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魔導師転生-3

ムーメルを愚弄され怒りが頂点に達した瑛羅と、愚かにもそれに挑んだゴブリン勢の争いは続いていた。

最も戦況は終始瑛羅が圧倒していた。


「強え! なんだこいつ」


たじろいだゴブリンの一体の喉元を掴み上げるとギリギリと万力のように締め上げ口元から泡を吹き瑛羅の手を伝う。


「汚いな」


瑛羅はゴブリンを力一杯に地面に叩きつけると顔面を何度も踏みつけた。靴底が血泡に汚れるとそれを擦り落とすようにグリグリとゴブリンの顔を踏む。それを助けるように他のゴブリンが石斧を振りかざして接近してくるのをひらりとかわし、デップリ膨らんだ腹に膝をぶちこんだ。眼を見開き踞るのを無理やり起こして大きく凹んだ腹に渾身の拳をめり込ませる。昼飯に食ったであろ消化不良の物体が口から盛大に吐き出される。

それを不快に感じた瑛羅は彼から石斧を奪い脳天をかち割った。ハート型に変形した頭から血が噴水のように吹き出て瑛羅の頬を汚す。よたよたと後退するゴブリンを押し倒すと、目玉が飛び出た首を石斧で叩き斬った。が、刃の入れ方が悪かったのか半分まで切れた所で止まっていた。


「面倒くさい」


なんと瑛羅は残りの首を石斧をノコギリに見立ててギコギコと切断していく。ゴブリンは最後のあがきとばかりに耳をつんざく断末魔を上げるが口を靴で塞がれ叫びをあげる権利すらも失った。


「も、う、殺、して」


モゴモゴと口を動かしそんな感じの言葉を放ったのだろうが瑛羅には届かず慣れない石斧の扱いに苦戦しつつゆっくりとゴブリンを死地に誘っていくかに思われたが......


「止そう」


瑛羅の腕が止まった。ゴブリンとしてはあと少しで楽になれたのに何故と瑛羅の顔を見上げる。彼は笑っているような悲哀に打ちひしがれているような何とも言えない顔を浮かべていた。


「このまま殺しても面白くない。あとは自分で死ぬのを待て」


瑛羅は石斧を放り投げて踵を返していく。残されたゴブリンは絶望の淵に立たされていた。死ぬに死ねない。いっそ一思いに殺してくれと声にならない言葉で嘆願したが叶わない。

他の仲間も彼を見れば見捨てるだろう。つまり彼は誰にも看取られることもなく無限に続く死への時間を過ごさねばならない。自死できるほども力は残されていない。首から流れる血だけが唯一の希望となっていた。ゴブリンは生命力が強い種族と言われているがそれが皮肉にも彼を苦しめることになろうとは...彼はゴブリンとして産まれてきた己を恨みながら静かに死を待つことにした。


「残りはお前だけだ」


瑛羅は握り潰した粘土のように顔面の原型をとどめていないゴブリンを四人目のゴブリンに投げつけた。恐ろしいことに彼もまだ生きていた。しかし生きているとは言え虫の息であと数分の命だろう。救いの手を求めるように手を伸ばすが、リーダー格のゴブリンは至近距離から彼の脳天に矢を放った。頭蓋骨を貫通し、頭と地面が縫い合わされた状態で彼は死んだ。リーダーなりの弔いだったのかもしれない。


「お願いします。見逃してください」


リーダーは武器の弓矢を置いてその場に土下座した。その様子を止めを刺されたゴブリンの濁った目が見据えている。

物言わぬガラクタと化した彼は何かを言いたげだがその言葉は誰にも通じない。


「俺はこいつらに利用されていたんだ。やりたくもないリーダーの役を押し付けられて...辛かった。アンタらを襲ったのもこのバカの入れ知恵なんだ、俺も被害者の一人なんだよ! だから見逃してください! この通りだ」


「最初から謝ればいいんだ。今日の所は勘弁してやるから散らばってるゴミは責任もって持ち帰れ。それが和解の条件だ」


「かしこまりました」


リーダー格のゴブリンは三体のゴブリンの亡骸を引きずるように去っていく。しかし茂みに辿り着くと情けない声を上げながら逃亡した。恐らく仲間は茂みの中に放置したのだろう。が、瑛羅にしたらどうでも良かった。


「ムーメル、悪者はいなくなった。だから元気出してくれ」


さっきとは打って変わり優しい口調で体育座りで俯くムーメルに近寄る。彼女は未だに肩を震わせ泣いているかと思われたが、ぐるんと顔を持ち上げると満面の笑みを浮かべていた。邪悪の概念を前面に押し出した素敵な笑顔に写る。


「なんだ嘘泣きだったのか、こいつめ」


瑛羅がムーメルの額を小突くと更に可愛く体をよじらせ笑った。


「ごめんなさい。私のために一生懸命戦ってるのを見てたら嬉しくて。でもちょっと傷付いたのは事実よ。こんなダメダメな私を見てほしくなかったもん」


「なに言ってんだよ。ムーメルがいないと俺はこの世界で生きていけないんだ。俺とムーメルはお互いがお互いを必要としている。だからこれからもよろしく」


「瑛羅っ。うん、よろしくね! 」


初めは不気味に思えたムーメルの顔もだんだん可愛く見えていた。いや、実は初めから可愛かったがその現実離れした可愛さに脳が着いてこれずに拒否反応を起こしていたのかもしれない、と瑛羅は感じていた。ムーメルの頭をよしよしと撫でてやると子猫にも似た表情で喜んでくれる。それが本当に可愛かった。

仕返しとばかりに頬を摘まんでくる様は年頃の子供みたいで癒された。彼女と一緒にいると、長年忘れていた色んな感情が次々と掘り起こされる。彼女ほど守るに値する人物はいないだろう。


「瑛羅、お腹すいた」


ムーメルがお腹を押さえて上目使いで瑛羅を見てくる。


「よし。ご飯食べに行こう。何でも好きなものを食べてくれ」


「やったー! 瑛羅、大好き」


ムーメルは瑛羅の頬にキスした。そして二人は手を繋いで森を抜ける道を探し歩き出した。



「ここまで来れば大丈夫だろう」


命乞いで生き延びたゴブリンは森の奥で荒く息を吐いて後ろを見る。誰も着いてきていない。逃げ切れたようだ。


「しかし奴は一体何者な」


ドスン


ゴブリンは突如落ちてきた巨大な物体に押し潰されてしまった。それは小柄ながらも超重量でうねうねと動く細い足が生えていた。


「うっふふ~や~いざぁこざぁこ♡ 遊び相手にすらならないとかマジありえないわ~」


血濡れの巨躯を見下げるのは一人の少女。侮蔑と冷徹が混じり合う紅眼が不穏な輝きを孕んでいる。

最大の特徴は下半身から八本の巨大節足が生えていることだった。さしずめ蜘蛛女と言った所か。金髪と黒が混じり合う長髪を掻き分け、おもむろに口を開く。


「遊び足りないなぁ」


蜘蛛娘はつまらなそうに溢して森を下りていく。

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