表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
94/308

91.はなせばわかる

 聖域――


 それは、この中央大陸の更に中央に位置する僅か3km四方の領域のことだ。

 そこに在るのは聖国――あるいは単に聖都と呼ばれる都市国家。長年聖域を守護し、その独立性を守ってきた歴史のある国家だ。


 そう。

 私達「聖域の騎士」は。

 聖国が有する武力の象徴であり――同時に外交官としての顔も持ち合わせている。


 故に。

 特徴的な銀鎧のその威容を。そしてその聖域の騎士の名を以てば――

 町々はその門を開き。歓喜のもとに私を迎え入れる。


 ――はずだった。



「何とも凛々しいお姉さんじゃわい」

「じさまの頭より光っとるのぅ」

「ねぇねぇ「せいいき」ってなぁに?」


 ――歓待ではあるが、予想とは随分異なる反応だ。

 私は人々の頭越しに馬上から周囲を見回す。

 見渡す限りの畑と遠く見える草原。そして畑の中にまばらに建つ家々。


 ――どうやら辺境の村々では。

 この姿も聖域の騎士の名も――さして役には立たないようである。



 ――――――


『ふぅ。今日も疲れたね』


 運送ギルドに向かう道すがら――僕はユニィに声を掛ける。


『何言ってるの。今日は大したことしてないじゃない』


『何だよ。サギリには言ってないだろ。それに――今日も魔物が居ない道を探す時に活躍してただろ』


『いつもやってることは活躍なんて言わないわよ。そもそも、自分で()()とか――ちょっと頭おかしいんじゃないの?』


 ――相変わらずサギリは辛辣だ。

 でも――だからと言って、これ以上僕が反論すると余計に酷いことになる。

 だからユニィに止めてもらいたいんだけど――って、笑って見てないで早くこの宿敵を止めてよ。


 そんな念を送っていると、ギルドに入ったところでユニィが立ち止まった。

 ――いや、止まるべきはそっちじゃなくてサギリなんだけど。


 僕は少し不満に思いながら、ユニィの視線を追う。

 そこには――


『また告知?』


 僕はその告知文を斜め読みする。


 ――ええと。


 大魔が出現したから――警戒しろ?

 大魔との戦いに参加する人――特に『破邪』のユニークスキル持ちは聖国に集まるように?


 ――大魔? 『破邪』? 聖国?


 聞いたことのない単語ばかりだ。

 ユニィに聞いてみたけど、ユニィにも分からないらしい。


 うーん。

 こんな時には鬚じいちゃんに聞いてみようかな。


『ねぇ――』


 そう思って後ろを振り返ると、そこには真剣な顔をして告知文を眺める鬚じいちゃんがいた。

 何だかいつもより目つきが鋭い気がする。


 どうしたんだろう?

 お酒が切れた?

 それともまさか――!?


 僕は告知文とじいちゃんの顔を見比べると――じいちゃんの隣に移動した。


『じいちゃん。大丈夫だよ――』


 僕はじいちゃんの肩に前脚を載せると、溢れ出る悲しさを抑えて語りかける。


『離せば分かるから』


 ――きっと、じいちゃんも小さい文字が見えにくくなったんだね。


 僕は――亡くなった自分のおじいちゃんの事を思い出していた。

 いつもおでこに眼鏡を掛けて、手に持った新聞を目から遠ざけて――


 ――って、あれあれ?

 僕の祖父竜(おじいちゃん)二竜(ふたり)とも生きてるよ?

 この()いったい誰?


 一竜(ひとり)困惑する僕に、鬚じいちゃんが告知文を見ながら言葉を返す。


「大魔に話なぞ通じぬじゃろう。魔物の親玉みたいなものと聞くからのぅ」


 じいちゃんはこちらを振り返りながら言った。

 何だか話がおかしい気がするけど、何故か僕の疑問には答えてくれるようだ。


「まぁ、そういうものはじゃな。――ほれ。そこに書いてあるように、「勇者」とかの戦いが得意な者に任せておけば良いんじゃよ」


 そう言ってじいちゃんが告知文の一文を指さす。


 ――え? 「勇者」って――あの勇者のお兄さん?

 なんで急にあのお兄さんが――って、ああそういうことか。


 僕は考えながら視線をじいちゃんの指さす先に移していた。

 そう。『破邪』の文字に。

 このスキルこそが、勇者のお兄さんが持っていたスキルなんだろう。


 僕はその文字を眺めながら――以前、勇者のお兄さんに助けてもらった時の事を思い出そうとした。





 ――何故かすっかり忘れてた。


 うーん。

 そんなに思い出すのが嫌なことがあったんだっけ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