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KAN NAGI〜〜神様実在、地球に襲来?!  作者: ヤチ ヒトニカ
神々再誕編
10/76

Ep.09 人類最強の男?



  〈千年(チトセ)たちの新拠点 東京都内:とある山〉



 キゼル・ラーシュが千年(チトセ)と合流してから1時間後、どこかスッキリとした面持ちのグレン・ハイズヴェルムと、いつもと変わらない表情の博士(ハカセ)が姿を見せた。


「よしよし、全員戻ったことだし、それぞれの任務の成果を確認しようか! じゃあーー」


「はいはい!! 俺から俺から!! 頼む、俺から!!」


「わかったわかった、早く言いたいのね。戻った時から何かニコニコしてたもんね。はい、グレン君どうぞ〜〜」


 グレンはすぐさま立ち上がり、全員の目の前をゆっくりと歩きながら「ふっふっ、そんなに教えてほしいか?」と勿体つけながら顔を覗き込んだ。


「めんどくせぇ(笑)。 いいから早く言いなさいよ」


「おい! お前のくだらないことに、千年様の貴重な時間を使うな!!」


 2人がグレンに対し野次を飛ばす中、終始無視する博士の我慢に限界が……。

 グレンに足をかけ、彼は前のめりに倒れた。


「いってぇぇ!! 何すんだよ!!」


「悪い、ちょっと黙っとれ。おい千年、さっさとウチらに触れて記憶を見ろ。いちいち話聞いてたら効率悪いやろ」


「いや、もちろんそうなんだけどさぁ、何かグレンが話したそうだったし」


「それが無駄や言うとんねん。おいグレン、お前もそれでええな? てかそれでええやろ。反論すんなよ、めんどいから「はいわかりました」。そう言え」


「えぇぇぇ。いやだいやだいやだ!! 俺の口から言いたい〜!!」


「駄々こねんな! 幾つやワレ!!」


「まぁまぁ! とりあえずグレンのだけ話聞こ? こうやって揉めてるのが一番無駄じゃない? ね?」


 千年が味方についたことで、さらに駄々をこねるグレンに呆れた博士は、渋々承諾した。


「ほんまガキやな! まぁええわ、おいグレン、端的・手短・簡潔に説明せい。ええな?」


「はいはい、わかってますよぉ〜〜」


 そういうと、グレンは千年の横に立ち、


「俺は千年に言われた通り、3カ国の内情を調査してきた!」


え? 3?? 俺は12ヶ国……あ、グレンじゃ3が限界との判断か。流石は千年様!! お優しい。


「んで、最初とその次に行った国は異常なしで、残った1カ国。何と、ここが当たりだったんだよなぁ〜〜ヒッシシ」


「おい、いいから早く言え! それと、千年"様"だ様!! 殺すぞ」


「はいはい、まぁ落ち着けよ。俺が最後に行った国はエジプト。そこにいたのは、あのシャーマ・ハイズヴェルムだったんだよ!! んで、俺あいつと直接喋ってさ、まぁちょっと揉めたけど、変なことはしてなかった! んで、」


「ちょっと待て! お前、千年様の許可なくシャーマ・ハイズヴェルムと接触したのか?」


「うん? そうだけど、何か問題ある?」


・・・「はぁああ」、と大きなため息をついたキゼルは、千年に一回頭を下げ、グレンに近づき、頭部をどついた。


「イッテぇぇぇ! 何すんだよ!」


「お前はバカか!! 千年様は接触せずに、どの国に誰がいるのかを調べてこいと言ったんだ!」


「はぁ?! 俺そんなん聞いてねぇし! 見てこいとしか言われてねぇし!」


いやいやグレン君、接触するなって言ったよ……


「だからバカかって言ってるんだ! いいか? 千年様は説明が苦手なんだ! だから、こっちが深読みして、今どう動くべきかとか考えながらやらないといけないんだよ!!」


え……俺いま貶された?


