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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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72.いつか見た顔

ユニィ視点に戻ります。

 街道を駆け抜ける。


 時に地図を見ながら。

 時に『サーチ』の術を使いながら。


 本当は、光の糸を真っすぐ辿って――今すぐにでもリーフェの所に行きたい。

 だけど――サギリさんの言う通り、このまま行っても危険なだけだから。


 私達は今。街道を通って山間の町――シュトルツの町に向かっている。


 リーフェがどこまで遠くに行ったかは分からないけれど――流石に山岳地帯よりも先に行ったとは思えない。

 この町は山岳地帯の中心だし、地図に引いた直線からも極近い位置にある。

 だから、山岳捜索の起点にするには好都合――というわけなのだ。




 ――それにしても。

 私は視線を下に向ける。


 あの時は思わず「大丈夫」だなんて言ってしまったけど――契約者(パートナー)以外の騎竜に乗るということがこんなに大変だったなんて。


 鞍の持ち手を掴む手には、もう感覚がない。

 体を安定させるために踏ん張っている足が痛みを訴えているのも、もうずいぶんと前からだ。

 そして――サギリさんが1歩を踏み出す毎に伝わる振動。

 その振動は私の体を支える膝に。上半身を支える腰に。頭を支える首に――疲労を蓄積させている。


 でも――弱音は吐けないよね。


 これでも、サギリさんは私の負担が少なくなるように気を使ってくれている。

 サギリさんもリーフェのことが心配なはずだけど、私に合わせて――逸る気持ちを抑えて、()()()()と走ってくれているのだ。


 私は、自分の体に嘘を吐く。


 まだ大丈夫。まだ大丈夫。

 繰り返し。繰り返し。



 ふと目を上げると、道の両脇が斜面に変わっていた。

 進むにつれて斜面は崖となり、道は蛇行を始める。

 ――聞こえる水音に目をやると、道の脇には川が流れていた。


 周囲の景色の明らかな変化。

 そう。ついに山岳地帯に入ったのだ。


 ――シュトルツまであと少し。



 ――それにしても、何故だろう? 何かあったのかな?


 私は周囲を見て首を傾げる。

 山岳地帯に差し掛かってから、いやに反対方向に向かう人や馬車、竜車が多いのだ。

 それらを躱しながら進むことも、体への負担になっている。


 少し気になる――けど。

 今の私にはそれを確かめている余裕はない。


 まずはシュトルツの町まで辿り着くこと。

 ――そこから先は辿り着いてから。



 そうして山岳地帯に入って30分ほど経ったところで。

 急に――私達の視界が広がった。


 目の前に――所々が緑色となった、石の壁が現れる。


 山間の町シュトルツだ。



 私は周囲の山々を見回す。


 ――待っててねリーフェ。もうすぐだから。



 ――――――


「残念だけど「銀冠祭」は終わってしまったよ」


 反対方向に向かう人たちが多かった理由は、シュトルツの門ですぐに分かった。

 親切な門番さんが祭りの終わりを教えてくれたのだ。


 手続きを終えて門を潜ると、その言葉の通りあちらこちらに解体中の屋台が見える。

 どうも道の両脇に屋台が並んでいたようだ。

 私達は作業の邪魔にならないように道の中央を歩くことにした。


 目指すは冒険者ギルド。

 何をおいても、山に入るための護衛を雇わなければならないもの。


 私はそっと財布代わりの皮袋の口を広げ、中身を確認する。

 シードルさんに返すために貯めたお金は、まだ銀貨十枚と少ししかない。


 これを全て使っても、一人一日雇えるかな――

 少し不安に思い始めたその時だった。


「お前――ネザレ湿原の騎竜っ子じゃねぇか!」


 突然後ろから掛けられた声。

 私はすぐに振り向いた。


「あっ――」


 そこには見覚えのある――黒髪の少年がいた。

 確か――1年程前にネザレ湿原で出会った、三人組の冒険者の内の一人だよね。


「お。騎竜のほうも元気そうだな――大きくなって雰囲気が変わったか? それに手触りも柔らかくなってるな」


 少年はサギリさんの背中を、軽く叩いたり撫でたりしている。

 ――何だか無言のサギリさんが怖い。ヤバい。

 私は慌てて話題を変えることにした。


「あの――私達、冒険者ギルドに行きたいんですが――案内してもらえますか?」


 本当は、既に門番の人から場所を教えてもらっているけれど。


「ああいいぜ。ちょうど俺の仕事は片付いたからな」


 少年が頷いてサギリさんの背中から手を放す。

 サギリさんの目が少しだけ――少しだけ穏やかになる。

 私は胸をなでおろした。


「だけどよ――今は殆どの奴が、祭りの後片付けで出払ってるはずだぞ」


 私は続けられた少年の言葉に驚く。


「そんな――それじゃ護衛が雇えない――」


「――何だ。護衛を雇いたいのか? 行く場所によるけど、それなら俺が行ってもいいぞ」


 私は少年の顔を見た。


 その顔は、記憶に残るあの日のものよりも。

 ――少しだけ大人びて見えた。



 ――――――


「おおアールじゃねぇか。もう仕事は終わったのか?」


 冒険者ギルドに到着すると、受付のお兄さんが黒髪の少年に声を掛ける。

 そう。この少年はアールという名前だった。


「ああ。それで、こいつらの護衛をすることになったんで、手続き頼むわ」


「――えっ?」


 あまりにもの雑な物言いに、思わず驚きの声を出してしまった。


 ――だけど。

 彼らにとっては、どうやらいつものやり取りだったらしい。


「お前なぁ――まぁいいや。お嬢さん申し訳ないけど、この依頼書に必要事項を記入して――」



 こうして、私達は黒髪の少年――アールを護衛として雇うことにした。




「それじゃあいくよ」


 リーフェの居場所を再度確認するために。

 冒険者ギルドを出たところで、早速私は『サーチ』の術を使った。


「『サーチ』!」


 術が発動し、東の方向に薄い紫の光が伸びる――だけど。


「あれ?」


 私はその違和感に。その意味するところに。

 思わず声を上げていた。



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