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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
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71.曖昧な気持ち

今回はサギリ視点です。

『そんなの放っておけば帰ってくるわよ』


 ユニィちゃんには悪いけれど、それが私の率直な感想。


 リーフェはいつだってそう。

 突然進化して帰ってきた日もそうだったじゃない。


 それなのにこの子は――


「リーフェが。リーフェが危ないかもしれないんです」


 今にも涙が零れそうな目で私に訴えてくる。

 さすがにこの顔をみたら――人族の感情に疎い私にも、この子が不安に囚われているのが分かる。

 そして、それだけリーフェの事を大切に思っていることも。


「私を。私をリーフェのところまで乗せていって貰えませんか?」


 だから――


『私達契約者(パートナー)でもないのに、どうやって乗るつもりなのかしら』


 そんな曖昧な答えを返してしまったのかも。

 いつもなら『そんな危ないところに行く訳ないでしょ』って、言ってたはずなのに。



 ――――――


 ――結局。

 私にはユニィちゃんのお願いを断ることはできなかった。

 だって――こんなに必死なんだもの。

 単なる杞憂で終わったって――良いじゃない。



 そして今。

 私達は1軒の民家の前に立っている。


「少し待っていて下さい」


 ユニィちゃんがそう言って、その家の扉を3度叩いた。

 そして――


「ロゼさーん! お願いがあるんです!」


 ()()()()()家の中に声を掛けていた。

 ――これって、扉を叩いた意味あるのかしら。


 そんな私の疑問をよそに、家の中から一竜(ひとり)の脚竜族が現れた。

 老いてなお美しいという言葉がぴったりの老婦竜(おばあさま)だ。

 右前脚の小指を見ると契りの印が見える――既婚者ね。

 そして尻尾のこの模様は――『トラベラー』? ちょっと違うかも。


 私がそんなことを考えている間に、ふたりの話は終わったみたい。


『こちらの方は?』


 老婦竜がこちらに向き直る。

 私は姿勢を正して頭を下げる。


『サギリと申します。――リーフェストの友竜(ゆうじん)です』


『あら。貴女が――ええ。私はロゼ。ユニィちゃんとリーフェ君の指導員をしているの』


 老婦竜――ロゼさんが微笑みながら答える。


「あの――それよりも――」


『ええそうね――少し待っててね』


 ユニィちゃんが促すとロゼさんは家の中に入り――そして何かを持って現れた。

 あれは――鞍?


「これで――大丈夫ですね」


 それを見たユニィちゃんは少し気持ちが落ち着いたみたいだけど――

 私は念の為。

 そう、念の為確認した。


『貴女、騎竜に限らず馬とかでも良いのだけど――何かに騎乗する技術を持っているのかしら?』


「リーフェ以外に乗ったことはないですけど――多分大丈夫です。それよりも早く行きましょう」


 ――もやもやを通り越してちょっと頭痛がする。

 絶対大丈夫じゃないでしょ。



 ユニィちゃんと少しだけ――ほんの少しだけ、話し合った結果。

 私はとりあえず、この鞍を装着してみることにした。

 だって、何事も試してみなければ分からないから。


 ロゼさんに教わりながら、鞍を背負いベルトを締める。


 ――あら。

 思った以上に体にしっかりと固定されて――ずれる心配はなさそうね。


 後は――実際にこの子が乗れるかどうかかしら。

 私はその場で姿勢を低くした。


『試したいことがあるから乗ってみて』


 ユニィちゃんはその言葉に頷くと、私の背に乗り、鞍の前方の持ち手を掴んだ。


『行くわよ?』


「はい」


 ユニィちゃんの返事を確認して、私は周囲を軽く走ってみた。


「――な、何とか大丈夫です」


 ――あら。意外といけるじゃない。


 それじゃ――これはどうかしら?

 私はもう1段階加速した。


「えっ。あ。ちょっと。ちょっと待って下さい!」


 すぐに背中から慌てた声が届いた。

 私は速度を緩める。


 どうやら、平地を軽く――3割程度の力で流すぐらいが限界みたい。



 それにしても――

 ユニィちゃんは、山の中のリーフェのところまで一直線って言ってるけど。


 この調子だと、山の中は歩いて探索するしかないわよね。

 だとすると――魔物対策が必要になるから、近くの町に立ち寄って戦える人を雇った方が良いんじゃないかしら?


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― 新着の感想 ―
[一言] 杞憂でもいいじゃないって、すげーいい女なセリフですね。好き。
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