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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
93/308

90.何かが起きている

3章最終エピソードです。

少し長めになるかもしれません。

 ――北の地に大魔の兆しあり。


 跪く私達の前で。

 託宣の巫女が朗々とその神詩(うた)を詠う。


 ――人よ。勇なるものを備えよ。

 ――人よ。我が力を(こいねが)うものを備えよ。



 やがて巫女がその場を去り。

 私達は顔を上げる。


 ざわめきは――おこらない。

 皆()()()に備え。幾度となく反芻してきた言葉だからだ。


 故に粛々と。

 「聖域の騎士」として――己の為すべき行動を為していく。


 各国への布告。

 情報の分析。

 人材の公募召喚。


 私は――北西へと馬を走らせる。

 向かう先は――グラシェム王国。

 私の為すべきことを――為すために。



 ――――――


 ―――― 告知 ――――

 魔物による被害が急拡大中。

 当運送ギルドでは護衛雇用を

 依頼受託の必須条件とします。

 ――――――――――――


 運送ギルドの入口。

 休憩を兼ねた打合せの為、ギルドの休憩所を利用しようとしていた私達は――掲示されていたその告知に足を止めた。


 そして――同時に納得した。



 この2、3年で魔物の数が増えたという話は、先輩ポーターからも良く耳にする。

 実際、半年ちょっと前からギルドの方針も変わっているし、私達もその頃から時々魔物に遭遇している。


 だけど――それでも。

 この1ヵ月の魔物の増加状況は()()としか思えなかったから。


 ――依頼の度に魔物と遭遇する。

 ――これまで魔物が出なかった地域に魔物が現れる。

 ――魔物に襲われて――滅びた村が有るとも噂に聞いた。


 私達は『サーチ』の術で魔物の居る方向がわかるから、少ない護衛で対処できるけど――他の多くのポーターは、斥候職を含めた複数の冒険者を護衛として雇う必要がある。

 必然。危険度の上昇で依頼料が高くなったとしても、手元に残る報酬は目減りする。


 それを良しとしない一部のポーターが護衛を雇わずに依頼を受け――その内の幾人かが行方不明となっていた。

 そう。依頼された荷物(信用)と共に。



 何かが――

 そう。何かが確実に起きている。

 今や誰もがその事実に気付いていた。



『ねぇユニィ。そんなこと(告知)より早くおやつ食べよう(休憩しよう)よ』



 前言は撤回。

 リーフェはリーフェだった。


「うん」


 少しだけ――気持ちが軽くなった。



 ――――――


 ひと月たった今も。

 ――その日の事は良く覚えている。




 ――その日も。

 僕は目の前に広がる進化樹を眺めていた。


 ただ、いつもと違ったのは。

 まだ日は高く、微睡むには早すぎる時間だったことだ。


 だけど――それでも。

 一秒でも早く確認したいことがあったから。

 だから僕は。いつもとは違う時間に進化樹を眺めていたんだ。


 前日までとの違いは――すぐに分かった。


 理由は単純。

 前日までは『オリジン』しか存在しなかったはずの6回進化。

 その6回進化が()()()()()()()()()から。


 5回進化『デスゲイザー』からの進化。

 クラス名は『カタストロフ』。

 それが――成長した進化枝の姿だった。


 この時、僕は視界の端に浮かんだ言葉を思い出していた。

 そう確か――『個体名「ステュクス」により進化枝が成長しました』だったはず。

 恐らくこの「ステュクス」というのが、進化した脚竜族の名前なのだろう。


 ――うん。今思い返しても、全く聞いたことのない名前だね。

 当然だけど、その日の僕にも聞き覚えのない名前だった。


 とにかく――この時に僕が感じた事は単純。


 ――()()()()()()()悔しい。


 うん。まぁそうだよね。

 僕より先に6回進化に到達する(ひと)が現れるなんて。

 それはもう、言葉では言い表せないぐらいに――()()()()()()()悔しいよね。


 だから、その日の僕は――あまりにも()()()()()()()悔しかったから――「ステュクス」という名前で『サーチ』してみたんだ。

 すると――何の反応もなかった。


 まぁ、聞いた事のない名前なんだから、今思い返せば当然だよね。

 でも。その時はそれでも気持ちが治まらなくて。

 続けて『カタストロフ』というクラス名を『サーチ』してみたんだ。

 すると――北北東の方向に光の糸が伸びていったんだ。


 まぁ、初めて見るクラスだから――って何で?


 そんな感じで思わず声が出てたんだと思う。

 近くに居たサギリに睨まれたから。


 その時は結局、訳が分からなくて――今まで考えるのを止めてたんだけど。

 そういえば、北の方にはそんな名前の食べ物(ストロなんとか)があった気がするから――もしかしたら誤認識でその食べ物に反応したのかも?

 うんそうだ。きっとそうに違いないよ。



 まぁでも――ね。

 その日の僕にはそこまでは思い付かなかったから。

 進化樹の考察はそこで切り上げて。

 頭を使った分の、空いた小腹を満たすために――少しだけツノうさ狩りに行ったんだ。



 何かが――

 そう。何かが確実に起きている。

 僕はその日――その事実に気付いたんだ。



 そうその日。

 『サーチ』まで使ったのに――ツノうさは1匹も見つからなかった。

 今までそんなこと(ボウズ)は無かったのに――



 そして結局。

 その日以来――ツノうさの姿は見ていない。

 今朝も少し狩りに行ったけど――やっぱり何も捕まえられなかったんだ。



 ――だからね。


 何が言いたいのかというとね。




『ねぇユニィ。そんな告知(こと)より早く休憩しよう(おやつ食べよう)よ』




 もうお腹ペコペコだよ。





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― 新着の感想 ―
[一言] 6回目進化の先を越されたリーフェに、少し同情。
2022/06/05 10:32 退会済み
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