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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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92.報せ

「――すまない。これは私の失態だ」


 私はそう呟き、目を閉じる。



 日が沈む前に次の村まで――


 先を急ぐ気持ちが判断を誤らせたのだろう。

 既に日が傾いているにも関わらず、未だ私は街道を駆けていた。


 あと30分程で次の村に辿り着く。

 見通しの良い街道の先に魔物の群れが現れたのは――そんな時だった。


 然程強力ではない種類の魔物。

 そう判断した私はそのまま馬を駆り、すれ違い様にそれらを打ち払った。

 ――そこまでは良かった。


 だがその最中。

 倒れゆく魔物の爪が――馬の後脚を抉っていたのだ。

 私が気付いた時には馬はその歩みを止めていた。


「不甲斐ない主ですまない」


 悲しげな瞳に映る銀鎧。

 その瞳に私は口を引き結ぶ。

 思えば、騎士となってから6年の付き合いであった。


 ――これ以上は苦しまぬように。

 今の私にできることはそれだけだった。




 次の村までは、まだ幾らかの距離がある。

 それに――辺りには血の匂いが漂っている。

 いつまでも感傷には浸っていられない。


 私はその場を離れ、己の足で街道を進む。


 その村を越えれば、広がるは大草原。

 目的の地は――近い。



 ――――――


「もうすぐ1年かぁ」


 ユニィの呟きが聞こえる。


 1年――当然僕にもわかる。

 この街に来て――運送ギルドに登録してからもうすぐ1年ということ。

 つまり――


「もうすぐ見習い(Fランク)からも卒業――なんだよね」


 そういうことだ。


 そして、鬚じいちゃんとロゼばあちゃんの指導を受けるのも――あと1週間程。

 もちろんその後も個人的に指導を受けることはできるけど――ギルドを介した指導員としての関係はここで一区切りとなる。

 今後は駆け出し(Eランク)ポーターとして、対等な立場で接しなくてはならない。


「師匠ぉー。なんで今日は頭が光っているんですかぁ?」

「お主は何に向かって言うておるんじゃ。お主が撫でているのはランプじゃぞ。――いや、そもそもわしの頭は撫でずとも良い」


 そう。決して()()()になってはならない。

 僕は――僕達は、そう心に刻んだ。



 ――そうして、夕食後の歓談を終える頃だった。


「あれ?」


 ユニィが突然声を上げた。

 ユニィの手元には大きめの紙が握られている。


『どうしたのユニィ?』


「それが――お母さんとソニアにおやすみのメッセージを送ろうとしたら、この手紙が――」


 ユニィの手元の紙を見てみると、確かにいつもの紙片ではなくてきちんとした便箋だ。しかも――


『文字がぎっしりだね』


 そう。決して小さくはない便箋一面に、小さな文字が書きこまれている。

 ユニィは僕の言葉に頷くと、手紙を読み始めた。


 目が大きくなったり口が開いたり、首を横に傾けたり口が開いたり、眉毛の間がぴくぴくしたり口が開いたり――面白い感じで表情が変わっていたけど、伝わってくる感情は――総じて驚きの感情だ。


『何が書いてあるのかしら』


 どうやら、サギリも伝わってきたユニィの感情が気になるみたいだ。


『分からない。分からないけど――悪い話では無いんだと思う』


 だって――ユニィからは驚きの感情は伝わってくるけど、悲しみだとかの負の感情は伝わってこないからね。


 やがて――手紙を最後まで読み終わったのか、手紙から顔を上げたユニィが言葉を発した。


(うち)に――家に帰らなきゃ」


『――え? 何で?』


 何かがあったのは分かっていたけれど、ちょっと唐突だ。

 皆でユニィを落ち着かせて、改めて手紙の内容を確認する。


「この手紙。お母さんからの手紙だったんだけど――」




 ――僕達が聞いたその話は。

 知ってはいたけど、僕達にはまるで関係無いと思っていたはずの話で。

 全く――そう全く。

 現実感なんて無かったんだけど。



 それでも――

 ユニィの持つ手紙に書かれた小さな文字が――所々乱れるその文字が。


 その内容を。

 ――ただ真実だと告げていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] リーフェ、お願いだから、お願いだから焦らさないでくれ。
2022/06/09 10:37 退会済み
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