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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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85.知らない人

 僕の目の前に――知らない人がいる。


 深呼吸する。

 そして、改めて周囲を見回す。

 もう一度落ち着いて考えよう。


 今僕が立っているのは、運送ギルドの目の前。

 ――うん。問題ない。


 今から使う荷車は裏の広場に止めてある。

 ――うんうん。問題ない。


 出発に向けて立ち並ぶ顔ぶれは、左から順番に――ユニィ、サギリ、ロゼばあちゃん、短髪お兄さん、鬚じいちゃん――

 ――うん。見間違いじゃない。やっぱり何か途中に居る。


 僕は首を傾けて、そのお兄さんを見つめる。

 見つめるけど――それだけじゃ何も分からない。

 ――仕方がないので直接聞いてみることにした。


『誰?』


 返事がない。僕は首の角度を変えて、もう一度問いかける。


『誰?』


 返事がない。僕は首の角度を変えて、もう一度――


「護衛の冒険者じゃよ」


 答えは鬚じいちゃんが教えてくれた。



 僕達が休んでいたこの1週間。

 フォリアの運送ギルドでは、大きな運営方針の変更が行われた――らしい。


 その変更。

 大きくはふたつで――


 ひとつ目は情報集約の強化。

 これまでは個人単位で行っていた情報収集をギルド側で収集。

 そして集約した情報を、依頼に合わせて提示する事になったそうだ。


 そしてふたつ目が――僕は、短髪お兄さんを見る。

 そう。護衛戦力の斡旋だ。

 こちらも、今までは荷主が雇うか、もしくは危険地域に行く場合に個人で雇っていた程度だった。

 それを――先程の情報収集結果とポーターの能力に応じて、ギルド側から護衛の冒険者を斡旋してくれるようになった――らしい。


 いずれも、費用は依頼料の値上げと報酬からの天引きで賄われるそうだ。



 そのままじいちゃんは「切っ掛けはこの前のお主らの――」って話を続けているけど――その辺りは正直どうでも良い。


 とにかく。

 今回の依頼には護衛が一人付いてくるし、それだけ危険な場所への依頼ということ――だよね。


 僕は改めて短髪お兄さんを観察する。

 白い肌。優しそうな目。細い腕。

 全体的に動きやすそうな軽装の、その腰に下げるのはこれまた細身の剣。


 ――何だか弱そう。少し不安になる。

 もっとこう――ラズ兄ちゃんの契約者のお花屋巨人さんとか、以前ユニィの村で見た目線で(ひと)を殺せそうな人とかなら――安心なんだけど。



 僕がお兄さんを観察している間に、鬚じいちゃんの話は終わったようだ。

 改まってお兄さんが自己紹介を始める。


「私はクレイ。ランクはC。土術が少々と剣が使えます」


 ――なるほど。弱そうだと思っていたらスキルが使えるらしい。


 土術といえば、防御や補助に長けたスキルだ。

 だけど、ラズ兄ちゃん(ブラウンラプトル)には申し訳無いけど――正直地味だ。

 どうせなら火術とか、もっとバンバン魔物をなぎ倒せる方が良かったのに。


 ――と思っていたんだけど。


「ほう。土術か。そりゃあ護衛にはこの上ないのぅ。ギルドも良い仕事するのぅ」


 鬚じいちゃんの評価は違うみたいだ。


 まぁ、確かに魔物を倒しに行くわけじゃないけど、僕としてはもっと強そうな方が安心なんだけど。

 僕は同意を求めようとユニィの方を見た。


「ユニィです。まだ見習い(Fランク)ですが、よろしくお願いします」


 もうよろしくした後(手遅れ)だった。



 ――――――


 ガダダダッダダッガダダ――


 荷車は軽快な音を立てながら、北西へと伸びる街道を走っている。

 比較的平坦で直線的な道というのもあるけれど――


「このまま道の左側ね!」


『はーい。ってサギリ速すぎ。少し抑えて』


 ――僕達の連携も、少しだけ様になってきたからだと思う。


 僕達は今。

 フォリアから北西にある、カリ何とかという港町に向かっている。

 1泊2日の行程で、行きは農作物を運んでいるけど、帰りは魚介類を運んで帰るらしい。


 ――そう魚介類だ。

 魚とかエビとかカニとか――考えただけでもよだれが出そうになる。

 今日の夕食が楽しみ――


 ガガダガッガダッガダッガダッ――


「何してるの! リーフェ! もっと左って言ったでしょ!」


『ごめんユニィ!』


 どうやら、考え事に夢中でユニィの指示を聞き逃したようだ。

 左側からも鋭い視線が浴びせられる。


 ちなみにまだ魔物には遭遇してない。

 定期的に掛け直しているサーチの術には、数多くの反応があるけれど――幸い今のところ進行方向には反応がない。

 荷台に乗り込んだ土術お兄さんも周囲を警戒しているけど――やはり近付いてくる魔物は居ないようだ。


 ――正直、少しほっとしている。

 いくら護衛が居るからといっても、この前みたいに魔物と遭遇するのは避けたいからね。



 こうして僕たちは何事もなく走り続け――

 目的の港町に辿り着く。


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