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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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80.違和感

「次の左カーブは内側の轍が深いから外側を回って!」


 道の状態を見定めて、ユニィが指示を飛ばす。


『サギリさんは少し前に。ええ。そのまま私の後ろをついて来て――そのあたりで今度はリーフェ君が前に』


 ユニィの指示したルートに合わせて、ロゼばあちゃんが細かい指示を出す。



 恐らくユニィも鬚じいちゃんから指導を受けたのだろう。

 休憩(反省会)後の走行は、驚くほどスムーズなものだった。

 一竜(ひとり)で引く時の半分以下の力で引けているし、速度はさらに速くなった。

 荷車の振動も少なくなったし、何よりサギリとぶつからない。


 これまでは自分で道の状態を判断して、走る方向や速度を調整していたけど――ユニィが道の状況判断を担当することで、()()()に集中できるようになった。

 これなら――


『ねぇロゼばあちゃん。次からは僕が指示を出すよ』


 僕はロゼばあちゃんにそう告げた後、サギリを凝視する。

 すぐにこちらを見たサギリと目が合った。


『――分かったわよ』


 不服そうには見えるが、ロゼばあちゃんの言葉は素直に聞くようなので大丈夫だろう。

 僕はサギリに頷くと前を向いた。



「次の右カーブは轍に沿って進んで」

『はーい。サギリ少し前に出て気持ち右を向いて――轍の真ん中あたりを通ってね』


 ――あれ?

 サギリは僕の指示通り、轍の真ん中辺りを進んでいる。


「速度速いよ。下り坂の前に少し落として」

『はーい。サギリ僕のペースに合わせて』


 ――素直だ。

 サギリは僕の横をぴったりと進んでいる。


「道の真ん中に水たまりがあるから――左側を通って!」

『はーい。サギリ速度少し落として左側に曲がるよ少し左向いて』


 ――サギリが素直だ。


「――ごめん! 左右逆!」

『はー――って、サギリ速度上げて! 僕の方に寄せてきて!』


 ――サギリが何も言わず、僕の指示通り動いている。

 これは――おかしい。


 まさか、何か悪いものでも――食べた?

 言われてみれば、僕もおなかが痛いような気がする。

 そう思って、食べたもの(おやつ)を順番に振り返り始めた時だった。


『ねぇ。私も声を掛けて良いの?』


 口を開いたと思ったら――出てきたのはいつもの憎まれ口ではなく、僕に許可を求める言葉だった。


 いやいや。サギリがそんな許可を求めてくるなんて――


『左に曲がるときは、こちらから声を掛けた方が走りやすいと思うの』


 絶対おかしい。

 まさか――()()が起こる前触れ?

 僕は頷きを返しながらも、身体の底から感じる寒気に――思わず大きく身震いをした。

 


 ――――――


「――が出るなんてそんな情報はなかったんじゃが――今日はツイてないのぅ」


『え? 何が出たの?』


 突然の鬚じいちゃんの呟き。

 始めがよく聞き取れてなくて――思わず聞き返してしまった。


「魔物じゃよ。ほら――向こうの木の陰におるじゃろ」


 鬚じいちゃんの指さした方向を見るが、何かが居るようには見えない。

 仕方が無いので『サーチ』の術で確認してみることにした。


 ――『サーチ』!


 キーワードを念じて、魔物を対象とした『サーチ』の術を発動させる。

 周囲の複数箇所に反応があるが――そのまま範囲を狭めるようにイメージをする。

 すると――右前方に伸びる光が徐々に濃くなっていく。


 光の伸びる先に目を凝らすと――


 ――居た。


 藪の中で全身を見ることはできないが、どうやら狼型の魔物のようだ。


 ――狼型の魔物。

 狼型の魔物は総じて足が速く、僕達脚竜族でも振り切るのが困難な厄介な相手だ。

 しかも今、僕達は積荷を載せて重量の増した荷車を引いている。

 このまま無策で突っ込んでも――追いつかれてしまうのがオチだ。


 僕は顔を半分ほど後ろに向けてユニィを見る。


 ――ねぇ。どうする?


 僕がその言葉を出すより早く、ユニィが言葉を継いだ。


「狼型なら――そのまま真っすぐ進んで良いよ」


 ――え? 真っすぐなの?


 僕の疑問の感情が伝わったのだろう。

 ユニィが補足してきた。


「魔物対策も――教わってるからね」


 ユニィの自信いっぱいの様子に。

 僕の不安は――膨らむばかりだった。


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