならない。その見返りがなんであろうと……」
「知識欲の塊……それで身を滅ぼした、かつての王を思い出す。ところで、キミが提示したこの国の支配権。あれは本当かね? 外を見れば分かる通り、国民は誰1人として納得していないようだが?」
「それはお気になさらず。あれはただのハエです。ハエに耳を貸す必要はありません。それに軍の指揮権は私にあります。貴方様に攻撃しようなど1ミリも思っておりませんので、好きにこの国を堪能してください」
和平が結ばれた日、オリバーは会見を開いた。
〜〜〜〜
「イギリスは今日より、アムス・ソレア様の私有物となりました。生きていることに感謝を。神の御加護が皆にありますように」
それはあまりに身勝手で、国王が発言しているとは思えないほど、国民を無下にした内容だった。
〜〜〜〜
それからすぐ、当然だがあらゆる方面から彼への非難が殺到した。だが彼は聞く耳どころか、あらゆる召集、そして法的措置すら無視して、アムス・ソレアと共にいた。
では何故、居場所のわかっている彼を捕まえることができないのか。
それは、誰1人として彼のいるバッキンガム宮殿に入ることができないからだ。
これは比喩ではなく、物理的に不可能という意味。
敷地内に入ろうとすると、物凄い衝撃と共に弾き返されるのを何人もが目で確認し、体感した。が故に、こうして周辺でデモを起こしているのだ。
「うん。まぁ、キミの言動を見ている限り、君は信頼に値する男だとソレアは思う。今まで大事にしていた国民を、あんな雑に扱うのだからね」
「お言葉ですが、雑にしたのではなく、自由にしてあげたのです。もう仕事もしなくていい、お金を納めなくてもいい、何をしてもいいと言ってあるのに……。
褒められる事があっても非難される筋合は全くないです」
「ははっ、キミはやはり面白い」
2人は暫く談笑し、本題に入る。
「君が知りたいのは、我々が何者で、どこから来たか、あと、神通力についてだったね?」
「はい!」
ソレアは立ち上がり、外を眺めながら話を始めた。
「ーーデウス『創始歩期』。そこは、この世界よりも小さく、無能が蔓延る世界。そんな掃き溜めの地にソレアはいた。でもめげずに、ソレアは窮屈な世界を変えようとした。そのために、神王に背き、改革を促した。……だがその結果、ソレアは国を追放され、神王の犬どもに追われる日々を送った。それはそれは、怒りで毎日震えていたよ」
当時を思い出すかのように、ソレアは震えながらに話した。
「こんな世界、消えて無くなればいい。全員死ねばいい。そう思っていたある日……本当に消えたんだ。デウスという星が、ソレアの嫌った世界が、本当に消えたんだ。あの日、神王の傲慢さが我々を苦痛からやっと解放した!!……いや違う、神王に飽きた神和がそうさせたんだ。王はお前ではないと、見限られたんだ。哀れ、哀れ……実に哀れだよ!!」
1人高揚するソレア。取り残されたオリバーはただ彼を見つめていた。
「ーーとまぁ、わかりにくい説明ではあったが、これでいいか?」
「え、いや、あ、はい」
「冗談だよ。ソレアや他の連中はデウスという星から来た。どういう原理かはわからない。ただ1つ確定していることがある。それは、この世界に再誕したのは『神通力者のみ』ということだ。それ以外は死んだのか、それとも…… まぁ興味ないがね」
さっきまで1人盛り上がっていたはずのソレアは急に冷静になり、再び椅子に腰かけた。
「その神通力者というのが、ソレア様のような神というこですか??」
「いや違うよ」
「え??」
「厳密に言えば、ソレアも《《今は》》神ではない。
考えてもみたまえ、キミみたいな下等な人間風情が、こうして神の御前で身を保てると思うか?」
「た、確かに」
「つまり、神通力が使えるからといって必ずしも神とは限らないということ……ッチ、さすがに煩わしくなってきたな」
今現在午前4:02。周辺に集まった人数は約100万人。早朝だというのに、これだけの人だかり。
「出て行け!!」
「国王と人外を殺せ!!」
その国民からの怒号は、時間が経つごとに増した。
それに対して、流石に苛立ちを隠せなくなったソレアは、ゆっくりと立ち上がり、オリバーに対して、何やら石のようなものを数個投げ渡した。
「ーー石? これは……なんですか?」
「それは、神力封石 除去の灰。通称 灰石。生身の人間を、神通力から守ってくれる。要は御守りだよ」
御守り?? なんで今渡したんだ?