「知らねぇよんなもん! 俺はバカなんだから、バカにもわかるように言わない千年が悪いだろ!」


「だから、千年様は説明が苦手なんだ! 俺も最初は分からなかったけど、ちゃんと考えたらわかった! つうか、お前も考えればわかるだろ!! もし、シャーマ・ハイズヴェルムが、世界が変わったことで良からぬこと考えたりしてたら、お前は死んでたんだぞ?! それくらい考えて動けよ!!」


もうやめ〜て〜、二次被害で俺の心が……


「だから、それを確かめるために接触したんだろうが!!」


「うっさいお前ら黙れ!! 千年の指示とか説明クソなのと、グレンの頭が空っぽなのは今に始まったことちゃうやろ! みっともないことで喧嘩すんなボケッ!!」


うっ……トドメの一撃……


「ま、ま、まぁいいや。キゼルもグレンも落ち着いて。とりあえずエジプトにシャーマがいるってことで把握しとくよ。因みに変な様子はなかった?」


「うん! いつも通りのシャーマだった!」


「そ、そう。わかった。じゃあキゼルと博士、頭出して。記憶見るから」


 2人は、絶賛テンションガタ落ち中の千年に額を突き出した。


 そして彼は一息付くと、2人の額に指を添え、


「ーー"(ナンジ) 我が(メイ)に従い 呼び起こせ" 従操(ジュウソウ) ※『記憶解放(デモリハニス)』」


 ※記憶解放(デモリハニス)

対象の額に触れることで、記憶を見る力。

1秒触れることで、約1週間分の記憶を見れる。

(触れられる側が、見られることを承認しないと、この能力は使えない)


 触れた箇所は淡く光を放ち、数秒すると光は消えた。


「ーーうん、オッケ〜〜。もういいよ。俺がランダムに選んだ数国だったけど、まぁまぁだね。ご苦労様」


未だテンションは低いままだったが、褒められて喜ぶキゼルの顔を見て、薄ら微笑んだ。


「おい、ご苦労様! じゃねぇわ! お前は今まで何しとったんや? お前も記憶見せろ。それと、ウチらに趣旨を言え趣旨を」


「趣旨?? あぁ〜〜、まぁさっきキゼルが言ってくれたけど、世界が変わったことでよからぬ事を考えてる奴がいないかっていう調査と、どこに誰がいるかっていうのが知りたかったんだよ!」


「ふ〜〜ん、じゃあ、あんま意味なかったな」


「そんなことないさ! 確かに大きな収穫はなかったし、シャーマ以外の居場所は不明だった。でもね、そこじゃないんだよ博士。俺の1番の目的は、お前たちにこの世界に慣れてもらうこと。これから激務になるからね。休息がてらのプチ旅行ってやつさ!」


 「グッ」と親指を立てドヤる千年に盛大な拍手を送るキゼルと、中指を立てて煽る博士、鼻をほじるグレン。


「まぁ分かった。ほな、お前が何しとったか言え」


「え? 俺はいいよ〜〜。別に何もしてなかったから」


「嘘つくな。お前が1人で何もせんわけないやろ。はよ見せろ」


「えぇ…… しょうがないなぁ」


そういうと、今度は千年が額を突き出し、博士が指を添えた。


「……おいおい、 なんやこのγ(ガンマ)っちゅう連中わ。全員変異者やんけ。そして雑ッ魚(笑)ーーおい、ちょっと待て、誰やこいつ……はっ?! 神通力者(ジンツウリキシャ)やんけ! ウチら以外にも、日本に神通力者がおるんか?! って、置き去りにしとるやんけ! 何してんねんお前!!」


