プロローグ
これは、地球の存在する今の宇宙よりも遥か遥か昔の話である。
惑星『デウス』
ここは、生きとし生けるものの住む星。
起源は未だ解明されてはいないが、一つ分かっていることがある。
それは遥か昔より神という存在がこの世界を統治していたということだ。
複数存在する神々は、それぞれが国を持ち、人や竜、天使や妖精、魚人に鬼人などの多種多様な生き物の王として世界を発展させていた。
その神の中でも、特に優れており、ほかの神々ですら崇め、認める存在
それが神王と呼ばれる１人の神である。
今現在の神王は、４代目。その４人全員が優秀で強大な力を要してはいたが、どの時代も平和とは言えなかった。
しかし、その混沌とした世界にようやく、一筋の明るい兆しが差し込んだ。
〈現在時刻：午前１１時。 場所：王宮〉
男は、とても広く豪勢な部屋で目を覚まし、徐に時計を眺めた。
「ーー間もなくか」
ゆっくりと起き上がり、日の光を浴びるため、窓辺まで歩き出した。
彼の名前は、天明。
この世界の王、＂四代目神王＂である。
窓辺の近くに置いてある椅子にゆっくりと腰掛け、いつものように世界に語りかけた。
「ーー今日という日を迎えられることに感謝を。また、明日を迎えられるよう、今日を大切に……」
まるで誰かに話しかけているように、丁寧にゆっくりと語りかけた。
「ーーコンコン」
……
「ーーコンコン」
話すことに集中しており、一度目のノックに気がつかず、二度目の扉をノックする音にようやく反応した天明が返答する。
扉が開き、一人の男が中へ入った。
「天明様、おはようございます。もう間も無く出発のお時間となります」
彼の名前は、天 千年。
性別 男。 身長１７５cm。 細身。
左目は緋色、右目は紺色のオッドアイ。黒と白が混ざったボッサボサの長髪をしている。
彼は、神王直下守護六眷属＝通称『王直眷属』という職務に就いている。
王直の仕事は王の護衛や身の回りの世話は勿論、世の平和維持のための警備、調査、追及など、様々な場面で活躍している。（まぁ分かり易く言うと、時には警察、時には弁護士になるブラックブラック職場である）
因みに、天千年はその王直の頭領＝１番偉い立場にある。
「おはよう千年……って、また目の色が戻ってるぞ」
「え？ あ、、やべ。失礼しました！」
過去に色々あったことから、千年は目の色を変えるよう言われていた。
だが彼はかなりのズボラ。忘れることなど日常茶飯事である。
「はぁ…… いい加減そのズボラな性格、何とかならんか？」
「あはは、それは無理ですね。なんせ俺の長所ですから！」
「はぁ……あいも変わらずアホちんだな千年は。まぁよい、急いで支度する。終わったら呼ぶよ」
「わかりました！ それでは」
千年は部屋を去り、天明は準備するため椅子から立ち上がった。
ゆっくりと歩き出す天明は、急に背後から何かを感じ、勢いよく振り返った。
窓周辺をよく見ると、そこには先ほどまでなかったはずの１枚の書状が置いてあった。
恐る恐る近づき、それを拾い、中身を確認した彼の表情は、寝起きとは思えないほどの強張りを見せた。
そうか……そうか……こんなめでたい日に、いやこんなめでたい日だからこそ動くのか……。いいだろうーー
＂殺してやる＂
天明のその殺意は、王宮内にいた者たち全員がすぐに察知した。
和やかだった１日の始まりにとてつもない緊張が走った。
ふと我に帰った天明は、呼吸を整え、心を落ち着かせ、手に持つ書状をすぐに仕舞い、※意思伝達にて千年を呼び出した。
※ 意思伝達
言葉を発して会話するのではなく、脳内で会話をする力。
《千年、急いで部屋に来てくれ》
数秒も経たない内に、慌てて入室した千年は、王の安否を確認し、安堵の表情を見せた。
「はぁ〜〜よかったぁぁ。急に天明様の神力が跳ね上がったので何かあったのかと。 無事で何よりです。それで、どうされましたか？」
天明の安否を確認し、一安心する千年であったが、王の雰囲気というか表情というか……とにかく、いつもと何かが違うことに気がついた。
「いや、大したことじゃない。ちょっと所用ができただけだ。約束の時間には間に合うようにするから、すまんが、先に行って準備しててくれないか？」
