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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第三章 若葉
73/308

70.焦燥

「あー大丈夫。大丈夫。あいつなら放っておけば帰ってくるよ」


「たまには連休を取るのも悪くない。むしろ静かな方が読書が捗る」


 リーフェと一緒に出掛けた友竜(ゆうじん)契約者(パートナー)に相談してみたんだけれど――まともに取り合ってくれない。

 それじゃあと思って――ギルドの受付に居た()()()()()()に聞いてみたけど。


「無理だな」


 ――って、一蹴されちゃった。


 ――私の時は助けに来てくれたのに何故?

 いつまでも見つめる私の目を見て。

 マスターさんが口を開いた。


「深い山の中。どこにいるかも分からない脚竜族を探すのは――不可能に近い。そんなところに人員を派遣することはできないんだよ」


「でも――『サーチ』があれば――」


「ああ。確かに嬢ちゃん達の術は知っている。だが、その術も万能ではないんだろう? 騎竜に乗っていないない嬢ちゃんを連れていくのは、現実的ではないんだ」


 私には俯くことしかできなかった。


 マスターさんの言う通りだ。この術は対象の位置を直線で示す。

 だから――起伏のある山の中では、光が地中を通過してしまい軌跡を追うことが困難なのだ。

 ――私が先頭を進まない限り。


「――なに。脚竜族は気まぐれだ。待っていれば帰ってくるさ」


 そう。そうだよね――

 皆の言う通り、待ってれば帰ってくるかもしれないよね。

 でも――


 ――『サーチ』。


 私はリーフェのことを思い浮かべながら――

 そのキーワードを強く念じる。


 体の中心を。膝裏を。額の表面を。右手を左手を左足を右足を。

 冷たい感触が巡る。巡る。


 感覚が澄み渡る。

 近くにはリーフェはいない。

 私はさらに集中する。


 もっと。

 もっと。

 広く。広く。

 そして――()()を感じたと同時。


「やっぱり」


 思わず声が漏れる。


 かすかに見える紫色の光。

 その指し示す場所は――昨日の方角から動いていない。


 ――脚竜族なら。リーフェなら。

 そんなに長い時間じっとしていられる訳がない。

 もしかして――


「あれ? どうしたのユニィちゃん?」


 目を細めていた私に、後ろから声が掛けられた。

 この声は――ジョディさんだ。


「リーフェが――リーフェが――」


 私はジョディさんに状況を説明する。

 だけど――


「ユニィちゃんの心配する気持ちは分かるけど――でもね。今の状況じゃまだ動くことは出来ないの」


 ――他の人達と同じだった。


 そのまま受付へと向かったジョディさんの――背中を眺めながら考える。


 でも――手遅れになったらどうするの? ううん。もう手遅れかもしれない。


 理由のわからない不安が。焦燥感が。

 何もしない。何も出来ない。そんな私を縛り付けようとする。


 ――私は地図を広げた。

 ロゼさんに昨日教えてもらったことを思い返す。

 えーと――『運送ギルドの壁は、必ず正確に東西南北を向いて建てている』だったよね。


 私は慎重に――地図の向きをギルドの壁と平行に合わせる。

 そして――かすかに見える光に合わせて線を引く。


 この線の先。どこかにリーフェが居るはず。

 私は線を引いた地図を確認した。


 ――少しだけ驚く。

 その線上には知っている地名が記されていた。


「ネザレ湿原」


 思わずその名を呟く。


 そして――以前カロンさんに聞いた話を思い出した。

 確か――ネザレ湿原には大量の魔物が居たって――


 呼吸が速く浅くなる。手が足が震える。

 最悪の結末が足音をたてて。背後から近づいてくる。真後ろに立つ。

 そんな気がする。そんな――幻聴が聞こえる。


『ねぇ』


「きゃあっ!」


 突然掛けられた声に思わず飛び上がってしまう。

 慌てて振り向くと、そこには目を細めたサギリさんがいた。


『リーフェはまだ帰ってきてない――みたいね。いつまで待たせるつもりなのかしら』


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― 新着の感想 ―
[一言] 白王さん、ありがとうございます。
2022/04/20 13:06 退会済み
管理
[一言] 小説を書こうと思っているのですが、前に3回ほどチャレンジして失敗してしまいました。 本を書く上で白王さんが大切にしていることや気をつけていること、コツなどを教えいただけないでしょうか。(難し…
2022/04/19 22:20 退会済み
管理
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