 博士が見た記憶には、千年が特殊急襲変異部隊 γ(ガンマ)に襲撃されたものと、もう1つ。謎の少年と彼が交戦しているものだった。


「おい、情報量、多すぎや! 説明せい! なんやこの得体の知れないガキ神通力者は?」


「何だ何だ!? なんかあったのか?」


「千年様!! 是非教えてください!!」


えぇ、めんどくさぁ。でも、これ言わなかったら、ずっっと聞いてきそうだし。はぁ、めんどくさぁ。


「はいはい、わかりましたよ。共有するから、座って座って」


 3人は千年の前に座り、彼は話を始めた。



************************



〜〜〜〜



        〈東京都内某所〉



 話は、(イヌイ)副総理率いる特殊急襲変異部隊 γ(ガンマ)と、千年(チトセ)が交戦していた時まで戻る。


 ボロボロでみすぼらしい服装のおどおどした佇まい、片方レンズのないメガネをかけた男が、1人の青年と路地裏で密談をしていた。


「あなたが電話をくれた葉山(ハヤマ)さん?」


「は、はい。※ツイスタで、何でもしてくれる"何でも屋"があると知人から聞いて……。お、お願いします、助けてください!!」


 ※ツイスタ

ユーザー数 No.1のSNS。簡単に言うとツイ◯ターとイン◯タの融合版。


「わかったわかった。とりあえず自己紹介。ーー俺の名前は榮多(エイタ) 云大(ユウダイ)、人類最強の男だ!! よろしく!」


 葉山という男が(ワラ)にもすがる思いで助けを求めた男は、まだ21歳、都内でも有名な大学に通う学生であった。


 榮多は、ツイスタで"なんでも屋"と称し、趣味で無償の人助けをしている。

(人探し、指名手配犯の捕獲、強盗制圧etc)

 今回の葉山からの依頼は、ある闇金を潰して欲しいというものだった。


「なるほど、親の借金ねぇ。借用書見せて。ーーほぉほぉ、これはまた。利子だけで家建てれるじゃん(笑)。 でこっちが、催促という名目の脅迫状ね。

てか、こうして色々証拠もあるわけだし警察に行けば? そっちの方が早くない?」


 真っ当な提案。しかし、彼の提案に、男はゆっくりと横に首を振った。


「実は……」


 葉山の父親が闇金に手を出したのは3年前。利息がありえないほど膨れ上がり、父親は自殺。以降、保証人である彼が返済を続けたが、ある日会社が倒産。毎日の取り立てに、母親も精神状態がおかしくなり入院。心身共に疲れ、返す当てすらなくなってしまった彼は、『空き巣』、つまり犯罪に手を染め、盗んだお金で返済を終わらせた。(計4件)


「なるほどね。だから警察には行けないと」


「この件が片付いたら必ず出頭します。その前に、両親と私を苦しめたあいつらに復讐を……」


 拳と唇を強く噛みしめ、怒りで震える男に対して、


「空き巣って最近ニュースでやってたあれか? 確か怪我人が出てたよな? そんなお前が復讐? ッチ、笑わせるなよ? 何被害者面してんだよ。いいか? お前が傷ついたように、空き巣に入られ、お金を取られ、怪我をした人だって傷ついてんだよ。闇金もてめぇも変わらねぇ。今すぐ出頭しろ」


 正論。現実を突きつけられた葉山は、膝から崩れ落ち、涙を流した。


「そうですね。出頭します。この話は無かったことに。もう少し早く誰かに言えばこんなことには……」


 立ち上がり、背を向け路地から去ろうとする彼の肩を掴み、


「ーー最近、人外(ジンガイ)がどうだで依頼が減っててな。仕方ないからやってやるよ。まぁこの闇金には前から目をつけてたしな。でも勘違いするな、俺は犯罪者の肩は持たない。この依頼はお前の父親からってことで。あとあんた、まだ人生諦めるなよ。しっかり償って今度はちゃんと真っ当に生きな。じゃあな」


「はい……ありがとう……ございます……」



************************



     〈東京都内 とあるビルの一室〉



「こ、近藤さん!! 聞きました? 例の空き巣事件の犯人」


「何だうるせぇぞ山田。そのことなら、俺もさっきニュースで見たよ。まさか、盗んだ金で返済するとはな。父親と似てバカなやつだ」


「大丈夫……っすよね?」


「問題ない。あいつの親父は"自殺"で処理されたんだ。今更何を言おうがどうもなんねぇよ」


「そ、そうすね。あ、近藤さん! タバコ買いに行きましょうか?」


「おぉ悪いな、頼む。あ、ついでに酒も。他の奴らは集金行ってこ〜〜い」


 タバコを買いに、山田という男が部屋を出て数秒後。


 部屋に1つしかない入り口の扉が大きな音を立て破壊され、その破壊された扉とともに山田が吹き飛ばされ戻ってきた。


「山田……何してんだおまえ?」


「こ、近藤さん……に、逃げてください」


破壊された扉の方から、ゆっくりと1人の男が姿を現した。


「ーーあぁ臭え。めっちゃめちゃ臭え。きな臭すぎて鼻もげるわ」


 指の骨をポキポキと鳴らしながら部屋に入ると、先ほどぶっ飛んできた山田の頭を踏みつけた。


「いや〜〜怪しいとは思ってたんだよ?? お前らが金を貸してた連中、全員死んでるよな? しかも毎回焼死(ショウシ)。一家心中ならまだしも、全員が単独焼死って……不自然じゃね?」


