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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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88.指し示す光

 ――ユニィが迂回を選択したこと。

 今になって思えば、それが()()だったと分かる。

 でもこの時の僕には――そんなことは分かるはずがなかったんだ。



 ――――――


『わぁっ! 何これ!? 顔にネバネバするものがくっついたよ!』

『ちょっとリーフェ! 右後ろの車輪に何か絡まってるわよ!』

『あー。それはただの枝だからだいじょ――って何か動いてる!?』

『ぎゃー!』

『きゃー!』


 僕達が選んだ迂回路。

 その道は途中から、木々の間を抜ける細い林道に変わっていた。


 幸い近くに魔物の反応はないし、何とか荷車が通れる道だけど――さっきから木の枝とか葉っぱとかが顔に当たって痛い痛い。

 荷車本体に当たりそうな枝は、土術で強化した剣を使ってお兄さんが斬り払っているけど、僕達に当たる枝までは手が回らないみたい。

 僕も真似して、以前買ったナイフでいくらか細い枝は払っているけど――枝とか葉っぱが多すぎて焼け石に水だ。


『ねぇユニィ! 本当にこの道であってるの!?』


 思わず僕は大声でユニィに尋ねる。

 だけど――返事はない。


 先程から指示も途絶えてるし――大丈夫かな?

 我慢しきれなくなって、少し開けた場所に出た時に一瞬だけ後ろを振り向いたら――ユニィがくるくる地図を回していた。

 ――大丈夫じゃないかもしれない。


 でも、これ以上時間を掛けたくはないから。


『ユニィ!』


 僕はユニィに一声かけると、魔物を対象とした『サーチ』を解除する。

 そしてまた――『サーチ』の術を掛けた。


 ()()()を指す1本の光の糸。

 これなら――ユニィにも分かるはず。


 また一瞬だけ振り返ると、ユニィは左前方――サーチの術が指し示す方向を向いたまま手を止めていた。

 そして――


「――――」


 何か呟く声が聞こえたと同時。

 僕のサーチの術と並ぶように紫の光が伸びていた。


 ――うん。もう大丈夫みたい。


 僕はまた魔物の『サーチ』を再開する。


 これで、少なくとも方向は間違えないよね。

 僕は光の指す方角を――もう一度眺め――


 ――ガサササッ。


『うわっ。またネバネバするのがくっついた!』

『何よそ見してんのよリーフェ!』

『あっ! ネバネバすると思ったら、糸蜘蛛が僕の左肩に乗ってたよ! ほらサギリ!』

『ぎゃー! 何見せてんのよ!』

『きゃー! 痛いよサギリ!』


 ――うん。

 方向確認はユニィに任せて、僕達はこの林道を走ることに専念した方が良さそうだね。



 ――――――


 ――結局。

 僕達がフォリアの町に到着したのは、お昼を大きく超え――おやつを食べる時間頃だった。

 積み荷の魚介類――特に魚は少し痛み始めていたけど、状況が状況だけに報酬が少し減っただけで違約金とかは発生しなかったみたい。

 むしろ、街道の異常を報告したことで褒章が出るようだった。



「今回はどうもありがとうございました」


 ユニィが土術お兄さんに頭を下げる。

 僕達も合わせて頭を下げた。


『ありがとうお兄さん』

『ありがとうございました』


 聞こえないのはわかっているけれど。

 それでも僕達もお礼を言った。

 林道の途中からは、もう魔物は出なさそう――ということで、()()()()で僕達の目の前の草を押し退けてくれていたのだ。

 おかげで、途中からはかなりペースを上げて走ることができた。


 頭を下げる僕達に。

 土術お兄さんは、軽く微笑むと一礼して去っていった。

 多くを語らないその後ろ姿(背中)は――何だかちょっとカッコ良かった。

 ――後で真似してみよう。



 土術お兄さんを見送った後。

 僕はユニィに()()()()()()()()を聞いてみた。


『ねぇユニィ。何でさっきは引き返して迂回したの?』

『そういえばそうね』


 そう。あの時――いつも真面目なユニィなら、依頼の達成を優先するかと思ったのに。

 それなのに――迷うことすらなく迂回を決定してたから。


「うん。――そうだね」


 なぜかユニィの返答は歯切れが悪い。

 その上、悩みの感情が伝わってくる――何で?

 首を傾ける僕に。ユニィが意を決したように続けた。


「今回の依頼の前に――ね」


 一言一言。押し出すように。


「教えてもらったんだ――一番大切なもの。それを見失っては――いけないって。後悔しても。遅い。からって――」


『一番大切なもの? 誰に?』


 僕の疑問に――ユニィは半分だけ答えてくれた。


「――ロゼさんだよ」



本エピソードは次回までです。

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