Ep.10 星の管理者
〈千年たちの新拠点 東京都内:とある山〉
「ーーとまぁ、こんな感じかな! 確かに彼、神通力者だったけど、別に大して強くなかったし、誰かがバックにいたとも思えなかった。だから置いてきた! 何か異論ある?!」
千年から、榮多云大との経緯をある程度聞いたグレン、キゼル、博士の3名は、特に何もないとのことで、この話は終わった。
「んじゃぁ、こっからの指示出すね。まず、キゼルとグレンは魚丸を探して、現状の確認をしてきて。事態が酷いようであれば意思伝達で共有してくれ」
「魚丸?? 魚人族の? あいつこっちの世界きてんの?」
「うん、神通力者は基本的に全員再誕してると思って行動してくれ!」
「はいわかりました。(ッチ、千年様と俺の2人だけの秘密だったのに。入ってくんなよクソグレンが)」
「え、何でお前キレてんの?」
「別に。千年様、因みに魚丸から色々聞いたあとは、どうすれば良いですか? 自分達で対処すれば良いですか?」
「いや、多分いつも通りの『癇癪』だと思うから、様子見る以外にやりようないし、とりあえず経過観察って事で! くれぐれも煽ったりはしないように」
「御意」
そういうと、キゼルはグレンの襟元を掴み、空間移動の中へと姿を消した。
「ほんで? ウチは何するん?」
「博士は俺と一緒に、この国の長に会いに行く」
・ ・ ・ は?
「待て待て、追いつかん。整理するーーよし、やっぱ意味わからんわ」
「え、何で? 何が?」
「この国の長に会う理由や。お前攻撃されとったやんけ。=この国の奴らはウチらを敵視しとるいうことや。そんな奴らにわざわざ会う理由がわからん。それと、会うにしてもどうやって会う? あっちが話し合いに応じるとは思えん。プラス、うちが同伴する理由もわからん。お前1人で十分やろ。それとも何や、お守りが必要か?」
「いやいや、会う理由はあるでしょ! いつまでもコソコソ隠れたくないし、命狙われるのも面倒臭いじゃん! それに、情報は俺らより沢山持ってる。共有してもらって損はないでしょ。因みに、会う約束はしてるから気にしないで大丈夫!! あと、博士を連れて行く理由は、俺が『説明下手くそ』だからだよ」
いや、根に持っとったんかい。
「まぁ同伴するのはえぇけど、意味ないと思うで? だって、最初のお前の作戦、『訃ヶ蟲倒した英雄になれば、手厚く迎え入れてくれるだろ〜〜』って言ってたあのカス作戦は完全に失敗したやん。なんなら、お前そのあと変な連中に攻撃されてたやん。話し合う意味あるか?」
「うるさい! 俺の失敗を嬉しそうに語るな!
とにかく! 会ってみて、無理なら無理で別の方法考えればいいじゃん! やるだけやってみよう! ね?」
「はぁ……お前のそういう行き当たりばったり理論嫌いやわぁ〜〜」
嫌々言いながらも、最後には了承し、彼とその場を後にした。
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〈東京都 首相官邸〉
この日、官邸周辺には、何かあるのかというほど異常なくらい厳重に警備が敷かれていた。
それを聞きつけたマスコミや近隣住人が野次馬の如く周辺を囲んでいた。
そんな官邸内の"閣議室"。ここの周辺には、外と違い、武装した軍や警察が数名配置されており、張り詰めた空気が充満していた。
そこへ、背筋をピンと伸ばし、戦場へと赴くかのような硬く強張った表情の、内閣総理大臣 円城寺正孝が姿を見せた。
彼は、閣議室の扉の前で止まり、大きく息を吸い、吐く。
そして、手を震わせるながら室内へと進んだ。と同時に、武装していた彼らが一斉に銃を構えた。
室内には、1つの大きな円卓のテーブルがあり、椅子が18脚。内、2つに乾副総理大臣と、|博士が腰掛けていた。
円城寺は、部屋へ入ると、乾の横つまり彼女の斜め右前に腰掛けた。すると、それを見た博士は、
「おい!! 座る前に、そこの玩具構えた連中なんとかせぇや。別に喧嘩しに来た訳ちゃうで?? あんなに殺意向けられると鬱陶しくてイライラすんねん」
円城寺は、外で銃を構える彼らに指示を出し、扉を閉め、3人だけの空間にした。
「総理……申し訳ございません」