 1人語り始める男に対し、


「さっきからぶつぶつと……てめぇ何者だ? つうか、ここがどこで誰に喧嘩売ってんのかわかって……待て、おま、お前……榮多云大か?!」


 「榮多云大」、その名を聞き、室内にいた全員が驚く。そう、彼は自分が思っている以上に有名人なのである。


 榮多は5歳からあらゆる格闘技と武術を習っており、その当時から"最強の少年"と海外メディアなどからも注目されていた。

 それから数年後、彼が中学3年生の時、ボクシング・総合格闘技・柔道といったあらゆる格闘において、彼は世界チャンピオンとなり、一躍時の人となった。


「へぇ〜〜俺のこと知ってんだ。悪りぃけどサインはお断りね。子供にしかしない主義なんで」


「な、何しに来やがった」


「は? 何って。あ〜〜自己紹介まだか」


 榮多は、親指を自分に向け、声高らかに、


「殺人以外のお仕事であれば何でもお任せ! 現役大学生にして人類最強の男、"何でも屋" 榮多云大だ!! 闇金、改め反社会勢力である近藤組を血祭りにするため、依頼を受けて参上仕った! ヨロシク!!」


「依頼……だと?? いったい誰が……あぁそうか、葉山か!!(あいつ、警察よりもめんどくせぇ奴に)

ッチ、まぁいい。確かに、お前に喧嘩で勝てるやつなんか1人もいねぇだろうなチャンピオン。変異種ですら逃げ出すくらいだからな。でもなガキ、よく覚えておけ。お前が強いのはあくまでも喧嘩。拳だけじゃ語れねぇ相手もいるんだぜ?」


 彼が手をあげ、皆に合図を出した瞬間、隠し持っていった拳銃を榮多に向けた。


「ほら、早く膝をつけ。1秒でも長く生きたいだろ? なぁ、チャンピオン」


 どれだけ肉弾戦最強の人間であっても、銃を持つ連中に勝てるなど有り得ない。この状況では、指示に従うほかない。


 しかし、彼は笑った。腹を抱えて、部屋中に響き渡るほどの大声で笑った。


「あぁおもろ。前言撤回、あんたら闇金じゃねぇな。快楽殺人者だ。銃を見る感じかなり使い込まれてるな。で、何人殺した? 本当は、葉山の父親も自殺じゃねぇだろ?」


「さぁ、なんのことだ? 証拠はない」


「確かにね。でも俺にはわかるんだ。悪いことは言わない。出頭しろ。じゃなきゃ、ーー死ぬぞお前ら?」


 突如向けられた見てわかるほどの殺意。銃を持ち、どう見ても優勢であるはずの彼らが、その殺意を前に萎縮していた。


「へ、平伏の意思はないようだな。(くそ、こいつは有名だから殺すと厄介だが、やらないとこっちが殺される。とりあえず足に1、2発ぶち込んで黙らせるか)」


 彼は銃を持つ手とは逆の手で、後ろにいる仲間に合図を出した。


 そして、

      

