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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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87.帰路

 ガダッガダッガッ――ダガガッガダッ――


 僕達は可能な限りの早足で街道を走っていた。

 時折荷車の車輪が地面から浮き上がって、大きな音を立てている。


「その凹みは右に躱してすぐ左!次の凹みは――」


『サギリ! 少しだけペース落として! 後は僕が調整するから!』


 僕達のやり取りもかなり慌ただしい。



 僕達がこれほど急いでいる理由。

 それは、積荷に理由がある。


 早くしないと積荷の魚介類がすぐに傷んでしまうこと。

 それも一つの大きな理由だけど――


『まさか、漁船が遅れるなんて――』


 そう。折角眠い目を擦って6時に荷物を受け取りに行ったのに、肝心の漁船が漁から戻って来なかったのだ。


 何でも、港の入口近くに魔物が居座っていて、帰港が遅れたらしい。

 ――ツイてない。


 普通の依頼なら到着時間をずらすだけなんだけど、今回はそうはいかない。

 だから――僕達はフォリアへの道を急いでいるのだ。




『ちょっと待ってユニィ!』


 僕はそう叫ぶと右前脚を上げる。指は3本とも伸ばしたままだ。

 前を向いている僕達の声は、後ろ側には聞こえにくい。これだけ速度が出ていれば尚更だ。

 後方への合図は事前に決めてあるのだ。


「どうしたのリーフェ!? 今は『お腹が空いた』とか言ってる場合じゃないでしょ!」


 ――間違えた。

 僕はすぐに親指を折り、中指と小指の2本のみを伸ばす。

 ――「魔物あり」の合図だ。


 その合図を出した途端、背後の空気が変わった。

 すぐにユニィの指示が出た。


「リーフェ! その先の広い場所で止まって!」



 ――――――


「今辿っている道はこの街道。現在地はこの辺りのはずで――魔物の反応があったのはこの方向」


 広げた地図の前で、ユニィが僕達3()()()に説明している。

 現在地は港町とフォリアの中間。やや港町寄りといったところだ。

 ここから先、街道を1km程進んだ場所に何らかの魔物が10体以上いる。

 僕の『サーチ』で分かるのはそれだけだ。


 ちなみに、鬚じいちゃんとロゼばあちゃんは少し離れたところから僕達の話を聞いている。

 ――今回は僕たちの事を見守る方針らしい。


 それにしても――僕は地図を指し示しながら説明するユニィをまじまじと見る。

 この前まで地図を見たらくるくる回して遊んでいたはずなのに、今ではすっかり地図を読んで把握できている。


 ロゼばあちゃんに教わっているらしいけど――ここまで成長しているとは思わなかったよ。

 少し嬉しく思いながらも。

 ――今は。ユニィの指先に意識を戻す。


「迂回路を通る場合は――ずっと引き返して――この道から南下する必要があります」


 ユニィが指し示した迂回路との分岐は、現在地と港町の中間辺りにあった。

 うーん。流石にここまで戻っていたらお昼までにはフォリアに帰れないよ。


『そのまま進もうよ。普通の魔物なら振り切れるし、今日は土術お兄さんもいるし。それに、最悪でも前みたいにポケットを盾にすれば逃げれるんじゃない?』


 僕の意見にサギリも同調する。


『そうね。リーフェのスキルが役に立つのかはともかく、私の『加速』スキルがあれば振り切れると思うわ』


 ――うん。

 同調――だよね?


「リーフェの意見は魔物を振り切れるから直進。サギリも同じね」


 ユニィが僕たちの意見を復唱する。土術お兄さんに聞かせるためだ。

 土術お兄さんは僕達の意見を聞くと、ユニィの方を向いてはっきりと答えた。


「私は迂回すべきと考えます。護衛として、予め危険だとわかっている場所に向かうことは看過できません」


 ――うーん。意見が割れたね。

 確かに安全面を考えれば、お兄さんの言うことは正しい。

 でも、僕達の依頼を達成するためにはこのまま進む必要がある。

 

 ――進むか戻るか。この場でそれを決めるリーダーはユニィだ。

 僕達はユニィを見る。


 すると、ユニィは迷うことなく即答した。


「引き返して迂回路を進みます」


 ――あれ?

 ユニィだったら、てっきりそのまま進むって言うと思ったんだけど。


 疑問を浮かべる僕を尻目に、ユニィはそのまま鬚じいちゃんに声を掛けた。


「シードルさん――この状況を港町まで伝えて欲しいんです」


「そうじゃの――この道を通る他の者にも伝えねばならぬし、ギルドにも討伐依頼を出してもらわねばならぬ。仕方あるまい」


 そう言うとすぐに、鬚じいちゃんはロゼばあちゃんに鞍を取付けて跨った。

 

「くれぐれも無理はするんじゃないぞ」


 その言葉と同時に、空気の流れを感じる。

 風をその身に纏うと、鬚じいちゃん達は走っていった。


「それじゃあ、私達も行くよ」


 ユニィの声に周囲を見回すと、土術お兄さんもサギリも出発準備を終えている。


『うん』


 こうして。僕達は今来た道を途中まで引き返すことになった。


 積み荷の魚は傷んでしまうかもしれないけど――仕方がない。

 この時の僕は。ただただ漠然と――そんなことを考えていた。



(補足追記)

脚竜族の前脚の指は3本です。

呼称は親指、中指、小指となります。

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