王が所用と言い、どこかに出かけることは、今までにも何度かあるからそこまで不思議なことではないが、
「え？ 今からですか？ まぁ……わかりました。では、セレナに護衛を任せます。俺は先に行って先方と準備をしておきますので」
いつもならこれで王も納得し、話は終わるのだが、、
「いや、護衛はいい。今日は１人で行く」
一国の王ならまだしも、天明は世界の王である。
どこに行くかもわからないのに、従者である千年がそれを許可するわけもなく。
「はぁ…… このご時世、いつ命を狙われるかわからないんすよ？ １人で出歩くなんて……許可するわけないでしょ！
それに俺らの仕事は、あなたの護衛です。職務放棄しろってことですかぁ？」
冗談を言っているのだと思い、千年も少しふざけながら返答をしたものの、天明の顔色に何１つ変化はなかった。それどころか、雲行きは徐々に怪しくなる。
「頼む……千年。 １人でなきゃ意味がないんだ。 これ以上言わせないでくれ」
歯を食いしばり、怒りで震える天明のこんな姿を彼は初めて見た。
理由はわからないが、怒り震える王の姿。
最早千年には、「わかりました」以外の返答の選択肢はなかった。
千年は渋々部屋を後にする。直後、天明は窓を突き破り、姿を消した。
王の気配が消えたことを確認した千年は、
《ーーセレナ、急用だ。俺は先に帝ノ国へ行く。お前は王を追え。何かあればすぐに連絡しろ》
《了解》
セレナに護衛を任せた千年は、１人約束の目的地へと急行した。
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〈帝ノ国隣接国 癒ノ国〉
ここは、※女族の住む国。
※デウスにいる、あらゆる種族の女性のみがこの国で生活している。自然も女性も美しい、まさに癒しの国である。
癒ノ国に到着した千年は、少し思い出に浸っていた。
「あれから何年経った？ まじで懐かしいなぁ」
ここは、彼にとっても縁のある地である。
仕事で来ているとはいえ、久々の＂母国＂に、いろんな意味で興奮していた。
「ふぅ〜、やっぱりこの国は最高だ！！ どこを見渡しても目に映るは女性、女性、女性！！ ふっ、全く、背中に安心感しかないな」
懐かしい国の景色に、少し、、かなり浮かれていた。
１人で歩くこと約１５分。疲れることと、面倒なことが嫌いな彼の限界は近い。
（因みに徒歩は、千年が嫌うことのベスト３に入る）
そんなイライラの募る彼に近づく１人の女性。彼女は背後から、まるで子供が親戚に悪戯するかのような可愛らしい感じで千年に話しかけてきた。
「これはこれは。珍しいお客様ですねぇ。王直眷属＂様＂が、こんな最遠の国にどのような御用で？」
ニッコリと微笑み、どこか堅苦しい話し方をする彼女。
うん、誰？ こんな可愛らしいネェちゃんといつの間に知り合った俺は。とりあえず過去の俺、ナイスっ！！ ……ってあれ？ この雰囲気どこかで……まさか！？
「おまおまお前！！ まさか一花か！？」
驚き声を荒げる千年に、彼女は頬を膨らませ、不満げな表情を浮かべた。
「そうだよ？ もしかして忘れてたの〜〜？」
「わ、忘れてなんかねぇよ。た、ただその、おっぱっ……なんか色々成長してたから」
「……？ そんなことより、久しぶりだね！ 千年君全然会いに来ないから、心配してたんだよ？ でも、元気そうでよかった！」
彼女は、千年の幼馴染の薫一花。
最後に会ったのがいつかすら覚えていない程、久方ぶりの再会である。
いろんな意味で成長している彼女に少し、、かなり緊張している千年であった。
そんな久しぶりの再会に、２人は会話を弾ませた。
暫くすると、一花は何かを思い出しかのように千年に話しかけた。
「あっ、そうだそうだ！ ねぇねぇ、千年君は、天照貴族様に会ったことある？？」
唐突な質問に少し困惑する千年。
「貴族？ まぁ何度かはあるが。急にどうした？？」
「あのね！ 千年君が来る２０分……くらい前かな？ 貴族様が来られてね！ みんな大はしゃぎだったよ！ 私も初めて見たもんだから、すごく興奮しちゃってさ！ でねでね、」
楽しそうに話す一花とは裏腹に、それを聞いていた千年の表情が一気に強張りを見せた。