「それは今からソレアが変身するからだよ」
し、思考を読まれた?! 嘘だろ。
「嘘じゃない」
「あ、頭の中も探れるのですね……恐れ入りました」
「当然。それに意味もなくソレアは行動しない。いいかい? ソレアがいいと言うまで絶対にその石を離したらダメだよ。いいね?」
ソレアは窓に向かって歩き出し、勢いよく窓とその周辺の壁を破壊した。
「オリバー君、折角のいい機会だ。ソレアの本当の姿、そして"神の力"というものを見してあげるよ」
ソレアは破壊した窓から外に飛び出し、宙で静止。
そして、ゆっくりと右の親指を自身の首元に突き立て、勢いよく刺した。
首からは血が吹き出て、血が空から地に流れ落ちた。
「ソ、ソレア様!!??」
「大丈夫、見ておきたまえ。これが神の力、『太陽神』の本当の姿だ」
「"神格"ーー『太陽神』」
その言葉を発したと同時に、目で直視できない程の激しい光と高温の熱が彼から大量に溢れ出した。
それは次第に、彼の体だけに留まらず、背後にあった宮殿は熱で溶けたかのように崩れ始めた。
「うそだろ……宮殿が崩れてる。いや違う、溶けてる?! やばいやばい。あれ……でもなんでだ、全く何も感じない。私には何で何も起きない? そ、そうか、この石か。凄いな、こんな石ころーーじゃない!! 早く逃げねば!!」
崩れる宮殿から慌てて外に飛び出したオリバーはさらに驚き、感動した。
「す、凄すぎる…… 神とはここまでか……」
彼の眼前に広がっていたのは、美しく綺麗なロンドンの街並みではなく、跡形もなく焼け焦げた戦場のような光景だった。
それから数分と経たないうちロンドンは半分以上が壊滅。死亡者は約470万人にも上った。
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荒地と化したロンドン、そして空には先ほどまでとは明らかに姿の違うアムス・ソレア。
全身から、赤と黄色が混じった色の輝きを放ち、背中には、太陽のような大きな赤い球体。これが、ソレアの言っていた本当の姿というやつだ。
神々しい……そうか、この言葉はソレア様のための言葉だったのか……なんだろう、心が洗われる……
何故かふと涙を零し、ソレアを眺めるオリバーにゆっくりと彼は下降し、目の前に降り立った。
「ーーうん、久方ぶりのこの姿。やはり気分がいい。これでこそ『太陽神』というものだ」
彼のその姿を間近で見たオリバーは確信する。絶対に人間では勝てない、自分の行動は正しかったと。
「お、恐れ入りました。そして感動致しました。一生ついていきます、アムス・ソレア様……」
「ソレア…… 今は違う。それは人名。
本来の神の姿となった今の名はーー"太陽神"」
そういうと、彼は脱力し、力を解いた。すると、強大な力を放っていた今の姿から、元のアムス・ソレアの状態に戻った。
「あぁ残念、せっかくの宮殿がなくなってしまった。うん、まずはこの宮殿をこの国の民、いや奴隷に修復させよう」
ソレアは瓦礫の上に座り、その横にあった瓦礫をポンポンと叩き、オリバーにも座るよう促した。
「ーーし、失礼します」
2人は腰掛け、暫くあたりの光景見渡した。
「キミの決断は正しかった。人如きが歯向かうべきではない。よく、理解したかい?」
オリバーは何度も頷き、
「あ、改めて心得ました。私は、一生あなたについていき、何でもするとここに再度誓います」
腰掛けていた瓦礫から立ち上がり、ソレアの前で膝をついたオリバーは、再度彼への忠誠を誓った。
