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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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82.複合術

『ねぇ。あれどうやったのか教えなさいよ』


 いつもの点呼が終わった後――思いきってリーフェに聞いてみた。


 だって魔物に囲まれたあの日。

 うっかリーフェのくせに――少しだけ。少しだけ格好良く見えたんだもの。

 それに――


『えー。やだよ切り札なんだから』


 リーフェから返ってきたのは予想通りの反応。


『そうなのね。リーフェと一緒に食べようと思って持って来たんだけど――それじゃあ()()はユニィと食べようかしら』


 私はタルトの入った布袋を軽く掲げた。


『――と言いたいところだけど、他ならぬサギリの頼みだからね。その代わり――他の()()には秘密にしてよ?』


 ――やっぱり単純ね。

 私は密かに胸を撫で下ろした。



 ――――――


 ――これって聞くだけ無駄だったかも。


 リーフェの話を聞いた私は少し落胆していた。

 その無駄に長い話を要約すると――


『要はロゼおばさまの『スキャニング』と『プロット』みたいに、『サーチ』と『ポケット』の術を組み合わせてみたら――なぜか()()()ということね?』


『うん、そうだよ!』


 リーフェの軽い返事に頭が痛くなる。

 複合術(術の組み合わせ)なんて、そんな簡単に見つけられるものじゃない。

 スキルが数多存在する中で、判明しているその組み合わせは10にも満たないのだ。


 私は改めてリーフェの顔を見る。

 ――タルトを頬張るその顔は、思わずイライラしてしまうほどのニヨニヨ顔だ。


 私は溜め息を吐いた。


 薄々気付いていたけど、リーフェの一家は色々とおかしい。

 目の前のリーフェは言うまでもなく、父親のブランさんは『内なる声が聞こえる』とか言っているし、従兄のラズウェルさんも似たようなことを言っていた。


 ただ走るのが速いだけの私に、そんな彼らと同じことができるとは思えない。

 それに、そもそもの話だけど――世の中にスイフトラプトルの系譜は大勢いるけれど、そのスキルを組み合わせることができた――なんて聞いたことがない。

 ――そう。ただ一竜(ひとり)。三天が一竜『縮地』の早風(ハヤテ)を除いては。


 でも。それでも――いいえ。だからこそ。


『あの術――もう一度見せてよ』


 私はその高みを求めているのだ。


 ――――――


『――ん?』


 視界に入り込む紫色の光。

 こいつは――リーフェのスキルか?


 俺は立ち止まり、周囲を確認した。

 今いる場所はなだらかな丘。視界を遮るものは少ない。


 ――よし。問題ないな。


 見渡す範囲には魔物等の危険生物はいない。

 俺は早速、その光を観察しようと顔を――


 ――俺の目の前に、音もなくその黒い穴は現れた。


 やはりリーフェのスキルだったようだ。

 俺は念のため周りを再度見回すが、当然リーフェがどこかに隠れている様子はない。

 そういえば、この前会った時よりもずいぶん穴が大きい気がするが――

 まぁ、リーフェだからな。大方、また寝惚けている間に何か思い付いたんだろう。


 ――それはともかく。

 これがあいつのスキルなら――

 俺は小石を拾って穴の中に投げ入れる。


 すると――案の定、紙片が落ちてきた。


『てがみいれて』


 ――あぁ。そうだな。


 俺は荷物を下ろすと、手紙の束を取り出し――その前脚()を止めた。


 ――そういや俺がシュトルツを発つ時も、あいつは起きてこなかったな。


 俺も――まだまだ話し足りない事がある。

 幸い今日は天気も良い。

 俺は荷物から紙とインクを取り出した。

 


 ――――――


「黒牙狼に狂乱猪だと?」


 立ち上がった男を儂は窘めた。


「騒ぐんじゃ無いガレオン。反射して眩しいぞ」


 カップを傾けて軽く口を付ける。

 おぉ流石はギルドマスター。酒も良いものを置いておるのぅ。


「すみません。しかし――」


 まぁ、こやつの言いたいことは分かる。

 今回は目撃情報も何もないところに、複数の魔物が現れたのだ。

 しかも、ゴブリン等の低級(DE)ではなく、中級(C)の魔物だ。

 儂が付いていながら、あの子等を危険に晒してしもうたが――

 そもそも、戦う術を持たないポーターであれば、為す術なく命を落としていたであろう。そんな状況だったのだ。


「そうじゃの。ここ最近は魔物がやけに活発化しておる」


 儂は、先日見た特大サイズの水スライムを思い出していた。

 あれも前兆の一つだったのかもしれん。


「暫くは――警戒を促すしかあるまい」


 カップを傾ける。

 ――その味はもう感じない。


次回から第6エピソードです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何か、巻き込まれそうな気配ーーと言いたいところだが、 リーフェのことだから、知らない間に全部終わってた、なんてことになりそう。
2022/05/16 18:53 退会済み
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