76.約束
結局のところ。
私達がシュトルツを発ったのは3日後の事だった。
サギリは一度自分の村に。
リーフェの友達は一足先にフォリアの町に帰っている。
だから今はふたりだけ。ふたりだけの帰り道なんだけど――
――私はリーフェの後頭部を見つめる。
『何かあったの? ユニィ』
見つめる私の視線を感じたのか、それとも感情を読み取ったのか。
リーフェが振り返り私を見る。
「えーと。ううん、何でもない。それより走っている時はよそ見しないでね」
『はい』
――うーん。
何だかやっぱり、リーフェの様子がおかしい。
いつもより少しだけ言葉遣いが丁寧だし、雰囲気が少し違う。
それに何だかぼーっとしている事が多い気がする。
確かに、リーフェが出掛けてからのこの5日間で、色々なことがあったから――
いつもお気楽に見えるリーフェにも、何か心境の変化があったのかもしれない。
幸い、フォリアの町に着くまでにはまだ時間がある。
私はリーフェの様子がおかしくなった原因を考えてみることにした。
まずは――
一番大きい変化は、リーフェも進化していたこと。
模様も少し変わって、私の目の前――背中側にもラインが入っている。
種族は『ゼノラプトル』だそうだ。
リーフェは『元の路線に戻ったよ』って喜んでたけど、私としては『ぴょん』の方が可愛くて好きだったな。
でも――これが原因だったら、どちらかというとはしゃぐ方向だから、今の様子とは合わないよね。
うん。却下。
次は――やっぱり私とサギリが契約したこと?
たまたま、二重契約を成立させることができたから、リーフェとの契約は解消されなかったけど――
ま・さ・か――私がサギリと仲良くなってたから、私にサギリを取られると思ったとか? きゃー。
――うん。ないね。
残念だけどないね。
頑張れサギリ。
そもそも――万が一『あり』だったとしても、話し方が丁寧になる理由がわかんない。
これも却下。
後は――
やっぱり今回の事を反省してる?
病気になっちゃったのは仕方ないけど――その前は私達が心配になって探しに来るぐらい遊び歩いてたんだし。
――うーん。
これなら反省して、口調が丁寧になるかもしれないけど――そもそも倒れる前は反省してなかったよね。
ちょっと違う気がする。
でも、反省してるってのは当たってるのかも。
他に反省する理由は思い当たらないけど――本竜が反省してるのなら、わざわざ掘り返す必要はない――よね?
『見えてきたよ。ユニィ』
リーフェが掛けてくれた声に辺りを見回す。
いつの間にかフォリアの町の近くまで戻ってたみたい。
私は一度首を振り、答えの出ない疑問を振り払った。
「早く帰って、みんなに元気な姿を見せないとね!」
リーフェの背中を軽く叩いた。
――――――
――もの凄く嫌な予感がしていたんだ。
フォリアの街についてすぐ。
僕は薬師ギルドに向かった。
採取してきた深山芋の葉っぱを買い取ってもらうためだ。
薬師ギルドでは素材買取はしてなかったけれど、受付の赤髪お姉さんが紹介してくれた薬師さんに買い取ってもらうことができた。
葉っぱは採取から時間が経って萎びていたけれども、それでも1枚当たり銅貨1枚で買い取ってもらえた。
300枚以上あったので、銀貨3枚超。三竜で分けると銀貨1枚と少し。お小遣いとしてはそこそこだ。
これだけあれば――
僕は少し気分が上向いていた。
――今日はお買い物して帰ろう。
――予感にはそれをもたらす要因がある。
運送ギルドに帰って来た時。
薬師ギルドに向かう時。
雑貨屋の店内で。
――僕は目にしていたはずだった。
でも、この時は。
他の事で頭がいっぱいだったんだ。
『ねぇユニィ』
僕は運送ギルドにいたユニィに話しかけた。
「どうしたのリーフェ?」
『ごめんねユニィ。これお詫びだよ』
僕はユニィに包み紙を渡して包みを開けるように促した。
ユニィが包みの中を覗き込む。
「えーと。これ――スイートポテト?」
ユニィは首を傾けている。
そんなユニィに僕は頷く。
『うん。約束の――深山芋の代わりだよ。本当はシュトルツで何か探そうと思ってたんだけど』
ユニィから驚きの感情が伝わってくる。
『一緒に食べる約束だったでしょ?』
あの時伝わってきた、寂しいという感情がずっと気になってたんだ。
だけど深山芋は見つからないし、シュトルツではお土産を買う雰囲気じゃなかったから。
だから――ね。
「――うん」
頷くユニィと、ふたりでスイートポテトを堪能する。
ユニィから伝わってきた感情は――紛れもなく喜びの感情だった。
「そういえば――他のみんなとは一緒に食べないの?」
――あっ。
『みんなとはくいだおれしたから大丈夫だよ』
ちょっとだけ誤魔化しておいた。
――――――
――え? 何で何で?
朝の点呼に向かった僕は――周りの状況に唖然としていた。
見渡す限りの赤・黄・赤・黄・赤・黄。
目がチカチカする。
男竜達がほぼ全員、赤や黄色の布を体に巻き付けているのだ。
――先を越された!
きっと誰かが、僕と原色おじさんの会話を盗み聞きしてたんだ!
そういえば――条件反射的に視界に入れないようにしていたけど、昨日からチラチラと視界の端には赤と黄色が見えていた。
それに昨日雑貨屋で赤と黄色の布を買った時、その2種類だけ減っていたのが気にはなっていたのだ。
だけど、ここまで――
絶句する僕に後ろから声が掛かった。
『おい! 新入りぃ!』
隊長が僕を呼ぶ声だ。
そうだ。固まっている場合じゃない。今は点呼の時間だ。
「はいっ!」
僕は振り向いた。
一竜を除き、みんな原色だった。
次のエピソードは短めの予定です。




