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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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84.シグナル

今回ルビが多いですが、雰囲気だけ感じてルビは読み流しても支障ありません。

『おおリーフェスト。帰ってたのか』


 サギリと二竜(ふたり)でユニィを励ましていたら、背後から父竜(とうさん)の声が聞こえた。

 どうやら狩りから帰ってきたみたいだ。


父竜(とうさん)!』


 僕はユニィのことはサギリに任せて、父竜の元に駆け寄った。

 久しぶりに会えた嬉しさもあるけれど――

 今回の帰省で、必ず父竜に伝えたかった――その言葉を伝えるためだ。


父竜(とうさん)。僕――僕ね。父竜(とうさん)の言ってたことの意味――やっと分かったんだ』


 改まった僕の言葉に。父竜が少し驚いたような――そして同時に。少し嬉しそうな顔をした。


父竜(とうさん)ありがとう。僕にも「内なる声」ちゃんと聞こえたよ。おかげで――ユニィを助けることができたんだ』


 僕は父竜に向かって頭を下げる。

 そして、頭を下げる僕の――その肩に。父竜は前脚を乗せた。


『そうかリーフェスト。父竜(とうさん)は嬉しいぞ』


 顔を上げた僕の目に、笑みを浮かべた父竜の顔が映る。


『ついに――ついにお前にも聞こえたのか。この「内なる声(マッスルボイス)」が』


 ――ん?


『これでお前も――立派な「筋肉仲間(マッスルメイト)」だな!』


 ――あれ?

 何かおかしいぞ。

 僕は首を傾けてみたが、父竜の言葉は止まらない。


『そうと分かれば、村の仲間(マッスルメイト)を呼んで宴会しなきゃな! ちょっと待ってろよ。今すぐ『筋肉交信(テレマッスル)』で――』


 ようやく父竜の言葉が止まったと思ったら――今度は無言で体をピクピクと震わせている。

 ――正直怖い。いろんな意味でとっても怖い。

 僕もビクビク震えてしまいそうだ。



 ――父竜が震え始めてから20秒程。

 すっかり震えが収まった様子の父竜が宣言した。


『よーし。今日は宴会だ! 今日の狩りで手に入れた赤身肉(マッスル)焼肉(肉祭り)をするぞ!』



 えーと。



 ――僕は思考を放棄(欲望を解放)した。


『やったぁ! 焼肉! 焼肉だ!』


 細かいことは、お腹を満たしてから考えればいいや。



 どこからか――冷たい視線が注がれている気がするけど。

 たぶん気のせいだよね。



 ――――――


『ふぅ。食べた食べた』


 一息ついた僕は、膨れたお腹をさすりながら周囲を見回している。

 ユニィと――ついでにサギリを探しているのだ。


『いやぁ。子供が3回進化の上に覚醒(マッスライズ)までするなんて――何て羨ましいんだ。「属性色進化」しか言わないうちの息子にも見習わせてやりたいもんだ』

覚醒者(マッスライザー)たるお前の息子が『パワーラプトル』じゃないと聞いて随分心配していたんだが――杞憂だったな』


 父竜(とうさん)は、向こうで友竜(まっするめいと?)に囲まれている。

 お酒も入っているみたいで上機嫌だけど――時折聞こえる「まっすらいず」ってなんだろう?

 ――まぁ多分。どうでも良いこと(食べられないもの)だとは思うけれど。



 僕はユニィを探して家の外に出た。


 もう夏も盛りは過ぎている。

 夜の草原を抜けてきた涼やかな風は、秋の気配を感じるようで。


 そこに佇むふたりの雰囲気と相まって。僕は何故だか不安になった。


『ふたりとも、ちゃんとお肉食べた(マッスルチャージした)?』


 僕は内心を誤魔化すようにおどけて言った。

 そう。()()()()僕も冗談を言ったりするのだ。

 ――うん。さすがにこの空気には耐えられない。


 サギリがこちらを睨んできた。

 そして――

 ユニィは少しだけ微笑むと――その口を開いた。


「うん。大丈夫だよ。もうお腹いっぱいだよ」


『そう? それなら良いんだけど――』


 ――再び沈黙がその場を支配する。



 次にそんな沈黙を破ったのは――ユニィだった。


「なんだか――ね。サギリのお父さんと話した時のことを思い出したら――ね」


 ユニィから感情が伝わってくる。この感情は――寂しさ?


「――自分がここには居ないような。そんな気がしてきて」


『そんな訳ないでしょ? 私の父竜(ちち)が無口なだけよ』


 サギリがすぐに反論した。

 僕も今回ばかりはサギリに同意見だ。

 ユニィは何を突然言い出してるんだろう。全く。


「でも――」


 言い募るユニィに。

 今度は僕とサギリが同時に否定する。


『でもじゃないよ!』『でもじゃないわよ!』


 ――っ!?


 その言葉を言い終えた瞬間――僕達の間で結ばれた繋がり(リンク)が――鋭い音を発して共鳴する。

 まるで――ユニィの()()を繋ぎ止めるように。


 ――それは一瞬の幻影だったんだと思う。でも――


「私――何言ってるんだろう」


 ユニィが目を丸くして瞬きをしている。

 ――どうやらユニィも正気に戻ったようだ。


『多分――悪い信号(筋肉交信の信号)を拾ったんだよ』


 ――今日は肉祭り。

 ()()()()()()だって十分にあり得る。


 ――そう思うことにした。



 ――――――


「えーっ。もう帰っちゃうの?」


 明日でお休みも終わり。僕達もフォリアの町に帰らなければいけない。


「ソニア。わがまま言わないの。この3日間ずーっと遊んでたじゃない」


 結局。脚竜族の村(レスタ)に居たのは一晩だけだった。

 それ以上居ると、何が起こるか分からなかったからだ。


『ソニアちゃんまたね』

『ソニアまたねー』


 僕達もソニアに別れの挨拶を済ませる。

 アリアさんへの挨拶は既に終わっているから、後は出発するだけだ。


「じゃあね。ソニア」


 僕の背中の上から、ユニィが声を掛ける。

 帰り道は僕がユニィを乗せて帰るのだ。


「うん――おねぇちゃん。――またね」


 ソニアの声を後ろに――僕達は帰途へとついた。



次話から本編。

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