「男の人であんなに綺麗な人初めて見た！ 生きててよかったってこいうときに、、」
「ま、待て！！ ……今なんて言った？」
目を見開き、額からジワリと汗を流し、困惑した表情の千年に、少し戸惑う一花。
「ど、どうしたの急に。そんな怖い顔して」
「貴族がここに来たのか？！ それは本当か！？
どいつだ？！ 本当に貴族だったのか？！」
「え……うん。 正直、誰も貴族様を実際に見たことはなかったから最初は綺麗な人だなぁと思っただけだったけど、その人が連れて行った帝の人達がその人を王位第六継承者様って呼んでたから……」
一花の話で益々困惑する千年。
嘘だろ……。貴族は今、天明様の命令で謹慎してるはず。なのに何故ここに。第六継承者ってことは……柊。確かにあいつは男にしては綺麗なやつだ。でも待て、貴族の姿を知るものは数少ない。だから一花が柊を知ってるはずもない。なのに綺麗と言った。ってことは今の話は本当？ だとしたら、帝一族を連れて行ったとはどういうことだ？ いや、それ以外にも、、
「ーーくん、ねぇねぇ千年君！！」
色々なことが頭をよぎり、パニックになっていた千年は、一花の声で我に返る。そして、落ち着いた彼は、とても重要なことに気がつく。
「ちょっと待て！！ 一花、百済は何してる？ この国は１５歳以上の男子は百済の許可がないと入国できないはずだろ？ そういえば、俺が入った時も百済は何もしてない。 あいつは今どこで何してる？」
「ちょっと！ 百済じゃなくて、百済様でしょ？ もぉ。急に怒ったり落ち着いたりなんなのよ一体」
「ふざけてないで、女神＂百済＂は今どこだ？！」
「何よもぉ〜〜、私はただの人族だよ？ 百済様が何してるかなんて知らないわよ」
災厄の状況が千年の脳裏をよぎった。
「……っクソ！！ だめか。やっぱり神通力が使えない。一花！ とりあえず女神の城に行って安否を確認してくれ。いいな？」
「え、ちょっと。何かあったの？ ねぇ千年君！！」
千年は、一花に百済のことを任せて、一目散に走り出した。これが、彼女との最後の会話であるとも知らずに。
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一花に別れを告げた千年は、猛スピードで神王のいる地へと走った。
この国は※守護領域。ここさえ抜けれれば……頼む。無事でいてください……天明様！！
※守護領域
発動者以外、神通力の全てが使用できなくなる。
走ること数分。守護の治める癒ノ国を抜け、ようやく神通力が使用できる場所までたどり着いた。
〈癒ノ国隣接国 教ノ国〉
ーーよし、守護の領域を抜けた。ここなら神通力が使える！！
息を整え、額から流れる汗を拭いている中、彼は気づいてしまった。
「……何だ。何が起こってる！！」
それは、神通力者なら誰でも気がつく異常事態であった。
《ち、ち、千年様…… 聞こえますか……》
千年の脳内に流れるその声は、これが彼との最後の会話になるかもしれないと思わせるほど、とても弱々しいものだった。
《っセレナ！！ 何があった？！ 各地で起きている争いは何だ！！》
《ーー報告します。何者かによって皇帝が殺されました。首謀者は恐らく家族です。それが原因か、各地で帝一族が暴走しています》
なっ、なんだと……皇帝が貴族に殺されただと……
《それと、このタイミングで天霊も出現。
各地で甚大な被害が……》
天霊もだと……ふざけんなよ。さっきまでの平和はどこに行きやがった！！？？
《お、王は？！ 天明様は無事か？！》
《はい、今のところ無事だと思われます。ですが、仏陀と接触後、慌てて王宮に戻られました。千年様、天明様を、、》
《セレナ？ おい、セレナ！！》
ックソ！！ この短時間で何が起きた？！ 王が仏陀と接触？ 貴族の反乱？ 帝の暴走？ クソ……何から何まで災厄だ。
急な出来事の数々に、千年の思考は全く追いついていなかった。
そして更に、彼に追い討ちをかけるかのように、事態は凄みを増す。
「ーーッ。 なんの音だ！？」
後方から、突如激しい爆音が鳴り響く。
反射的に音のする方へと体を向けると、そこには１人の男が、血塗れの状態で立っていた。