乾は、総理に内緒でγを出動させたこと、そして敗北しこうなってしまったことの全てを謝罪した。
「当然、全責任は私が取ります。本当に申し訳ーー」
「今君の処遇はどうでもいい。それより、まずお名前をお聞きしてもいいですかな?」
円城寺は何かを決心したのか、彼から恐怖心が消えた。
へぇ、まぁまぁの心器度やな。こんだけの人口を統治するだけはある。
※心器度
生き物としての価値や才能を表す数値。心器度の平均値は約150度。因みに円城寺正孝の心器度は211度。
「名前? 教えるわけないやろうが。あんな、そういうのは自分から名乗るのが筋ちゃうんか?」
「確かにそうですね、失礼した。私は、この国『日本』の内閣総理大臣を務めている、円城寺正孝と申します。横にいるのは、副総理大臣 乾忠房です」
「ふ〜〜ん、聞いては見てみたけど、やっぱどうでもええわ。つうか、別にウチはあんたらに興味もなければ話をしたいとも思ってない。だから名乗らん。この場を設けさせた、当事者の馬鹿が来るまで黙って座っとき」
人間2人と人外1人。彼女のその言葉を最後に、この謎の静寂空間はおよそ1時間続いた。
そして、
「おまた〜〜、今着いたよ〜〜ん」
博士の隣、総理の正面に、突如千年が姿を現した。
これには、乾と円城寺も声を出して驚いた。
「おい、ウチだけ置いてどこ行ってたんや?」
「ちょっと変なやつと話してた」
「変なやつ?」
〜〜〜〜数分前
《天 千年》
!?
博士と官邸に向かっていた千年の脳内に誰かが語りかけてきた。
気のせい? いやいや、あんなハッキリな気のせいは流石にないか。
徐に立ち止まる千年。
「?? なんや、どないしたん?」
「うん? いやぁちょっと」
「なんや? 女々しいな、言わんかい!」
「女々しくないし! 博士、悪いけど先に行ってくれる?」
「は?! ふざけんな。ウチはお前の引率や。何で関係ないウチが先に行かなあかんねん……って何や? 何かあったんか?」
いつもみたいにヘラヘラしているのではなく、彼の表情は何故か少し強張っていた。
「キッショいな……まぁええわ。ほな、先行くで?」
「キショくない。ごめんね、俺もすぐ行くよ」
博士がその場からいなくなったのを確認した彼は、
「おい! 誰だ!?」
・ ・ ・
え〜〜やっぱり気のせい? そんなことある? 何か気持ち悪いなぁ。
《天 千年》
!? やっぱ気のせいじゃない!!
「そうです! 千年君です! あなたはどなたですか? つうか同じこと2回も言うな!!」
《汝に頼みがある》
「頼み? いやいや、まずお前誰!? 知らない奴の頼みなんか聞けるかよ! 名乗れ!」
《吾は星の管理者》
「星の管理者??(なんだそれ) お前、何言ってんだ? 頭、大丈夫か??」
《天 千年、神和だ。神和を解放させろ。それが唯一、デウスへ帰還できる方法だ》
「デウスに帰還?! おい、じゃあデウスはまだあるのか!? 天明様も生きてるのか?! おい!! 答えろよ!!」
《汝に全てを託す。身命を賭して、契りを果たせ》
「勝手に契るな! まだ契ってねぇよ!! おい!! おい!! ーー消えた……。勝手に話しかけてきて、なんだよ契りって。あぁくそ、意味わからん。
でも……」
〜〜〜〜現在
「まぁ色々あったの! 気にしないで!」
「はいはい、嘘って顔に書いとるで。まぁええわ、話始めよか」
「嘘じゃないも〜〜ん。ーーではでは、早速だけど2人は俺のこと知ってるよね?」
正直、もっとこう、交戦的なイメージのあった彼らの楽しげな会話や、普通の問いかけに、円城寺は少しの戸惑いを見せるも、
「そ、そうですね。初めまして。私の名前はーー」
「円城寺正孝、昭和30年5月19日生まれ、66歳。父親も元内閣総理大臣。母親は君が15歳の時に他界。自宅の書斎には、幼い頃に初めて行った公園にて撮影された母親との写真がある。
ーーとまぁ、俺はお前らが何者かくらいはすぐにわかる。だから、まどろっこしい挨拶はいらない。君たちが俺たちとどうしていきたいのか、真意を聞かせてくれ」
円城寺の生年月日、父親が元総理、母親が他界していたことなどは調べればわかることだが、書斎の写真は彼以外は知らないこと。それをなぜか知っていたという事実に、彼は動揺し、恐怖していた。
