69.空を見上げる
3章折り返しの第4エピソードです。
ユニィ視点で進みます。
『それじゃ夕ご飯は楽しみに待っててね』
いつも通りのリーフェ。
だけど私は――そんなリーフェに思わず口を出してしまう。
「本当に大丈夫? 忘れ物無い?」
『大丈夫だよユニィ。おやつも持ったし、ナイフも持ったし。地図も持ったし、おやつも持ったし――』
リーフェが皮袋の中の持ち物を順番に挙げていく。
『――あっ!』
何か忘れ物があったらしい。
慌てて竜舎の方に走っていく。
ああ。ものすごく。
ものすごーく不安になる。
そのまま眺めていると、2分と経たずに戻ってきた。
『あぶないあぶない。お昼ご飯後のおやつを忘れるところだったよー』
――心配して損しちゃったかも。
今日は安息日。
リーフェが深山芋を採取しに行く日だ。
正直にいうと――深山芋は採れなくてもいいから、無事に帰ってきてほしい。
私達は南門で手続きを済ませると、外に出た。
『おい。リーフェスト早く行くぞ!』
『全く。君はいつも忘れっぽいですね』
『二竜ともごめん』
友竜達と行くようなので、さすがに何かあるとは思えないけれども。それでも。
心配なものは心配なの。
『今度こそ行ってくるよ!』
「気を付けてね――」
私の言葉はちゃんと届いたの――かな?
言い終わると同時に、リーフェ達は向かって左手――東へと駆けていく。
私は門の前から三竜の後姿を見送った。
瞬く間にその姿が小さくなり――視界から消える。
首を軽く横に振って。
振り返って。
そして――何となく空を見上げた。
――さぁ。
私はしっかりお勉強しないとね!
――――――
んーっ!
空に向けて組んだ手を伸ばす。
やっぱり座学は疲れちゃう。
でも――やっぱりロゼさんは凄い。
スキルが無くても、王国北西部――それどころか王国全域の道や地形、注意すべき点をしっかり覚えていた。
それに比べて、私は結局一日掛かりで――この辺りの主要な道、その半分ぐらいしか覚えられなかった。
『測位』のスキルも全く使える気配がないし――
そんな風に落ち込んでたら――
『40年以上の積み重ねをたった1日で追いつかれたりしたら、私の方が落ち込んじゃうわよ』
だって。
――励まされちゃった。
――うん。
私もコツコツ積み重ねていけば、きっとロゼさんみたいになれるはず!
――はず。
――はず――だよね?
ギルドに帰ってきて――へとへとだった私は、そのままギルドの入口を潜ろうとしたんだけど――
『あれ? 今日はリーフェはいないの?』
そう言って、横から声を掛けられた。
私がそちらをゆっくり振り向くと、そこにいたのは――サギリさんだった。
「友竜達と遊びに出かけてますよ。多分夜には戻ってくると思いますけど」
『ふーん。友竜。友竜ね。ふーん』
僅かに目を細めている。――少し機嫌が悪そう。
私は話題を変えることにした。
「今日はどうしたんですか?」
私の言葉に、サギリさんの目が元に戻った。
少しホッとする。
『手紙よ。手紙を持ってきたの。またマーロウが何か見つけたみたいだから』
サギリさんはそう言うと、封筒に入った手紙をひらひらとさせる。
――そうか。手紙かぁ。
私はサギリさんを見る。心なしか少し――残念そうな顔をしている。
「多分ですけど――リーフェなら夕方には帰ってくるはずですよ」
私は少しだけフォローした。
『それじゃ――少し待たせてもらおうかしら?』
「だったら、夕ご飯も一緒にどうですか?」
――どうせなら、深山芋も三にんで食べたほうが楽しいよね。
――でも、その日。
リーフェ達は帰ってこなかった。
『帰れない』
『ポケット』に入っていたそのメモだけを残して。




