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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
98/308

95.もらえるものは

「ユニィちゃん。見習い卒業おめでとー!」


 空術お姉さん――ジョディさんがカップを掲げる。もちろん中身はお酒だろう。


 僕達は今。ギルド近くの食堂に来ている。

 夕食を兼ねた――いわゆる祝賀会兼壮行会というやつだ。

 目の前のテーブルには美味しそうな料理が並んでいる。


『みんなおめでとう。頼もしくなってくれて嬉しいわ』

「ここまで良く頑張ったのぅ」


 ロゼばあちゃんも祝福の言葉を掛けてくれる。

 鬚じいちゃん――シードルじいちゃんは、祝福の言葉を言い終わったと同時にカップに口を付けていた。

 あれもやっぱりお酒だろう。


「今まで御指導頂き、ありがとうございました」

『ありがとうございました』

『どうもお世話になりました』


 ユニィが頭を下げるのに合わせて、僕とサギリも頭を下げる。


 たっぷり満足するまで頭を下げて。

 それから頭を上げた時。視界の端でユニィが小刻みに動いてるのが見えた。


 何だか、チラチラとじいちゃんの方を見ているみたいだ。

 だけど――既にロゼばあちゃん以外の二人はこちらの方を見ていない――って、ああっ! ジョディさん、そのお魚は僕が狙ってたやつ!


 ねぇねぇ。ユニィ。


 僕は内心焦りながら。それでも声には出さないように。

 視線と顎の動きでユニィを促す。

 ()()渡すんでしょ? だったら早くしようよ。


 チラチラくいくいと何度も視線を送る。顎を振る。


 早く。ねぇ早く。

 早くしないとお魚が無くなっちゃうよ。


 すると、ようやく僕の念が通じたのか、ユニィがシードルじいちゃんに話しかけてくれた。


「あのっ!」


 突然大声を上げたユニィに、じいちゃんとジョディさんの()()()()()

 ――良しっ! 魚はまだ半分は残っている。

 僕は心の中で盛大にガッツポーズした。――あれ? ガッツって何だったっけ?


 僕が内心戸惑っていた――その間に、ユニィはポーチから皮袋を取り出していたみたいだ。

 気付くと、じいちゃんに皮袋を差し出していた。


「これ――まだ足りないんですけど。お返しします!」


 そう。

 それは以前ユニィが遺跡で救出された時に、じいちゃんが支払った救助費用だ。

 まだ少し――大銀貨2枚分ぐらい足りないけど。

 僕のお小遣い(おやつ)になるはずだったものも含まれているから、そこは大目に見てほしい。


 その皮袋を見て、シードルじいちゃんとロゼばあちゃんが顔を見合わせた。

 ジョディさんは興味を失ったのか、再び手を動かし始める――って、ヤバい!


 僕は焦りを押し殺しながら、じいちゃん達の顔を眺めた。

 ユニィは真面目だから返そうとしてるけど、きっとじいちゃん達は――


「ふむ。それじゃあ()()は貰っておこうかのぅ」


 うんうん。

 やっぱり受け取らないよね――って、受け取るの!?


 思わず驚きの声が漏れてたみたい。

 ジョディさんが手も口も止めずに、目だけで僕の方を見た。

 どうせならそこは手を止めて欲しいんだけど。


 そんな渦中のじいちゃんは、先程から鬚を摘んでは離し、摘んでは離しとしている。


「実はのぅ。儂等からも渡すものがあってのぅ」


 じいちゃんが「ちょうど良かったわい」と笑う。


 ――ん? 渡すもの? もしかして聖国に行く途中で食べるためのおやつとか?


 じいちゃんが懐に手を入れる。僕はその手の動きに集中する。


 ――小さな物? もしかしてあめ玉かな?

 いやいや。そんな物だったら、こんなに勿体ぶらないはずだよね。それじゃあ一体――



 ――引き出したじいちゃんの手には、小さな鍵が握られていた。



 僕は途端に興味を失った。

 ――そしてテーブルに目を戻したら、お魚は全部食べられてた。

 僕の目は光を失った。



『それって何の鍵ですか?』


 サギリの声が聞こえた気がする。


(うち)の納屋の鍵じゃよ――おお。別に納屋をやるわけではないぞ」


 じいちゃんの声もする。


「えっと――もしかして――」


 ユニィの声には驚きの色が混じってるんだろう。そんな感情が伝わってくる。

 僕の世界には色がないけど。


「そうじゃよ。あの荷車はお主等に使って貰おうと思っての」


「え――そんな――」


 全てが遠い出来事で。

 そんな僕の耳に心に――その言葉は鮮烈に届いた。


「すいませーん! この魚を揚げたやつ。お代わりお願いします!」


『ねぇユニィ。そんなこと言ってないで早く貰おうよ』


 僕はすぐに反応する。

 早くしないと、またジョディさんにお魚食べられちゃうよ?


「でも――本当に良いんですか?」


 ――まだ言ってる。僕は先に貰うからね。

 僕は、自分の皿に新しく来たお魚を取り分けた。


 ふぅ。これで――ひと安心だ。



 そんな中。

 続く言葉は――油断した僕には不意打ちの一言だった。


『良いのよ。私達はもう引退してしまうから』



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