そして我にかえる。自分は一体何と争うとしていたのかと。
「そ、総理?」
総理が小刻みに震えていることを心配した乾が声をかけたことで彼は正気に戻る。
「そ、その情報はどこで? どこにも出していないはずなんですが」
「見たらわかる」
見たらわかる? ハ、ハッタリに決まってる。そんなバカなことが……
「おいおい"ハッタリ"じゃねぇよ。ならもっと際どいとこ責めようか? 例えば、***を1人でするとき、爪を立ててやるとか、***より***の方が好きとか、***より***の方が興奮すると、」
「わ!! わ、わかった。わかりました、もう結構です。正直、認めたくないし、にわかに信じ難い。なので、試すようで申し訳ないんですが、私が今頭の中で何を考えてるかわかりますか?」
「妻と子供の安否。ふっ、この状況でその思考になるってことは、君は立派で素敵な父親だな。性癖はキモいが」
その言葉を聞いた円城寺は天を仰ぎ、薄ら微笑んだ。
「わかりました。あなたの言ってることは本当ですね。見たらわかる……か。凄いことだ」
円城寺のその発言に、千年の横にいた博士が勢いよく立ち上がり、
「こいつ舐めとんな。立場がわかってないようやから教えたるけど、圧倒的にお前らが下やで? 下の下の下の下の下や!! それなのに、何が試す? や!!いっぺん死んでみなわからんか?」
激昂し、今にも手を出しそうな彼女を、千年は止め、
「彼らにとっての"非"現実、つまりあり得ないことが現実となり、長く続いていた常識が根底から覆されたんだ。試すくらいいいじゃない。そんなことより、これで君たちと俺らが"別"ということは理解してくれたかな?」
「……はい」
「そうか。なら本題に入ろう。俺らが君たちに要求するのはたった1つ。俺らと協力関係になること。無益な敵対関係になるのではく、有益な友好関係になってほしい。互いを認め合い、尊重する、そんな関係にね」
千年からの意外な提案に、2人は驚き、顔を見合わせた。
「……で? どっちやねん! 驚いてないでさっさ答えんかい!!」
「わ、私は、1度敗れた身。あなたに挑んでも無意味ということは誰よりも理解してます」
「うん、賢明だ。円城寺正孝、君はどう思う?」
これは今後の日本の全てを左右する大事な決断。総理である彼が簡単に返事できるわけもなく、
「1度、この話は持ち帰らせてほしい。慎重に精査し、検討したい」
「いやダメだ。今決めろ。理由は簡単。人族が大勢で話し合いをする場合、必ず安全な方を選ぶ。つまりこの話はなかったことになる。そうなれば俺はお前らと敵対しなければならない。それは互いに無益ではないかと俺は言っている。だから、今ここで決めろ」
「申し訳ないですが、それは難しいです。この国は法治国家。法に基づいて事を運ばなければならない。私の独断と偏見で全てを決めることはできない」
彼の言い分は至極真っ当。一国家の命運を左右することだ、簡単に決められることではないの。
「ーーただ、今のはあくまでも内閣総理大臣としての答えです。私個人とあなたの約束というのなら話は変わります」
「ほぉ?? 聞こうか」
「まず、具体的にあなた方が我々に求めるものはなんですか? また、その見返りは?」
ふ〜〜ん。入った時から思ってたけど、ここぞという時の心器度は大したもんだな。ふっ、面白い。
「俺らからは、最高の防衛力を与える。君らのいう人外は、まぁ知ってるとは思うけど他国にもいる。そいつらがこの国に手出しできないよう、全身全霊を尽くして守る。ついでに、できる限りこの国の治安維持にも協力する。逆に俺らが君らに求めるのは情報と自由。正直俺らは、どの国に・どれくらい・どの人外がいるのか把握してない。ってよりも"把握できない"。だからそういった情報がほしい。あとは、俺らの邪魔をしないこと。向かってこられるとこっちも手加減できないからね」
正直、他国の情勢などを考えると、日本にとってこれとない条件。だが、いい条件の裏には何かある。
そう思うのも至極真っ当なことである。
「この国の民を攻撃しないという保証がない。現に君は、数名殺害してるよね? 君だけじゃない、君の仲間も数名国民を殺している。安全とは言い難い」