       『バン、バン、バン』



 榮多の足目掛けて3発の銃弾が放たれた。その瞬間、近藤は微笑んだ。が、すぐに顔から笑顔は消える。


「はっはっ!! バカな男だ!! 黙って言うことを聞いていればもっと楽に、、は……?」


 その場にいた全員が驚いた。確実に捉えたはずだったのに、彼には傷1つ付いていなかった。


「お、おい下手くそ!! ちゃんと当てろ!! こんな距離で外すなみっともない!!……ってどうしたそんな怯えた顔して」


 撃たれた瞬間、近藤は少し目を逸らしていた。だから"それを見ていなかった"。


 放たれた弾丸の全てを、榮多は素手で(ハタ)き、当たらなかったのではなく防いでいたのだ。


 その現実を目の当たりにしていたからこその怯えた表情だった。


「だ……だめだ。こ、殺される!!」


1人の男が、銃を捨て部屋を立ち去ろうとした。


「橋本!! 逃げんじゃねぇよ!!」


「もう無理です!!」


走り去る橋本。だが、彼がそれを見逃すわけがない。

橋本が彼を横切った瞬間、逃げた男は、壁に頭から激突し、めり込んだ。その衝撃でビルは揺れ、天井から砂埃が舞う。


な、、何が起きた? 全く見えなかった。


 全員、なぜ彼が壁に激突したのか理解できていなかった。


「はい、1人目。次は誰? 俺こう見えて忙しいから早くしろよ」


「あ、あ、あぁぁ!! くそ死ね!!」


 状況を打破すべく、1人の男が再度銃を向け発砲。


「はぁ……わかんねぇかな。そんな玩具(オモチャ)じゃ意味ねえって」


先程は見ていなかった近藤も今度はハッキリと見ていた。榮多が、銃弾を素手で捕らえる瞬間を。


「ば、化けもんだ……」


目の当たりにした恐怖を前に、ボスを1人残し、全員が部屋を立ち去ろうと走る。しかし、それは間違いであった。

彼は今いる場所から一歩たりとも動いてない。彼自身も「早くしろ」と言っている。

 もしかしたら、逃げるではなく降伏の方が良かったのかもしれない。

 だが、そんなこと考えてられる余裕がある者など1人もいない。

 1人、また1人と、橋本と同じように壁にめり込んだ。


「はい、あとあんただけな? まぁこの状況でも逃げださなかったのだけは褒めるぜ。流石は近藤組の組長さん。あ、違うか。動けなかっただけか? まぁいいや。俺な、自分から手は出さない主義なんだよ。なんでかわかるか? 自分から手を出すということは、相手が自分よりも強く見えたか、恐怖したかのどっちかだ。だから俺からは手を出さない。 あ、今の奴らは逃げたから例外な? 自分から手を出したわけではないからな?! まぁ何にせよ、お前も俺に銃を向けたよな? つまり、覚悟できてんだよな?」


 彼の言葉に対して、近藤が返答することはなかった。


       