「うん、キミの忠誠は素晴らしいね。それで? まだ聞きたいことがあるのだろう?」
「あ、はい!! と、その前に、1つ別の話が」
「なんだね?」
「先程、私にくれたこの石。神力封石? 灰石? と仰ってましたが、どのような効力が? あれだけ凄まじい力を出していらっしゃったのに、私への被害はゼロでした」
「あ〜〜あ、それね。いいよ、教える。まず神力封石ってのは、そこらへの石に、"ある力"を込めることで、その力を神通力者以外も使うことができるようになるというものさ。因みに、石の色で効果は変わる。
さっきキミに渡した石は灰石、除去という力が込められていて、その能力は、神力を持ち主から遠ざけるというもの。だから、キミはソレアから溢れる神力の影響を受けなかったってこと」
色々と分からない言葉が多いが、要はソレア様のあの膨大な力を、この石が遠ざけていたということか。
ってことは、この石があれば、私は無敵じゃないのか?!
「あはは、それは違うよ」
「え、そうなんですか?(また思考を読まれた)」
「灰石はあくまでも、神力と呼ばれる我々神通力者から放たれるオーラのようなものを遠ざけるだけであって、全てを防げるわけではない。つまり、キミに対して我々神通力者が神通力を使った場合に、石を持っていたとしても何も関係ないということだ」
そういうことか。なるほど、この石は力の余波を防ぐためのもので、力そのものを防ぐわけではないということか。
「そういうこと。だから仮に、キミがその石を持たずに、あの状態のソレアの側にいようものなら、キミは力の余波だけで消しずみになっていたということだよ」
余波だけで……お、恐ろしい……
「いやでも大したものだよ。あの崩れる建物からよく逃げれたな。やはりキミには見応えがある。(心器度も300度を超えてるしね)」
「あ、ありがとうございます!!!」
「それで? 神力封石のことはもういいだろ?」
「は、はい! ありがとうございました。
脱線してしまいましたが、本題に入ります」
「うん、よいぞ」
「それでは僭越ながら、ソレア様はこれからどうされるのですか? 正直、あなた様はこの国だけに収まる器ではないと思うのですが。というより、この国は貴方様には小さすぎます」
「そうだね、よく分かってるじゃん。まぁでもイギリスは拠点として必要かな? 長居するつもりもないけど。でも、それにはまだ邪魔が多すぎる。煩わしい犬の糞どもがね。
キミの言う通り、ソレアの野望はデカい。イギリスだけではなく、地球を手にする。そのためにはーー」
「他の神通力者を始末する。そうすれば、この世界を支配できる。ということですね?」
「そういうこと。理解が早く助かるよ。でもそれは簡単なことじゃない。あの神王がいないとはいえ、奴の残党は、糞の割には中々厄介でね」
ソレア様が厄介と認識する者たち……やはり他の連中も化け物か。
「そう暗くなる必要はない。ソレア"達"にはちゃんとした思考と理念がある。王のいなくなった抜け殻に負けはしないよ」
達?? ソレア様は誰かと繋がって……
「その為に、まずはこの地に刻導を集結させる。仲良しこよしは嫌いだけど、数には数だ。
まぁ当然、神道を打ち滅ぼすための案もある。安心しろ、負けはしない。仏陀も言っていたしな。この世界に意味などない、だったら意味を作ればいいと。刻導が王となり、全てを終わらせ、また始めればいいとね」
ソレアは勢いよく立ち上がり、両手を広げ、
「オリバー君、始まるんだよ。『神和』による新たな世界の創世が!!」
〜〜〜〜




