83.帰省
第6エピソード本編の前に2話挟みます。
「あっ! おねぇちゃんだ! それにキュロちゃんも!」
家の前で遊んでいたユニィの妹――ソニアが元気な声で出迎えてくれた。
僕達は今日――ユニィの家に来ていた。
それというのも、昨日の夜に鬚じいちゃんが「休みにするぞ」と突然言い始めて、仕事が1週間お休みになったからだ。
あまりに突然なので、お休みの理由を鬚じいちゃんに聞いたんだけど――「ちとばかし用事ができてのぅ」と言うだけで、理由は教えてくれなかった。
――まぁ、理由は良く分からないけど、お休みはお休み。
折角の長期休暇なので久しぶりに帰省することにしたのだ。
ソニアは駆け寄ってくると、首を横に傾けて目を大きくさせた。
「あれ? キュロちゃんがもうひとりいる!? うーんと――」
そう。今日はサギリも一緒に来ているのだ。
契約もしたんだし、一度は家族とも顔を合わせておかないとねって事らし――
「そっかぁ。キュロちゃんのお嫁さんだね!」
『何言ってるのソニア! そんなわけないでしょ!』
ソニアがとんでもないことを言い始めたので、反射的に否定した。
だけど――
「キュロロッロ――って、合ってるよ――かな? やった!」
『そうじゃないよ! ユニィも笑ってないでちゃんと訂正してよ!』
言葉が通じないって大変だ。
「――そこで私の――ケージの術を――」
――向こうでユニィがソニアに説明している間、サギリが話しかけてきた。
『なんだか面白そうな妹さんね。あんな妹がいたら毎日楽しいでしょうね』
――うーん。そうかなぁ。どっちかというと大変そうだけどなぁ。
僕がそんなことを考えている間に、サギリがソニアを見ながら続けた。
『――ところで、キュロちゃんて何かしら?』
その問い掛けは、あまりに自然だった。
だから考え事をしていた僕は――何の警戒もなく自然に答えてしまっていた。
『もちろん僕のことだよ――痛っ!』
答えたと同時に、尻尾でバシバシ叩かれた。
――何で僕が叩かれなければならないんだろう?
やっぱりサギリは理不尽だ。
そうやって騒いでいると、家の中からユニィの母親――アリアさんが現れた。
「あら。リーフェ君いらっしゃい」
『こんにちはー』
僕は挨拶を返す。
例え僕達の言葉が理解できなくても、挨拶は基本だ。
それに言葉が通じなくても、何を言っているかは大体わかるものなのだ。
「あら。こちらはどなた?」
だから――アリアさんの問いに、サギリが前に出て頭を下げた。
『初めまして。サギリです。よろしくお願いします』
「あらご丁寧にどうも。――ユニィ。こっちに来て!」
アリアさんに呼ばれてユニィがこっちにやって来る。
そして、アリアさんはユニィと二言三言――小声でやりとりした後に続けた。
「そう。サギリさんって言うのね。こちらこそよろしくお願いします。そそっかしい子なんですけど――悪い子じゃないので、よろしくお願いしますね」
アリアさんが頭を下げた。
サギリがまた頭を下げた。
僕もついでに頭を下げてみた。ただ――何となく。
気付くとソニアも頭を下げていた。多分――僕と同じ。
――――――
『それじゃ行ってきます!』
翌朝
今日の目的地は脚竜族の村。
僕も一度自分の家に寄るつもりだけど――メインはサギリの家に行くことだ。
なんでも、ユニィがサギリの家族に挨拶したいらしい。
「今度こそ」って意気込んでいたけど、前に何かあったっけ?
――走ること40分。
丈の高い草むらの向こう、三ツ山の方角に――早くも村が見えてきた。
以前と比べると、随分早く着くようになったと思う。
まぁ僕も成長して速くなったし、今日のユニィはサギリに乗ってるからね。
当たり前と言えば当たり前――かな?
そんなことを考えながら、村の門を抜ける。
『それじゃ、ふたりともまた後でねー』
僕はそのまま、何食わぬ顔でふたりから距離をとった。
――頑張ってね。ふたりとも
だって僕、サギリの父竜はちょっと――いや、かなり苦手なんだ。
――――――
――どうだった?
僕はその言葉をすんでのところで飲み込んだ。
僕の家に来たユニィの、疲れ果てて俯く顔。その顔だけで全てを悟ったのだ。
――いや。いつも通りだったんだろうけど。
何だか、ユニィの横でサギリが申し訳なさそうな顔をしている。
――やっぱりそうだ。
『あの竜も悪い竜じゃないんだよ』
だから――僕はフォローをいれておくことにした。
『ちょっとだけ。ほんのちょーっとだけ無口で強面。ただそれだけなんだ』
10分ぐらい喋ってて一言二言しか返事がないこともあるけど、特に悪気はないんだよ。
頬に傷はあるけど、魔物と戦った勲章なんだよ
目つきが鋭いけど、それは生まれつきなんだよ。
――多分。
僕はそれを一言で表現した。
『だから――気にしちゃ駄目だよ』
ユニィが顔を上げた。
「そう――なの? そうだよ――ね。15分はお互い無言だったから、てっきり嫌われたのかと思ったけど――ただ無口なだけだったんだよね!」
――うん。
いくらなんでも、15分無言は長すぎだと思う。
サギリに視線を送ってみたけど、返ってきたのは首を横に振る動作だけだった。
うーん。
本当、何の挨拶に行ったらそうなるんだろう?