「おいおい、勘違いするなよ。俺はあくまでも治安維持に協力するといったまで。前科のある者、現在進行形で悪意のあるやつ、そして向かってくるやつ、そんな奴らは悪いが殺す。俺らにはその権があるからな。
いいか? 生命は常に同価値。だが、自らその価値を放棄する奴もいる。そいつらが価値のある奴と同じように息をしてはいけない。当然のことだと思うが?」
「申し訳ないが、これに関しては納得できない。意味のない人はいない。殺すという選択は間違ってる」
「ーー人以外の生き物の住処を奪い追いやり、それを食らい、生きながらえる。お前ら人族、いや人間はそうして生きてきただろ? ではなぜ、それは許される? 俺からしたら、それもれっきとした殺しだ。何がどう違う?」
「別に我々は無闇矢鱈に動物を殺しているわけではないです。先ほども言いましたが、この国は法治国家です。1人1人に人権があり、生きる権利が与えられている。だから貴方の理想から逸脱しているからと言って殺してはいけない」
「答えになってないな。そもそもその法とやらは、お前らが勝手に作ったものだろ? なぜ人間にだけ権利がある? いつからこの世界がお前ら人間のものになった? 他の生き物たちとは話し合いはしたのか?」
「話し合い? そんなもの出来るわけがないでしょ。人には理性がある。だからルールを決められる。動物にはそれがない。故に、我々が管理しなければならない」
「それは無知と無能を盾にした暴論だな。人間以外の生き物にも理性はある。お前らが聞こえないだけで言葉も話す」
「なら、あなた方は生き物を食べた事が無いのですね?」
「ない。俺たち神通力者は飯を食わなくても生きていける。だから食わない。でも、それはお前らも同じだろ? 別に命を奪わなくても食べれるものはあるし、生きていける。なのに奪う。それは何故か。答えは簡単、『それが当たり前』だから。それと同じように、俺は、価値を放棄した者には死をもって償わせる。これが俺にとっての当たり前だ」
「そ、それは……」
千年の話は続く。
「うん、お前少し勘違いしてるみたいだが、俺は別に食べることを否定しているわけではない。弱肉強食、それに従ってのことなんだろ? 俺が言いたいのは、お前ら人間の法に俺らを含むなということだ。俺らには俺らの秩序があり、与えられた任がある。それを認めない限り、最悪を迎えるのはそっちだぞ」
こんなにも頭を悩ませ、重圧で今にも潰れそうな経験をしたことがあるだろうか。総理の表情は、その全てを物語っていた。
そんな中、
《ーー千年様。今よろしいでしょうか? 取り急ぎ報告が》
千年の脳内に、キゼルの声が流れた。
《どうした?》
《はい、いま京都府の金閣寺という名所にいるのですが、そこで変な女に絡まれまして。どうしても千年様にお会いしたいと引かないのですが、殺しても問題ないですか?》
《いやいや、なぜ殺す? ダメに決まってるでしょ。つうか魚丸は? 話聞いた?》
《その件は済んでます。グレンのアホがどうしても金閣寺に行きたいとのことで》
なるほど。さすが、仕事が早いね!
《う〜〜ん、わかった! こっちはうまくいきそうにないから、とりあえずそっちへ向かうよ。因みにその女の子は……美人??》
《はい? 美…… いえ、ドブスです》
あ、そうだった。キゼルに聞いてもドブスしか言わないんだった。にしても、俺に会いたい女性?? もしかしてファン!? だとしたら、地球初の俺のファン。あぁ懐かしい。昔はワーキャー言われてたなぁ〜〜。うんよし、絶対に無碍に出来ない。
※こう見えてデウスでは人気者。
「よし、円城寺正孝。今回の話はなしだ」
「……え?!」
「よくよく考えたら、お前らと俺らで価値観が合うわけがない。無理強いもしたくないしな。時間を作ってもらって悪かった。博士、行こうか」
「何や急に。結局諦めんのかい」
「ちょ、ちょっと待ってください! 話はまだーー」
「いぃいぃ。もうそういう気分じゃない。 悪いけど、男には優先順位というものがある。お前にもわかるだろ? じゃあ!」
千年と博士は、空間移動の中へと姿を消した。
のちに円城寺正孝は、後悔する。この時、手を結んでいればと……