         〜〜数秒後〜〜



 仰向けの状態で、原型がないほど腫れ上がった顔の近藤を横目に、


「あ、もしもし警察ですか? そうなんすよ。早く来てもらえます? は〜〜い。お願いしま〜〜す」


たった1人で、10数名を一掃した彼は、警察を呼び部屋を立ち去ろうとした。


「これで無償は割に合わないから、葉山のおっさんが出所したら金せびろうかなぁーー!?」


 その時、感じたことのない何かを感じる。恐らく、幾度となく修羅場を切り抜けてきた彼だからこそわかった嫌な気配。

 気を張り、周辺をくまなく探した。


「き……気のせいか」


「へぇ、やっぱ気付いてんだ」


 その声は、彼の背後から心臓を握り潰されるかのような圧迫感をもって突如聞こえた。


くそ……動けねぇ。変異種か? いや、変異種なら俺がこんなビビるわけがない。


「な、何もんだ。俺に何か、よ用か?」


 息が上がりながらも、冷静に話しかける榮多に対し、


「ふ〜〜ん。結構圧かけたつもりだったんだけど、会話もできるか。やるじゃん」


気のせいか? いや、気のせいではない。


 急に、背中から感じていた圧迫感がなくなり、体が軽くなった。

 そんな好機を彼が逃すわけもなく、振り返り後方へと飛んだ。


 するとそこには、見たことのない知らない男が立っていた。

 荒立っていた息を落ち着かせ、話しかける。


「あんた何もんだ? 近藤組の残党か?」


「近藤 グミ? 珍しい名前だな。キャッチーでいいと思う!」


「ちげぇよ! 近藤"組"!! はぁ、俺の名は榮多云大。近藤組を知らねぇってことは部外者か。それなら俺に何の用だ?」


 彼の名を聞いた男は、口元に手を置き何やら浮かない表情をしていた。


榮多云大? そんなやついたか? 記憶にないな。だとしたら……


「おい、あんた! 聞いてんのか?」


「おぉすまない。俺も名乗るのが筋だよな。初めまして榮多云大君。俺は(アマネ) 千年というものだ。君の言った通り余所者だよ。ってことで、ちょっと話しようか」


 優しく微笑み、ゆっくりと近づく彼に、何故だか、とてつもない恐怖を感じた。


「話? 悪いけどあんたのことなんか知らないし、興味もない。だから話すことはない」


「あはは、ごめんごめん。説明の仕方が良くなかったよーー『質問するから黙って答えろ』」


 その瞬間、彼は覚悟する。背を向ければ死ぬ。やるしかないと。

 反射的に危険を感じた彼は、無意識のうちに千年に向かって、一歩目を出していた。


 床に巨大な亀裂が入る一歩。踏み込んだ足の勢いそのままに、今まで制限していた力を、一気に解放して彼へと強襲をかけた。


本気で殴れば多分死ぬ。でもそんな流暢なことは言ってられない。恐らくこいつは例の人外。なら死んだとしても問題ない。こいつは、"絶対ここで殺す!!"


 拳を振り上げ、今自分が出せる最大の力を込めて、彼へとぶつけた。


「おぉ〜〜」


 その一撃は、進行方向にまっすぐ放たれた。

床は(エグ)れ、千年の背後にあった壁も、跡形もなく消えた。


 放った本人でも驚くほどのその威力は、周辺地域に少しの揺れを起こした。


「はぁ……はぁ……。や、やりすぎた。てかキッツ。めっちゃフラフラする。つうか、意識的に制限はしてたが、いざ使ってみると……まさかこんな力が俺にあったなんて」


 千年がどうなったかよりも、自分の力に驚き、少し高揚していた。


「あ、そうじゃない。あいつはどこに?  ーーいないな。し、死んだか? ってかそんなことより、絶対この建物倒壊する!! 逃げなきゃ」


 慌ててその場を立ち去ろうとしたのだが、ふと何かを思い立ち止まった。そのまま彼は、ゆっくりと方向転換し、なくなった壁の方へと歩き、外を見つめた。


……待て、おかしい。今の一撃でビルの半分が消滅したのに、瓦礫が1つもない。それに、過信してるわけではないけど、俺が本気を出したというのになぜこの建物以外に被害が出てない? 不自然すぎる。


 彼の考えの通り、今いるビル以外への被害は1つもなく、破壊した建物の瓦礫等も一切なかった。


「いやぁ、すごいねぇ。跡形もないじゃない。芽吹(メブキ)にしてはすごい力だ」


 榮多の背後から、今一番聞きたくない男の声が、拍手とともに鼓膜を刺激した。


「本当に驚いたなぁ。神力(ジンリキ)操作もろくに出来てないのにあれだけの出力!! いやぁすごいすご〜〜い。でもね、もうちょっと周りに配慮しようか? 堅気に迷惑かけたらアカンゼヨ〜〜と、まぁおふざけはここまでにしてーー君さぁ、その力の発芽者(ハツガシャ)は一体誰だい? ちゃんと答えろよ、ガキ」


 力を出し尽くし、満身創痍の榮多に、千年から放たれる禍々しいその圧を耐えられるわけもなく、



         バタン……



「あら? お〜〜い。 気絶しちゃった。 はぁあ、めんどくさなぁ。仕方ない。ちょっと失礼するね」


 倒れた彼に近づき、額に手を置く。すると、ほんの少しだけ手と額が淡く光った。


「"(ナンジ) 我が(メイ)に従い 呼び起こせ" 従操(ジュウソウ) 『記憶解放(デモリハニス)』ーーふん、やっぱ神通力者(ジンツウリキシャ)か。なんも見えねぇや。はぁあ、こりゃかなり面倒くさいなぁ。どうしたもんかな〜〜」


暫く榮多を眺めながら何かを考える千年。すると、外から複数台のパトカーのサイレン音が聞こえ、


「お、沢山来たな。う〜〜んよし、とりあえず、こいつ大して強くないから放置しよう! よし、そうしよう」


榮多を放置することを決断した彼は、目の前に黒い(モヤ)を出現させ、その中へと姿を消した。



〜〜〜〜




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