「ーーみ、見つけた。 憎き神王の犬。 返せ……俺たちの王を、皇帝を返せ！！」
そこにいたのは、皇帝の従者、帝一族の炎帝。
彼を見るや否や、千年はすぐに戦闘態勢に入った。
「憎き神王だと？ 俺の目の前で王を愚弄するか？ それにお前がその手に持っている死体は何だ？ まさか、この国の民じゃねぇだろうな？ ※不可侵の誓いを忘れたか！！」
※不可侵の誓い
殺さない、奪わない、侵略しない、生物を食べない。
「黙れ！！ 先に誓いを破ったのは貴様たちだ！！」
「なんだと？ それはどういう意味だ？」
「惚けるな！！ 神王の命令で、貴族が皇帝を殺した！！ 何が不可侵だ！！ 神王なら何をやっても許されるのか？！ …… 許さねえ。絶対にお前ら全員殺してやる！！」
王が皇帝を殺せと命じた？ そんなの嘘に決まってる。ってことは、やはり原因は貴族のゴミどもか！！！！
「なるほど、お互いに知らないことが多いみたいだな。
わかった、とりあえず落ち着け炎帝。俺が王に確認してくる。そこで待っておけ」
「ふざけるな！！ 俺は沢山この国の奴らを殺した。 もう後戻り出来ねぇんだよ。それでも邪魔するってなら、お前も殺していく」
ッチ、正気を失ってやがるな。仕方ない、ここでこいつを…… いや、そんな時間はない。すぐにでも天明様のもとにいなねば。かと言って、こいつを野放しにもできない。
そうこうしているうちに、遂に炎帝の怒りが千年に牙を向く。
「＂炎帝幻祇＂ 『 爆砕』」
千年の周辺を一発で吹き飛ばす爆炎による爆発。
ーーックソ、結局やるしかねぇのか。
間一髪で避けた千年であったが、未だ打開策を見いだせずにいた。 そんな時……
《ーー千年。 聞こえておるか千年》
千年の脳内に、いつもと変わらぬ優しい彼の声が。
《て、天明様！！ ご無事でしたか！！ よかった。
すみません、こんな時に傍にいることができず。ですがもう大丈夫です。すぐに向かいますので、今暫しお待ち、、》
《ーーもう良い。 もう良いんじゃ……》
《……王？》
完全に神王との会話に意識を飛ばしていた千年は、次に放たれた攻撃がもろに直撃し、その場に倒れ込んだ。
《お、、王……》
《すまなかった。 余に力がないばかりに》
《な、何をおっしゃいますか……。暫しお待ちを、すぐに向かいます》
《聞いてくれ千年。 この世界は直に終わりを迎える。 じゃが、未来は残した。＂神和＂を求めよ》
《お待ちください王……天明様》
《最後に、お前に言いたいことがあるーー》
天明は、最後の力を振り絞り千年にある言葉を残した。
《え……どういう意味ですか、、？》
《後は頼んだぞ》
《天明様……天明様！！！！》
そして、彼らは＂終わり＂すら感じる事なく、このデウスという世界は、この世から跡形もなく姿を消した。
１つの膨大なエネルギーを要する星が消えたことにより、惑星間で大規模の爆発が起こった。
これが後のビックバンとして、宇宙に爪痕を残す結果となった。
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ーーそして、それから約数百億年後。
〈2021年 地球〉
＂その瞬間＂は意図してか、それとも気まぐれか。何の前触れもなく、突如訪れた。
《ーー地球に存在する全ての生よ。我が名は世紀。時は来た。前神王最期の命により、２つを１つとする》
若々しい少女の声？は、地球上の全生物の脳内に刻まれた。
＂え、何今の。空耳？＂
＂幻聴？！ 年取ったわ〜＂
＂怖っ……なに？＂
＂うわ〜〜でっけぇハナクソ取れた〜〜＂
捉え方はそれぞれであったが、大半はそれを聞き流した。
しかし、その声から数秒後、一瞬にして地球上の全ての生き物が｜気絶した。
《 ーー『時空転変』。 天に幸あれ。 ようこそ＂神世界へ＂》
〜〜それから数時間後〜〜
徐々に目を覚ましていく生物たち。起きるや否や、自分たちの目の前に広がる＂新しい世界＂を目にした彼らは口々にこう言う。
『なんて綺麗な世界だ』
目で見てわかるくらい澄んだ空気。まるで生きているかのように生い茂る自然。そして見たこともない謎の生物が存在する星。
これまでにない、人類の新たな歩みが始まった。
