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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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75.封を開く

「ねぇサギリ」


 私はサギリに声を掛ける。

 自らの変化に戸惑っていた様子のサギリがこちらを見た。


「もう行かなくちゃ」


 それだけで。その短い言葉だけで。

 私の意思が――その先が伝わる。



 私達はすぐに診療所を出た。

 ――そこには二竜(ふたり)の脚竜族がいた。


『なあ、リーフェストが倒れたって本当か?』

『私達でできることはありませんか?』


「――私達これから薬を取りに行くので、リーフェのことを看ていて下さい」


 私は短く告げると、返事を待たずに門へと走った。



 ――――――


『本気を出すけど――大丈夫よね』


 サギリの言葉に頷くと、私は背中に乗る。

 鞍は診療所に置いてきた。多分、その方が安定するから。


 目的地はフォリアの町。

 来た道をたどる形になる。

 来るときは半日近く掛けた道だけど――今なら。


「行こう」


 私の声に従って、サギリが走り出す。


 ――速い。


 契約の影響で風の抵抗や加速感は感じにくいけれど、視界の中の景色が――その流れる速さが。私達の速さを現している。

 リーフェの走る速度もとっても速いって思ってたけど――今はその速度を超えても加速が止まらない。


 走り出してわずか数分。

 既に曲がりくねる山道を抜け、道は直線へと変わり始めている。


 道が直線になるにつれて、速度はさらに速くなる。

 途中で来る時にすれ違った人達に追い付き。追い抜いていく。



 結局、私達がフォリアの町に到達するまでには、1時間程度しか掛からなかった。


 ギルドに到着した私は、借りている自分の部屋に駆け込んだ。


 確か――


 私はベッド脇に置いていた皮袋を開くと、中身をベッドの上に出していく。


 雑貨屋で買った予備の食器類。

 手拭い代わりに使うための端切れ達。

 日持ちのする保存食。

 そして――蝋で封をされた小さな陶器の瓶。


 私はその瓶を掴んで端切れで(くる)み、階下へと駆け下りた。


「見つけたよ!」


 私は包んだ瓶をポーチに入れると、サギリに声を掛けて背中に乗る。

 周囲の視線を感じるけど――今は説明している時間は無い。


「あの――ユニィさん?」


 受付のリュノさんが声を掛けてくる。

 でも――


「後で話しますから」


 ――今は。


『良いの?』


「うん。行こう」


 私達はそのままギルドを飛び出した。



 ――――――


 薄暮の空の下。

 私達はシュトルツに走る。


 時間が経つ程に――辺りは薄暗くなる。

 脚元が陰り、自然と速度が落ちてくる。


 このままじゃ――

 私は焦り始めていた。


 簡易的な灯火(トーチ)ならポーチに入っている。

 だけどその灯火では近くしか照らせない。


 今欲しいのは遠くまで明るく照らせる灯り。

 速度を保つためには、進む先の道を照らせる灯りが必要だった。


 ――リーフェならこんな時どうするんだろう。

 こんな時のリーフェは、いつも意外な解決策を提示してくれていたのだ。


 リーフェなら――

 リーフェなら――そうか! 


 私は『サーチ』の術を起動した。

 対象は()()()()


「サギリ。()()()なら見える?」


 範囲を拡大すれば、シュトルツにいるリーフェに向かってうっすらとした光の線が伸びていく。

 私には見えにくいけど、サギリになら――


『ええ。ずいぶんマシになったわ』


 僅かだけど、安堵の感情が伝わってくる。


 少しだけ走る速度を落としながらも、そのまま走り続ける。


 ――結局シュトルツに着いたのは、フォリアを出てから1時間半後だった。



 診療所に着いた私達は、直ぐに薬師さんの元に向かった。

 リーフェの容態も気になるけど――今は薬の方が大事だから。


「あのっ! この薬を使って下さい!」


 いきなりの私の言葉に、薬師さんが虚を突かれた顔をする。

 でもそこは、流石というべきかな?

 すぐに我に返って、私の手に持つ薬の瓶を受け取って眺める。


「これは――っ!? 一体どこでこれを――いえ。まずは患者に処方しましょう」


 そう言うと、薬師さんは早足でリーフェの元へと向かう。

 私達が追い付いた時には、既に蝋で固められた瓶の封を開け、リーフェに飲ませるところだった。

 その横では二竜(ふたり)の脚竜族が、リーフェの様子を見守っている。


「お願い――」


『リーフェ――これで治らないなんて、承知しないんだから』


 私達も祈るような目でリーフェを見つめる。

 そんな私達に、薬師さんは優しく語り掛けた。


「薬が効き始めるまでには少し時間がかかりますが――もうこれで大丈夫でしょう」


 長かったユニィメインのエピソードも次回で終わりです。

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