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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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77.新入り

再びの閑話的な何かです。


サブタイトル被ってたので修正しました。

『よーし。みんな整列だ』


 いつもと同じく早朝から響く声。

 そこに変化があったのは、つい先日のことだ。


『イチ!』

『ニッ!』

『サンよ!』

『ヨン!』

『ゴ!』

『ロクゥッ!』

『ななっ!』


 僕は新入り(7番)を横目で睨む。

 新入りは前を向いたまま。澄ました顔のままだ。

 だけどその横顔が。その態度が。僕の中のモヤモヤとした何かをかき混ぜ――浮かび上がらせるように感じる。


『よーし。今日はここまでだ』


 心なしか柔らかい『隊長』の声を聞きながら――僕は、先日のやり取りを思い出していた。



 ――――――


『――何でサギリがここにいるんだよ』


 朝目覚めて。

 『脚竜会』の集合場所(いつもの場所)に行ったらサギリが居た。


 いや、先日この町に越してきたサギリが竜舎(ここ)にいることは不思議ではない。

 僕が言っているのは、なぜ()()()()にサギリがいるのかということだ。


『あら? 私がどこに居たって良いじゃない』


 澄ました顔で返すサギリに、僕は少しだけむっとして続ける。


『でも、()()女竜(おんなのひと)は厳禁なはずだよ? 『隊長』が厳しいからね』


 そんな僕の言葉に、澄ました顔のままでサギリが答えた。


『あら? 『隊長』さんの許可は出てるわよ?』


 ――え?

 僕は思わず固まってしまう。

 なぜそんなことに――


 実は女竜厳禁は僕達(会員)の思い過ごしだった? ――いや。それはない。実例もある。

 サギリが2回進化してるから特別扱い? ――いや。それだけなら他にも何竜(なんにん)か居る。理由にはならない。

 まさか――サギリは男竜(おとこのひと)扱い? ――

 うーん。確かに女竜のような気がしないけど――見た目からはそうだと分からないだろう。多分。


 ――いくら考えても答えは出ない。

 諦めた僕が前を向いた時――女竜(おんなのひと)に前脚を振る『隊長』が見えた。


 ――うん。原色効果(この前のアレ)だね。


 色々と察した。



 ――――――


 僕は首を振って、その記憶を振り払った。


 朝の点呼が終わったら、次はユニィと一緒に依頼のチェックだ。

 より良い条件の依頼はすぐに無くなってしまう。

 僕()は足早に運送ギルドへと向かった。



 鬚じいちゃんの腰は大分良くなったけど、まだ一緒に仕事ができるレベルではないらしい。

 だから、空術お姉さんと近距離の仕事をしてるんだけど――


『ねえ。またなの?』


 僕は自分の背中の上を見た後、()()()()乗ったユニィを見る。


「仕方ないでしょ。リーフェの方が力があるんだから」


『それはそうだけど――』


 サギリが来てから、僕は専ら荷物持ち。

 重い物を運ぶのは嫌いじゃない。いや、むしろ好きなんだけど――


 サギリとユニィに交互に視線を送る。


 ――うーん。やっぱり何だかモヤモヤする。



 ――――――


『リーフェ。もう少し本気を出してよ。これじゃ練習にならないでしょ!』


『えー。十分本気だよ』


 今日もサギリは絶好調だ。

 でも進化前ならともかく――


『流石に平地で『スイフトラプトル』に勝てるわけないだろ』


 そう。サギリが進化したのは『スイフトラプトル』。素早さ特化のクラスだ。

 当然走る速度は速い。とにかく速い。ものすごーく速い。

 因みに、会員番号1番『影無』の――『影無』の――『影無』さんと同じクラスだったりする。


『そこを何とかするのがリーフェでしょ?』


 言葉だけ聞けば、信頼しているようにも聞こえるその言葉だけど――

 僕には分かる。

 これはいつものサギリ節(無茶振り)だ。


『――それじゃあ、もっと障害物の多い場所で走ろうよ。山道とか林の中とか』


 こういう時は、相手の土俵で勝負してはダメだ。

 直線での最高速が生かせない場所。そういう場所で勝負するのだ。



 ――フォリアの町の裏路地で勝負した。


 後で猫お姉さんに呼び出されてめっちゃ怒られた。

 もちろん反省した。


 だけど、ちょっとだけモヤモヤが晴れてスッキリした。

 やっぱり――走ることは良いことだ。



 ――――――


「それじゃあこれが今週のお小遣いね」


 サギリがユニィからお小遣いを貰っている。

 もちろんだけど、既に前借りしている僕にはそんなものはない。


 ちょっと寂しい。そして――何だかモヤモヤが増したような気がする。


『ねぇリーフェ。この前の反省会をしましょ』


 サギリが声を掛けてきた。


 ――いやいや。今そんな気分じゃ無いんだけど。それに何だか顔が真顔で怖いし――


『――おやつは奢るから』


 ――僕は深く。深ーく頷いた。




 おやつを食べたら、何だか頭がスッキリした。

 そして――僕はその事実を再認識した。


 「甘いものは何よりも偉大だ」というその事実を。


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