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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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96.絆

「引退――ですか?」


 突然の発言に理解が追いつかない。


 確かにふたりとも老年に差し掛かっているけど――まだまだ元気だし、指導者としても活躍中だ。

 ポーターとしての実力だって、ギルドの中でも上位なのは間違いない。

 それに――


「もう随分と前から決めておったんじゃよ」


 シードルさんの言葉に。私の思考は止まる。

 ああ。そうなんだ――って。

 だから、ロゼさんも昔の事を教えてくれたのかもって。


 ――でも。

 ――だから。


 私は問い掛ける。


「これからどうするんですか?」


 私の()()()()が正しければ――

 私の中に湧いたその考えを確かめるために。

 微笑むシードルさんの顔を。目を――見つめる。


 無言。

 無言。

 その微笑みは崩れない。


「まさか――聖国に行こうとしてるんじゃないですか?」


 その微笑みは崩れない。

 だけど――その事が私に確信を抱かせる。


「そんな予定はなかったはず――ですよね」


 例え引退する事を決めていたとしても。

 恐らくは、悠々自適に暮らしていくはずだったのだ。

 ――あの告知を見るまでは。


「考え直すことはできないんですか?」


 私の言葉に周囲が静まり返る。

 ――気が付けば。食堂中の視線が私達を向いていた。


 そう。私達だけじゃない。

 目の前にいるジョディさんを始め、シードルさんとロゼさんから指導を受けた人達は、直接間接問わず大勢居る。

 今やシードルさんの回答は、食堂中の注目の的だった。


 たっぷりと10秒以上は経っただろうか。

 シードルさんの口角が上がった。


「なんじゃ。バレておったんかい」


 ――周囲のざわめきが聞こえる。

 私はもう一度問いかけた。


「考え直すことは――できないんですか?」


「無理な話じゃ」


「どうしても?」


「くどいぞ」


 いつものシードルさんからは考えられない強い口調。

 ――でも。

 私もここで引くつもりはない。

 だって――


「私達に――本当に守るべきものは全力で守るように教えてくれたのは――シードルさんですよね?」


 直接言われていなくても分かる。

 それは常に感じていたこと。

 一番大切な事は()()()()()()を守ること。

 その想い。



 だから――――気付いて欲しい。

 守れなかったものでは無くて。

 守るべきものに。



「『リンケージ(連環)』」


 自然と口から出たその言葉と同時。

 私は、全身が冷たくなるのを感じる。



 目を閉じると――見えた。

 壊れてしまったふたつの(契約)が。

 そして――今にも解けてしまいそうなひとつの想いが。


 ――私はそっと触れる。

 少しだけ。

 その(想い)が少しだけ強くなるように。


 それは気休めかもしれないけれど。




 私が再び目を開いた時――

 目の前には、いつもの優しい微笑みを浮かべるシードルさんがいた。



 ――――――


 南門の前で。


 旅立つ僕達を見送ってくれたのは、シードルじいちゃんとロゼばあちゃん。

 それと――ラズ兄ちゃんだった。


 他の人達は仕事があるから来れないみたい。

 多分。ジョディさんはただの二日酔いなんだろうけど。


「まさか、ユニィちゃんに教わる日が来るとはのぅ」


「すいません。あの時は必死で――」


 向こうでは、何だかユニィがじいちゃんにペコペコしている。

 その横では、サギリがロゼばあちゃんにコクコク頷いている。



 僕はラズ兄ちゃんに声を掛けた。


『わざわざ見送りに来てくれてありがとう。ラズ兄ちゃん』


『まぁ暇だからな――それに』


 ラズ兄ちゃんが少しだけ小声になる。


『気をつけろよ。大地が騒いでいる』


『え?』


 思わず聞き返したけれど、ラズ兄ちゃんは笑っているだけだ。

 まぁ多分。本竜(ほんにん)にも分からないのだろう。

 以前も聞いたけど、()()()()()()らしい。


 そうこうしている内に、ユニィ達も別れの挨拶が終わったようだ。



 僕は荷車を引くために後脚に力を込める。

 少しずつ。少しずつ荷車が動き始める。


 横目で見ると、荷車にはユニィの部屋にあった荷物が積まれていた。

 ヘンテコな木彫りのお化け? とか、お化け? が刺繍されたクッションとか。小さな物は皮袋にまとめられている。

 ――来た時よりも随分と物が増えていた。



 僕はフォリアの町を振り返った。




 ――ありがとう。またね。










 ――――――


 ――おいリーフェ。お前今度は聖国に行くのか?


 相変わらず妙なこと(面白いこと)に巻き込まれている親友に、思わず笑みが溢れる。


 まぁ――俺も大概だけどな。


「おいマーロウ。早く乗り込むぞ」


『ああ。すぐに行く』


 目指すは脚竜族発祥の地があるという南の大陸。

 北の地に大魔が出たという噂もあるし、ちょうど良い。



 俺は()()の背中を追いかけた。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

ようやく第3章完結です。


例によって登場人物他をいつもと違う時間に挟んでから、第4章開始です。

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