9.固有能力
うーん。
この2週間。
自宅で謹慎していた僕は、能力の検証をしていたんだけど――
うーん。
結論から言うと、能力が発現する兆しが全くない。
謹慎明けの今日は朝から他の人に色々聞いてみたんだけど。
『私はエルダーラプトルだから、固有の能力は無いわ。父竜に聞いてみたら?』
『はっはっは。リーフェスト。考えるんじゃ無い。そうだ、感じるんだ。耳を澄ませばお前にも聞こえてくるだろう? この内なる声が。世界に溢れるその魂のさけ――おい!どこに行くんだリーフェスト――』
『ワシも若い頃は雷帝の再来と呼ばれた身。雷術だけでなく、水術や光術も使えるぞ? ん? ゼノ? 何じゃそれは。ワシには若者言葉は分からん。若者言葉と言えば、ワシの若い頃は――』
『水術と空術なら――』
『畑で寝そべって――』
うーん。
やっぱり参考にならないね。一部論外の人もいたし。
こんな時は、やっぱり年の功かな?
僕は村の長老を訪ねることにした。
『ちょぉーっ! ろぉーっ!』
長老の住処の前で大声で呼び掛ける。
長老はノルアじいちゃんよりも遥かに年上。
耳もものすごーく遠いのだ。多分ユニィの村より遠いんじゃない?
『なんじゃ? ――ん? リーフェストか? どうした? ――おやつか? さてはおやつ狙いじゃな? ――ん? なんじゃ違うのか?』
いや。おやつ狙いなわけないでしょ。何言ってるの長老。
『違うよ! 能力の使い方を聞きにきたの! の・う・りょ・く!』
『ようかん? ほう。渋いのう』
『そうじゃないよ! の・う・りょ・く! だってば。あと、お茶も一緒にお願いね!』
『おーっ。わかったわかった。まぁそんなところに立ったままというのもなんじゃ。早う上がれい』
僕は長老の住処に入る。長老の住処は崖の下の洞穴だ。夏は涼しく、冬は暖かい。ついつい入り浸りたくなる場所だ。決しておやつ狙いではないのだ。
『トメさーん。緑茶じゃ。緑茶が欲しいんじゃと。あと、ついでにようかんも頼む』
『何度言ったら分かるんですか。私はターナですよ。ターナ。トメさんは20年前に亡くなりましたよ。――あら、リーフェストちゃんいらっしゃい』
ターナさんはこの村では数少ない人族――犬型の獣人族で、長老のところのお手伝いさんだ。毎度のことながら苦労してるみたい。因みにだけど、長老ではなく、他の竜と友誼を結んでいる。
トメさん? そっちはよくわからない。
何はともあれ、ようかんとお茶は美味しくいただこう。
ようかんを頬張る僕を見ながら笑顔を浮かべていた長老の顔が、不意に真剣になる。
なんだろう。僕のようかんの方が、2mmぐらい厚かったのに気付いたんだろうか?
これは僕のだよ。
『ところでな、リーフェスト。先程の問い掛けじゃがな』
長老は僕から目を逸らすと、申し訳なさそうな口調で告げる。
『許せリーフェスト。ワシも緑茶には詳しくないんじゃ』
やっぱり聞こえてなかったんだね。知ってたけど。
――――――
『クラス固有の能力の発動の仕方か。なるほどのぅ』
何度も繰り返し説明した甲斐があり、ようやく伝わったようだ。
僕は長老の言葉に耳を傾ける。
『ふむ。まずは我々の特徴でもある、進化。これら進化種毎の固有の能力は特性スキルと呼ばれる。これは知っておるな?』
僕は頷く。ユニークスキルが個人の能力。特性スキルがクラス固有の能力。
この事は父竜や母竜から聞いているし、何なら長老も良く言っている事である。
『特性スキルはの。『キーワード』を念じることで能力に応じた技や術が発動するのじゃよ。例えばほれ。特性スキル「火術」なら「炎熱牙」とか「ファイア」とかの。一般的には、一つの特性スキルに、複数の『キーワード』が存在しておるの』
そうだ。そこまでは僕にも理解できている。ユニークスキルも同じだからだ。例えば、いつも見ている進化樹の表示は「ツリー」が『キーワード』となっている。だけど――
『その『キーワード』はどうやって調べるの?』
例えば、「進化樹」のユニークスキルはもの凄くレアではあるけど、唯一無二というわけではない。だから――
『ふむ。それらは普通であれば、先達より学んだり書物や口伝にて伝えられるものじゃ。半ば伝説となっているものもあるのぅ。まぁ、普通であればの』
そうなのだ。今の悩みはリトルゼノラプトルの能力――特性スキルがわからない事なのだ。
誰も進化したことのないクラス。当然その技や術どころか、それが司る能力すらも不明なのである。
『あるいは――』
でも、長老は僕の顔を見た後、僕の頭の後ろを見るように目線を動かした。
――あるいは?
『自ら感覚的に『キーワード』を掴むものもおるのぅ。まぁ、一種の天才かもしれんがのぅ』
それは無理です。長老。僕にはあんなのは無理です。
僕は視線で訴える。ツノうさぎに睨まれた野ネズミの目だ。
そんな僕の目に答えるように長老は頷き、続ける。
『そうじゃな。こういう場合はな。ちょっと待っておれよ』
そう言った長老の瞳が鈍い銀色に輝く。長老の特性スキル――『積層知識』だ。僕ら子竜達は知恵袋って呼んでるけどね。
瞳の輝きが消えたと同時。その言葉が長老の口から漏れた。
『鑑定――スキルの『鑑定』を持つものであれば、お主の特性スキルの『キーワード』もわかるじゃろう』